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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  惨殺天使とロマン盾

 時間軸を少しだけ巻き戻そう。
 フォラスとシルフとの舌戦が繰り広げられていたその頃、彼の仲間たちもまた、それぞれに割り振られた敵を目の前にしていた。

 「ふむふむ、ほうほう。 ワシの相手はお前さんらかの?」

 敵の名は《ノーム》
 大地を司る精霊、と言えばそれほど伝承の類に詳しくない者でも分かるだろう。
 三角帽子を被った老人の姿で描かれることが多く、2人の眼前に立つノームもまさにその姿をしている。
 1mにも満たないだろうその身に不釣り合いな大振りのハンマーを担ぐその様は酷くアンバランスで、けれど当人はそれこそが自然体であるかのように矍鑠と笑った。

 対する2人もまた、外見に不似合いな装備であることは共通だ。

 1人は小柄で愛らしい外見に不釣り合いな円盤のような分厚い刀身の両手斧、《ディオ・モルティーギ》を片手で保持した少女。
 見ればまごうことなき美少女であり、普段は虫も殺さないようなほんわかとした少女だが、その内面に隠された狂気と狂暴性は人の枠を大きく踏み越えている。 戦闘モード……否、惨殺モードに入っているようで、既に見る者を恐怖の淵に叩き落す狂喜の笑みが浮かんでいる。

 もう1人は暫定パートナーよりも更に小柄な、そして負けずとも劣らない愛くるしい顔立ちの幼女。
 重厚な鎧に身を固め、巨大且つ重量のあるタワーシールド、《ラストヘイヴン》を右手に、その銘に反して精緻に成型された片手槌、《メテオクラスター》を左手にそれぞれ持つ姿はノームや相棒以上に違和感を禁じ得ない。
 それでも本人は至って真面目なのかそれとも本人の性分なのか、敵を前に油断することも気持ちを昂らせることもせずに冷静な表情のまま相手を見据えている。

 「……あ、アマリさん。 えっと、作戦は覚えていますよね?」
 「あはー、当然ですよー。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()クーネ様が立てた作戦ですよ? 私が忘れるはずがないのです」
 「で、ですよね……」

 作戦を覚えているのならそれ以上に望むべくもない。 少なくとも指揮官が立てた作戦を無視してフォラスの元に向かうと言う最悪でありながら実にありそうな事態はこれで心配しなくても良さそうだと、暫定パートナーであるアマリの返答に少しだけげんなりしながらもニオは無理矢理に自分を納得させた。

 「では、いきましょう」
 「あはー、殺るですよー」

 ニオが一杯に息を吸って気合を入れ直したと同時にアマリがその場から跳んだ。
 ノームの口上はまるっきり無視する形での突貫だが、それでもアマリとの付き合いがそこそこ長いニオにとっては予想通り。 むしろここまで我慢できていたことが予想外だった。

 「あっはぁ!」

 膨大な筋力値を使っての低空跳躍はさながら砲弾のような勢いでノームとの距離を詰め、ディオ・モルティーギの射程に捉えた瞬間、狂喜の笑声と共にそれを振り下ろす。

 爆音。 次いで暴力的な衝撃波と爆風。

 それらを肌で感じながらもニオはその爆心地に向かって跳ぶ。
 単純なステータスで言えばニオの筋力値はアマリのそれを優に超えている。 加えて装備品の効果で筋力値に40もの補正がかかっているため、理論上はアマリ以上の速さで跳べるはずなのだが、そもそもそんな無茶苦茶な移動法を使う機会に乏しいニオではそこまでうまく跳ぶことはできない。 それでも十分に速さでアマリの隣へと降り立ったニオは、噴煙の中から飛び出したハンマーの一撃を正面から受け止める。

 フロアボス戦に匹敵せんばかりの衝撃には肝を冷やすが、それでもここまでは予想の範囲内だ。 慌てず騒がず取り乱さず、冷静に衝撃をズラしてその場に踏みとどまると、今度はしっかりと地に足をつけてノームにタックルを敢行する。 ズッとノームが僅かに後退した感触を盾越しに感じつつ、下手な追撃を加えることなく後ろに跳んだ。

 「あーっはぁ‼︎」

 と、ノームとニオとの間にできたほんの少しの隙間に着地したアマリが普段よりも更にギアの高い狂声で両手斧を横薙ぎに振るう。 余りの勢いに盾に接触するかと不安になったが、それは杞憂だったようだ。 きちんとコントロールされた狂刃は盾に接触する寸前で切り返され、ノームの小さな身体を弾き飛ばした。
 相手が相手なので、パーティープレイでは当然の連携に安心するニオだが、決して気を抜きはしない。

 何故なら、ノームのHPは未だに1割も削れていないのだから。

 アマリたちが遭遇したような奇形のゴーレムのような超高速での回避ではない。 アマリの初撃、続くニオのタックル、そこからのアマリの2連撃を全てその身で受けて尚、ほんの僅かしかHPが削れていないのだ。

 (フォラスさんの懸念が当たったようですね……)

 思い出すのは実際の年齢を教えたにも関わらず未だにちゃん付けをやめようとしない友人の言葉。

 『もしかしたら滅茶苦茶強くなってるかもしれないから、それはみんなも注意してね』

 ありとあらゆる可能性を並行に思考する天才、などと謳われる彼はひとつの可能性として言った。

 『《鍛治師の願い》と《反逆の狼煙》とが同時発生するクエストだとすれば、ここでの合流も製作者の意図の可能性があるなーって。 そうだとしたらなにかしらの対抗策を打っててもおかしくないでしょ? で、そう考えて真っ先に思いつくのは《そもそも合流できないようにする、あるいは合流した時点でなんらかの手段で一方を排除する》か《クエストの難易度を合流した人数に応じて底上げする》のどっちかだからさ。 合流不能も一方の排除もなかったから、モンスターの強化はあっても不思議じゃないよね?』

 スラスラとまるで未来を予言しているかのような的確な言葉がまさに現実となっていた。
 シルフはスピードと攻撃パターンが強化され、ウンディーネは爪の手数が倍増され、そしてノームは防御力がとてつもなく強化されている。

 「どうしますか?」
 「あはー、ぶっ殺せるまでぶっ殺し続けるだけですよー」
 「……そう言うと思っていました。 で、でも、無茶はしないでくださいね?」
 「あはー、あーはー、あっはははー」

 自制を促すニオの言葉は緩やかに無視される。
 そんな状況もまた予想通りなので小さなため息で済ませたニオの眼前でノームが笑った。 その笑みは矍鑠としたものではなく、粘ついた嫌な笑い方。
 生理的な嫌悪を催す笑みを浮かべてノームは口を開く。

 「その程度の攻撃しか出来んのか。 人間とはかくも非力な存在よの。 どれ、幼子(おさなご)どもよ、ワシがポキリと折ってくれようか?」
 「…………」
 「いやしかし、ポキリとおるのであればあそこで奮戦しておる女子(おなご)どもの方が美味そうじゃ」
 「り、リーダーたちのところにはいかせません!」

 ノームの言葉は無視をするにはニオの琴線に触れ過ぎていた。
 壁職としての意地。 仲間を守るための意思。
 どちらもがニオの美点であり、そして、今回に限ってはそれがミスに繋がる。

 無視し続けていればその続きは口にされなかっただろう。 無視して攻撃に移っていればその続きを聞かずに済んだだろう。
 しかし、無視できなかった。 故にニオは攻撃せずに反論してしまった。 今のアマリはニオの合図がなければ突撃しないよう、フォラスからの厳命を受けているため、やはり攻撃しなかった。

 そしてノームは口にする。
 自身の命を投げ捨てるような禁句を。

 「ホッホッホ、その意気や良し。 しかし女子は大きくなくてはの。 ぬしらのような平坦な胸を持つ幼子どもでは興が乗らんわ」

 ぶち、と。
 ニオは何かが切れる音を聞いた。
 直後、隣から強烈な殺気の迸流が生じ、酷く端的でザラザラに乾いた言葉が発せられる。

 「ぶっ殺す」
 「いやいやアマリさん! 『ですよー』が抜けていますよ⁉︎」
 「ぶっ殺す。 ぶっ殺す。 殺す。 殺す。 殺、殺、殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……」
 「アマリさん! ほら、落ち着きましょう! いつものように『ぶっ殺すですよー』でいきましょう!」
 「胸が平坦、貧乳、ツルペタ、洗濯板、いいよね肩凝らなそうで、服も選び放題でいいよね、下着探すの大変だわー……ぶっ殺す!」
 「憎しみが深すぎませんか⁉︎」
 「ニオは悔しくないのですか‼︎ あのような下劣な老害に平坦な胸などと言われて悔しくないと言うのですか‼︎ 私はとても悔しいです! この、この胸にも需要があるとフォラスは言ってくれました!」
 「言っていることが支離滅裂な上に口調が素に戻っていますよ⁉︎」
 「うふっ、うふふ、ぶっ殺すDeath!」

 Death!
 と、もう一度強く宣言したアマリが虚ろな目のままノームへと突撃を開始する。
 フォラスの厳命すらも無視すると言う、普段のアマリから考えればありえない事態。 しかし、アマリを良く知るものであればこの事態はありえないものではない。

 アマリは誰もが羨むほどの美少女ではあるが、アマリ自身、自分の身体にコンプレックスを抱いている。
 姉であるアスナと同い歳であるにも関わらず一向に成長の兆しを見せない胸部。 女の子特有の膨らみを殆ど持たない胸部を有するアマリは、必然、それを持つ少女に日頃から鬱屈とした感情を抱いている。

 そんなアマリに『平坦な胸』などと言えばどうなるのか?
 答えは簡単。

 ただただキレる。

 「あ、あの、アマリさん……?」

 こうなっては止まらない。
 たとえフォラスがこの場にいようと止めることはできない。
 乙女の胸部を馬鹿にした不届き者の末路は死しかありえない。 知らなかったでは済まされないのだ。

 目の前で繰り広げられる戦闘とはかけ離れた激怒の蹂躙を前に、ニオは少しだけ悲しげに自分の胸部を見下ろして一言。

 「べ、別に私は気にしていませんから……き、気にして、いません……」

 そして怒れる乙女は高らかに宣言する。

 「ぶっ殺すDeath!」 
 

 
後書き
 アマリちゃん暴走回。
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。 調子に乗りました、はい。 しかし反省はしていません←おい
 前半の真面目な空気を完全に吹き飛ばす勢いでアマリちゃんが激怒しています。 ノームさんに黙祷(合掌

 さてさて、ようやく白日の下に曝すことができたアマリちゃんの《胸部に纏わる激怒ポイント》設定ですが、実のところ本編でも今回のコラボでも少しだけ匂わせたりはしていました。 いやー、ようやく発表できてよかったー
 ちなみにニオさんの胸部も中々アレらしく、他のメンバーの胸部が中々アレらしいとも聞いていたので、今回のチーム分けはこうなりました。 つまり《男子チーム》《女子チーム》《貧n(以下略》と言うわけですね。

 次回はサラマンダー料理回です。

 ではでは、迷い猫でしたー。 
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