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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第248話 祝勝会と思い出話

 
前書き
~一言~

ほんとーに遅くなっちゃってすみません……。漸く正式な続編と言うか、続話です! 遅くなりました!! 

あまりに期間が空き過ぎてたせいで、自分も忘れちゃってたりしてて…… 更に滅茶苦茶時間がかかっちゃいましたが、とりあえず何とか出来ました。色々ミスとかあったらすみません………。


 最後にこの小説を見てくださって、ありがとうございます! これからも、頑張りますのでよろしくお願いします!!


                                 じーくw 

 




「うっひゃー! すーごい豪華な料理だよー!」
「……ほんと、ですね。ここまでの料理はこの世界に来て一度も見た事が……」
「おおっ!? これってすっごいレアって話の酒じゃん!? えっと 確かヨツンヘイムってトコの最奥でドロップするって話の!」



――今日 ここで、この森の家《アスナとキリトの家》で 打ち上げをする。



 それを決めたのはついさっきの事だった。だから、誰にも伝えていない。この場にいるスリーピングナイツの皆と自分達だけだった。

 なのに、ダイニングにある大きなテーブルには 現実では簡単にはお目にかかる事が出来ない様な豪華な料理がずらりと並んでいたんだ。

――いったい誰が用意してくれたの……?

 と、一瞬だけ疑問に思ったのだが それは直ぐに解消される。
 テーブルの料理の手前にちょこん、と備え付けられていた二枚の手紙を見て。

 そっとその手紙に触れると、手紙は生きているかの様に動いて アスナとレイナの手元に収まった。

『攻略おめでとう』
『私達だって料理くらい出来るんだからね!?』

 そして、可愛く描かれた似顔絵と二本の剣のイラストだった。だれが、と言う疑問は愚問だった。判りきった事なんだから。こんな心温まるもてなしをしてくれるのはアスナにとって最愛の人。リュウキにとってかけがえの無い親友。レイナにとって心底信頼し、親愛している義兄のキリトだと言う事。そして、大切な仲間たち。リーファやリズ、シリカが腕を振るってくれたんだと言う事。

 そして、きっと彼女達だけじゃないだろう。沢山の人達に支えられているんだ。これまでも、これからもきっと。

「「(皆、ありがとう……大好きだよ)」」

 アスナとレイナの2人は 目に浮かぶ仲間達に向かってただただ感謝の念を贈っていた。

「粋な計らい……と言うヤツだな。うん。皆には本当に感謝だ。それに、この酒は……。………たまにはクラインの頼み事も訊かないと、か。罰が当たると言ったトコだ」

 リュウキも2人同様にただただ感謝を口にしていた。

 そして、クラインの名を出したのは 用意されている料理の中にある酒を見てだった。
 酒を飲む事はないがアイテムに関しては非常に詳しいのは言うまでもない。ノリが目を輝かせてみている酒瓶がかなりのレアである事はよく知っている。ヨツンヘイムの最奥、と言う情報は間違ってなく、そこで戦う邪神の周囲に現れる取り巻きたちを倒してドロップする。そして そのドロップ確率が一桁と言うそれなりに根気がいるアイテムだから。食料、飲料系のアイテムの中に限りだが、入手難易度が最上位に位置する最高級品を譲ってくれたのは間違いなくクラインだと言う事がよく判った。

「あはは。そうだね、リュウキくんっ」

 レイナもそっとリュウキの手を握って頷いていた。ただただ、感謝しかないんだ。

 でも―― この時決めた事が 後々に少々波紋を呼ぶのはまた後の話。


「んっ よーし、みんなーっ 座って―!」
「直ぐに乾杯するからねーっ」

 アスナとレイナはせっせと用意しつつ 皆に着席を促した。

「おっけーだよーっ! わぁっ 楽しみだなぁっ!」
「ほーら、ユウ。まだ ちゃんと座ってなさい」

 ユウキは、待ちきれないっ! と言わんばかりの様子。それは宛ら尻尾を振り振りさせてる子犬の様だ。それを上手く抑えているランの構図は 本当にしっくりくるものがある。

「よぉー リュウキ! ま、一杯くらい付き合いなよ。ほら たしなむ程度で良いからさーっ!」
「あ、ああ……。うん。少し、くらいなら……」

 流石にこの仮想世界では 現実世界の様にはならないだろう……? と思いつつも少々危機感が生まれるのは気のせいじゃないだろうな、とリュウキは心底警戒していた。

「あはは……。リュウキさん。しっかりとワタクシがフォローしますので……。ノリの扱いには慣れてますので……」
「う、うん。頼むよ……」

 タルケンがそっと耳打ち。
 その内容をはっきり聞いた訳じゃないが、ノリが訝しみ、訊き出そうとするが 今は乾杯が先、と言う事で後にした。

 最高級の酒を、そして その他にもノリの希望で樽で仕入れたワインの栓を抜いて黄金色の液体をなみなみと注いでいく。色取り鮮やかなグラスが料理の前に並び、それでもう宴席の準備は完全に完了だ。
 
 お次は誰が乾杯の音頭を取るのか、と言う点に関しては一同言うまでもない。

「え? え? ボク? ボクてーっきり リュウキかな? って思ったんだけど」
「……参考までに聞くが なんでだ?」
「だってほらっ! なんだか、その方が面白そうだもんっ!」

 こう言うのに慣れて無さそうなリュウキが ちょっと緊張させて、それとなく赤くさせつつ ぎこちなく音頭を取る姿は、勇猛果敢に戦っていた時と比べてギャップがありすぎて面白そうだ、と ここまで考え抜いたユウキには拍手喝采を送りたい。

 レイナも、普段より見知った仲間達だけの打ち上げなら兎も角、初めてのメンバーでの中心はリュウキにとってハードルが高い、と言うのは判っていたから ただただ笑っていた。

「……オレはいわば途中参加みたいなもんだ。今回の立役者はどう贔屓目で見ても ユウキかランの2人だろ? なら……判るよな?」
「うーん。どー思う? 姉ちゃん?」
「ふふ。そうね。私としてはリュウキさんも凄く活躍をしていたので、ユウと同じ意見なのだけど……」

 リュウキの顔をみて それだけでもとりあえず満足ですっ と言わんばかりに笑うと。

「ユウにお願いするよ。パーティーとか打ち上げとかでのリーダーはユウだからね」
「うーん……」
「ほらほら、ユウキ。ノリやジュンが待ちきれない、って顔してるよ?」

 アスナが笑顔でそう言う。
 リュウキが慌てふためく様な姿を見るのが楽しい、と思っちゃうのは同じだけど 今はずっとお預けを受けてしまってる皆を優先させた。中でもジュンは涎を垂らしかねない様子だし、ノリは目の前にある最高のお酒……。もう飲んじゃいそうな勢いだったから。

「もーしょうがないなぁっ! んじゃあ 次はリュウキだからねっ?? よろしく約束したよー!」
「……はぁ 考えとくよ」

 リュウキは軽くため息を吐いた。苦手は苦手なのだが、それでも楽しい。まだまだ短い付き合いだけど もうずっと一緒に、共に戦ってきた仲間の様に感じられるから。だから、不思議とクラインとかキリトに押し付けられる時の様な、ちょっとした不快も感じなかったんだ。……ユウキには クラインとかと同じ。ちょっと同族っぽく感じたけど。

 気を取り直して、ユウキはグラスを手にし、前に出した。 

「よーし! みんなっ それでは、ボス攻略成功を祝して……… かんぱーい!!」
『かんぱーーいっ!』

 乾杯! の唱和と、かちんかちん、とグラスがぶつかり合う音が続いて全員が一気に飲み干した。苦手と公言していたリュウキだが、この世界は全年齢性だ。アルコールを摂取している様な感じはするものの、あの時(・・・)の様な事は起こらないから 一先ず安心し、そんなリュウキを見て レイナはただただ笑うのだった。

 その後は秩序無きどんちゃん騒ぎへと移行した。

 勿論最初はあのボス戦の事だ。
 色々と濃厚過ぎて何処から話せば良いのか判らないくらい膨大だけど どこから話しても会話は弾む。

「やー、ユウキがリュウキに助けられた時のランの顔ったらなぁー! 羨ましそうにしちゃってー あっはっはっは!」
「ちょっ、の、ノリ!?」
「うぅー……」
「おおっとー、そうだったよな? リュウキはレイナのだったっけー??」
「ぁ、ぁぅ……」

 酒が入ったノリはテンションは最高潮。
 恋する乙女の素顔をはっきりとあの場で、ちゃっかりと見ちゃってたノリは カンラカンラと笑いながら言っていて、ランを慌てさせていた。いつも しっかり者でユウキの事だけじゃなく、ギルド全員を支えてくれていたお姉さん役の1人であるランのそんな可愛らしい素顔を見て微笑ましく、笑えない者など殆どいないだろう。
 例外に1人いる。勿論レイナは手放しでは笑えない。また、増えてしまった……と思えてしまうから。でも、憧れとか尊敬とか、 そんな視線だったと(強引に)思っていたから、やっぱりこうもはっきりノリに言われてしまえば複雑だ。

「え、えと、違うんですよ?? レイナさん! だって、私を負かしたのって ユウ以外ではリュウキさんしかいなくって、その やっぱり凄くそんけー出来て……」
「あっ、は はぅっ わ、判ります判りますよっ!!」
「ふふっ レイ慌て過ぎだよー」

 アスナはしっかりとフォローに回ってる。
 何だかんだで、この場にはキリトはいないし、キリトの方向へと持っていかれないから何だか余裕がある様だった。

「あはは……、でも あの時の姉ちゃんの威圧感……凄かったから、ボク思わず謝っちゃったよ……」

 ユウキはユウキで あの時の事。助けられた時の事と同時に、顔は本当に普通に笑顔だったんだけど、内包する内面を見てしまった様で 身体の芯から震えた様な感じがしてたんだ。

「はは……。そうだったんだな。ひょっとして ユウキはランに怒られる事ばかりなのか?」
「ふぇっ!? そっ、ぼ、ボクそんな事ないよぉ! で、でも 怒られた時はゲンコツで……」
「成る程。頭が上がらないと言う所か。アスナとレイナの所とはまた違った感じの姉妹だな」

 リュウキはそんなユウキを見て笑う。

「あはは……。でもさ リュウキ君! とっても仲良しだって所はきっと一緒だよ? 私とお姉ちゃんもそーだし!」

 さぁ、ここからが話題変更へと一直線! と言う事で ここぞとばかりに乗っかるレイナ。
 それが功を成したのか、ユウキもランも 照れ笑いを浮かべていて それに皆が続けた。

「そうだよなー。この2人は色んな意味で、全然似てないのに、息だけはピッタリでなぁ」
「ランさんがユウキを上手く抑えて、それで全て上手く行ってる、と言った感じでしょうか」

 ジュンとテッチのそう言うと同時に、全員がうんうん、と頷いてた。

「ぶーっ! みんなしてなんか酷いなっ! ボクだってヤル時はヤルんだからねー!」
「はいはい。判ってるわよ。ユウ。ユウはしっかり者だもんね~?」
「もーっ ねーちゃん! 子供扱いしないでよー!」

 頭をよしよし、と撫でられてるユウキは頬を赤くさせながら、ぐっ と手に持ったワインを飲みほした。こうやって撫でられる事は嫌いじゃないけど、みんなの前だったら やっぱり恥ずかしい様だった。


 こうして、どんどん話が弾んでいく。軈て ユウキ達の話へと変わった。


 様々なVRMMOの世界を渡り歩いてきたスリーピングナイツの話に。

「うぅ~ん……、やっぱ 間違いなく最悪だったのはねぇ、アメリカの《インセクサイト》っていうやつだよねー」

 ユウキは、少々顔を顰め 両手で身体を抱くようにした。

「あ、あはは…… あれは……ねぇ……」

 その言葉に真っ先に反応したのはシウネー。頷きつつ苦笑いを浮かべてる所に、ランが傍にいて笑っていた。

「インセクサイト、か……」

 それを訊いたリュウキは 薄く笑っていた。何処か意味がありそうな笑みで リュウキ自身に訊いてみようかな、と思ったアスナだったが、まずはユウキの方だろう、と言う事で。

「えぇ……どんなやつなの?」
「えっとねぇ 兎に角 虫! 虫ばっか! モンスターが虫なのはともかく、自分まで虫なんだよー! それでもボクと姉ちゃんは まだマシって言える二足歩行のアリだったんだけど、シウネーなんかねー」

 ユウキがそこまで言った所で、はっ! としたシウネーが制止にかかる。

「ま、待ってユウキ! 言わないでっ!!」

 でも、そんなの訊いてくれるユウキじゃない。楽しかった思い出、面白かった思い出なんだから。シウネーにとっては非常にアレ(・・)だとしても。

「……でっかいイモムシでさ! 口からねー そ、その い、糸をぴゅーーって……、あ、あはははっ!」

 そこで我慢できなかった様にユウキは笑いこけた。

「うぅ……」
「あはは。まぁまぁ シウネー。お返しって事であの世界でユウがポカミスした話もしてあげれば 良いんじゃない?」
「あははは― って、げっ!?」

 笑っていたユウキだったんだが、ランの一言でピクリと動きを止めた。

「えー、ユウキさんがポカミス??」

 レイナは今度はそこに釘付け。確かに何処となく抜けてる感が否めないユウキだが、それでも自分達やキリトをも打ち破った腕がある。そんなユウキのミスには凄く興味があったんだ。

「あはは。それも訊いてみたいね?」
 
 アスナも同様だった。
 さっきまで笑っていたユウキは慌てて言った。

「べ、別に面白い事なんかないよーー?? ね? ね? だから 姉ちゃんもシウネーもこの話は終わりーって事で……。じゃ、 だめ??」

 可愛く上目遣いでそう言うユウキ。
 レイナやアスナ、リュウキと言ったあまり付き合いが長くないメンバーであれば、そんな可愛らしく言われてしまえば うん。と頷きそうなんだが、シウネーやラン、スリーピングナイツの皆に限ってはそうはいきません。

「だめだよー? ユウ? 自分は言っておいてそれは無いんじゃないかなぁ?」
「ぅ……」
「そうですよねー。散々私の事笑ってくれたんですからねー? それに私と違って可愛らしいミスじゃないですか」
「はぅぅ……」

 ユウキはどんどん小さくなっていく。

「ま、身から出た錆だと言う事で諦めて受け入れた方が良いんじゃないか? ユウキ」
「ぅぅー リューキっ! ボクの事庇ってよぉー!」
「ふむふむ。確かに 助けてやりたい気持ちが無い、と言う訳じゃないが ユウキは何だかオレで楽しもうとした様な気がするからな」
「ふぇっ!? な、なんのこと、かなぁ……?」

 ユウキはびくっ と震えたのを見て 図星であると言う事がよく判った。
 後、少し訂正すると…… リュウキの場合はまた別だ。上目遣いとか、可愛らしく とかそう言うの通じそうにないから。

「リュウキさんの言う通りだね。と言う訳で ユウの話! シウネーよろしく!」
「はいっ」

 皆が注目する中で ユウキはただただ顔を赤くさせて、そして唇を尖らせてしまっていた。

「ユウキはアリになったんだけど…… アリだから 当然甘い物が好きなんだよね? 木の樹液とか。ハチミツとか。それをぺロっ て舐めたら本当に嬉しそうに笑っててー」
「ぅぅ。ほ、ほんとにすっごく甘くておいしかったんだってばぁ……」
「あはははっ それは私も体感してみたいねー。でも それがポカミスなの??」

 シウネーの話を訊いて、レイナが首を傾げる。そこまで行けば、美味しそうに樹液を舐めている姿が目に浮かんで微笑ましい気持ちしかわかない。……姿形は兎も角として。

 シウネーはそれを訊いて またニコっ と笑った。

「ここからなんですよ? ユウキはあまりの美味しさからか、ほんとに夢中になっちゃって、どんどん舐め続けて、追い続けて……」
「わ、わーわーーっ」

 シウネーはにこりと笑って言った。

「私たちは虫なので。人間の男の子に捕まっちゃったの。そのまま罠の中にまで入っていっちゃってね? 『みんなーーっ たーーすけてーーーっ!』って感じで捕らわれのお転婆アリ姫になっちゃって。皆笑ってたの」
「わ、わーーわーーーっっ!」
 
 捕まって、籠の中で ユウキが叫んでる。そんな光景が直ぐに浮かぶ。
 皆はあの手この手で助け出そうとしてて……。でも中々上手く行かない。それは当然だ。だって、皆笑いを堪える方に一生懸命だったから。

「「あはははっ!!」」
「ふふふ……」

 アスナもレイナも、リュウキも笑っていた。
 ユウキはただただ、顔を赤くさせつつ 最終的に自分自身も笑うしかないのだった。


「でも ほんといいなぁー みんなで色んな世界を旅してきたんだね……」
「うん。だって 世界中を旅する~ って言う話よくあるけど、VR世界も凄い勢いで広がってるし、その時代が始まったばかりだから、こんなに旅をしてる人達はきっとみんなくらいだと思うよー」

 アスナもレイナもそう言って笑っていた。
 内容の濃さ(・・・・・)を考えたら決して自分達も負けていない程の旅だったと思うが、仄々と楽しく皆で、と言ったら ユウキやラン達の方が良いって思うだろう。
 あの世界での旅が、……戦いが無ければ 今の皆とは知り合えていないから、決して自分達を否定する訳じゃないが、それでも 楽しそうに旅をしてきたユウキ達の事が少しばかり羨ましかったかもしれない。

「あれ? アスナやレイナは? VRMMO歴はすっごく長いって思うんだけど……、って 2人よりもっと長いって感じるのはリュウキだった!」

 ユウキは、アスナとレイナに訊いていたのだが、途中でリュウキにシフト変更。
 先程のインセクサイトの話をしてた時も、リュウキはあまり驚いた様子は無く、知っている風だったから。

「オレか?」
「そーそー」
「あ、そう言えばそうね。だって リュウキさんは インセクサイトの事知っていたんじゃないですか? アスナさんやレイナさんの様に、内容を訊かなかったので」

 ランもユウキと同じ様に感じたのだろう。 そう聞いていて リュウキは少しだけ考える仕草をした後。

「ああ。少しばかり あの世界にも行った事あるよ」
「あーっ やっぱりそうなんだ!」

 ユウキはぱぁっ と笑顔になった。同じ世界に行った事がある、と言う偶然。それが何だか嬉しかった様だ。

「えーっ リューキくん。それ初耳だよー?」

 ただ、レイナは複雑だった。ずっと一緒にいたつもりだったんだけど 知らなかったから。
 そんなレイナを見てリュウキは ニコリと笑う。

「あの世界には、ちょっと 現実絡みであっただけで 皆程は知らないよ」
「ぁ……」

 そこまで言った所でレイナは勿論 アスナも理解出来た。
 リュウキの仕事関係で、インセクサイトの世界に携わったと言う事なんだと言う事が。アメリカのVRMMO世界だと言うのに…… 相も変わらずリュウキのワールドワイドな仕事っぷりに、レイナとアスナは舌を巻く想いだ。

「へー そーなんだ!」

 ユウキも現実絡みだと言う事で言葉を濁したのが判ったのか そこまで食い込んだ話はしなかった。

 だがランは少し考えた後、リュウキに訊いていた。

「リュウキさんは…… あの世界 インセクサイトの事、どう思いました?」

 先程まで陽気に笑っていたランだったが、何処となく真剣な表情になっていた。
 それをシウネーも感じた様で、何も口を挟まずにリュウキの返答を待っていた。

「ん? ああ あちらの方では 虫関係。あの手のアニメとか映画とかがかなり人気だったから、VRMMOでも流行ったって思ってるよ(作りも精巧に仕上がっていたし、少し修正する程度だったからな……)」
「そう、ですか……」

 ランはそれ以上は訊かないで、少しだけ微笑む。

「?? どうしたの? 姉ちゃん」
「何でもないわよ。ユウ。……インセクサイトは、良かった(・・・・)って言ってた事もあったけど、ちょっぴり皆には不評だったでしょ? リュウキさんはどうだったのかな、って思っただけで」
「あ……。そっか」

 ユウキも何か察した様で 素直に頷いた後 手に持ったグラスの中の液体を一気に飲み干した。あの世界の思い出は 決して無い訳じゃない。大切な思い出だってあるから、それを連想させたのだ。……そう、不評だった事は確かだけど、あの世界の事が『好き』と言った人だって いたんだから。

「ん……」

 リュウキは、2人を見て 何かを感じた様だ。
 それは、ランと接していて…… そして あの戦いの後にもランの言葉を訊いて 特に気になった事でもあった。 

 だから、少し間を置いた後に リュウキは言った。

「あの世界の自然は、このALOにも負けていない程綺麗だった。………とても暖かかったし、心地よかった。………特に」

 そして、次のリュウキの言葉に、スリーピングナイツの皆が注目する事になった。


「―――太陽。特にそれが印象的だったよ」
『!』

 リュウキの言葉に、スリーピングナイツの全員の視線が集まる。

「あはは。太陽かぁー。ALOも負けてないって思うけどね。ほら、お天道様とかお月様のおかげで空を飛べるって訳だしさ」
「そうだね。んー 虫って訳だから 大自然と一体化してより強く感じたんじゃないかな? リュウキ君。……ん? リュウキ君??」

 レイナとアスナは、その集まった視線には気付く事はなかった。
 でも、リュウキの返答が遅かったから どうしたのか、と訊こうとしたが。

「ああ。ALOも負けてないよ勿論」
「そ、そーだよねー! 何せこの世界じゃ飛べるんだもんっ 気持ちよさじゃ絶対負けてないよー! それに皆とも知り合えたしっ! 最高だよ??」
「え、ええ。この世界は、本当に素晴らしい世界です。この世界で素敵な皆さんに出会えて、心躍る冒険も出来て……本当に心が満ちる様でしたから」

 ユウキやランの慌てた様子の返答。少し不自然さを感じたアスナやレイナだったが、それ以上に2人の事に注目。何せやや大袈裟に聴こえてしまったから顔を赤くさせてしまった。

「あ、あははは。確かに私達もあんな凄い冒険はね? 滅多にないって思うよ」
「そうだよね。私達もとっても楽しかったよー」

 頭を少しだけ掻きながら言うアスナとレイナ。

「あ、気持ち良いっていえば、このアスナのお家もとっても居心地良いって思うよ! ほら、なんだか……昔を思い出すって感じかな?」

 ユウキがそう言う。さっきの様にあからさまじゃなかったから、アスナもレイナも判らなかったがユウキは意図して話題を変えていた。

「そうですね。私もユウと同じ気持ちです……とてもいい香りがします。……森の香り、自然の香り。素晴らしいです」
「あ、あはは。そう、かな?」
「ウン! そーだよ! あ、後でレイナのお家にもお邪魔したいかもっ!」
「あはっ 大丈夫だよー! あ、でも料理とかは準備出来てないよ?」
「あははは……。もう十分過ぎる程頂きましたよ。ジュンやタルケンを見れば、ほら」

 リュウキの言葉にこそ、反応していたのだが ユウキが話題を変えると同時に、他のメンバーも もとに戻していた。そして、ジュンやタルケンが話には加わっていない理由は、両手に料理を持ち、ガツガツと平らげているからだ。その身体の何処に入るのだろうか? と思える程の勢いで食べ続ける姿は、不思議に思うんだけど、美味しそうに食べてくれてるのは微笑ましくも思う。

 シウネーは少し苦笑いをしながら言った。

「いつも以上に食べてるって感じですね」
「えっと…… いつもこんな感じで食べるんだ?」
「うんっ そーだよ。1人で5人前とか軽くいってるかな?」
「す、凄いね……」

 レイナの疑問に対してユウキが説明。改めて凄いって思っている時に、ランとシウネーの表情が変わった。変わったと同時に、その小さな口が2人ともアッ、と言うふうに開かれた。

「え、えっと どうしたの?」
「何か変だった??」

「い、いえ! 大変な事を思い出しまして……」
「え、ええ……お金と言えば 私達はアスナさん、レイナさん、リュウキさんにボス攻略の際のお礼を……。ドロップ品やコルをお渡しする約束だったのに、こんなに買い込んでしまって………」

 シウネーやランの言葉を訊いて、リュウキの時とは違った意味で、ハッ! と視線が集まった。元々準備されていた豪勢な料理や酒に加えて、持ち込んだ料理の数々。酒樽の数々。それ全部がボス攻略の恩恵によるものだ。
 元々は大人数で攻略を基本としているから、人数が少なければ少ない程、その膨大なアイテムやコルは集中するから。

 そんな大金だけど、これだけの量、質の料理となると……、手元に残るものが心許なさすぎる。

「うわっ! ぼ、ボクも忘れてたよ! ご、ごめん。アスナ、レイナ、リュウキ」

 ユウキも申し訳なさそうに肩を狭めた。

「ああ、そう言えばそう言う約束、だったんだな」

 珍しくリュウキも忘れていた様子だった。

「オレとしては 普段出来ない様な事をさせてもらったんだ。それで既に十分……って思ってる。コルやアイテムには代えられない程の事を。……本当に、色々と。2人はどうだ?」

 リュウキはアスナとレイナの方を見た。
 2人も、最初こそは少し固まっていたものの 笑顔に戻って答えた。

「私達もね? お姉ちゃん」
「うん。本当に楽しかったから。リュウキ君の言うように、何にも代えられない事が出来た。それで十分満足だよ」

 そう笑顔で言った。
 アスナとレイナ、そして リュウキの笑顔と その言葉を訊いて、強張っていた皆の表情も次第に柔らかく、笑顔に戻っていく。

「本当にすみません……」

 でも、約束を反故にしてしまった事は間違いないから、改めてランは頭を下げた。 
 
「いや、構わないんだ。……でも どうしてもと言うなら」

 リュウキは思う所があった。約束の話をした時から 言おうと決めていた事があったんだ。

「皆とは繋がりをこれからも持ちたい。そう言う気持ちが今一番あるんだ。……ボス攻略が終わっただけで終わりじゃなく、これからも。……訊いてみたい事や一緒にやってみたい事だってあるから。今回の報酬は、それじゃ駄目か?」

 それを訊いて、アスナとレイナの2人も身を乗り出す様に紡いだ。

「あっ、それ私も思ってた!」
「私も私も!」

 そのまま、勢いのまま 続ける。

「皆ともっともっと話しがしたい。訊いてみたい事はまだまだ沢山あるの」
「うんっ。私も同じ。今日で終わり~って言うのはとても寂しいからさ」

 数秒考えた後に、アスナが切り出した。リュウキ同様に考えていた事があるんだ。

『繋がりを持ちたい』

 リュウキはそう言っていた。今はただのPTメンバーだ。だけどもっともっと深いつながりを持ちたい。

 そう――つまり。


「それに私は――― スリーピングナイツのメンバーに加わりたい、って思ってるの」


 今日まで――。
 妖精の姿に転生したあの日から、今日まで アスナやレイナは勿論、リュウキもギルドに入った事はない。勿論3人の知名度は凄まじいものがあるから、各領主が放っておかなかった事は沢山あったし、勧誘の類は数えきれない程あった。それに、キリトやリズたちと小さなギルドを、と言う話も無かったわけじゃない。丁度、ギルドの象徴たるエンブレムも、リズベット武具店のモノやエギルの店にもあって 必要なものは揃っていたし、その気になれば 直ぐにでも出来た筈だった。

 でも、なんとなくこのままの流れになっていた。


 その理由は判りきっている。少なからず、アスナには怖れがあったんだ。
 あの世界。……命をとして戦ってきたあの世界において個々の力は除くが、最強と呼ばれた集団、ギルドはあった。血盟騎士団と言うなのアインクラッド最強のギルド そこでアスナとレイナはサブリーダーを1年以上にわたって務めてきた。
 団員に鉄の規律と鋼の意思を求め続けアスナ自身も規範として、自らをも束縛し 人前には笑みは殆ど見せなかった。それは レイナと一緒の時も少ないと自覚していた。
 そんな固さを和らげようと妹のレイナが葛藤し、頑張ってくれた事もよく知っていた。

 だからこそ――ギルドと言うものに入ったら、あの時の様になってしまうのではないか、と怖れているのだ。大切な妹に迷惑をかけ、最愛な人を縛る様な真似をしてしまうのではないか、と思ってしまうのだ。

 そのアスナの気持ちは、レイナだってよく判る。比較的自由に出来たのは、まず間違いなく姉のおかげだと言う事をレイナは自覚していたから。
 
 周囲から見れば バランスが取れてた2人、と見えるのだが それを本人たちが自覚出来るかどうかは別だったんだ。

 そして もしも――戻ってしまうのではないか? と言う恐怖に関してはリュウキだってよく判っている。

 嘗てあの世界で それに恐怖し身体を震わせた事があったから。親愛だけじゃなく、最愛も知った。そう思える人も出来た。大切な友も出来た。それらの感情を忘れる様な事は決してない、と強く想うが それでも、可能性は0ではないと言うのが常だから。



「そうだね。うんっ 私もお姉ちゃんに賛成だよ。私も皆ともっともっと話しがしたいから。皆の事、沢山知りたいから」
 
 レイナもアスナの言葉を訊いて頷きながら言葉を紡いだ。
 このスリーピングナイツの皆にはとても感じる所がある。それは《強さ》だった。

 ただ、戦いが強い。圧倒的にレベルが高く、全ての技術が高い。

 そう言ったものだけじゃない。でも どう言葉にしていいか難しいだが、確かに感じた。

 ……言うならば、()が強いと感じたんだ。

 皆と沢山話して、もっともっと深くつながり合えれば、レイナも今以上に強くなれる、と思えたんだ。
 
 
 そして、最後の1人であるリュウキ。

 アスナやレイナの言葉を訊いて、リュウキは少し時が止まった様な感覚があった様だが、いつの間にか自然と言葉が口から出ていた。

「…………そう、か。繋がり……だものな。オレもアスナやレイナの気持ちはよく判る。……オレも、知りたい事(・・・・・)があるから」

 リュウキにも願望はある。その願望が生まれたのは、……その願望が強くなったのは ランのあの言葉(・・・・)を訊いてからだ。


 だが、いつ切り出せば良いかが難しかったが、今が最適のタイミングだと瞬間的に理解出来たから。


 そして、3人の気持ちはよく判ったスリーピングナイツの皆。

 ランにとっては、喜ばしい事だと言える。全てが繋がる――そんな予感があったから。
 笑顔で 答えようと思った。心の底から歓迎しよう、と思った。


 でも――― それを口に出す事は叶わなかった。

 言動を…… いや、心を縛るものが、彼女には…… いや、彼女だけじゃない。ユウキに
も強くあったから。

 戦いの最中、そして 勝利したあの時もちゃんと口に出す事が出来たのに。それを望んでいた筈なのに、いざ目の前にした時に……声を出す事が出来なかったんだ。



『私の事は、気にしなくて良いですからね―――』



 そう言ってもらった。
 失言だって謝ってくれたけど、それを強く望んでいる事もよく判る。

 でも……やっぱり駄目だった。



「あの…… 本当に嬉しいんです。そういって頂けて心から嬉しいんです。ですが……」

 ランが必死に言葉を紡ごうとしていた時、ユウキも表情を落としつつも続いた。

「ボクたち、春にはもう解散しちゃう……から。もう、この世界の中に入ってくる事も……きっと、出来ないって思うから……」



 2人の言葉。
 消え入りそうな言葉だったが、それでも強く伝わってきた。重いとさえ思えた。


「(何か……あるんだ。きっと 皆にも……何かが)」


 リュウキは さっきまで明るかったラン。はしゃぎ、明るすぎって思うくらいに元気だったユウキの変わりようを見て そう思った。
 
 誰しもが心に何かを抱えているものだと言う事はよく判る。自分が、自分達がそうだったから。そして それが簡単に解決できる様なものではない、と言う事もよく判っていた。
 だって、自分達がそうだったから。

 葛藤し 悩み、苦しみ続けて、それでも抗い続けて…… 沢山助けてもらって、漸く晴れたんだ。

 そして、知っている事だってある。

 悩み、苦しみ。……自分自身は それらの心の闇に、光を灯す事が出来た。光をくれたから……出来たんだ。でも世の中には 必ずしも光が訪れる訳じゃない。解決出来ない事だってある、と言う事も判っている。全てが上手くいく事なんて……なかなか有り得ない。奇跡でも起きない限り。



 リュウキがそう感じていた間、アスナやレイナは ギルドに入ろうと……ではない。皆と友達になりたい、と願いを言っていたが、良い返事は帰ってこなかった。



『自分が経験してきたものとはまた違った種の何かを、このギルドの皆は背負っている。そして、……今の自分達ではどうする事も出来ない』



 それが導き出されたリュウキの答えだった。 

 
 

 
後書き
投稿時間がちょっとおかしいですが……、気にしないでくださいね?? 苦笑 
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