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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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偵察-リコンナイセンス-part1/囚われた者たち

ラ・ロシェールの街そのものは、闇の巨人との戦い等で壊れた個所も多かったが、それでも街の人たちは必死になって復興作業に勤しんでいた。
偵察任務が決まって、サイトたちはシュウと、彼の監視役としてムサシも引き連れてラ・ロシェールへ再び訪れることとなった。すでにトリステイン軍の兵たちが集められ、軍用船もわずかだが桟橋の方に並べられ、次の作戦のために荷物の積み込みを行っていた。
今回偵察に使われるのは、かつてタルブ戦役の際にレキシントン号(現在名称及び初期名称ロイヤル・ゾウリン号)と共に投入された小型艦一隻。他には炎の空賊団が乗っているアバンギャルド号、その上にはサイトが乗る予定のウルトラホーク3号。
今回の任務のメンバーについてだが、サイト、ルイズ、ハルナ、意外のUFZメンバーは選抜されていない。学院を守るように、あの会談の後でアンリエッタから命じられたのだ。サイトだけ行かせるのは心もとないとギーシュは命令を受けてごちたものの、内心ではちょこっとだけ危険な場所に行かなくて安心していたところもあるそうだが。
ちなみにヤマワラワも、ムサシからテファたちを守るように言われ、普段は魔法学院付近の森の中から彼らを見守ることに納得してくれた。
炎の空賊たちは意外にもアンリエッタから今回の作戦に参加を申し込まれた時は積極的に参加を引き受けた。彼らとしては、自分たちが嫌っているレコンキスタを好き放題おちょくりたいだけかもしれないが、それなら寧ろよい囮役を担ってくれるだろう。
出発の準備が終わり、偵察に使う偵察用小型艦はサイトたちや、艦を管理する偵察部隊を乗せて出発した。




「こうしてアルビオン行の空に向かうの二度目だな」
「そうね」
ウルトラホークを甲板に乗せたアバンギャルド号から、空を見渡すサイトとルイズ。アバンギャルド号は、改めてみると本当に巨大だった。ホーク3号でも大きく感じるのに、それを余裕で乗せている。
「でも、改めてこの空を見てると、綺麗な空だな」
「本当。空気もすごい綺麗で、吸い込むだけで気持ちいい…修学旅行で、飛行機の窓から外の景色を見たことがあったけど、こうして風を浴びながら飛べるなんて夢みたい」
サイトの言葉に、隣にいるハルナも同意した。彼女の長い黒髪が風に靡いて波立っていた。
「だな。空賊の人たちが縄張りにしたくなるのもわかるかも」
「ならず者が独占していい場所なんてないんだけど?前なんて、変な怪人にだって襲われたし…」
この空に、空賊団以外で縄張りを張っていたベル星人のことを思いだし、ルイズが少し呆れ気味に言う。彼女はちらっと、甲板の近くに視線を向ける。そこでは、作戦前だというのに鼻歌を歌ったり仲間同士で博打をしていたり、悪い場合は酒を飲み比べていたりと、かなり緊張感のない様子の空賊たちの姿がちらほら見受けられた。
「でも、ワルドなんかよりマシだろ」
「それは、まぁ…そうだけど。って、あんな男のことなんて思い出させないでよ。私にとってあの男が婚約者だったこと、人生の汚点だわ」
トリステイン貴族でルイズの婚約者でありながら祖国とルイズたちを裏切ったワルドは、今もなお…いやどれ程年月を経ても忌むべき男だ。意外と空賊たちは義理堅いので、サイトの言う通りだ。
「そうだね。どうせなら僕が最初から君の婚約者だったらよかったのに」
そこへジュリオいきなり現れてルイズに歯の浮く台詞を口にしては、彼女の方に手を回してくる。いきなり引っ付いてきたジュリオに、ルイズは思わず顔を赤らめ、素っ頓狂な悲鳴を上げそうになる。
「気安くルイズにくっつくんじゃねぇよ」
それを見たサイトは気を悪くしてジュリオからルイズを引っぺがした。相変わらず油断も隙もない。
「おいおい、男の嫉妬は犬も食わないよ」
(こいつ…)
それでいてガチで気に食わない男だ。見た目に関してはイケメンだから余計に腹が立つ。さらに言うと、ルイズがこんな男に少しでも恥じらいを覚えたような顔を浮かべていると考えると、腸の煮えくり具合が倍加する。
(むぅ…平賀君ってば…)
しかしこれについてはハルナも少しばかり機嫌が悪くなる。サイトが他の女に気を惹かれているというのは、今のサイトと同じ気持ちだ。アキナという人格と共存するようになったからだろうか…いっそあのイケメンがルイズを持っていってくれたら…などと自分でもみっともないと思えることを考えてしまうハルナだった。
「い、いけない人ね。そ…そんなことよりも、ハルナ」
ジュリオに対してそう言いながらも平静さを保とうとするルイズだが、いまだに赤面したままだ。何とかいつもどおりの調子を戻そうとするルイズは、適当にハルナに話を振ってみる。
「はい?」
「さっき言ってたしゅうがく旅行ってなに?旅行って言うからにはどこかへ行ってたの?」
「あ…そっか。こっちの学校じゃ修学旅行なんてないんだ」
「何の話?僕も興味があるな。聞かせてくれよ」
「あなたといると調子が狂うわ。今からハルナと二人で話すから、あなたはちょっと席を外して頂戴」
「釣れないなぁ…」
突っぱねられても、ジュリオはまるで気にしてない様子で肩をすくめる。
そこからハルナがルイズに修学旅行のことを説明し始める。小学校から中学、高校の頃の修学旅行の際、クラスメートたちと共に旅行先の名所を訪れてお土産を買ったり、夜にお泊り先でまくら投げをしたりと…そこから二人は話が盛り上がり始め、サイトは蚊帳の外になる。
「女の子同士の会話というものはどうも長い。僕は少し席を外すよ」
ジュリオはそういい残して船のどこかに歩き去っていき、サイトは独りになった。
「女が話し終わるまでの男一人って寂しいもんだね」
「止めろって。マジで寂しくなる」
デルフが軽口を叩いて来て、サイトはそんな風に言い返す。もっとも、ジュリオと一緒にいたら名にむかついてきそうなので、こっちの方がマシかもしれない。
そう言えば、シュウとムサシはどこにいるのだろう。暇だし、探してみるか。二人の邪魔をしないように、サイトはそっと離れた。



シュウは、アバンギャルド号に乗せられているホーク3号の最終整備をしていた。
今は、タルブ戦役の際に被弾したウィングに、飛行の際に障害となる箇所が残ってないか確認している。
「黒崎君って機械に詳しいんだ」
傍らで興味深そうにムサシが話しかける。
「…ああ。少しは心得ている」
本来地球の遺産であるこの機体はハルケギニアで修理するのは難しいが、コルベールや地下水に頼んで工具を作ってもらったのだ。地下水が「何でこんな地味な役目を…」などとぼやいてきたが無視した。素材さえあれば時間をかけずに器具を作ることができる魔法に、シュウは利便性を感じながら、ホーク3号の点検を続ける。
ムサシ自身も機械には深く精通している。子供の頃、自我を持つロボット『グレバーゴン』(通称ゴン)を開発した上に、EYESに所属していたときも作戦成功のためのシステムを幾つも作り上げたこともある。
「謙遜なんてしなくていいよ。同じ地球といっても、異次元を挟んだ別世界の機械を修復できるなんて相当の腕前だよ。ドイガキさんにも紹介したいくらいだ」
「…あんたの知り合いか?」
「うん、TEAM EYESの頃、よくあの人の制作した発明品で怪獣たちを保護することができたり、強敵を打ち破ることができたことも多々あったからね」
「ふぅん…」
そのドイガキという人物に、機械工学を志した身として少なからず興味を持ったシュウだが、今の自分のやるべきことと関係ないので、適当に生返事を返した。
「なぁ、そこの」
ふと、ムサシは通りがかってきた少年貴族に声をかけられた。他にも彼の友人なのか、数人ほど武装した少年たちが集まっている。
「これは生き物なのか?」
「あ~いや、これは空を飛ぶための鉄製の乗り物だ」
ウルトラホーク、何て名前を出されてもわからないだろうと思い、ムサシはそのように説明すると、突然少年たちは喚きだした。
「あああぁ!そうだったのか~!」
「っしゃあああ!ほら見ろ!僕の言った通りだ!」
「1エキューだからな!約束だぜ?」
「え、えっと…」
一体彼らは何をやりたかったのか読み取れなかったムサシが困惑していると、耳障りだったのか顔をしかめたシュウが少年たちに一睨みする。
「…うるさい。作業中だ」
「あはは。いやいや、驚かせてごめん、ちょっとつまらない賭けで盛り上がったんだ。皆はこれが竜みたいな生き物じゃないかって思ってたけど」
少年貴族の一人が苦笑いしながらシュウに詫びを入れてくる。どうも軽めのギャンブルをしていたようだ。意外なことに、彼らはシュウが貴族じゃないことについて一目でわかったようだが、特に彼の態度に対して嫌悪感を露わにすることなくフランクに対応していた。
「僕は生き物だって思ってたんだけどな。あ~あ、せっかくの1エキューがルネなんかのためにぽいかよ…」
一人の少年貴族が渋々ながら、ルネと呼んだ別の少年貴族に手渡す。
「ルネなんかってなんだよ!こんな竜がいるもんか!」
口々に言い合いを始めながら、ルネたち少年貴族たちは呑気なものだ。これから怪獣という強大な存在を相手にするというのに。
「シュウ」
すると、入れ替わるようにサイトが彼のもとに歩み寄ってきて、シュウは無言のままサイトの方を見て彼が歩いてきたのを確認する。
「これで、この機体はオールグリーンでフライトできる。後は作戦決行まで平賀に管理させる」
「そっか…サンキューな」
サイトからの礼を受け流すかのように、シュウは遥か上空をジーっと黙って見上げ始めた。その目に見えているのは、アルビオン大陸で捕まってしまったアスカだけだろう。先日も、早く彼を助けに行こうという意志が強く出ていた。
「やっぱり気になるのかい?あのアスカって人のこと」
ムサシからの問いに、シュウは頷く。
「…気にならないわけがない。俺のせいで彼は捕えられてるんだ。ティファニアの持つ虚無の力と、俺の持つウルトラマンの光を狙う奴から俺たちを庇ってな」
再度視線を空の上に戻し、シュウは言った。
「…地球にいた頃からだ。俺の周りでは必ず不幸が起こる。だから、たとえ俺がウルトラマンや虚無のことと無関係だとしても、俺の傍にいる人間には、何かしら不幸が訪れるんだ。だからお前たちとこうして一緒になることにも反対した」
その表情は硬く険しい。何者も寄せ付けようとしない意図がとれた。
「今回の件が終わったら、たとえアスカを救出できなくても、俺は一人で戦うようにする。その方が、誰も傷つかないですむ。俺のせいで誰かが苦しむこともない」
サイトは、違和感を覚え始めた。シュウが口にし続ける言葉がいまいちかみ合っていないというか、大きなずれが生じているように思えてならない。
「…さっきから、俺のせい俺のせいって言うけど…何をしたっていうんだ?言ってること、なんかおかしいんじゃないか?」
ムサシも同じことを考えてそう言った。
そうだ、この男は何でもかんでも自分のせい、という言葉を繰り返している。なんでもかんでも自分の責任として受け止めている。自分が直接的な原因じゃないことでさえも、自分の存在が要因となっているように言っているのだ。
「レコンキスタの奴らが勝手にあんたを狙っているんだから、あんたのせいじゃない。
遠ざかってもあの子が傷ついたり、狙われるなら、お前がそばにいて守れよ。その方がテファもフーケも安全だろ?」
サイトもムサシの意見に強く同意を示した。それでも、シュウは同意の姿勢を見せようとしなかった。
「…それは、できない」
「なんでだよ!?そうやって遠ざけて、結局あの子がレコンキスタの連中に捕まっても同じことじゃないか!?」
ここまで言っても、頑なに拒絶の姿勢を見せるシュウ。借りを返したい、一緒に戦う仲間を救いたい。そんな善意を受け入れようとしない彼に、次第にサイトは苛立ちを募らせ始めた。もう話を終わりにするつもりか離れようとしたシュウを、サイトは肩を掴んで引き留めた。
「コルベール先生からも聞いてるぞ。あんた、学院を襲ったメフィストと戦った後、先生を斬ろうとしたアニエスさんを止めたんだろ?そしてあの人に色々言ったんだろ?なんでだ?」
「…俺は、起こるかもしれなかった悲劇を防ぎたかっただけだ」
「そうやって悲劇を未然に防ごうとしたあんたが、テファを悲しませるようなことしてどうすんだよ?」
ゼロに変身したときのような、鋭い視線を持ってサイトはシュウを見る。
「…俺だって悲しませたいわけじゃない。だが、俺が傍にいたら…」

「その理屈が意味不明なんだよ!」

ついにイライラが頂点に達して、サイトはシュウの胸ぐらを掴んだ。
「だいたい一緒にいたら不幸になる?かっこつけてんじゃねぇよ!てめえはゲームに出てくる中二病キャラか!!?世界中の不幸を背負ったような顔してんじゃねぇよ!お前みたいに不運な奴なんて、この世界にはごまんといるんだよ!!そいつらもあんたと同じように…!!」
『サイト、落ち着け!気持ちはわかるが、攻撃的になるな!』
「平賀君どうしたの!?」
「ちょっとサイト!何の騒ぎよ!こんなところで大声出さないでくれる!?」
拒絶されるにされ続けたことへの苛立ちのあまり、サイトは自分でも何を言っているのか思い出せなくなるくらいの罵声をシュウに浴びせていた。興奮するあまり、かなり大声で喚いているサイトに、周囲の皆からの注目を集めてしまう。当然ながら、ルイズやハルナも彼らの口論を聞きつけてきた。
「ゼロの言うとおりだ。サイト君、まずは手を離してあげて」
ゼロの脳内の言葉に続き、諭すように耳元でムサシが言ってきたことで、ようやくサイトは落ち着きを取り戻す。
「それで…場をわきまえずに何を喧嘩してたわけ?」
「ごめん、ルイズ…熱くなりすぎた」
ルイズは、自分の使い魔であるサイトが大声を上げたことで周囲から奇異の目で見られたことに、すっかり目くじらを立てていた。
「でも、いったいどうしたの?平賀君があんなに怒るなんて珍しいよ」
「それは…」
当然ながら飛んできたルイズと、心配そうに見つめてくるハルナの二人の問い詰め。サイトが何と答えようか考えだすと、周囲が白い雲に覆われ始めた。アルビオンの周辺を漂う雲海の中に飛び込んだのだ。
「君たちだな。今回の作戦の要役は」
それと同時に、一人の若い男性へ医師がサイトたちの下にやってきた。
「ヘンリー・スタッフォードだ。元はアルビオンの出だが、今回君たちと共にアルビオン偵察部隊に入ることになった。君たちに、アンリエッタ女王から大陸内部の案内役を任されたからね」
その兵士は、以前シュウがアルビオンを脱出する際に遭遇した青年、ヘンリーだった。シュウや空賊団たちとのかかわりと、アルビオンの元兵士ということもあって、彼も今回の作戦に抜擢されたのである。
「あなた、元々アルビオンの兵士でしょ?信用できるのかしら?」
「る、ルイズさん…そんなこと言ったらまずいんじゃ…」
ルイズがヘンリーに対し、懐疑的な視線を向ける。彼は現在のアルビオン、つまりレコンキスタの兵士でもあった。もしかしたらワルドと同じように裏切るのではないのかと、疑惑を募らせた。
それをフォローしたのは、作戦前ということもあって、さっきの様子と打って変わって冷静さを保ち始めたシュウだった。
「問題ないだろう。こいつの顔には俺も覚えがある。ティファニアたちも世話になったみたいだからな」
「君は確か、アルビオンでティファニアたちと共にいた…」
「え、知り合いなのか?」
「アルビオンを脱出した際に、少しな」
意外にもシュウがたった今やってきたアルビオン兵と面識があるという事実に、サイトは目を丸くする。接点を感じない者同士なだけあって、少しばかり驚かされた。
「言いそびれたいたことがあるんだ。このペンダントを拾ってくれたことの礼を言いたかった」
ヘンリーは、シュウが以前拾って渡してくれた、婚約者の肖像画を収めたロケットペンダントを見せる。
「ティファニアたちに礼を言ってほしい。もう一度、婚約者に会いたいと強く思えるようになった。以前の僕だったら、こんなことは考えなかったが、後悔はしていない。今のアルビオンには大義なんてないからね」
「そうか…」
その顔は、最初に見たときと違って憑き物が取れたようにも見て取れた。きっと、ただ貴族としての誇りとか、軍人は上官が何者であろうと従うべし、そのようなことに囚われるあまり、本当に大事なものが見えなくなっていた。そこをティファニアに諭され、そしてサイトたちから空賊団共々救出されたときに偽クロムウェルの襲撃をきっかけに、自分がなすべきこと、守るべきものを見出すことができたのだろう。
それは、『黒い闇』の中にいる自分と違い、『白い光』の中にいるサイトと似ているような気がした。レコンキスタの手に落ち敵の刺客となったウェールズを救って見せた、サイトと同じように。
(少し前の僕とどこか似ている…)
顔が優れないシュウを見て、ヘンリーは心の中でそのように呟く。本心を押し殺して、張り付けた建前のためにがむしゃらに体を張ろうとしていた、あの時の自分と。
「おおい若造ども!そろそろ作戦の時間だ!さっさと持ち場につかんか!」
アバンギャルド号の操舵室から、ガル船長の怒鳴り声が聞こえてきた。


作戦開始の指示が伝わったことで、トリステイン正規軍と炎の空賊の連合の合同作戦が開始された。
作戦は、トリステイン軍と炎の空賊団がアルビオンから出現するかもしれない、レコンキスタの軍勢と、彼らが使役する怪獣の注意を引き、その間にホーク3号に搭乗したサイトたちがアルビオンへ突入するというもの。
この作戦については、軍の方から難色を示すものもいた。自分たち誇り高きトリステイン貴族の軍人が、空賊ごときと合同作戦を共にしなければならないのか、と。さらには、竜の羽衣の操縦者の正体と偵察部隊が平民と学生の集団だと知った時の失望は言うまでもない。だがそこはアンリエッタが、「あなた方の誰かに、この大役をこなせる者がいるのか」とプレッシャーを込めた言葉に、誰も反論できなかった。彼らも怪獣に立ち向かえるだけの力が自分達にはないことに改めて気づき、自分達が無謀な任務に参加するのを躊躇ったのだ。あくまで注意を引くだけ、サイトたち偵察部隊が入り込みさえすれば、後は撤退すればいい。場合によっては、空賊たちだけに役目を押し付けて…。情けないことでもあるが、同時に都合も良かったので、アンリエッタはそれ以上追求しなかった。

作戦開始と同時に、サイトたちもすぐにホーク3号のすぐそばに待機する。
ルイズ、ハルナ、ヘンリー、シュウ、ムサシ。作戦を共にするメンバーを確認する。ちゃんと全員一緒にいるかの確認が済んだが、まだ自分たちの出番ではない。
「うまくやってくれるかしら?」
「俺たちだって以前世話になったんだ。信じてあげようぜ」
「それはまぁ…うん」
「今は彼らを信じて待とう」
高級貴族ゆえに、まだ空賊に対する偏見もあるのだろう。本当に空賊たちがアンリエッタの頼みを聞いてくれるだろうか。たとえ言うとおりにしてくれても、何かしらの弊害で失敗に終わってしまうかもしれない。サイトやムサシの言葉を呑んで、ルイズはそれ以上空賊たちを疑うことは言わないことにした。ヘンリーもルイズの反応については否定しない。自分も以前はそうだった。
今回の作戦において、隊列はアバンギャルド号が先発、後続でトリステインの小型艦が続く形となっている。
アバンギャルド号に乗っている空賊やトリステイン軍の一部が、アルビオンの上空にいる敵を挑発して注意を引く。その後は小型艦とアバンギャルドの両方で待機していたトリステインの竜騎士たちも投入され、さらに敵の注意を深く引き付ける。後はホーク3号が発射され、一気にアルビオン内へ潜入し、それが確認され次第離脱する。
「……」
シュウはアルビオンの方角の、白く染まった空を見上げ続けた。あそこにアスカがいる。なんとしても助けたいという思いを強めていた。
(怪獣たちも…皆待っててくれ。黒崎君のこともだが、君たちを今度こそ救って見せる)
ムサシも今回同行を願い出たのは、同じウルトラマンでありながら精神的に不安定になりつつあるシュウを無視できなかっただけじゃない。ヤマワラワがそうだったように、惑星ジュランで共に暮らしていた怪獣たちを、現在の保有者であるレコンキスタの手から取り戻すためでもあった。
サイトは横目でシュウを見る。彼は自分たちに目をくれている様子はない。アスカというもう一人のウルトラマンの男を助けることに頭が集中しつつあるようだ。
自分が何度か、同じウルトラマンである彼に命を救われたことがあり、しかもほぼ的確な判断力と鎧を解いたゼロにも引けを取らない戦闘力。正直、心のどこかで尊敬と憧れを抱き、頼りに思っていたが、今回彼とテファの間に起きた溝を知って今までとまた違った認識を持った。それゆえに周りが見えなくなって、何かしら無茶な行動に出ることが予想された。もしそうなったらテファたちに申し訳が立たなくなる。そうなる前に…
(何とかこいつをフォローしないとな)
『そう思うのは当然だけど、サイト。ひとつ忘れてないか。ここには、俺たちの正体を知らないままのルイズとヘンリーがいるんだぜ』
場合によっては、変身することも考えたサイトにゼロが声をかけてきた。
『ムサシやシュウ、それにハルナと違って俺たちには光の国で決められたルールもある。もし、ルイズに正体を知られたら…俺たちがこの星でいられるのが難しくなるぞ』
一度追放された身とはいえ、…いや、だからこそかもしれない。宇宙警備隊で取り決められた規則のことをゼロは気にした。シュウやムサシは同じウルトラマン、ハルナは闇の巨人から一転して光の戦士に覚醒した身だからまだ譲歩が利くが、ルイズやほかの面々はそうは行かない。
『でも、よくよく考えたら結構今更じゃないか?別にルイズたちが、ヒルカワみたいに平気で言いふらすキャラってわけでもないのに』
サイトの言うことも一理あった。ルイズは仲間を売るような女じゃない。彼女の貴族の、人間としての誇りがそれを許さないから、たとえ自分の正体を知らせても隠してくれそうな気がする。アンリエッタもシュウの例があるから同じようにしてくれるはずだ。
だがゼロは首を横に振るかのように話を続ける。
『確かにそうだが、知られたら知られたで厄介なことも考えられるだろ。ルイズたちが、俺たちの力に一層依存するかもしれない。そういう奴じゃないとは思うけどよ、可能性は0じゃない。うっかり喋ったりされたりして、シュウティファニアみたいに、俺たちも追われる身になったりするかもしれない。それに、そのケースは俺たちもすでに縁があっただろ』
『…リッシュモンのことか』
思えば、確かにゼロの言うとおりだ。実際にレコンキスタの伝でリッシュモンとミシェルは自分とゼロが一体化していることを知っていた。だからミシェルに味方の振りをしたままウルトラゼロアイを強奪させることができた。たとえルイズたちが、万が一自分たちの正体を知ってそれを隠してくれるという医師を持っていても、少しでも正体がばれたときのデメリットを減らすためにも、このままルイズたちに、自分もまたウルトラマンであることを隠しておくことにした。



作戦は開始された。予想された通り、アルビオン上空を飛び回っている怪獣たちが複数発見された。
ベムスター、テロチルス、バードン、ペドレオン・フリーゲン。4体もの飛行型怪獣たちが、飛び交っている。
ホーク3号は、ムサシとシュウをアバンギャルド号に残して発進していた。あの二人の役目は、ホークに乗っていると果たせない。もし空賊やトリステイン軍が怪獣たちから逃げ切れなかった場合は彼らを助けなければならない。当然ながらこれはアンリエッタが他の配下には秘密裏にしている。
無事にホーク3号が飛んだことで、操縦者であるサイトはハンドルをしっかり握る。
さすがはシュウだ。機械工学を志していたというのは伊達ではなかった。彼から見ても、このホーク3号は異世界の、それも旧世代の兵器なのに、それを修理して見せるとは。だが、これ以上彼に労力をかけるのは避けたい。ここしばらく無理を繰り返している彼を見過ごせば、またティファニアがそれを案じて苦悩し、そしてシュウ自身が何より苦痛にもがくことになる。
(俺たちで、あいつの負担を減らさないと…)



怪獣たちはアバンギャルド号やトリステイン小型艦に向けて攻撃を仕掛け始めた。それに伴い、ジュリオもリトラを呼び出して援護を開始する。彼は指示通り、サイトたちが乗っているホーク3号からこちらに引き付けるため、リトラに命令を下す。
「リトラ、奴らをこちらに引き付けろ!」
命令を受けたリトラは、迫ってきた怪獣たちに向けて火炎弾を吐き飛ばす。

同時にアバンギャルド号やトリステイン小型艦の大砲、船から出撃した竜騎士たちの魔法もまた、怪獣たちに向けて放たれる。
いくつもの火炎弾が怪獣たちに直撃し、怯ませる。しかし致命傷に至らず、むしろ自分たちより格下の生物に手傷を負わされて怒りを見せている。バードンが特に過敏に反応し、自分たちの周囲を散会し始めている竜騎士たちに向けて炎を放射する。
バードンの炎を受けて、複数人の竜騎士たちが炎に包まれ始めた。それを見て、何人かが仲間の敵を討とうと杖を振るって立ち向かう者、恐れをなして背を向ける者と別れ始めた。
だが、それでも竜騎士たちや、空賊たちは立ち向かうのをやめなかった。
「この程度で怯むんじゃねぇ!」
「そうだ野郎共!わしら炎の空賊団の底力を見せてやれぃ!!」
アバンギャルド号に向かって、体当たりをかましてくるテロチルス。その衝撃に耐えながら、船員たちに向けてギルやグルが頭上に銃をぶっ放しながら怒鳴って激励する。
「総員、反撃しろ!!ありったけの弾ぁ切れるまで、撃ちまくれ!!」
「アイアイサー!!」
ガル船長の反撃命令にクルーたちは応え、大砲の弾や、魔法が使える元貴族のメイジクルーたちは得意の魔法で反撃に出た。
「ったく、相手がレコンキスタの軍人だったら、慌てふためく反応を楽しめたものを…怪獣相手だと反応がわからん」
見たところ、今回レコンキスタ側は人を用いてきていない。怪獣たちしかこの場に投入していなかった。年甲斐もなく少々の悪戯心を抱きながら、ガル船長は悪態をつくのだった。
ジュリオを乗せているリトラが、ジュリオに呼びかけるように、彼の方に視線を向けてピィピィ、と鳴いてきた。
「どうしたんだ?」
リトラが何かを訴えていることに気づいたジュリオがリトラに尋ね返す。ふと、リトラの視線の先に何かが映っているのをジュリオは見た。
見えたのは、竜騎士を放ったトリステインの小型艦だった。彼らもこの作戦において、サイトたちはアルビオンへ侵入させるための囮役を引き受けていた。だが、様子がおかしい。
先ほどから、乗っていた竜騎士たちを放つだけで、艦自体は攻撃を仕掛けていない。それどころか…信じがたい行為に出ているように見えた。
「一体どういうことなんだ!?どうしてあの艦はここから離れていくんだ!?」
「…ッ!」
ホーク3号の離陸を見届けてすぐ、シュウとムサシはその光景を見ていた。すでに二人は、エボルトラスターとコスモプラック、それぞれの変身アイテムを準備している。ムサシとシュウもアバンギャルド号の甲板から、並列しているはずのトリステイン小型艦が離れていくのを目にした。
「…っち、奴らめ。ロマリアの坊主が騎士の真似事か、なんて言っておきながら…」
ジュリオも、あの艦を見て何かに気づいたらしく、女性を見ただけで落とせそうないつもの気障で優しげな表情から一転して、露骨に舌打ちした。



「平賀君!竜騎士の人たちが!!」
アルビオン大陸へまっすぐ向かうホーク3号からそれを見つけたハルナが声を上げる。ちょうど窓から、アバンギャルド号と、トリステイン小型艦から放たれた竜騎士たち、そしてジュリオの乗るリトラのみに、怪獣たちが集中し始めている。そしてジュリオと同じように、彼らもトリステインの艦が作戦区域から次第に離れ、自分たちだけ雲の中に隠れ始めたのだ。
「どういうことだ!?トリステイン軍は空賊の皆と一緒に注意を引き付ける役だったはずじゃ…」
本当なら、トリステイン軍と空賊たちの乗るアバンギャルド号に怪獣たちやレコンキスタが気をそらしている間に、自分たちは一気にアルビオンへ突入するというものだった。そしてサイトたちの突入が確認されたそのときに、撤退するというものだった。
しかし、トリステインの艦だけは竜騎士を放つだけで、大砲による攻撃など、直接手を下す行為には全く出ようとしていなかった。それどころか、自分たちだけ雲の中に隠れていくという勝手な行為に及ぶとは。
なんにせよ、炎の空賊団と竜騎士たちは、よりによって味方から見捨てられたのだ。
「やばい!引き返さないとあの人たちが!」
この戦いは、まさに戦争だ。遠い時代の出来事だと思っていたこと、人が大勢死に行く光景を目の当たりにして、精神が乱れ始めている。それは同じ出身でもあるサイトも同じで、ハンドルを回して引き返し、彼らを助けに向かおうとする。例えウルトラマンとして戦うようになった身でも、人死には慣れるものではなかった。
「だめだ!」
だが、ハンドルを切ろうとしたサイトの手をヘンリーが真っ先に止めた。
「このまま直進するんだ。急げ!」
「どうしてだよ!?このままだとあの人たちが…!!」
「サイト、ヘンリーの言うとおりこのまま進んで」
「ルイズ!?」
ヘンリーの言動に納得できずに声を荒げるサイトに、ルイズも信じがたいことを言い放った。
「ルイズさん!あの人たちを見捨てるんですか!?」
サイトに同調して、ハルナも抗議する。自分たちのために命を散らしていく彼らを無視できるほど戦争に慣れる事は、たとえできるようになることだとしても、すぐには無理な話だった。
「忘れたの?彼らは、その役目を背負ってこの作戦に加わっているのよ!
たとえ小型艦が不足の行動に出たとしても、今も作戦は続いているわ。彼らは、私たちがアルビオン大陸へ進むための架け橋。ここで引き返したら、それこそ彼らの努力が無駄になるわ!」
そう言ったときのルイズは、腕が震えていた。怒りなのか、それとも悲しみなのか…とにかくわきあがる感情を抑えるのに必死であることがたやすく想像できた。サイトは、ルイズもまた彼らを助けられるなら助けたいという思いを抱いていることを察した。だが…
「そんなの…納得できるかよ!」
理不尽な現実に叫ばずにいられない。再び顔を上げると、見え隠れしているアルビオン大陸周囲の雲間から、姿を消していたトリステイン小型艦が姿を現した。
「あいつら…自分たちが乗り込むつもりで…!」
おそらく、あの艦の責任者は自分の味方を道具にしか思っていないのだろう。敵だったら撃ち落としてくれたくなるほど、怒りを覚えた。
「ッ!平賀君、怪獣がこっちに!」
すると、ホーク3号に向けてテロチルスが接近してきたのをサイトは見た。まずい!そう思って思い切ってサイトは旋回し、間一髪突進してきたテロチルスを避けることができた。



トリステイン小型艦内の将軍たちだが、涼しい顔をしていた。自分たちが、空賊団や派遣した部下たちと違って、怪獣たちからの直接攻撃を受けていないことをいいことに。
「思ったとおりに動いてくれましたな、ド・ポワチエ殿」
髪の薄い将軍の一人が、もう一人の男爵ひげの男に向けて言う。
「我がトリステインの兵力を浪費せずに上陸するには奇襲が必要不可欠。その陽動として竜騎士団と空賊共が注意を引き付けている間、我々は少しずつ雲にまぎれながら敵の要所であるロサイスを目指す。そうすれば我々は手を汚すことなく手柄を我が物にできる…
万が一奴らが倒れても、その役目を引き継いだと女王陛下に報告すれば問題ない。竜騎士たちには『例え体当たりをしてでも我が艦に近づけさせるな』と命じているからな」
「これで手を汚すことなく、我々は名誉と手柄を手にできるというわけですな。
なぁに、どうせウルトラマンが来るのだ。死にはせんだろう…」
「よし、今のうちに陛下へ書状を送りたまえ。『竜の羽衣と空賊団の船は撃墜され名誉の死を遂げ、代わり我々がロサイスの奪取に成功。すぐに援軍を求む』…とな」
なんと、作戦の要役がサイトたちの乗るホーク3号側だというのに、彼らは自分たちがその手柄と役目を独り占めしようとしていた。自分たちの代わりに、同行させていた竜騎士たちを積極的に前線に出撃させ、本体である自分たちは少しずつ、悟られないように後退していたのだ。
「空賊共に若造共、せいぜい我々のためにその命を持って尽くすのだな。ならず者ごときに大役を任せているのだ。むしろ感謝するがいい」
たとえ祖国を裏切っていなくとも、自分たちの昇進のためなら共に戦う仲間など捨て駒として使う。万が一のことがあっても、ウルトラマンがくるから別に構わないという発想。アンリエッタの見ていないところで、リッシュモンやワルドとは違った形で、未だにトリステインの培い続けてきた闇は生きていた。
身分や権力に囚われた果てに、自分たちこそが人の上に立つ貴族である。その思い上がった行為が、潜在的に『自分たちは何をしても許される』『自分たちより格下の身の上の者は我々に尽くすのが当然』という思い上がりという闇が。
または、いやそこから派生している過剰な防衛本能かもしれない。レコンキスタを駆逐したとしても、その後で奴らとの戦いで功績を挙げた空賊団の方がトリステイン内でも立場が高くなり、旧来の自分たちトリステイン貴族の権威が落ちることへの恐れ。ならば自分たちの立場が危うくなる前に空賊たちや自分たちより立場が上になるかもしれない若い世代を切り捨てるという…恐怖から怒る闇なのだろうか。

しかし、そんな彼らに天罰が下ることは…彼ら自身も予想していなかった。

仲間たちを尻目にアルビオンに向かう小型艦全体に、強く激しい振動が起きた。
「な!?」
ド・ポワチエたちは動揺を示す。自分たちの行動が悟られないように雲間に隠れつつアルビオンへ接近していたはずだ。しかし今の地震のような衝撃。
すぐに状況を知ろうと立ち上がると、彼らのいる部屋にトリステイン兵の一人が状況報告のために入ってきた。
「何があった!もしや、まだ怪獣がいたというのか!?それともレコンキスタか!?」
「い、いえ!それが…どちらでもありません!ただ…本艦の動きが途中で止まったとしか…」
「止まっただと?」
その兵士自身、何が起きたのかわかっておらず、ド・ポワチエを納得させられるだけの報告ができなかった。しかし、兵からの報告に代わって、次に目の当たりにした光景が、彼らに何が起きたのかを教えた。
更なる振動が起きて、ド・ポワチエたちは立つことができずその場から転んでしまう。
何とか立ち上がるが、彼ら全員違和感を覚えた。体重が重くなったというわけでもないのに、周囲の空気が重苦しい。目をあけて周囲を見たとたん、彼らは絶句した。
周囲の空気が、不気味な紫色に染まっていたのだ。
「な、なんだこれは!?」
非現実的なこの異様な状態に、ド・ポワチエが声を荒げる。

そしてホーク3号のサイトたちと、リトラの背のジュリオ、アバンギャルド号に乗っているシュウとムサシたちは、ド・ポワチエと同じものを目にした。

自分たちが目的地として定めていたアルビオン大陸が…


紫色のオーラで構成された結界によって、閉じ込められていたのだ。


「バリア、だと…!?」
思わぬ状況だった。まさか、大陸ひとつを包み込んでしまうバリアを張って、こちらの進入を徹底的に排斥されるとは。しかし、これではアンリエッタから下された命令を下せないし、何よりシュウにとって…アスカを助けに行くことが難しくなった。それに気がつくと、シュウは激しく歯噛みした。
(あのバリアは…まさかワロガの!?)
ムサシは、あの結界を見て、かつて自分が戦った強敵が作り出したものと似ていると思った。『邪悪生命体ワロガ』。球体の姿で地球に飛来し、狡猾な策略を用いてムサシのいるコスモスペースの地球に被害をもたらした邪悪なエイリアンのことだ。
すると、ムサシの中からコスモスが語りかけてきた。
『いや、恐らく別物だ。あれはワロガとは違う存在によって作り出されたバリアだ』
『わかるんですか?コスモス』
コスモプラックに視線を落として、ムサシはコスモスの声に耳を傾ける。
『エネルギーの質が、ワロガのものとはまた違った邪悪さに満ちている。おそらく、サイトたちが言っていたレコンキスタとやらを陰で操っている何者かの仕業だ』
『レコンキスタを陰で操っている…何者か…』
「…関係ない。誰が黒幕だろうが」
シュウも同じウルトラマンだからか、コスモスの声が聞こえていたようだ。すでにエボルトラスターを取り出し、変身の姿勢をとっている。
「黒崎君!」
「春野さん、もはやこの状況…作戦は無意味だ。俺たちが出ないとまず…ぐ!!」
行ったそばから、テロチルスの突進によってアバンギャルド号が大きく揺れる。それもさっきよりも激しい振動だった。とっさに二人は甲板の手すりにしがみついた。
近くに負傷したクルーが倒れているのが目に入る。
「だ、大丈夫か!?」
シュウが近づいてみると、彼は振動で壁に体をぶつけた衝撃で腕に酷い腫れができていた。
「地下水!」
「あいよ。ったく…地味な仕事だ」
彼に取り出された地下水がヒーリングの魔法を唱え、傷を癒した。
「すまねぇな…」
「すぐに船長からの指示を仰いでくれ!」
「わーってる!あんたらもすぐに船内に退避しとけよ!」
そのクルーはシュウに去り際にそういい残し、すぐに近くに目に入ったガル船長に指示を仰いだ。
「く、船長!このままだと、この船沈んじまう!!」
「ちぃ…貴族の連中が余計なことをしやがったおかげでこっちの動きもガタガタだ」
本来なら共に作戦を行うはずだったトリステイン貴族が、独断行動に出てしまい、グダグダになってしまっていた。
「レコンキスタ共に背を向けるのは気に食わねぇが仕方ねぇ…信号弾を撃て!作戦中止、退却だ!!」
「了解!退却、退却うううう!!」
自分の愛するクルーたちの命がかかった作戦でもある。これ以上作戦を続行しても怪獣の餌となるだけと考え、ガル船長は退却命令を下す。命令に従い、クルーの一人が銃で、ホーク3号の方角に向けて銃を放つ。すると、赤い小さな煙幕がホーク3号の前でボンと破裂して消えていった。すぐに操舵室の操縦者も柁を大きく切ってアルビオン大陸とは正反対の方角へ旋回、撤退を開始した。
しかし、それを怪獣たちが見逃すはずがない。数体のうち二体ほど、アバンギャルド号へ、残った個体はホーク3号の方へと向かう。船を落とそうとアバンギャルド号へ、テロチルスが体当たりを繰り出したり、ペドレオン・フリーゲンが口からエネルギー弾を撃ってきた。その激しい振動は留まることを知らない。
「っく…アスカ…!!」
シュウは、ここまできてアスカを助け出すことはおろか、アルビオン大陸に乗り込むことさえもできないこの現実に、イラつきと悔しさを感じずに入られなかった。



「な、なんなのあれ!?」
「くっそ…ここにきてバリアなんてありかよ!」
アルビオン大陸に謎のバリアを張られていたことは、サイトたちもまた、トリステイン小型艦がバリアに閉じ込められたのを目の当たりにして知った。
すかさずホーク3号にもベムスターとバードンが近づいてきた。中にいるサイトたちもろとも撃墜しようと、角からのエネルギー弾とくちばしからの火炎放射で攻撃を仕掛けてきた。
サイトはそうはさせまいと、すぐにハンドルをひねり、ホーク3号は次々と怪獣たちの攻撃を避けていく。しかしこれだけの激しすぎるアクロバティックな操縦に、一緒に乗っていたルイズとヘンリーは気分を悪くし始めた。
「うぅ…!!」
「っく…」
「ルイズ、ほらしっかりしな!背中くらいさすってやるから!ったく、エチケット袋なんかないってのに…」
酔いの症状は、ヘンリーは元は竜騎士だったこともあってかルイズ程じゃなかった。
人格が入れ替わって表に出たアキナがルイズの背をさする。
「虚無の詠唱どころじゃねぇな。あれは精神力意外にも、かなり高い集中力を必要ともしているからな」
デルフがため息混じりに呟く。最も、そんなことよりも怪獣のことを気に留めなければならない。
「情けないわ…こんな状況で酔うなんて…」
「くっそ、この状況じゃ…」
バードンたちの攻撃を避けつつも、サイトは一度変身を考えた。しかし、ここにはルイズとヘンリーがいる。ハルナ=アキナはともかく、彼女たちの前での変身は難しかった。それを察してか、アキナがサイトの耳元に近づいて囁きだす。
「ここはあたしがやってみるよ」
「え!?でもお前…」
アキナは確かに、ウェザリーの魔法の呪縛から解放され、光の巨人に覚醒して共にファウスト・ツヴァイを撃破した。しかしあの時の変身はまさに奇跡そのものだった。またそれを起こせるかどうかとなると話が違う。
「何もしないよりマシだろ…あんたはそのまま操縦に専念!」
『サイト、ここは彼女の試みを信じるしかない。それがだめなら、あとはシュウとムサシの方に希望を託そうぜ!』
「でも…!」
「相棒、来たぞ!2時の方向だ!」
またハルナに、しかもこんなできるかの各章もないことを託さなければならないのか。躊躇いを覚えていると、デルフが耳元で叫ぶ。鼓膜に堪えそうな小枝が、すぐに高度を上げて突進してきたバードンを避けた。危なかった。下手をしたら、バードンの別固体によって命の危機にさらされた、かつてのゾフィーやウルトラマンタロウのようになっていたかもしれない。
それにしても、この怪獣たち、やたらねちっこくこちらを攻めてくる。攻撃の手に転じるタイミングを計るのが難しい。確かにバードンもベムスターも強力な怪獣だが、ここまで知能の高い怪獣だったのだろうか。
『ん、なんだ…?』
ふと、サイトは目を光らせながら、一緒通り過ぎたベムスターの目を見る。旋回したベムスター、そしてバードンの姿に、異変が起きていた。そしてそれは、シュウとムサシたちのいるアバンギャルド号を襲っていたテロチルスとペドレオンにも現れていた。
怪獣たちはそれぞれ悲鳴を上げて実を震えさせる。白い光のようなものが体内から溢れ出し、その身を包んでは姿を無理やり変化させていく。
「なんだ、あれは…!?」
シュウは、これまでナイトレイダーとして何度も交戦したペドレオンだけでなく、他の怪獣たちにも起きた変化に目を細める。
「まさか、この怪獣たち…!」
ムサシは、顔を真っ青にしていた。あってほしくない現実が、その後で起こるような気がした。
そして、彼の予想した悪夢が、現実となる。

バードン、テロチルス、ベムスター、ペドレオン…

奴らの体から、赤く毒々しい突起が幾つも生え、体色も大きく変化し、そしてその目もまた、邪悪な赤い色に染め上がっていた。


「カオスヘッダー…!!!」


そう、この怪獣たちには…


惑星ジュランから連れさらわれた『カオスヘッダー』がそれぞれ取り込まされていたのだ。



「トリステイン…やはり来たわね」
今のトリステイン軍が雲にまぎれているのと同じように、同じように潜り込ませたガーゴイルの視界からその状況を見ていたシェフィールド。
「さあ、下部たち…私たちの領域に入りこみ、『あの方』の降臨の妨げとなろうとする野暮な輩を追い払いなさい。」
今、彼女はアルビオン大陸内にある、かつてシュウが捕まっていた場所でもある秘密基地にある、怪獣保管庫にいた。傍らには、怪獣たちが収まるほどの巨大なシリンダーがいくつも立てられており、その中には液体に浸された状態で何体もの怪獣たちが保管されていた。機械文明とは縁遠いこの世界だと、やはり異質なものであることを窺わせる。予め彼女はこの状況を予期しており、今手に持っているバトルナイザーから怪獣たちをすでに放っていたのだ。
「さて、今回の怪獣たちは少しばかり違うわよ、ウルトラマンと虚無の担い手たち」
そう言った時の不敵な笑みを浮かべた彼女の傍らのシリンダーには…


チャリジャたちによって惑星ジュランから連れさらわれた巨人『カオスヘッダー0』が捕らえられていた。

 
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