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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―真紅の皇―

 
前書き
注意。投稿した時点では未発売のパックのカードを含んでいます。完結したというのに何をダラダラと、という感じですが、いやもう書くしかないですよねアレ 

 
「もう始まっちゃった!?」

 アメリカ・アカデミアの留学生用の学生寮に用意された、黒崎遊矢が使う一室の扉が大きな音をたてながら開かれた。扉からはスーツ姿の明日香が飛び込んできて、息を切らしてまで走ってきたらしい様子の彼女に、ペットボトルのミネラルウォーターを渡しておく。

「いや、ちょうど始まったとこ」

 至れり尽くせりなことに定評のある学生寮だったが、その一例でもあるテレビを指差しながら。テレビ内の番組ではプロデュエリスト同士の夢の決闘、などと題されており、まさに始まる寸前と言ってよい状態だった。

「勝てるといいわね……万丈目くん」

「ああ……」

 ミネラルウォーターを豪快に飲みながらもソファーの隣に座る明日香とともに、テレビの中で敵と対峙するプロデュエリスト、万丈目サンダーのことを固唾を飲んで眺めていた。プロデュエリストとして勝ち負けを繰り返してきた万丈目だったが、今回の対戦相手は――

『さあ始まりました! 期待の新人、万丈目サンダーが正体を隠した伝説のデュエリストと相対するこの企画! 今宵、万丈目サンダーに相対するは!』

 ――伝説のデュエリスト、という触れ込みの相手だ。要するにプロリーグに入ったばかりの新人が、正体を隠した高いレベルのリーグのデュエリストを相手にする、というバラエティーめいた企画だった。とはいえわりと好評な企画でもあり、呼ばれる新人も期待の新人という言葉は嘘ではない。

『ロード・オブ・ザ・レッド!』

 そうして日本語版の実況放送が対戦相手の名を高々と叫ぶとともに、デュエルステージに二人の姿が映される。万丈目はアカデミアでも着ていたノース校の制服でもある黒いコートであり、対する対戦相手はその名に相応しい《ロード・オブ・ザ・レッド》そのままの格好でいて。もはや二人のデュエリストの前に何を語ることもないとばかりに、実況も静まり返って二人の同行を見守っていた。

『サンダーだかヨンダーだか知らないが、この男城之……ロード・オブ・ザ・レッド! 全力で相手をしてやるぜ! 来な!』

『ならばこのデュエルで忘れられないように刻んでやる! 万丈目サンダーの名をな!』

『デュエル!』

万丈目LP4,000
ロード・オブ・ザ・レッドLP4,000

『オレの先攻!』

 先攻を取ったのは万丈目。プロデュエリストになろうが――いや、プロデュエリストだからこそ、あまりデッキのコンセプトは変わってはいないだろうが。伝説のデュエリストを相手にどのような初手で戦うのか、万丈目へと注目が集まった。

『オレはモンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンを終了する』

『へ! 守ってるだけじゃ勝てないぜ、オレのターン!』

 流石の万丈目も慎重になざるを得ないのか、守備向けの初手でターンを終える――訳もない。十中八九、次のターンで攻め込むための布石作りだろうが、対戦相手はそう考えなかったようで。

『いくぜ! 《鉄の騎士 ギア・フリード》を召喚し、バトルだ! 鋼鉄の手刀!』

『破壊されたのは《おジャマ・ブルー》! このカードが破壊された時、デッキからおジャマカードを二枚、手札に加えることが出来る』

『おジャマぁ?』

 そして対戦相手はその言葉通りに、万丈目のフィールドなど気にもせずに、召喚したギア・フリードで構わず攻め込んでいく。その文字通りの鋼鉄の手刀が容易く破壊したのは、新たな青色のおジャマこと《おジャマ・ブルー》。

『さらにフィールドのおジャマモンスターが破壊された場合、伏せてあった《おジャマーブル》が発動! 破壊されたおジャマを墓地からデッキに戻すことで、デッキからカードを二枚ドローし、一枚捨てる』

 ただし万丈目もただでやられるわけがなく、破壊された《おジャマ・ブルー》の効果でおジャマカードをサーチし、さらに戦闘破壊に反応し《おジャマーブル》を発動。さらにカードを二枚ドローしてみせると、デメリットであるはずの手札を一枚捨てる効果を利用し、まだ発動の連鎖を続けていく。

『そして墓地に送ったのは《おジャマジック》! このカードが墓地に送られた時、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加える』

『こいつは……オレもデュエリストレベルMAXでいく相手らしいな! メイン2、永続魔法《凡骨の意地》と、カードを一枚伏せてターンエンド!』

『レベルMAXで戦える相手か、このターンで確かめるんだな! オレのターン、ドロー!』

 流石の対戦相手も、万丈目の豪快な手札交換と補充に何かを感じ取ったのか、《おジャマ・ブルー》が現れた時とは目付きが変わる。通常モンスターをサポートする永続魔法カード《凡骨の意地》にリバースカードを一枚セットし、更なる追撃をすることなくターンを万丈目に明け渡す。

『オレは魔法カード《おジャマ・ゲットライド》を発動! 手札からおジャマ三兄弟を捨てることで、デッキから光属性・機械族モンスターを三体、攻撃と効果を封じて特殊召喚する!』

 最初の攻防はどちらも下準備の段階と言ったところで、それが済んだ万丈目の猛攻が開始される。三兄弟を犠牲にしたお決まりの魔法カードにより、デッキから三体の機械族モンスターが特殊召喚される。それらは万丈目お得意のユニオンモンスターであり、そこから合体に繋がれていくものだが。

『合体! 《VW-ウイング・カタパルト》!』

 XYZモンスターを特殊召喚することでの《XYZ-ドラゴン・キャノン》かと思いきや、《おジャマ・ゲットライド》で特殊召喚されたのは、《X-ヘッド・キャノン》にVWモンスター。三体のうち二体が《VW-ウイング・カタパルト》に合体するが、その戦闘力は《XYZ-ドラゴン・キャノン》には劣る。

『合体能力を持つマグネットモンスター……嫌なもん思い出させるぜ……』

『まだだ! 《融合識別》を発動し、《X-ヘッド・キャノン》を《XYZ-ドラゴン・キャノン》として扱い、合体する!』

 融合素材にする際の名称を別のカードに変更する、という特異な効果を持つ魔法カード《融合識別》の発動により、ようやく俺も万丈目の狙いを悟る。XYZデッキ使いに嫌な目にでも合わされたのか、対戦相手は覆面の下からでも分かる苦々しい表情をしていて、これから起こることを予期しているかは分からなかったが。とにかく《融合識別》の効果で《XYZ-ドラゴン・キャノン》扱いとなった《X-ヘッド・キャノン》は、《VW-ウイング・カタパルト》と合体していく。

『完成! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》!』

『なぁにぃ!?』

 YとZのパーツは《融合識別》による虚像ではあるものの、その虚像は本物と合体したものと何ら違いはなく。2ターン目にして万丈目の切り札である《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》がお目見えとなり、対戦相手たる《ロード・オブ・ザ・レッド》は驚愕する他なかった。

『VWXYZの効果! 相手フィールドのカードを一枚除外する!』

『おおっと待った! オレは手札から《寄生虫パラノイド》をお前にプレゼントするぜ!』

 相手フィールドの《鉄の騎士 ギア・フリード》がVWXYZで安定して倒せる相手だからか、VWXYZの除外効果の標的は伏せられたままのリバースカード。ただしその前に対戦相手の手札から発動された《寄生虫パラノイド》は、VWXYZの装備カードとなって寄生し、その種族を昆虫族へと変貌させていく。

『……だからどうした!』

『確かにオレも虫はあんま好かねぇけどよ、侮ってたら痛い目みるぜ! リバースカード《超進化の繭》!』

 ズバリ昆虫族のような見た目へと変貌してしまったVWXYZを忌々しげに見ながらも、万丈目は構わず除外効果を発動しようとするものの、対象のリバースカードが先に発動されてしまう。さらにそのカードの発動とともにVWXYZは繭に包まれていき、まるでサナギのように沈黙してしまう。

『《超進化の繭》は、カードを装備した昆虫族を墓地に送ることで、デッキから昆虫族を特殊召喚する! 来い! 《インセクト女王》!』

 サナギ、というのもあながち間違いではなかったらしい。何故なら繭に包まれていたVWXYZの内側から、巨大な昆虫の手足が突き破ってきたからだ。そのまま繭を完全に破っていき、ロード・オブ・ザ・レッドのフィールドへ《インセクト女王》が特殊召喚された。

『装備カードとなった《寄生虫パラノイド》が墓地に送られた時、手札から昆虫族を特殊召喚できるがよ……オレの手札にはねぇな!』

『くっ……オレはモンスターとリバースカードをセットし、ターンを終了する……』

『オレのターン、ドロー! 《凡骨の意地》の効果で、通常モンスターを引く度にカードをドローするぜ!』

 《寄生虫パラノイド》と《超進化の繭》のコンボによって、結局は万丈目のVWXYZによる攻撃は失敗してしまう。よって万丈目のフィールドには、まだ通常召喚していなかったことが幸いしたセットモンスターと、リバースカードが二枚。対して対戦相手のフィールドは、そのコンボによって特殊召喚された《インセクト女王》に《鉄の騎士 ギア・フリード》、永続魔法《凡骨の意地》となる。

『《キラー・ザ・クロー》……《格闘戦士アルティメーター》……《ランドスターの剣士》……よし、速攻魔法《手札断殺》を発動し、お互いに手札を二枚捨てて、二枚ドローする!』

『ありがたく捨てさせてもらおう』

『おうよ。さらに墓地の《超進化の繭》を除外して、昆虫族をデッキに戻すことで一枚ドロー。んで、儀式魔法《高等儀式術》を発動するぜ!』

 そうして《手札断殺》で《凡骨の意地》で引いた通常モンスターをコストにしながら、お互いに手札交換を強いていくと、さらに《超進化の繭》でドローを加速していく。さらにメインフェイズに移行するや否や発動されたのは、デッキから通常モンスターを素材に発動される儀式魔法《高等儀式術》。

『デッキの通常モンスターをエサにして、浮上せよ、《要塞クジラ》! そんで女王様とオーバーレイ・ネットワークを構築ってやつだぜ!』

 儀式召喚されたのは《要塞クジラ》。そのレベルはフィールドにいる《インセクト女王》と同じ。思いもよらぬことだったものの、二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築していく。

『ロード・オブ・ザ・レッド……まさか! 墓地から《ダメージ・ダイエット》を除外し、このターン受ける効果ダメージを半分にする!』

『エクシーズ召喚! 《真紅眼の鋼炎竜》!』

 今まで出てきたモンスターや素材に統一性がまるでないだけあって、何がエクシーズ召喚されるのか戦々恐々としたものの。万丈目は何かに気づいたようで、あらかじめ墓地から、先の《手札断殺》で墓地に送っていたのであろう《ダメージ・ダイエット》を発動する。そうしてエクシーズ召喚されたのは、ロード・オブ・ザ・レッドという名の通りに、新たにエクシーズとしての力を得た《真紅眼の鋼炎竜》。とはいえその効果は純正レッドアイズがいなければ、完全には発揮できないものだったが……先に発動された《高等儀式術》のことが頭をよぎる。

『鋼炎竜はエクシーズ素材を墓地に送ることで、墓地からオレの魂のカードを召喚するぜ! 《真紅眼の黒竜》!』

『レッドアイズ……!』

『バトルだ! レッドアイズでセットモンスターに攻撃! ダーク・メガ・フレア!』

 ダメ押しとばかりに特殊召喚される《真紅眼の黒竜》は、《要塞クジラ》の降臨に使用した《高等儀式術》によって墓地に送られていたカードだろう。そうして三体のモンスターたちが、万丈目のセットカードに襲いかかっていった。

『破壊されたのは《仮面竜》! このカードが破壊された時、攻撃力1500以下の新たなドラゴン族を特殊召喚する!』

『おおっと! 効果を発動した時、鋼炎竜の効果で500ポイントのダメージを受けてもらうぜ! メガ・フレア!』

『だが発動していた《ダメージ・ダイエット》の効果で、そのダメージは半分となる!』

 セットモンスターを巡る攻防に様々な処理が発生する。まずレッドアイズに戦闘破壊された《仮面竜》のリクルート効果が発動し、新たな《仮面竜》がフィールドに特殊召喚される。ただしそのリクルート効果に反応し、相手プレイヤーがカード効果を発動した時、500ポイントのダメージを与えるという《真紅眼の鋼炎竜》のバーン効果が発動するものの。それを予め読んでいた万丈目が発動した《ダメージ・ダイエット》の効果により、半減したバーンダメージが万丈目を直接焼いていた。

万丈目LP4,000→3,750

『ならもっと焼いてやるぜ! ギア・フリードで仮面竜を攻撃!』

『新たな《仮面竜》をリクルートする!』

万丈目LP3,750→3,500

 《仮面竜》は守備表示でのリクルートも可能のため、直接的なダメージを受けることはないが、継続的な《真紅眼の鋼炎竜》の効果ダメージは続く。その《仮面竜》も最後の一体になってしまい、対戦相手は選択を迫られる。最後の《仮面竜》を破壊してダメージを与えるか、ここでバトルを止めて本命のリクルートを妨害するか。

『……構うこたぁねぇ! 鋼炎竜で最後の《仮面竜》を破壊するぜ!』

『ならば現れろ! 《アームド・ドラゴンLV3》!』

万丈目LP3,500→3,250

 そうして《仮面竜》三体で繋いだモンスターは、伝説の一角こと《アームド・ドラゴンLV3》。もはや対戦相手に攻撃する気はないらしく、これで次のターンにおける進化が確定する。

『LVモンスターか……カードを一枚伏せて、ターンを終了するぜ』

『オレのターン、ドロー! そしてスタンバイフェイズ、アームド・ドラゴンはLV5へと進化する!』

『へっ! だがよ、鋼炎竜の効果を忘れちゃ困るぜ!』

万丈目LP3,250→2,750

 スタンバイフェイズ、幼生体に過ぎなかったLV3は進化を果たし、成長期たるLV5としてフィールドに再誕する。ただし効果の発動によって鋼炎竜のバーンダメージが万丈目に与えられ、さらに先のターンに発動した《ダメージ・ダイエット》の効力は、すでにエンドフェイズに無効となっている。

『ええい、小賢しい……メインフェイズ、伏せていた《レベル・ソウル》を発動! このカードは、フィールドのモンスターを一体リリースすることで、墓地のLVモンスターをレベルアップさせる!』

『鋼炎竜の効果で500ダメージ! さらにオレもリバースカード《サイコ・ショックウェーブ》を発動! 相手が罠カードを発動した時、手札を一枚捨てることで、デッキから闇属性の機械族を特殊召喚する!』

万丈目LP2,750→2,250

 そして起死回生の一手として万丈目が発動した罠カードは、フィールドのモンスターをコストに掟破りの墓地レベルアップを果たす罠カード《レベル・ソウル》。恐らくは進化するのは墓地にいるLV3ではなく、今しがたコストにしたばかりのLV5。対してロード・オブ・ザ・レッドもまた、相手が罠カードを発動した時に発動できる罠カード《サイコ・ショックウェーブ》を発動する。

『《サイコ・ショックウェーブ》の効果により、デッキから《人造人間 サイコ・ショッカー》を特殊召喚! お前の罠カード《レベル・ソウル》は無効にさせてもらうぜ!』

『甘い! カウンター罠《ギャクタン》を発動し、《サイコ・ショックウェーブ》を無効にする!』

『何!? ってことは……』

 闇属性・機械族などと銘打ってはいるが、罠カードを発動した時などという発動条件からして、明らかな《人造人間 サイコ・ショッカー》のためのカード。そうして特殊召喚されたサイコ・ショッカーは、《サイコ・ショックウェーブ》の発動条件となった相手の罠カードを無効とするが、それは万丈目のカウンター罠カード《ギャクタン》に阻まれた。さらにカウンター罠のために、流石の《真紅眼の鋼炎竜》もチェーンを組むことは出来ず、万丈目の墓地から竜の咆哮がいなないた。

『進化せよ! 《アームド・ドラゴンLV7》!』

『ぐ……だが前にテレビで見たがよ。ご自慢の効果破壊は、エクシーズ素材のある《真紅眼の鋼炎竜》には通用しないぜ!』

『確かに……このままではな!』

 そうして特殊召喚された《アームド・ドラゴンLV7》だったが、正直に言ってしまえば戦況は厳しかった。攻撃力は《真紅眼の鋼炎竜》と同等の上に、対戦相手の指摘通りにエクシーズ素材がある鋼炎竜には効果が通用しない。それでも自信満々に万丈目はニヤリと笑うと、フィールドに半透明の《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》が浮かび上がる。

『《アームド・ドラゴンLV7》! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》! 特殊召喚に成功したこの二体を除外することで、このモンスターは合体融合召喚できる!』

「は!?」

「え!?」

 万丈目が語った召喚条件に、テレビの向こうで黙って見物していた俺と明日香も、たまらず驚愕の叫びをあげてしまう。恐らくは対戦相手も観客も、なんならこのデュエルを見ていた者は全員同じことを思ったかもしれないが、二体の万丈目の切り札はそんな驚愕をよそに時空の穴へと吸い込まれていく。

『現れろォ! 《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》!』

 ……フィールドに帰還したそのモンスターは、アームド・ドラゴンLV7がVWXYZたちを鎧として着込むような外見となっているが、やはり無茶な合体なのか背中から黒煙が漂っていたが。それでも問題なく融合してはいるのか、明らかな切り札としての威圧感を放っていた。

『散々チクチクとやられた借りを返してやる……バトル!《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》で、《真紅眼の鋼炎竜》に攻撃! アルティメット・パニッシャー!』

『どわぁぁぁ!』

ロード・オブ・ザ・レッドLP4,000→3,300

 アームド・ドラゴンの際に使っていた巨大なカッターをVWXYZの砲台に詰め込むと、勢いを増して発射することで普段以上の攻撃力を放ち、今までダメージを与えてきた《真紅眼の鋼炎竜》を遂に破壊する。わざわざここまでして召喚したモンスターだと、まだ何か効果があるはずだろうが、今は効果を発動することなくターンを終了する。

『オレはこれでターンエンド!』

『オレのターン……《凡骨の意地》で通常モンスターが出る限りドローするぜ』

 《ハーピィ・レディ》、《ベビー・ドラゴン》、《アックス・レイダー》とカードをドローしていくが、やはりロード・オブ・ザ・レッドの瞳も万丈目のフィールドに唯一鎮座する《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》を捉えたままで。自分フィールドの《真紅眼の黒竜》と《鉄の騎士 ギア・フリード》で、どうやってあのモンスターを倒すべきか考えているようだ。

『さらに《闇の誘惑》を発動! 手札の闇属性を除外することで、カードを二枚ドローするぜ』

『言っておくが、《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》がフィールドにいる限り、お前はお互いの除外ゾーンにあるカードと同名カードを使えない。注意するんだな』

『破壊しちまえば関係ねぇ! 《融合》を発動し、フィールドのレッドアイズと手札のアックス・レイダーを融合する!』

 すぐさま破壊の算段をつけたらしく、レッドアイズの本領の一つたる《融合》の発動となる。ただし融合素材は手札にある戦士族の通常モンスター《アックス・レイダー》であり、吹雪さん経由で自分が知る悪魔竜でも流星竜でもない。

『覚醒せよ、黒き竜! 《真紅眼の黒刃竜》、激レアモンスターだぜ!』

 そうして融合召喚されたのは、スラッシュドラゴンという名前に相応しく、全身に戦士族のような鎧を装着したレッドアイズ。奇しくも万丈目の《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》と同様の出で立ちだったが、あちらの方が違和感なく混ざってはいた。どちらのフィールドにも竜がいななくと、《真紅眼の黒刃竜》には更なる装備が施された。

『さらに《闇竜族の爪》を《真紅眼の黒刃竜》に装備し、バトルするぜ!』

『来るか!』

『ああ! 《真紅眼の黒刃竜》はレッドアイズの攻撃宣言時、墓地から戦士族モンスターを装備し、攻撃力を200ポイントアップさせる!』

 装備魔法《闇竜族の爪》を発動したところで、《真紅眼の黒刃竜》の攻撃力は3400。ギリギリのところで《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》には及ばないが、咆哮とともに新たな戦士の力が黒刃竜に宿っていく。どうやら《凡骨の意地》を通じて戦士族を墓地に送っていたのはこのためでもあるらしく、《ランドスターの剣士》の力を得た黒刃竜はその爪をさらに伸ばす。

『ダーク・メガ・スラァッシュ!』

『――《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果を発動!』

『何? ……だが黒刃竜にはよ!』

 アームド・ドラゴン系列でもVWXYZ系列でもなかった、相手ターンによる効果の発動。ドラゴン・キャノンやカッターが、攻撃せんとする黒刃竜へと向けられたために、相手モンスターを迎撃する効果だとばかり思ったが。

『《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》は、相手ターンに一度、自分のデッキのカードを除外することで、相手のフィールドと墓地のカードを全て除外する!』

『は!?』

『アームド・ビッグ・デストラクション!』

『ちょっ……ま……行かないでくれぇぇぇ!』

 ――予想を裏切る反則級の効果。対戦相手であるロード・オブ・ザ・レッドの悲鳴も空しく、アームド・ドラゴン・カタパルトキャノンの一斉射撃によって、そのフィールドどころか墓地までもが焼け野原と化した。その口振りからして黒刃竜には何やら迎撃された際の効果もあったようだが、全てが除外されてしまっては発動のしようもないらしい。

『ッ……』

『嬉しいぜ……どうやら、デュエリストレベルMAXどころか、限界を超えて相手をしなきゃいけないらしいな! メインフェイズ2、オレは《時の魔術師》を召喚するぜ!』

 ただし首尾よく全てを除外したにもかかわらず、万丈目の表情は晴れなかった。恐らく万丈目の計画からすれば、《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果は相手のエンドフェイズに発動し、がら空きのままこちらのターンに移行させるというもの。しかして《真紅眼の黒刃竜》の反撃により効果を発動せざるを得なかったため、まだ対戦相手にはメインフェイズ2が残っていた。

『《時の魔術師》……!』

『勝負は簡単だ。当たりが出ればそいつは破壊、ハズレが出ればオレの負け! ……ルーレットは、お前が止めていいぜ』

 さらにロード・オブ・ザ・レッドは通常召喚をしておらず、メインフェイズ2に召喚されたのは一発逆転の力を秘めたモンスター《時の魔術師》。当たりが出れば相手のモンスターを全て破壊し、ハズレが出れば自分のモンスターを破壊した上にダメージが発生する。分かりやすいギャンブルカードに対して、ここまで戦った故にか、対戦相手は万丈目にルーレットを止める権利を与えていた。

『タイム・ルーレット!』

『後悔するなよ………………ストップだ!』

 《時の魔術師》が手に持った杖の先のルーレットが回る。勝利の女神がどちらに微笑むか、このルーレットの結果によって決まるといっても過言ではなく。万丈目がストップと宣言した時、ルーレットが指していたのは――

『げっ!』

 ロード・オブ・ザ・レッドの悲鳴が木霊する通りに、《時の魔術師》が指していたのはハズレ。勝利の女神は万丈目に微笑んだのかと、千年を経過させる魔法は《時の魔術師》自身へと発生する――

『なーんてな!』

 ――筈だった。万丈目の手によってすでに止められていた筈のルーレットは、《時の魔術師》によって再び動き出していた。それも先程まではハズレが混じっていたはずのルーレットには、当たりのみしかない出来レースへと変貌していて、何が起きたのかと考える暇もないほどに万丈目は驚愕する。

『何をした!』

『速攻魔法《トラップ・ブースター》で罠カード《確率変動》を発動したのよ! このカードの効果によって、ギャンブルをやり直すぜ!』

 《時の魔術師》の効果が発動するより早く、ロード・オブ・ザ・レッドは二枚のカードを発動していた。まずは手札一枚をコストに手札から罠カードを発動する速攻魔法《トラップ・ブースター》と、ギャンブルをやり直すという効果を持った本命の罠カード《確率変動》。さらに《確率変動》にはやり直した結果にはならないという効果もあるため、《時の魔術師》は当たりのみしかないルーレットを回していたのだ。

『ルーレット、もう一回止めてもいいぜ! 当たりだけだからよ!』

『くっ……ストップだ……』

『タイム・マジック!』

 結果は決まりきっている。発動した《時の魔術師》によって千年後の未来に跳ばされたも同然の《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》は、ドラゴンの部分は老いて動くこともままならず、機械部分は錆びてたまらず自壊していった。

『ダイレクトアタック……と、いきたいところだが、もうメイン2だったな。ターンエンドだぜ!』

『オレのターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し、カードをさらに二枚ドロー!』

 《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》に《時の魔術師》によって、もはやお互いのフィールドはボロボロだった。どちらのエースモンスターもすでに破壊され、お互いの手札も残り少ない。万丈目が《貪欲な壺》を発動した時に、お互いに暗黙の了解がごとく決着はそろそろだと察していた。

『フィールド魔法《おジャマ・カントリー》を発動! 手札を一枚捨てることで、墓地からおジャマモンスターを特殊召喚する! 蘇れ! 《おジャマ・イエロー!》』

 そうしてアームド・ドラゴンやVWXYZが撃破されたとしても、まだ万丈目には彼らがいる。そう思わせるようにフィールドから復活する《おジャマ・イエロー》とともに、デュエルフィールドがおジャマたちの楽園へと塗り替えられていく。

『さらに墓地から《おジャマデュオ》を除外することで、デッキからおジャマを二体、特殊召喚する。そして《融合》を発動!』

 先の《手札断殺》によって墓地に送られていたのだろう、罠カード《おジャマデュオ》がようやく日の目を見る。墓地から除外することでデッキから二体のおジャマを特殊召喚するカードであり、《貪欲な壺》でデッキに戻していたのだろう残るおジャマ二体を特殊召喚し、フィールドにおジャマ三兄弟が集結する。そうしてすぐさま《融合》を発動すると、時空の穴から最強のおジャマが姿を現した。

『おジャマ究極合体! 融合召喚、《おジャマ・キング》!』

『うおっデカぁ!?』

『《おジャマ・キング》の効果。こいつがフィールドにいる限り、相手フィールドを三つ使用不能となる!』

 人間の体躯の何倍もあるキングの名に相応しい姿を晒し、まずは挨拶がわりに相手フィールドを三つほどロックしていく。とはいえ王とはいうものの、おジャマである以上は攻撃力は0であるにもかかわらず、万丈目が指定した表示形式は攻撃表示。もちろんただの自殺志願という訳ではなく、今のフィールドはおジャマたちによって支配されているのだ。

『フィールド魔法《おジャマ・カントリー》は、フィールドにおジャマがいる限り、フィールドのモンスターの攻撃力・守備力を入れ換える!』

『ってことは……』

『《おジャマ・キング》の攻撃力は3000だ! いけ、おジャマ・キング! フライングボディアタック!』

『だぁぁぁぁっ!』

ロード・オブ・ザ・レッドLP3,300→700

 今までダメージを与えられなかった万丈目の鬱憤を晴らすかのように、もしくは先程のイカサマギャンブルに怒ったかのように、《おジャマ・キング》必殺の一撃が《時の魔術師》に炸裂した。下級モンスターの中でもただでさえステータスの低い《時の魔術師》に耐えられるはずもなく、大きくライフを削りながらロード・オブ・ザ・レッドのフィールドはがら空きとなる。

『これで……ターンエンドだ!』

『へ……攻撃力3000かよ、燃えてきたぜ! オレのターン、ドロー!』

 もはや永続魔法《凡骨の意地》はフィールドにはなく、これでロード・オブ・ザ・レッドの手札は三枚。そのうち一枚は先のターンで引いた通常モンスターであり、《おジャマ・カントリー》の効果によって、攻撃力が3000となった《おジャマ・キング》へとあらかさまに闘士を燃やしていて。

『装備魔法《D・D・R》を発動! 手札を一枚捨ててこのカードを装備することで、除外ゾーンのモンスターを特殊召喚する! 時空の狭間から蘇れ、レッドアイズ!』

 そして装備魔法《D・D・R》から呼び出されるのは、魂のカードとまで呼んでいた《真紅眼の黒竜》。もとは《闇の誘惑》といったカードとのコンボ用なのだろうが、奇しくも《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果の対策として機能し、黒竜は再びフィールドへと飛翔した。

『だが《おジャマ・カントリー》の効果で、元々の攻撃力と守備力は逆の数値となる!』

『そいつを待ってたぜ! オレはさらにこのカードで攻守逆転!』

 ただし《おジャマ・カントリー》はフィールド全てに作用するために、《真紅眼の黒竜》も本領を発揮することは出来ずにいたが――さらに発動した一枚の魔法カードが、状況の全てをひっくり返していた。

『《右手に盾を左手に剣を》! 攻守逆転ならオレにも一家言あるんでな!』

『ぐ……!』

 発動されたのは攻守逆転カードの開祖とも言える魔法カード《右手に盾を左手に剣を》。エンドフェイズまでステータスを入れ換えるという効果は、万丈目の《おジャマ・カントリー》とともに発揮され、二回の攻守逆転が起こることで結果的にステータスは元に戻る。

 万丈目の《おジャマ・キング》は力を失い、ロード・オブ・ザ・レッドの《真紅眼の黒竜》は力を取り戻し――もはや万丈目に、次の一撃を防ぐ手段は存在しなかった。

『バトル! レッドアイズでおジャマ・キングに攻撃! ダーク・メガ・フレア!』

『ぐあああああっ!』

万丈目LP2250→0

「あー……」

 テレビの向こうで万丈目がレッドアイズの一撃を受けたところで、反射的に無念そうな声が漏れた。番組の特性からして新人が勝つ方が珍しいということもあるが、流石の万丈目と言えどもプロの壁は厚かったというべきか。

「万丈目くん、惜しかったわね……」

「ああ……悪い、電話」

 やはり同様に無念そうな表情を隠さない明日香に対して、それでも新たな切り札たる《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》の話を振ろうとすれば、タイミングも悪くPDAから通話を知らすアラームが鳴る。誰かをチラリと確認しながら電話に出てみれば、すぐさま不機嫌そうな声が電話先から響き渡った。

『……見たな?』

「万丈目……挨拶もなしに……」

『そんなことはいい! 次は勝つから特訓に付き合え!』

 電話してきた相手は、先程までテレビの向こうにいた――もちろん放送は生放送ではなかったが、万丈目そのもので。明日香に誰から電話が来たかを語るまでもなく、彼女は電話先から聞こえてくる声に苦笑していて、電話を代わるように小さくジェスチャーしていた。いい加減に耳元が疲れてきた時に幸いだと、手早くPDAを明日香へと渡していた。

『おい、聞いて――』

「――デュエル。もう少しだったわね、万丈目くん」

『て、天上院くん!?』

「ええ、久しぶり」

 俺に向かって怒鳴り散らしていた時とは全く違う万丈目の声をバックに、聞きなれた町の音が多少はBGMとして電話先から聞こえてきた。特訓に付き合え、などと言っていたが、本当にこの寮の近くまで来ているらしい。

『ど、どうして君が奴の電話に……いや、そんなことより! すまない天上院くん! 久々に君の声を聞いておきたいどころだが、今の弱いオレにそんな資格はない!』

「え、ええ……」

『だから待っていてくれ! キミに相応しい強い僕になった時、必ず迎えにいこう!』

 ――そうして明日香の話を何ら聞くことはなく、万丈目からの通話はあっさりと切れてしまう。ポカンとした表情の明日香から視線で今の状況の説明を求められるが、万丈目のやることなど説明できるものかと。

「勝った時じゃないと会いたくないってさ」

「うーん……なんとなく、分かった気はする……ような気もするわ」

 要するに負けていては格好つかないという万丈目のプライドの話だが、あまり万丈目の内心を勝手に話すのもどうかと、多少以上にぼやかして明日香には説明しておくと。それでも半ば放心状態の明日香からPDAを受けとると、ひとまずそれは机の上に置いておくと。それからしばし明日香と世間話に興じた後、明日香は自らの部屋へと帰っていく。明日も早いのだと、明日は休みなこちらへと微妙に不満げな様子を見せる明日香を見送ると、そっとPDAを操作してあちらへ連絡を取ると。

「明日香は帰ったけど、来るか?」

『……そうさせてもらう』

 ……どうやら今日は、久々に徹夜を覚悟することになりそうだ。
 
 

 
後書き
 問題のアレですが、未OCGサポートカードのおかげでわりと楽に出せました。この調子で万丈目の未OCGお願いしますよ。時に万丈目が使ったカードでOCG化したのは、一期後半のラブデュエル回で使った《埋蔵金の地図》が最後と聞いた時は驚きましたね。二期以降の万丈目とは一体、うごご。まあこれは万丈目に限った話ではありませんけど、特にGXでは。

 時に今回のデュエルで使ったカードやそのリメイクカードは、主にデュエリストパック-レジェンドデュエリスト編-で発売してますよ!(ステマ) 
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