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花火師の親父

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第二章

「本当にな」
「そんなに大きさが違うんだね」
「そうだよ、それでな」
 市兵衛はさらに話した。
「そのひょろ長いのが俺に言うんだよ」
「お里ちゃんを下さいってか」
「そうだよ、馬鹿言うなって思ったらかかあがそれより先にそれならって言ってな」
 彼と長年連れ添っている恋女房のお玉がというのだ。
「話はとんとん拍子に進んでな」
「今度だね」
「嫁入りだよ、ったく女ってのは嫌なもんだ」
「勝手に結婚の話を進めるかい?」
「しかも結婚して家を出るからだよ」
 むしろこちらが大きかった、彼にとっては。
「こんな嫌なものがあるか」
「おやおや、そっちかい」
「こっちは花火作ってその金で天塩にかけて育ててきたんだぞ」
「市さんお里ちゃんが赤ん坊の頃から可愛がっていたからなあ」
「そうだよ、それこそ目に入れても痛くないまでにな」
 それこそという返事だった。
「俺もそうしてきたんだよ」
「そうだったよな」
「その娘が家を出るんだぞ」
 結婚してというのだ。
「こんな嫌なことがあるか」
「やれやれだね」
「ああ、やれやれだよ」
 市兵衛は苦い顔のままこうも言った。
「本当にな」
「その気持ち俺にはわからないな」
 吉兵衛は子供は息子だけだ、だからこう言ったのだ。
「娘がいる親の気持ちなんてな」
「嫌な気分だぜ」
「そうなんだね」
「本当にな、けれどな」
「けれど?」
「仕事はちゃんとやるからな」
 幾ら苦い嫌な気持ちでもとだ、市兵衛は吉兵衛にこのことは約束した。
「安心しろよ」
「ああ、市さんそこはしっかりしてるからな」
「言っただろ、俺の腕は天下一なんだ」
「だからだね」
「どんな時も最高の仕事をしてだ」
「最高の花火を出してくれるんだね」
「ああ、今回も期待してな」
「してるさ、ただな」 
 吉兵衛は市兵衛にこうも言った。
「お里ちゃん祝ってやるかい?」
「ああ」
 市兵衛は一応はと答えた。
「そうするさ」
「そうかい」
「あいつは祝わないがな」
 そのお里の亭主になる相手はというのだ。
「しかしな、あいつはな」
「お里ちゃんはだね」
「祝ってやるさ」
「それは何よりだね」
「何よりか」
「ああ、やっぱり娘は祝ってやらないとな」
 結婚するならというのだ。 
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