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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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変身-トランス-

 
前書き
どう書いたらいいのかわからなくなって頭がオーバーヒートしました…これが限界ですorz 

 
かろうじて遅刻を免れたその日。この学校に通う生徒たちは、この日始業式で二学期の始まろうとしていた。
それから午後、全校生徒と教員らは始業式のために体育館に集められた。
始まるまでの間、夏休み明けという時期もあってか、皆夏休みを惜しむ声が口々に出ている。シュウはあまり口を利かないので、ほとんど憐と尾白のトークが積み重なっている。
「で、瑞生ってばすげーんだよな。見た目によらず運動神経よくってさ、この前遊園地で女の子にちょっかい出してた痴漢を蹴り一発で静めたくらいだし。けどちょっとドジな所がかわいいんだよな」
瑞生とは、憐と交際している野々宮瑞生という女性のことだ。自分たちより少しばかり年上で、憐は何度かシュウたちにもその話を聞かせている。
「お前は自分の彼女の惚気を聞かせて楽しいのか?彼女なしの俺からすればいじめに等しいぞ」
「な~んだよ尾白。またナンパに失敗したからって僻んでんの?大丈夫大丈夫、そのうち尾白にも春は来るって」
「っぐ…こいつぅ~…年上の彼女ができたからっていい気になってやがる…!」
尾白は年頃の男子らしく、彼女という存在には強い興味を持つ。逆に自分にはそんなきっかけさえ掴みきれずにいるので、僻まずにいられなかった。そんな風に他愛のない話を、他の生徒たちも暇をもてあまして始業式が始まるまでの間繰り返していた。
「はいはい、僻まない僻まない」
「ぐぅぅ…愛梨ちゃん…」
シュウの隣でも、愛梨が頭を撫でて彼女いないことに苦悩する尾白を慰めている。
やれやれ騒がしいもんだな、と周囲を見渡しながらシュウは溜め息を漏らす。
ふと、彼は人混みの中から、何か光るものを見つけた。凝視すると、綺麗に光る金色の頭髪が目に入った。
(彼女は確か…)
今朝、あの桃髪の騒がしい少女と一緒だった娘だ。列が二年生の場所だから、彼女は一つ下の学年だったらしい。…会ったことがないのに、以前から見たことがあるような気がする。
「こらそこ!静かにしなさい!」
すると、そんな生徒たちに向けて注意を呼びかける声がとどろく。視線を向けると、そこにはクールな視線を生徒たちに向ける女性教員が立っていた。
「うわ、やば…西条先生だ。綺麗なんだけどきっついんだよな…」
尾白は天敵に見つからないように草陰に隠れる小動物のように引っ込んだ。
西条凪。数学の教師で、自他共に厳しい性格。しかし生徒たちへの思いやりを忘れないため、特にその男子以上に頼もしく凛々しい姿から女子からの人気が高い。とはいえ、前述のとおり厳しくもあるので恐れられてもいる。
生徒たちが静かになったところで、始業式の開始時間が訪れた。そこからは退屈なプログラムが進められ、吹奏楽部の演奏の後で、校長からの挨拶が始まる。
「ではオスマン校長。生徒たちへお言葉を」
司会を務める教頭が、校長に全校生徒への挨拶を促す。その教頭は松永要一郎。怪しげな笑みを常に浮かべながら正論を述べることから、大半の生徒たちが苦手意識を持っている。
「松永教頭、やっぱすげぇ怪しい雰囲気だよな。実は宇宙人とか?」
尾白が憐やシュウに、ボソッと小声で言う。
「うーん、俺は実は魔神じゃないかって話をよく聞くけど?」
「馬鹿言ってないで校長の話を聞いたらどうなんだ」
「そうよ、また西条先生に睨まれるよ?」
二人の下らなさで溢れた言葉を否定するシュウと愛梨だが、尾白は心配ご無用と首を横に振って言い返した。
「大丈夫だって。どうせオスマン校長の方が不真面目なこと言うからさ」
その予想は当たっていた。というか、ほぼ全校生徒たちの誰もが知っていることだったといえるくらいだった。オスマンの、校長らしからぬ不順さに関しては。
「皆、夏休みを名残惜しむ思う者も多いじゃろうが…わしもその一人じゃ!なぜ夏休みは夏だけなのか!わしは口惜しい!あの水着のピチピチギャルが!道を行きかう若き衝動が!せめてわしがもう少し…10歳、いや2歳だけでも若ければ…」
ほらみろ、と尾白は校長へ呆れを覚えながら言った。シュウたちも何も言わないことにした。校長はもはや将来性のないご老人だというのに、未だに若い頃の情欲を引きずっているエロ爺っぷりだ。西条先生もオスマンの不順さ満載のスピーチに、視線だけで相手を殺せそうな視線を送っているため、こちらの小声のお喋りに気づかなかったようだ。
「…学院長」
だがやはりここは勉学を尊ぶ学校。欲まみれすぎる言動を、教頭である松永が真っ先にとめに入ってきた。
「あまりふざけたことを仰られるのなら…少しばかりお仕事の方に見直しを施す必要があると思いますが?」
「ま、松永君…これはあくまで」
「あくまで…なんでしょう?」
キュピーン…という擬音と共に、松永の眼鏡が怪しく光り、暗闇の中からこちらを狙っている暗殺者のような目を覆い隠した。それを見てこれはまずいと思ったオスマンは急いで話を切り上げることにした。
「つ…つまりじゃな、そういう後悔をせぬように!諸君においては勉学は大事なことじゃが、たっぷりと遊びにも励んでほしい!たまに学び、よく遊べ!わしからの訓示は以上じゃ!」
ここまで言ったところで、オスマンは科学の科目を担当しているコルベールに引きずられる形で壇上から引き摺り下ろされた。拍手を送りつつも、こんな教育方針でいいのだろうかと、生徒たちの中で何人かが思った。しかしこれでも有能かつ人望があるから校長を長いことやっている。
さらに続いて生徒会長のスピーチが行われた。
生徒会長は2年生のアンリエッタ・ド・トリステイン。気品と美貌を兼ね備え、さらには1年生の頃から生徒会長を任されたほどの才覚を持っているため、男女共に高い人気を誇っている。アンリエッタの姿を拝見したい、というたったそれだけのためにこの学校へ進学した生徒もいるとか。
「勉学、友人との交友、部活動…オスマン校長先生の言うとおり、あらゆることが私たちにとってかけがえのない経験となっていきます。すべてを吸収し、この学校での日々を自分の未来において大切にできるものにしていきましょう」
オスマンとほぼ似たようなことを言っているが、オスマンのときと比べて拍手が絶大だった。まるでどこかの国の女王のようなカリスマ性も感じる。
始業式が終わり、シュウたちも教室へ戻り始めたときだった。
「シュウ」
「なんだ?」
愛梨が自分を引き止めてきて、シュウは足を止める。
「お昼、一緒に食べない?」



俺は平賀サイト、この学校に通う高校2年生。
好きなものはハンバーガー、嫌いなのはあの体育の先生…だったかな?なんか違う人だった気もするけど…まぁいいか。
俺は今言った通り学生だから、起きたらすぐに学校へいかないといけない。でも、よく寝坊してばかりだから、幼馴染のシエスタに毎日起こしてもらってる。
で、学校に行ったら、ギーシュたちと馬鹿話をしたり、キュルケの我ながら幸せ…と思える感触をもらったりとか…そんな他愛のない日々を過ごしている。
楽しいんだけど、たまにテストとかあるのが憎い。いつもかなりやばい点数になる。最近転校してきたルイズからは「だらしがないわね」と一蹴される。だって俺の部屋、若者を誘惑する漫画やゲームにあふれてるんだよ?当然捨てられるものじゃない。そんな欲にあふれたものの周りで宿題しろなんていわれても…
あ、そうそう、ルイズのことなんだけど…転校生として紹介された時は驚いた。歩道橋でぶつかったその日のホームルームで再会とは。どこのラブコメ展開だよって突っ込みたくなった。初めて会った時はそりゃもう最悪だった。短気だし怒りっぽいし理不尽だし。でも、あいつが教科書をまだ持ってなくて困ってたところで、見せてやったら、ちゃんと礼を言ってきた。すっごく照れ臭げに。そっから教科書に密かに落書きしていたコルベール先生のパラパラ漫画を見せたら、思った以上に笑ってくれた。思いのほかすぐに仲良くなれてよかった。ルイズって、確かに気は短いけど、案外話しやすくて、ルックスも俺好みだしな。
でもそれにともなってシエスタとハルナの視線が痛く感じる。なんでだ?心当たりがないかギーシュに尋ねると「君は鈍い男だな」となじられた。
それはともかく、最近そのルイズについて困ったことが起きた。
キュルケとルイズは、俺とシエスタと同じように幼馴染の関係だが、俺たちと異なり昔から仲が悪かった。幼稚園も一緒でキュルケが先生に色目を使ってルイズと取り合っていたおもちゃを横取りされたり、同じ手法で小学校低学年の頃の劇でもヒロインの座をルイズから奪い取ったり。しかも互いの実家の仲も不仲だとか。不倶戴天の敵というわけだ。
ルイズはまだこの学校に慣れていないから俺に力を借りるようにコルベール先生から言われている。だが、俺を狙っているキュルケはルイズにとられたくないということもあって、ただでさえ凄まじかったアプローチが激しくなって、ルイズがそれに刺激を受けてぶちきれ、喧嘩することが多くなってきた。
「ダーリン、あたしにも教科書見せて!」
「何言ってんのよ!サイトの教科書は私が見てるのよ!大体あんた、席が離れてるじゃない!自分の教科書も持ってるくせに!」
「ええ~?だってダーリンの暖かさをすぐ近くで感じたいもの。ねぇルイズ席を変わってくれないかしら?」
「嫌よ!誰があんたみたいな女に譲るものですか!」
ルイズの奴、もっとおおらかでいろよ…キュルケも、俺へのアプローチはかわいいかもって思うことはあるけけど、もう少し控えめに…
「また始まったか…」
「ああやってサイトをめぐって…毎日飽きないのかしら」
クリスとモンモランシーもうるさいのか迷惑そうに視線を送っている。だったら止めてくれよ。ギーシュたち男子にも頼んでも、
「触らぬ神になんとやらというからね。悪いが僕は引かせてもらうよ」
「リア充爆発しろ」
「君を巡っての事なんだ。君だけでどうにかしてくれ」
以上がギーシュ、マリコルヌ、レイナールの意見だ。ちくしょう、薄情な奴らめ…人の苦労も他人事みたいに。…実際あいつらにとって他人事だけど。


「はぁ…」
自身の中で独白を終えるサイトは机に伏しながらため息を漏らした。
「どうしたのよ、ため息なんか漏らして」
あなたのことで悩んでいるからだよ、とは言わない。ルイズは自分に非があることはすぐに認めたがらない、プライドの高い奴だからだ。お陰で何度お仕置きされたことか…って、なに言ってんだ、とサイトは頭の中で言葉を切った。ルイズにお仕置きされたことなんてないだろ。ちょっといいかなって思ったりは……って、そんなマリコルヌみたいな被虐的な趣味はないぞ!もしかして知らない間に染まりだしたか?
「ちょっと、なにかいったらどうなの?私がせっかく話しかけてるのに」
「お、おう。悪い」
「す…素直ね」
ちょっと上からな言い方だが、下らない妄想を抱きかけて時間をとってしまったので、サイトは素直に謝る。ルイズは何か文句のひとつでも加えてやろうかとも思っていたが、サイトが予想に反してちゃんと謝ってきたので少したじろいだ。
「それより、これ」
すると、彼女は鞄から桃色の小さい弁当箱と、もうひとつ黄色い弁当用風呂敷に包まれた弁当箱を取り出し、それをサイトに向けて突き出した。
サイトは目を丸くする。確かにもう昼休みだが…。
「その二つ、お前の弁当?そっちの奴はずいぶん大きいな。お前そんなに食えるのか?」
「人を食いしん坊みたいに言わないで!こっちはわ、私のじゃないもん!」
「え?じゃあ誰の?」
二つとも食うわけじゃないらしい。まあ確かに、ルイズが食うには量が多い気もする。だとしたらなぜ二つも用意したのだろうかと疑問に思うと、顔を真っ赤にしたルイズは黄色い風呂敷の弁当箱を突き出してきた。
「あ、ああああ…あんたに決まってるでしょ!」
「…え?」
「か…勘違いしないでよね!初めて会ったときにぶつかってきたのに辛く当たっちゃったから、ちょっと悪かったかなって思ったからお詫びしようと思っただけで……そう、それだけなんだからね!!」
頭が冷えたところで、シエスタと登校していた際にサイトにぶつかった上に逆切れしてしまったことを悔やんでのお詫びもかねて、サイトの分の弁当まで作っていたようだ。
…ちなみにこの時点で、同じく教室内でを昼食に誘おうかと思っていたハルナとシエスタ、そしてキュルケがことの顛末を目の当たりにしていたことを二人はまだ気づいていなかった。当然、ハルナとシエスタは目を鋭くしていた。
だがその突き刺さるような視線に気づきもしないサイトは、受け取ったその弁当箱を見つめ、目を見開いたまま呆然としていた。
「な、何よ?自分の分があるからいらないとか…そう言いたいの…?」
無反応とも取れるサイトの姿に、ルイズは不安を覚える。
が、それは杞憂に終わる。彼はバッ!と何かに取り付かれたかのように教室を飛び出した。
「ちょ、ちょっと!どこに行くのよ!!」
慌ててそれを追ったルイズ。
「サイトさん!?いったいどこへ…!?」
「ルイズさんも行っちゃった…」
「ヴァリエールなんかにダーリンを渡してなるものですか。追うわよ!!」
ハルナたちも危機感を覚え、直ちにサイトを追っていく。




昼食の時間になり、シュウは愛梨らと共に屋上で、購買から買ってきたパンなどで昼食をとった。
「あ~、購買の焼きそばパン、やっぱうまいわ♪」
「憐、そっちのカレーパン一口食わせてくれよ」
隣で幸せそうに憐がパンを頬張っているのを見て、尾白が彼のパンを強請る。
一方でシュウは隣に座っている愛梨に視線を向ける。なんとなく、今の愛梨がどこかおかしいと思った。昼食に誘うなんて珍しいことじゃない。しかし彼女は憐たちと同じように自分から無口なシュウに話しかけることが多い。いつもと違って今の彼女はあまり口を開きたがっていないような…と思っていたとき、愛梨がシュウに「ねぇ」と声をかけてきた。
「始業式で、今朝の女の子を見てた?金髪のスタイルのいい娘」
「今朝の?」
あの金髪の少女『ティファニア・ウエストウッド』のことを言っているのか?
「シュウってああいう娘が好みなの?」
「な、なんの話をしてるんだ。藪から棒に」
「体育館で、あの娘をずっと見てたじゃない」
「別にそういうわけじゃないが…どうしたんだ?そんな不機嫌そうな顔をして」
愛梨は、シュウがあの少女…ティファニアを見つけ少しの間だけじっと見ていたことに気づいていたようだ。でも、だからなんだというのだ、という話だとシュウは思った。少し気になっただけの他人をチラッと見るくらい、誰だってやることだ。さすがにじーっと見つめてしまうと怪しまれるとは思うが、尾白のように邪な思いにとらわれた覚えなどない。
「だって…私たち付き合い始めてから結構長いよね?それなのにシュウってば、全然手を出してこないし…」
「…おい、ちょっと待て。それってつまり俺とお前が交際しているってことか?」
「ちょ、その言い方酷い!それじゃ私との関係は遊びだったっていうわけ!?」
「うっわ…シュウ、ダメだぜそれ。人にさんざん真面目なコメントくれてやりながら浮気なんて…」
まるで浮気された彼女のごとき悲鳴で愛梨は両手で顔を覆って、いかにも浮気の被害者アピールをかまし、尾白まで悪ふざけで乗ってきた。
「人聞きの悪いこというな!俺たちはあくまで幼馴染だったろうが!」
「ま、まぁまぁ…」
さすがに酷い言いがかりを突きつけられ、シュウは反発する。実際シュウは告白なんてした記憶なんて夢にもなかったことだと強く自覚していた。いくらなんでも冗談が過ぎる二人に、本気で腹を立てそうになり、憐が宥めようとしたところだった。
ガタン!と大きな物音をたてて、屋上まで上ってきたサイトが現れた。突然の来訪者に、シュウたちは驚いて手を止め、否応にもサイトへ注目させられる。
サイトは、屋上のフェンスから見える町と青空に向かって…

「神様あああああああ!!ありがとおおおおおおお!!僕は幸せでえええええす!!」

なんともおかしな魂の叫びを轟かせていた。サイトの奇声に、学校内の誰もが驚かされた。自習中のまじめな生徒、意中の女子へ愛の告白をしようとした男子生徒、友達と談笑しあっていた生徒や、仕事中の教員たち全員がその声を聞いた。
「ちょ、ちょっとなに叫んでるのよ!恥ずかしいじゃない!やめなさいよ!」
追いついてきたルイズが、顔を真っ赤にしてサイトに口を塞ぐように言うが、当のサイトはよほど女子からの弁当プレゼントに幸せを感じすぎたらしく、彼女の声が届いていなかった。
「いや、だって!手作り弁当だよ!?俺、女の子に弁当貰うの生まれて初めてで、うぅうう…」
サイトは初めての女子の手作り弁当に感動のあまり涙さえ流している。手に持っている小包、あれがどうやらルイズの手作り弁当らしい。
だからどうした?ありがたいものだとは思うが、別にそんなに珍しいものでもあるまい。非モテ男の心情など興味ないシュウはさらにサイトへの呆れを強めた。
「ふ、ふーん…そこまで感動してくれてるなら、悪い気はしないわね」
ルイズもそっぽを向きながらも、なんだかんだでサイトのリアクションに満更でもなかった。
だがそこで更なる修羅場が発生する。
「ダーーーリン!」
「ムグ!?」
今度はキュルケが、そしてシエスタまでもが現れ、キュルケに至ってはその豊満な胸の中にサイトの頭を埋め込んだ。
「もう、水くさいじゃない。お弁当ならあたしに言えば作って上げるのに」
「ふ、ふぐぐ…」
「もうキュルケさん!毎度毎度サイトさんいちょっかい出して!サイトさんをギューってしていいのは幼馴染である私です!」
「あぁん。もう、まだダーリン分を補給し切れてないのに」
窒息しかけているサイトを救おうと、とシエスタが彼を強引にキュルケから引っ張った。
「た、助かった…」
サイトもさすがに息苦しかったらしい。…尤も、鼻の下が明らかに伸びていたが。
ルイズも、サイトとの時間を邪魔した仇敵に対して牙を剥き出す。
「サイト!ひ、ひひひ…人がせっかくお弁当作ってきてあげてたのに、こんな女の肉の塊なんかでニヤけてんじゃないわよ!!」
「肉の塊なんて聞き捨てならないわね。家庭科の調理実習最悪のあなたが作ったお弁当なんて、むしろダーリンのお腹を壊しかねないじゃない」
「な、ななな…なんてですってぇ!!?」
またいつぞやのように喧嘩を始める二人を見て、シエスタははぁ、とため息を漏らす。
「もう、お二人は喧嘩するなってアンリエッタ会長に言われたばかりなのに…サイトさん、こんな人たちはほうっておいて私と…あら?」
しかし寧ろ好都合だったらしく、喧嘩している二人をよそにサイトを誘ってこの場から離れようとしていたが、ここで彼女は気づく。いつの間にかサイトがいない。まさかもう逃げて…!?と思って屋上入り口の法へ視線を向ける。
「あぁ!ハルナさん!さりげなくサイトさんを連れ浚わないでください!」
「ふ、ふごごごご!!」
「あ、見つかっちゃいましたか」
そこには、なぜか縄と猿轡で縛られたサイトを引っ張って校舎内に戻ろうとするハルナが、いかにも確信犯なりアクションで舌を出していた。サイトがなにか訴えようとしているようだが、猿轡で口を拘束されているせいでまったく何を言いたいのか理解できない。

「…っち、行くぞ愛梨」
「うん」
こんなところじゃもうロクに飯も食えやしない。愛梨もせっかくの雰囲気を邪魔されてかなり機嫌を悪くしたようで、シュウに二つ返事でついていった。
「…とりあえず俺らもいくか」
「おう…」
憐と尾白は、愛梨の心情を理解して、少なからずいたたまれない気持ちを抱えながら、ここに留まり辛くなって彼らに着いて行った。



ちなみにサイトはその後、
「平賀君、私が何を言いたいかわかるわね?」
「は、はい…」
「屋上から大声を出さないで。学校どころか近隣の人たちの迷惑になるのよ」
「す、すみません…」
屋上で奇声を上げたことについてコルベールたち教員から怒られてしまった。特に今のように、西条先生からの突き刺すような視線に対し、まるで怪物を仕留めんとする冷徹な狩人のような眼に恐れおののいた。



放課後、シュウはかなりうんざりしきった様子を引きずりながら、愛梨と共に校門を出た。
「あれ、憐君と尾白君は?」
「バイト先の遊園地に必要なものを買いに、先に帰ったよ。俺も手伝うって言ったんだが、『お前は愛梨ちゃんと帰れよ』って断られたんだ。あいつらなんだったんだ…超特急で逃げやがって」
シュウは困ったように首をかしげるも、話を聞いた愛梨は隠れてガッツポーズをかましていた。ナイスアシスト!という心の言葉をセットに。
「にしても昼間は大騒ぎだったな」
「本当ね…」
帰宅路の町を歩いたところでそう言ってきたシュウに、愛梨も同調する。特にこの日彼女がムカついてるのはサイト。せっかくシュウと楽しく昼食をとってアプローチをかけようと思っていたのだが、そのもくろみが結果としてすぐに崩れてしまったことに不満を抱いていた。
「そういえば、あの平賀って子、モテモテだったよね。周りにいた女の子たち、みんなかわいくて全員が平賀君のこと気遣っていたし。顔は普通なのに」
「どうでもいいだろ、そんなこと」
「あ、もしかして尾白君みたいにひがんでたりする?」
「あいつと一緒にするな…女子の友人ならまだしも、彼女とか恋人は一人で事足りるだろ」
そっけんない態度がそのようにも見えた愛梨がからかってくるが、シュウは勘弁してくれと言うように返した。
自分はモテるらしいが、正直キュルケみたいにしつこく言い寄られてもウザイだけにしか思えないのが彼の考えだった。
それを聞くと、彼女は横から上目遣いでシュウを、熱を帯びた目で見上げてきた。いいタイミングだった。自分達が歩いている道は、ちょうど今は人が自分達以外に見当たらなかった。誰も邪魔は入らない。
「…じゃあ、シュウ。それなんだけど…」
彼女が彼に、意を決して想いを言いかけたところだった。
「ん?」
近くのガソリンスタンドに、シュウは眼を向けていた。暗くなったことで明かりが付いていて、ガソリンを給油しに来たと思われるトラックが止まっている。それにかなり油臭いのか、少し離れたこの場所にまで臭いが漂っている。
気になって、シュウはガソリンスタンドに駆け出す。
「あ、シュウ!」
もう、いいところで!悪態をつきながらも愛梨も着いてくる。
ガソリンスタンドに来ると、さっきより強い悪臭が二人の鼻を突いた。なんだこのひどい臭いは!見ると、トラックからけっこうな量のガソリンが滴っている。パイプに破損個所があるのだろうか。だがこのまま放置したら危険だ。店員はいないのだろうか?そう思ってシュウ店舗の方に眼を向ける。だが、店員の姿はない。どこへ行った?すでに帰宅した、とは思えない。
その時だった。
「きゃああああ!」
愛梨の悲鳴が、暗い空を切り裂くように轟いた。悲鳴につられて後ろを振り返り、シュウは彼女の元へ急ぐ。そこで彼が見たのは、尻餅をついて目の前にいる何かに恐怖している愛梨と、

この世とは思えないおぞましい姿をした、巨大なナメクジの化け物だった。

「な…『ペドレオン』!?」
なんだこの気持ちの悪い魔物は!?こんな巨体で一体どこに隠れて…そもそもこんな怪物がいるというのか!?
それに…

なぜ、俺はこの化け物の名前を知っている?!

いや、そんなことよりも愛梨だ。
「愛梨!大丈夫か!?逃げるぞ!」
「う、うん!」
シュウは彼女を抱きかかえてペドレオンから逃げ出した。しかし、逃げる前に彼の足をペドレオンの体から延びてきた触手が捉えた。
「うわ!!」
「シュウッ!」
その拍子に愛梨を放してしまい、彼はそのまま引きずられ始める。シュウの腕から落ちて尻餅をついたためか、愛梨は今の状況に対して我に返った。
その時のシュウはかろうじて、ガソリンスタンドに止められたままのトラックのタイヤに掴まっていた。引っ張られまいとその姿勢のまま視線をペドレオンの方に向けると、奴はその体を二つに切り裂いたようなおぞましい姿になる。口を開いて、シュウを捕食するつもりなのだ。おそらくトラックの運転手もガソリンスタンドの店員もこいつに食われてしまったのだ。
「愛梨、逃げろ!!」
「で、でもシュウが…!!」
愛梨はすぐにシュウを助けに向かいたかった。誰かに彼を助けてほしかった。だが、近くに人はおらず、かといって彼女の力でどうにかできる相手とはとても思えない。こうしてシュウを今にも引きちぎりそうな勢いで引っ張り上げようとしている以上、力も人間では到底及ばないほどに違いない。それに助ける以前に、足がすくんで動けない。震えたままその場で突っ立っている。
すると、彼女の方にもペドレオンの化け物は触手を伸ばしてきた。
「きゃ!!」
彼女もコンクリートの床の上に転がされ、引っ張られ始めた。
「愛梨!!」
それはとっさの行動、無我の内に行ったことだった。シュウは鞄の中から取り出した、授業で使っていたコンパスの針を出して、それを触手に思い切りぶっ刺した。
「ギギギイイイイ!!」
驚いたのか、それともやはり地味に痛いのか、ペドレオンは愛梨から触手を離した。
「二度も…愛梨を死なせてたまるか!!」
思わずシュウはそのように叫んだ。
…は?と彼は自分で言った言葉に対して強い疑問を抱いた。何で?愛梨は生きてるだろ?何で一度でも死んだみたいなことを?
だがその油断と隙によって、逆上したらしいペドレオンの化け物がさらに強い力でシュウを引っ張り、ついにシュウは自分が掴まっていたトラックのタイヤから手を離してしまった。
「うわあああああああああ!!!」
もはや万事休す、このまま彼は得体のしれない、おぞましいナメクジの化け物に食われてしまうだけなのか。
しかし、その時だった、
「ライトニング!!」
その声と共に、雨雲さえもないにも関わらず、雷が発生してペドレオンを襲った。その時にシュウの足に絡み付いていた触手も千切れる。
シュウはよろよろと立ち上がる。助かったのか?
「シュウ、大丈夫!?」
愛梨が駆け寄って彼の身を案じてくる。シュウはただ一言、あぁ…とだけ疲れたように息を吐いた。
「無事…!?」
そんな二人の前に一人の少女が現れ、シュウたちを守るようにペドレオン対峙する。
「あなたたちは…タバサちゃん!?」
杖を持つ眼鏡の小柄な少女を見て愛梨が叫ぶ。
「愛梨、知り合いか…?」
「生徒会の仕事を一緒に手伝ったことがあるの。そのときにね」
この女子生徒、タバサは成績優秀なのだが、常に無口で本を読み漁っているため、何を考えているのか不明なことが多い不思議ちゃんである。
「…でも…」
今は呑気に知り合いの後輩を紹介している場合などではない。ペドレオンはまだ健在なのだ。
「魔法、あまり効いてない…ブルブルし過ぎ。むやみに攻撃しても、こっちが消耗するだけ。触手なら簡単に切り落とせるけど…」
ペドレオンは今の雷を受けて怯んでいるようだが、致命傷に至ってはいない。
ここは足止めして、先輩たちが避難できるだけの時間稼ぎが必要だ。
「ラナ・デル・ウィンデ………〈エア・ハンマー〉」
タバサは眼前に杖を構え、小さく呪文を唱え、不可視の槌をナメクジの怪物にぶつけた。一発だけじゃない。少しでもシュウと愛梨の二人が避難させられるだけの時間を稼ぐべく、できうる限り打ち続けた。
「今のうちに!」
タバサがすぐに二人に向かって、ガソリンスタンドから遠く離れた地へ向かうように言うが、そうはさせまいとナメクジの怪物は口の箇所からエネルギー弾を飛ばし、タバサどころか、離脱を試みたシュウたち二人さえも爆風で吹っ飛ばした。
「うわああ!!」「「きゃああ!!」」
巨大ナメクジのエネルギー弾はさらに何発も放たれ、彼らのいるガソリンスタンドやその周囲にある建物さえも破壊していく。そして放たれた弾丸の一発が、ガソリン給油装置の近くにいるシュウの方に飛び、被弾した。
エネルギー弾は物体に被弾すると爆発を起こす。それが引火性の高いガソリンに触れた。結果…激しい爆発が巻き起こり、シュウはただ一人その爆発の中に飲み込まれてしまった。
「……ッ!!!!」
衝撃の光景を目の当たりにして、タバサ、そして愛梨は強すぎるショックのあまり唖然とした。
激しすぎる炎と爆発。消化などしても間に合うはずもなかった。
「いやあああああああ!!!」
その事実が頭に刻まれ、ずっとそばにいると思っていた人が…たった一瞬で、消え去ってしまった。愛梨はその事実を認識させられたあまりに、絶叫した。
「そんな…!!」
タバサは、守ろうとした同学校の先輩を守れなかった自分に対して憤りを覚え、未熟さも痛感した。こんな悲劇が起こらないために自らの武術を、部活や自主練を積み重ねながら頑張ってきたのに、結局最悪の結果を出してしまった。『また』自分は…こうして人が壊れていくのを見せられるのか。これ以上見たくなかった、人が狂わされていく姿。たった一度見ただけでもうたくさんだったのに…。
だがその時、彼女は炎の中であるものを見た。黒い人影がちらついている。もしや、まだ彼は生きているのか?
どっちにしても確かめなければ。タバサが指笛を鳴らすと、今度は空から一匹の竜が飛来する。
「シルフィード、足を止めて!私は火を消す!」
「きゅい!」
この科学文明が発達した世界で、伝説の生き物とされているはずの竜だが、タバサはその竜をうまく飼い慣らしているようだった。
その竜、シルフィードは言われた通り、ナメクジの怪物と対峙する。見れば見るほどなんともおぞましい姿だ。しかも意外に知能がある。こちらが自分を警戒しているのに気付いているのか、すぐに手を出そうとはしていこない。だがこれはこれで助かった。シルフィードもタバサがシュウを炎の中から救出するだけの時間と、愛梨を避難させるだけの時間の両方を稼げるかもしれない。
タバサはすぐに消火作業にあたって炎の中にシュウの救助にかかる。
「〈ウォーターフォール〉!」
タバサの魔法によって滝のような大量の水が流れ落ちていく。しかしこれだけ大量に注がせても鎮火するまでに時間がかかる。その間愛梨がこの炎に晒されたり、あのナメクジの怪物に襲われる可能性が高い。タバサが上空を見上げて指笛を鳴らそうとした時だった。
「………」
炎の中から、さっきのように人影が見えた。その身長と体格から、シュウだとすぐに分かった。
「シュ…!!」
愛梨がシュウの姿を見て、真っ先に彼の名を呼び出す。だが、愛梨は思わず呼びかけた名前を言うのを止めた。
炎の中から姿を見せたシュウは、ゆらりゆらりと揺れながら、まるで墓からはい出てきた死人のような不気味さがあった。やはりどこか傷や火傷を負わされたのか?だが…目を凝らしてみると、異様なことに気付く。どういうことか傷も火傷もなく、制服さえも燃えカスさえなかったのだ。
「シュウ、怪我…は…………」
恐る恐る話しかけてきた愛梨だが、次の瞬間、彼女は息を詰まらせた。
シュウの瞳から、赤く染まった怪しい輝きが放たれていた。
「ぐ、ぅぅうううううぅぅ……」
回りが炎とその熱に置かされているというのに、それを感じ取ることなく膝を付いてうめき苦しみ始めるシュウ。次の瞬間、彼の身にさらなる異変が起き始めた。
彼の体が、青白い光に包まれ始めていた。
「な、なんだ…!?」「!?」
タバサも、シュウの身に起きた異常な現象に、戸惑いを隠せなかった。
シュウの制服越しの胸部から、今度は赤い光がともり始め、さらなる強い輝きを解き放ち始めていた。次第に赤い光は、彼の全身に血管のように張り巡らされていき…巨大化していく。それこそペドレオンさえも、小さく見えていくほどに。

やがて、彼は姿を変えた。


銀色の光の巨人へと。


銀色の巨人となった彼は、即座にペドレオンを、その銀色の拳を振りかざし、ぐしゃっ!と潰した。
地面から拳を引っこ抜くと、ペドレオンの残骸であろう黒い水たまりが出来上がっていた。
「……!?」
シュウは、銀色の巨人となった自分の姿を見て、強い戸惑いを覚えた。
これはいったいどういうことだ?何が一体どうなっている!?なんだこれは、なんだこれは!!

俺の体にいったい何が……

心が激しく動揺するシュウだが、不意にぐらっと意識が揺らぎだした。
なぜか急に強い眠気がどっと押し寄せる。
そのまどろみに逆らえなくなったシュウの意識は暗転した。





「…っ」
妙に体に重みを感じ、シュウは目を覚ました。朝日が目に染みる。
また、妙な夢を見ていた気がする。寝ていたのに、妙に疲れも感じる。しばらくの間ウルトラマンに変身していなかったはずなのに、そのときと同じような疲労感だ。よほど自分は疲労を蓄積していたのだろうか。
思えば、初めて変身したときも、かなり疲労感を覚えたものだが…
…ん?
シュウは今の自分に対して奇妙な違和感を覚える。初変身したのって『ついさっき』だったような…
…いや、これまで何度もウルトラマンに変身して戦ってきた。大切な人を、罪もない人々を死なせてきた罪を償うために。こんな大切なことを忘れるなんて、罪の重さを軽く感じ始めているのではないだろうか。
そう考えると、自己嫌悪を覚えてくる。
体を起こそうとすると、起きた瞬間の、体にかかる重みを再認識する。寝ている間に、どうやらリシュが自分の体の上に乗っかっていたようだ。
「…起きろリシュ。重い」
「…んみゅぅ…」
かわいらしい寝息が聞こえてきたが、だからといってシュウはこのまま女児の体重に押しつぶされるなどごめんだった。強引に退かしてベッドから腰を上げた。
監視つきとはいえ、時期にアスカを助けるためにもアルビオンへの突入作戦に加わることになる。ボケ掛けている頭を叩き直して任務に備えることにした。

 
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