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花火師の親父

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第五章

「しっかりとね」
「頼むね、じゃあ両国じゃね」
「お里と政太郎さんも連れて」
「来てくれよ」
「承知したよ」
 お玉は吉兵衛に笑顔で応えた。
「それじゃあね」
「ああ、その時はな」
「行くよ、三人でね」
 お玉はしっかりと約束した、そしてだった。
 その両国の花火に娘達を連れて行った、お里はお玉を痩せさせて若くした様な小柄な娘で政太郎は市兵衛の話の通り随分背の高い若者だった。
 その三人が吉兵衛に連れられてだ、そしてだった。
 両国で花火が一番よく見える場所に来た、そこでお玉はお里の亭主になる政太郎に対して言った。
「うちの人の花火は凄いよ」
「そう聞いてます」
 背は高いが穏やかで優しい感じの顔だ、政太郎はその顔で吉兵衛に応えた。
「天下一の花火職人だって」
「天下一かはわからないけれどね」
 お玉は亭主の花火の腕について笑って話した。
「少なくとも腕はいいからね」
「だから花火もですね」
「凄いよ」
 そうだというのだ。
「凄い花火が見られるよ」
「それじゃあ」
「これから楽しみにしてなよ」
「お父っつぁんもねえ」
 娘のお里が言うには。
「口は悪いし不愛想で酒好きで」
「碌でない宿六だからね」
 お玉は娘に笑って返した。
「本当に」
「花火の腕が悪かったらね」
「もうどうしようもないよ」
「そんな人だけれど」 
 それでもというのだ。
「あれでいいところもあるしね」
「そうそう、どんなに怒っても頭に拳骨一発で済ませてね」
「無口だけれどあれこれ教えてくれてやってくれて」
「面倒見はいいんだよ」
 そうだというのだ。
「昔からね」
「そうなんだよね」
「だからあたしもずっと一緒にいるんだよ」
「そうだよね」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのだ。
「これからもね」
「あたしは旦那はあの人だけだよ」
「お母っつぁんはそうだよね」
「それであんたもね」
「この人と」
 亭主になる政太郎を見てだ、お里は母親に応えた。
「そうしていくんだね」
「そうしなよ、喧嘩はしてもね」
「引きずらずに」
「やっていくんだよ、あたし達もよく喧嘩をするけれどね」
 話かい頃からだ、この夫婦はしょっちゅう喧嘩をしていてお玉は市兵衛をしょっちゅう殴ったり引っ搔いたりしていて市兵衛も反撃している。 
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