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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  指揮官の焦り

 フォラスとリンとがシルフに次いでウンディーネとの戦闘を開始し始めたのと、あるいはアマリがキレてニオが静かなダメージを受けていたその頃、サラマンダー討伐サイドは苦戦していた。
 決して敵を侮っていたわけではない。 四天王の中でも飛び抜けた強さを持っていることは《反逆の狼煙》の進行に伴って勃発したリンとの戦闘で確認済みだ。 フォラスの忠告を聞くまでもなく、サラマンダーの強化はクーネ自身も懸念していた。

 そして現在、その懸念は最悪に近い形で現実のものとなっている。

 「リゼルは下がって! レイは《スイープ》の用意! ティルネルさん、援護をお願いします!」
 「おう!」
 「了解だよー!」
 「ま、任せてください!」

 仲間たちの了承を耳にしながらクーネは駆け出した。
 サラマンダーは後退するリゼルに一瞬だけ視線を向けていたが、それも結局は一瞬。 接近するクーネをこそ危険だと判断したのか、すぐさま細く長い剣を隙なく構え、クーネを迎え討つ準備を整えてしまう。
 直後に飛来するティルネルによる矢での狙撃は持ち前の鱗で悉くが弾かれ、ダメージは1ドットたりとも与えられていない。 フォラスと共に作った毒薬がたっぷりと塗られているものの、それすらも効果を見せる様子がないことにクーネは形のいい眉をひそめる。

 それでも早々にサラマンダーを倒して仲間たちの援護にいかなければならないと言う使命感に駆られたクーネは強く地を踏み込み、滑るようにサラマンダーの懐へと飛び込んだ。
 いかに強かろうと長大な剣を武器にしている以上、接近戦は苦手なはずだと判断しての行動だが、しかしそれは甘いとしか言えないだろう。

 「はあっ!」

 裂帛の気合いで打ち出される片手剣による突きは剣の柄で受け流されてしまう。 それでもそれ自体は予想通りだったのでクーネの対応は早い。
 素早く片手剣を斬り返し、サラマンダーの首を狙う。 が、所詮は体重を乗せていない軽い斬撃。 首を覆う鱗に阻まれてダメージが通らない。

 「くっ……」

 ダメージが通らないからと言って諦めるクーネではなく、片手剣を引き戻して今度は鱗のない目を狙って突き込むが、それすらも僅かに顔をずらされて回避される。 だったらと更なる追撃を仕掛けようとしたクーネは腹部に強い衝撃を受けて無理矢理に後退させられてしまった。

 そう。 後退させられたのだ。

 「しまっーー」

 そしてそこはサラマンダーの間合いだ。
 振り下ろされる長大な剣の間合いから脱するには既に遅い。 かと言って迎撃するにしてもAGI(敏捷値)寄りのバランス型であるクーネの片手剣ではそれすらも叶わない。 武器防御スキルのModにある《受け流し補正》を取ってはいても、体勢が万全ではないので適正に発動しない。

 不完全な受け流しで捌ききれないダメージと衝撃がクーネを吹き飛ばす。
 数回地面を転がってからどうにか着地をすると、サラマンダーの背後から迫るレイの両手槍にライトエフェクトが灯るのが見えた。

 攻撃後の隙を突いた完璧な不意打ち。 背後からでタイミングも完璧だった不意打ちだが、しかし、それすらもサラマンダーは予測済みだったのか、軽い跳躍で躱してしまう。

 「レイっ!」

 敵に転倒を付加する両手槍ソードスキル《グランスイープ》の技後硬直に囚われるレイが蹴り飛ばされる様を見てクーネは叫んだ。
 それでも装備している各種防具の効果と、サラマンダーがスキルを使わなかったことが幸いしてダメージはそこまでではない。 吹き飛ばされた先でレイはクーネを安心させるように笑った。 とは言えサラマンダーの圧倒的な能力を前にいつものような屈託さはない。

 (これは、まずいわね……)

 フォラスから貰ったポーションを煽りながらクーネは内心でごちる。

 サラマンダーのステータスが異常に高い。
 ノームほど出鱈目ではないものの、殆どの通常攻撃を無傷で凌ぎきる圧倒的な硬さ。 アマリやニオに匹敵せんばかりに高い火力。 AGIがそこまで高くないことが唯一の救いだが、ダメージを殆ど与えられないこの状況は最悪に近い。
 ソードスキルを用いない通常攻撃でHPが削れないのであれば危険を覚悟でソードスキルを使えば良いわけだが、クーネはその性格からその作戦を提案できない。 かと言ってこのままここでサラマンダーと戦ってばかりもいられないのだ。

 何故ならクーネは早々にサラマンダーを倒して仲間たちの援護にいかなければならないのだから。

 早く倒さなければ。 安全に倒さなければ。 そうしなければ仲間が、仲間たちが……

 グルグルと回る思考のリフレインに曝されるクーネを嘲笑うように、サラマンダーが口を開いた。

 「軽い」

 ポツリと呟いた言の葉に篭められた感情は落胆、だろうか。

 「軽く、薄く、弱い。 もっと明確な殺意を向けねば私には届きはしない。 貴様は今、どこを見ているのだ?」

 細められた視線に篭められた憐れみの色をクーネは見逃さなかった。
 だが、だからと言って何ができるわけでもない。 非力な自分を呪い、それでもサラマンダーを倒す方策を思考する。

 「貴様ら程度であればケクロプス様の障害とはならぬだろうが、しかし貴様らはケクロプス様に敵意を向けた。 無為だとは言えここで摘んでしまおうか」

 言った瞬間、サラマンダーの口内がキラリと紅蓮に光る。

 (あれはっ⁉︎」

 それは少し前に打ち出された極太レーザーと見紛うブレス攻撃の予備動作。
 それを回避しきれなかったクーネを庇ったヒヨリのHPを危険域にまで落とし込み、回復のために戦線離脱することを余儀なくされたブレス攻撃が再び放たれる。

 口内の光が臨界点に達し、放たれるその刹那ーー

 「おい、蜥蜴」

 ーー不機嫌全開の声がクーネの耳に届く。

 サラマンダーの左側に現れた黒衣の剣士がガラ空きの側頭部に掌底を叩き込み、無理矢理逸らされた紅蓮の迸流が狙いをズラして壁を抉るが、そんなことを気にする余裕はクーネにはなかった。

 「リン君!」
 「ずいぶん勝手なことを言って、覚悟はできているんだろうな?」
 「どうしてここーー」
 「仲間を傷つけた報いは受けてもらうぞ」

 クーネの声も聞こえているだろうに回答するでもなく、淡々と呟いた黒衣の剣士は右手に持った片手剣に赤い光芒を纏わせる。 ジェットエンジンめいた轟音と共に打ち出された一撃はサラマンダーの脇腹を抉って吹き飛ばした。

 「どうして……」
 「あはは、リンさん怒ってるねー」
 「え……」

 呟いたクーネの隣にいつの間にやら少女と見紛う少年が立っていた。

 「まあ、仲間がピンチだからそれは《らしい》のかな。 よく知らないけどさ」

 クスリと笑う少年は瞳に怒気と呆れを灯してクーネを見やる。

 「あっち引き換え、そっちはらしくないね、クーネさん」
 「どう、して……」
 「何をそこまで焦ってるのさ。 僕とリンさんがあの程度の雑魚にやられると思った? すぐに援護にいかないとーとか? 僕たちってそんなに信用ないかな?」
 「ち、違っ……でも、そっちはソロでこっちは5人もいるから私たちが早くサラマンダーを倒して援護にいかないとーー「フォラスちょーっぷ」

 ゴスっとクーネの頭に少年のチョップが突き刺さる。 HPを減らさない程度に加減された一撃だが、その衝撃にクーネの言葉が止まる。
 ニコリと笑った少年の手が今度はクーネの赤髪を慈しむように撫で、直後にガシリと頭を掴まれた。

 「らしくない、らしくない、らしくないよ、クーネさん。 あなたが焦って頑張らなくても仲間がなんとかするに決まってるでしょ? 仲間の大切さとか、大事な仲間を持ってる人の強さを僕に知らしめたのは誰なの? あの時……誰かと繋がることを怖がっていたあの時、仲間の大切さを解いてくれたのは誰だったけ? あの言葉があったから僕は立ち直れたって言うのに、クーネさんがそんなんでどうするのさ?」
 「あ……」
 「『人はあなたが思っているよりも強くて優しいわよ』。 はい、repeat after me(復唱)
 「ひ、『人はあなたが思っているよりも強くて優しいわよ』
 「yes。 『信じる者は救われる。 救ってくれるのは何も神様なんて不確かな者じゃないわ。 人があなたを救ってくれるの』」
 「『信じる者は救われる。 救ってくれるのは何も神様なんて不確かな者じゃないわ。 人があなたを救ってくれるの』
 「『だからあなたは人を信じなさい。 それがいつかあなたを助けてくれるから』」
 「『だからあなたは人を信じなさい。 それがいつかあなたを助けてくれるから』」

 それはSAO攻略最初期の頃。 人嫌いの極地にいたフォラスに向けたクーネの言葉。
 まさか覚えているなんて思ってもいなかった言葉だが、フォラスは一語一句間違えずに覚えていた。 その言葉があったからフォラスは仲間を得ることができたのだ。 忘れたことなんて一瞬だってなかった。

 「と言うわけでクーネさんはもう少し僕たちを信じてよ。 大丈夫、僕たちは結構強いからさ」

 ニヒっとフォラスにしては珍しい少年らしい笑みを浮かべ、クーネの髪から手を離す。

 「さて、もう大丈夫だよね?」
 「……ええ、心配かけたわね」
 「困った時はお互い様さってね。 周りを見てみなよ」

 促されてクーネは周囲を見渡す。

 レイが明るい笑顔を向けている。
 リゼルが勝気な笑顔を向けている。
 いつの間にやらノームとの戦闘を終えてこちらの援護に来ていたのか、リンと共にサラマンダーの猛攻を弾きながらこちらを心配そうに見てニオが静かに笑う。
 ヒヨリが元気一杯な笑顔を浮かべている。
 ティルネルが優しく穏やかな笑顔を浮かべている。
 サラマンダーの攻撃をいなしながらリンが小さく笑っている。
 アマリがいつもの狂気の笑顔でディオ・モルティーギを振り回している。

 全員が全員、クーネが心配するまでもなく余裕を残していた。
 仲間のためにと余裕をなくしていたのはクーネだけ。 全員、他の仲間たちを信じているのだ。 ならば、指揮官たる自分がこんな調子でどうする。

 パンと頬を両手で叩いたクーネは周囲に響く美声を迸らせた。

 「さあ、反撃開始よ!」
 「おっけー!」
 「おうよ!」
 「は、はい!」
 「はーい!」
 「了解しました!」
 「ああ」
 「あっはぁ!」
 「了解だよ」

 全員の返答を聞いたクーネもまた、戦闘の最中だというのに笑った。 
 

 
後書き
 サラマンダー戦本格開始回。

 どうも、迷い猫です。
 クーネさんが苦戦していましたが、呼ばれてないけど飛び出した黒い方の主人公がピンチを救ってくれました。 それに続いて焦るクーネさんを(腹が)黒い方の主人公が叱責します。
 これでようやく全員集合。 アニメで言えば最終回手前のクライマックスです。 しかし、これでもまだまだこのコラボは終わりません。

 ところで集合したメンバーの全員がクーネを気遣って笑う中、うちのアマリちゃんだけは通常運転ですね。 全く以って空気の読めない女の子です。
 ちなみにノームさん惨殺の描写はオールカット。 怒れる少女の蹂躙を余さず描写すると公開に耐えられない生々しさになってしまうので……
 ウンディーネさんはクーネさんのピンチに駆けつけるために2人の主人公に瞬殺されてしまい、セリフすらなく爆散。 不憫ですね。

 さて、次回は全員でサラマンダーさんを苛めます。

 ではでは、迷い猫でしたー 
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