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汚い飯屋

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第八章

 それでだ、その後でだった。
 勘定の時にだ、高橋はまた驚いて言った。
「いや、本当にです」
「安いだろ」
「はい」
 感情を終えてから名倉に話した。
「腹一杯食ってですからね」
「この値段だからな」
「凄いですね」
「いい店だろ」
「全くです」
 こう言ったのだった、勘定を払ってから。
 そして店を出て会社への帰り道でだ、彼はこう名倉に言った。
「いいお店ですね」
「そうだろ」
「古くて汚くて台風で倒れそうですが」
「それでもな」 
 確かに店は汚いがとだ、名倉は彼に笑って話した。
「ああしたお店なんだよ」
「早い、安い、美味いですね」
「そして量も多いんだよ」
「四拍子揃ってますね」
「そうだ、何でも安いルートから仕入れて一度に沢山作るからな」 
 御飯や味噌汁、酢漬け等のことだ。
「かえって安くついてな」
「ああした安さを保てるんですか」
「そうだろうな、まあ外見だけで判断するとな」
 お店のそれでだ。
「ああしたお店には行けないな」
「そうですよね」
「そういうことだ、だからな」
「はい、お店はですね」
「外見で判断するとな」
 それだけを見てというのだ。
「美味いものに辿り着けないな」
「そういうことですね」
「そしてな」
 名倉は後輩に笑ってこうも話した。
「それはお店だけじゃなくてな」
「人間もですね」
「顔や身なりやそういった外見が悪くてもな」
「そうしたことだけで判断したら」
「駄目なんだよな」
「人間顔じゃないですね」
「そうだよ」 
 まさにというのだ。
「そうしたことなんだよ」
「ですね、人間は顔で判断するな」
「お店もな」
「そうだよ、まあこのことは言うつもりはなかったけれどな」
 名倉は自分よりやや背の高い友人を見つつ話した。
「俺もいいこと言ったな」
「いや、そこでそう言われると」
 高橋は笑って言う名倉に少し困った顔になって突っ込みを入れた。
「ぶち壊しですよ」
「ははは、そうか」
「そうです、まあお腹一杯食べましたし」
 それでというのだ。
「午後の仕事も頑張りますか」
「そうしような、じゃあまたあのお店に行ってな」
「腹一杯食いますか」
「そうしような」
 名倉は高橋に笑ったまま話した、その彼の横にいる高橋も今は笑っていた。そうして実際にまたあの店に行こうと思うのだった。外見こそ駄目だがそれ以外は最高のその食堂に。


汚い飯屋   完


                 2017・4・19 
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