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人狼と雷狼竜

作者:NANASI
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始まりの遭遇

 
前書き
 この物語は私の独断と偏見の入ったモンスターハンターの世界での物語です。
 ギルドのランクの上位・下位のランクの括りが違います。
 ゲーム的なモノは殆ど含みません。気刃ゲージや鬼人化の要素も無いですし、防具から与えられる特殊スキルも存在しません。
 防具はあくまで防具。ただ、頑丈さや、素材の元となったモンスターの能力が武器に付属する程度です。
 登場人物が無惨に捕食されるシーンを書く可能性が高いです。ギギネブラ辺りに。
 ただ、主人公は古流剣技の使い手です。どこぞの古代武将もビックリなくらい強いです。
 戦い方もかなり変則的です。

 気に入っていただけると嬉しいです。 

 
 白い霧に覆われた山道。見渡す限りが白く濁って見える世界。
 道なりに生える木々すらも霞み、遠くにあるかのごとく錯覚してしまうだろう。
 木々の反対側は断崖絶壁。気を抜いてしまえば谷底へと真っ逆さまだ。ただ、微かに見える高い山は霧のお陰で何処か幻想的な雰囲気を醸し出している。
 そんな山道を一人、歩き続ける者がいた。
 黒塗りの(わら)で編んだ編み笠を被り、黒の外套を纏った人物だ。
 編み笠の中からは肩に届く位の金糸のような髪が伸び、編み笠から見え隠れするその目は何処か、猛禽類の類を思わせる鋭い眼光を宿している。
 その眼は常に周囲を見渡している。まるで領地を巡回する獣のように。
 不意に重量物が、しかし軽快に転がり回るようなけたたましい音が、その人物の後方より響き渡ってきた。
 その人物は徐に背中へと手を伸ばし、外套の中から伸びた棒状の物を握りながら流れるような動作で振り返る。
 霧の彼方から音と共に現れたのは、ガーグァと呼ばれる飛べない鳥竜種に引かれた荷車だった。
「……」
 その人物は手にかけていた棒状の物から手を離すと、荷車に道を譲るように木々の方へと身体をそらした。
 すると荷車は速度を落としていき、停車した。手綱を付けられたガーグァがその人物の方を向いて鳴き、荷車から小さな影が姿を見せた。
「あんたさん。ユクモ村を目指してるのかニャ?」
 アイルーと呼ばれる獣人種だ。人語を理解し、世界の広範囲で生息している。中には人間と主従の関係を結ぶ者や、人間顔負けの商売をするもの者もいる。
「ああ。あんたもか?」
 その声を掛けられた人物は、静かに答えた。
「そうかニャ! なら後に乗っていくと良いニャ! 生憎と荷物が多くて乗り心地は悪いかもニャけど、もうすぐ大雨が降るニャ! 雨の中ユクモまで行くのは大変だニャ!」
「助かる。雨の匂いはこの地でも間違いではなかったか……」
 その人物は灰色の空を眺めて呟くように小さな声で言った。
「この地? もしかして、海を渡って来たかニャ?」
「ああ。お言葉に甘えて乗車させて頂く。話は道中にでも聞いてくれ」
 そう言って軽く跳ぶような動作で、その人物は荷車へと乗り込んだ。微かな音と共に揺れる荷車。手綱を握るアイルーは、その動作に眼を見開いた。
「ニャ!? 速い!」
「出してくれ。匂いが強くなってきた」
「おっと! 了解だニャア!」
 その指摘に我に返ったアイルーは手綱を握りなおして、ガーグァに発進を命じた。
 ガーグァはその命令に答えて走り出す。僅かとはいえ土煙を巻き上げて走るそれは、この道に慣れきった者の動きだった。
 ただひとつ問題があるとすれば、荷車の立てる騒音のせいでお互いの声が全く聞こえない事だった。
 荷車が走り出して数分。背負っていた細長い棒状の物を抱えて静かに座るその人物は、編み笠を軽く叩き続ける感触に僅かに顔を上げた。
「……振ってきたか」
 振り注ぐ雨粒は大きく、それに比例して雨音は非常に大きい。まるでバケツをひっくり返したような大雨だ。
 雨雫が陣笠を伝い大きな水滴となって外套へと落ちて行く。これでは半身はほぼずぶ濡れになること間違いなかった。
「ニャ~!」
 アイルーが心底嫌そうな声を上げる。体毛が水浸しになる事が嫌で仕方が無いようだった。
 その時、天上にて雷鳴が走り、大地に響くような轟音が鳴り響き、空を見ていた人物は反射的に、音源を見た。
 天高く、幾つもの巴を描いた無数の雲が文字通り大渦を形作っていた。それはまさに嵐そのものが形になったようだ。そして、その渦中には超然的な何かがいた。
「……あれは……まさか、古龍(いにしえりゅう)か?」
 渦の中心。渦の中に僅かに見え隠れする、白く細長い〝何か〟……それはまさしく龍だった。
 あまりにも距離がありすぎて詳細は掴めないが、嵐の中を悠然と泳ぐように飛び続けるその姿は、他に類を見ない。まさに生態系の外にある種のあり方といえる。
 その人物はその光景に半ば呆然と見入っていた。
 なんと幻想的な事か。なんと神々しく、美しい事か! だが……
 そんな感慨に囚われていた人物の五感が、新たな何かの存在を感じ取ったのと、道を駆け抜けるガーグァが金切り声を上げて無茶な方向転換を行ったのは同時だった。
 ガーグァは良くても荷車はそうは行かない。無茶な動きに付いていけずにバランスを崩し、積荷の半分近くを投げ出す事になった。しかし、その時には既にその人物は動いていた。投げ出される直前に足場を蹴って空中へと躍り出ていたのだ。
 問題は着地した後だった。跳んだまでは良かった……何もせずに投げ出されて地面に激突、怪我人一人出来上がり……な事にはならずに済んだからだ。
 だが、着地した場所が非常に拙かった。その足場は岩のような硬質さが靴越しにも伝わりながらも弾力を持ち、更には熱を含んでいるのが立ち上がる水蒸気で理解できる。
 加えて、その人物の予想よりも着地のタイミングが早かった事に違和感を覚えると共に、視線が普段の自分よりもずっと高い所にあることに更なる違和感を覚えた事で、思考が一瞬硬直したのが拙かった。
 そして周囲を見渡すまでも無く理解する。自分は今、人に慣れたガーグァが一目見て恐慌に陥った程のモノの上に居るのだと。見れば、巨獣が空を……天の渦を睨んでいるのが後姿ながら嫌でも目に付く。
 そして、首を僅かに曲げて後ろを見たソレと、目が合ってしまった。
 振り落とされる前には跳んでいた。着地と同時に手にしたものの柄に手をかける。
 ソレは刀と呼ばれる武器だ。左手で鞘を握り、いつでも鯉口を切れるように曲げた親指を鍔に添える。
 目の前のその巨獣は、黄土色の甲殻に覆われた強靭な四肢を持ち、頭から天を突くような鋭い角が二本伸び、その眼は射抜くような鋭い眼光を放ち、碧い鱗と白い体毛にに彩られた全身からは、何かが弾けるような鋭い音が鳴り始めていた。
 その姿から溢れ出る、雄雄しさ。力強さ。それはまさしく竜の眷属のものだった。
 互いに睨み合い、双方共に動かない。人間は刀を構えたまま、竜は人間を睨み据えたまま……ただ、吹き荒ぶ雨の音だけが、世界を支配していた。
 不意に閃光が走ったその瞬間、二つの影が交差した。
 落雷の如く轟音と共に、竜の右前足が地面を打ち砕いた。
 その破壊力は破砕音と共に凄まじく、人間が立っていた岩場その物を粉砕し、破片を宙へと舞い上がらせていた。
 人間の姿は無い。竜の一撃で土くれの如く粉砕されたか……
 竜が反対側へと振り返った。その視線の先には脱兎の如く走り去る荷車があった。先程自分に衝突しそうになっていた、アレだ。
 その荷台に、先程の人間が乗っている事を目にした。竜が前足を振り上げたあの一瞬を、あの人間は撤退の機会に生かしたのだ。
 人間が逃げたのか、竜が生き延びたのか……それは果たして……
 竜が咆哮を上げる。
 何処か哀しげな……それでも孤高の誇りを含んだ咆哮を、荷車にて息を整えていた人間は、聞き届けていた。



「まぁ、それは大変でしたわね?」
「その通りだが得るものはあった」
「まぁ、それは頼もしいですわ!」
「……余計な期待はしないことだ。落胆せずに済む」
 目の前の糸目が特徴的な竜人族の女性……妙は期待を抱きつつある糸目の村長を前にして、俺はこう答えるのがやっとだった。
 俺の名はヴォルフ・ストラディスタ。しがないハンターの一人だ。
 あの後ユクモに辿り着いた俺は、こうしてユクモの最高責任者に挨拶に行った。事務所は(もぬけ)の殻で探すのに苦労した。
 まさか、外の売店で茶と団子で優雅なひと時を過ごしていらっしゃるとは思いもしなかった。
「まぁ。あの可愛らしったヴォル君がこんなに無愛想になってしまいまして……少し悲しいですわ」
「そんな昔の事、覚えていない」
 俺はこの村……ユクモ生まれで、物心付く前はこの村にいた……らしい。
 何分、三つの時に母が急死してからは元々流れ者だったらしい親父と共に旅に出ていた為に、この村の事など何一つ覚えていないのだ。
 俺の最初の記憶は狩りの最中の記憶だ。親父と共に色んな所を旅して回った。それは、六つの時に親父が40人以上を動員した絶対強者討伐作戦での負傷が原因で死亡してからも、一人でアテの無い旅を続けてきた。
 ついこの間まではこの大陸の……丁度このユクモの反対側に居たのだ。もっとも、街に安宿を荷物置き場として借りただけで、専らモンスターと巣窟である高原で過ごしていた訳だったが。
「まったくもう! お顔は女の子みたいにお綺麗ですのに……本当に男の子?」
「……」
「小さい頃、一緒に風呂に入った事覚えてる?」なんて出会って早々に仰ったのは何処の誰だ? 反論などしても無駄だろうから、話を逸らすとしよう。
「で、何で俺をワザワザ呼び寄せたんだ?」
 本来は敬語を遣わねばならない相手であり最初は礼を持って接したのだが、本人が他人行儀みたいで嫌だと言ったので素で喋らせてもらう事になった。もっとも、最早直す気は起きないがな。
「聞いてますわよ? イャンガルルガにグラビモスやモノブロス、他にも色々とお一人で倒されたとか。貴方は立派な上級ハンターですわ!」

 上級ハンター……脅威度の高いモンスターを単独で撃破した者が認められる位だ。
 ハンターは位に分けられて依頼を受ける。
 初心者はまず、単独で野営をする。持って行けるのはナイフと服と教本だけ。食料・道具その他諸々は全て現地調達。様々な事柄を身体に叩き込む所から始まる。この時点で脱落者は多い。特に都会暮らしの温室育ち。
 因みに依頼内容とは違ったとしても、モンスターの餌食にされて帰らぬ人となっても、運悪く大型種に出くわして逃げられなかったとしても、現場の事は全て本人が悪いとされる。
 責任者はあくまで自分自身。嫌なら最初からハンターなんて志すべきではないのだ。
 初心者はこれを一年やり遂げて駆け出しハンターとして認められる。
 例外があるなら、この期間で……例えば草食種の一頭でも狩って見せたならだ。
 草食種……アプノトスやアプケロスにしても、人間とは力の差が比較にならないほど強く、足が速い。初心者がこれを一人で倒せれば本当に大した物だ。

 甲虫種は例外として省く。特にブナハブラやランゴスタの巣は、全身を覆う専用装備でも無ければ近付かない方が懸命だと言う事をまずは思い知らせなければならない。何せ鳥竜種でも危険視する類だからな。

 チャチャブーに関しても省く。原住民には近付かない方が良い。友好的な者なんて僅かだ。

 一人前のハンターになってようやく小型鳥竜種狩りの依頼を受けられる。
 人と大して変わらない大きさだからと誤解しがちだが、鳥竜種は頭が良い。自然界の掟を本能で理解しているからこそ頭が回る。小さいの一頭でも草食種と互角。肉食で攻撃的な分だけこっちの方が危険ではあるが。
 ドスの名を与えられる群れの長を、切り札兼指揮官として一個の部隊として動く奴らの連携は、なりたてのハンターではまずは手も足も出ないだろう。
 ドスの名を持つ群れのボスを複数頭・複数種類、小型の甲殻類、コンガ等の小型牙獣種とブルファンゴを討伐してようやく一人前のハンターとして認められ、次のランクの依頼を受けられる。
 
 次がイャンクックやババコンガ、クルペッコ、ドスガレオス、陸のロアルドロスのような類だ。
 位の上昇はこんな具合に進んでいく。
 それ以上のモンスターとなれば単独行動をするような奴や滅多に居ないだろう。俺も例外ではない。敗北した経験もある。生き残ってきただけであってだ。
 ディアブロスの時など酷いものだった。指揮系統が滅茶苦茶だったとは言え、18人で挑んで生き残ったのが6人だけという有様だ。
「確かにその通りだが、何故こんな静かな村に俺を?」
「それがですねぇ。最近山頂付近や森の奥に居るモンスターたちが、降りてきているのですわ」
「山の……奥?」
 先程遭遇した、あの碧い竜を思い出す。あれは並みのハンターじゃ手に負えない。
「翼を持たない、四肢を大地につけた碧い竜か?」
 俺の言葉に、村長が糸目を見開いて驚く。
「……ジンオウガと、遭遇なされたのですわね?」
「ジンオウガというのか」
「ええ。山奥の特に険しい地帯にお住みになる牙竜種ですわ」
 牙竜種? 珍しいな。
「雷狼竜と呼ばれ、雷を自在に操ると言います。火竜を除けば……この地方の頂点に立つ竜ですわ」
 火竜を除けば? ……事実上食物連鎖の頂点に立つということか。そんな奴が降りてきているのか?
「アレを俺に片付けろと?」
 やってみなければ分からないが……アイツは、とんでもなく強い。
「いえ、追い払うだけで良いのですわ」
 何とかなるレベルでもないな。何にせよ、この地方のモンスター全てを頭に入れた上で策を練らなければならない。
 どう策を練っても結局は戦わねばならない可能性は高い。
「だが急には無理だ。俺はこの土地の土地勘が無い。まずはこの地に慣れてからだ。でなければ中型鳥竜種にですらやられる可能性がある」
 どんな上級ハンターでもいえることだが、土地勘という物は非常に重要だ。あの時撤退したのも土地勘の無い戦いなど無謀すぎるからだ。
 例えば、迅竜を倒した凄腕ハンターが居たとしよう。ソイツは一度倒すことが出来たのならば二度目など多少は楽だと、調子に乗って愚かな考えに陥ってしまった。
 そしてソイツは見知らぬ土地で戦って、目当てのモンスターどころか格下と見下していたランポスの群れの餌になってしまった。
 そいつの敗因は土地勘の欠落。対してランポスの群れは土地勘がある上に集団という利点がある。壁を背にするまで追い込まれてしまったのだろう。
 俺もそうならない為に、ここの土地勘を得なければならない。
「左様でごさいますか? では気長にお待ちしますわ。ところでヴォル君も如何ですか? ご馳走しますわよ?」
 む、桃と白と緑の串団子か。地方の名産品らしい食料には興味がある。何せ、狩りの現場で食べられる物といえば持ち込んだ携帯食料か、現地調達した物しかない。
「では馳走に……」
 皿に乗った上手そうな菓子に手を伸ばし……
「大変ニャー!」
 ……たところで邪魔が入ってくれた。樽に乗ったアイルーだ。陣笠に外套を着ている。……俺と似たような格好をしているな。
「まぁ、そんなに慌てて。どうかなさいましたの?」
「カンナさん達から救援要請ニャ! 赤紫の狼煙が上がったニャ!」
 赤紫の狼煙……救援、増援の要請の合図だ。
「案内してくれ」
 俺は愛刀を手にしてアイルーに話しかける。
「行って下さるんですの?」
「他に誰かが居るんなら任せても言いが、コイツがいつ頃に救助要請を受けたか分からん。それからここまで来るのにどれだけ掛かっているのかもだ。なら、今聞いた俺が行った方が早い」
 俺の言葉に村長は満足そうに頷く。
「頼むぞ。たった今来たばかりだから俺には土地勘が無い。全力で走れ。足の早さには自信がある」
「任せるニャ!」
 アイルーはそう言って樽の上に乗って脱兎の如く走り出した。
「では行って来る」
 村長の言葉を待たずに樽アイルーを追いかける。救援が間に合えばいいんだがな。
「お気を……本当に速いですわ……」
 お気をつけて……と言おうとした所で、あの青年ハンター、ヴォルフ・ストラディスタは既に見えなくなっていた。
 あのアイルーは宅配・郵便担当で、速さと正確さを売りにしていた。足の速さでは定評のあるアイルー達の中でも指折りに速い。それは人間が追いつける速さでは無い。だが、あの男はそれに容易に追いつけるのではないのか?
「……異端の剣でしたわね。その担い手ならば……」
 村長は彼の持っていた刀を思い出した。
 片手剣にしては長く、太刀にしては短い。
 その特徴的な刀を手に、獣染みた俊敏性と変幻自在の体術。その担い手の動きは最早、人間業ではないとすら言われている。
 僅かながらも幼少期を知っている村長としては、何が彼を強くしたのか気になるところではあったが、今は救援を要請した者達の無事を祈るばかりであった。
 
 

 
後書き
 始まりはこんな所です。如何でしたか?
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