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初詣

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第六章

 その絵馬を飾ってからだ。さらにだというのだ。
「おみくじ引きましょう」
「それもするのね」
「この一年。どうなるかをね」
 それを占おうというのだ。
「じゃあ丁度目の前でおみくじ売ってるし」
「そうね」
 見れば明らかにアルバイトの女子大生と思われる巫女さん達が参拝客達におみくじを売っている。今は神社にとって最高のかき入れ時なので忙しい。
 その巫女さん達を見ながらだ。春香は未祐に言った。
 そのうえで二人でおみくじのコーナーに並んでひいてみる。その結果は。
 春香は自分のおみくじを開いてだ。こう言った。
「中吉よ」
「そこそこなのね」
「想い人を大事にするようにって書いてあるわ」
「じゃあこのままいけばいいわね」
「ただ。何よこれ」
 自分のおみくじを見ながらだ。春香は今度は憮然とした顔になった。
 そのうえでだ。こんなことも言ったのである。
「スポーツの応援は期待するなって書いてあるわ」
「春香野球は横浜ファンだったわね」
「今年も最下位ってことかしら」
「今年もなのね」
「確かに毎年毎年ぶっちぎりの最下位だけれど」
 しかも主力選手は逃げるか追い出される。最高の悪循環だ。
「それでもよ」
「優勝して欲しいのね」
「その辺り未祐もわかってくれるわよね」
「わかりたくないけれど」
 それでもだとだ。未祐はここでは暗い顔になって返す。
「だって。私広島ファンだから」
「殆ど毎年Bクラスだからね」
「昔は強かったらしいのよ」
 とはいってもだ。それは未祐の知らない時代のことである。
「昭和五十年代とか平成のはじめとか」
「らしいわね。黄金時代だったんだって?」
「赤へルと鉄人、精密機械がいた頃ね」
 山本、衣笠、北別府の頃だ。他には高橋慶彦に三村、長内、小早川、達川、ライトル、長嶋、大野、津田といった顔触れが揃っていた。
「私も聞いたことがあるわ」
「近鉄とか阪急を破って日本一になったのよ」
「それが今やね」
「そう。後でお賽銭入れてお願いするわね」
「そのこともお願いするのね」
「そうしないと。カープ優勝できないから」
「こっちもね。本当にね」
 春香は未祐よりも深刻な顔になっていた。それも極めて。
 どうしてそうした顔になっているかは言うまでもない。とにかくだった。
 春香はおみくじに書かれていたその部分には暗澹とならざるを得なかった。彼女の一年はその分野では期待できそうにもなかった。
 そのことに溜息をつく春香だったが未祐はその彼女の横で自分のおみくじの結果を開いた。その結果はというと。
「大吉だったわ」
「あっ、よかったじゃない」
「ええ。まずは学業も健康も問題なし」
 学生にとって重要なこの二つ、健康は学生に限らないがそれがまずだった。
「安心していいって」
「よかったわね。他には?」
「金銭も問題なし。お小遣いアップね」
「いいじゃない。何か一年未祐のもの?」
「スポーツも問題なし。だったらいいわね」
 カープのことだけは信じられなかった。
「せめて巨人に選手を奪われないようにしないとね」
「阪神ならいいけれどね」
「不思議とね。阪神に選手を獲られても頭にこないのよ」
 それは何故か。巨人の補強は無条件で、如何なる場合であっても汚い補強でしかないが阪神の場合は何があろうとも奇麗な補強だからだ。これは人間の世界の絶対の摂理だ。
「本当にね」
「そうなのよね。まあとにかく何でもいい感じね」
「ええ。後は」
 最後は恋愛運だった。それは。 
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