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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の抜き打ち業務チェック~明石酒保編・前編~

 先日、ウチの店に客として来ていた荒潮が気になる事を言っていた。曰く、

『明石酒保が規模を拡大しており、ちょっとしたコンビニよりも大型店舗化している』

 との事だった。俺の鎮守府運営の基本は『艦娘による自治と自主的な運営』がモットー。だから丸投げ出来る部分は丸投げしてるし、各部署の管理・運営は艦娘が主導だ。まぁ司令官としてチェックとか報告の義務化はさせてるが。言われてみれば酒保に顔を出したのは着任当初の2年位の間だけだ。その頃はまだ駅の売店というか、小ぢんまりとした店構えで明石だけが店番をしていた。記憶を頼りにその場所に向かうと、その場所は酒保ではなく煙草屋になっていた。しかも店番は妖精さんである。

『いらっさいませー提督さん』

「あれ、ここって明石の酒保じゃなかったか?」

『明石さんの酒保は大分前に移転したです?』

「え、そうなの?」

『知らなかったですか?許可は取ったと聞いてるです』

 確かに、敷地内での建物の増設に関しては俺の許可が要る。忙しい時期に書類を出されて、あまり細かく確認せずに認可の判を押している可能性もあったので何とも言えんが。

「そっか、じゃあコレと同じ銘柄の煙草を1カートンくれ」

『まいどありーですー』

 パタパタと手を振る妖精さんに見送られつつ、酒保が移転したという場所に向かってみる。鎮守府の本館と各艦娘の寮の間辺りに建てられてるって話だったが……

「あった」

 マジで建ってやがる。見た目はコンビニよりも少し大きい位の面積の平屋で、青と白を基調としたカラーリングの看板が目立つ。店名の部分にはアルファベットで『AKASHI』って書いてあるがこれは……

「どう見ても〇ーソンじゃねぇかコレ!」

 あの特徴的な立て看板のミルク缶のマークは明石のシルエットになってたりするが、これ偉い人に怒られたりするんじゃなかろうか。

「外見は後からでも直せるだろう。問題は中身だ、中身」

 少し気が重くなりながらも、俺は店の中へと足を踏み入れた。




「いらっしゃいませぇ~♪」

 店員さんの元気のいい挨拶が響く。

「……何やってんだ鹿島」

「ひやあぁ!?ててて、提督さん!何でここに……」

 変な悲鳴を上げて驚いているのは鹿島。やっぱりいつもの制服ではなく、ロー〇ンの店員さんが着てる制服ソックリの物を着ている。明石の悪ふざけ、ここに極まれりって奴だな。

「も~、鹿島さん何を騒いで……って、ゲッ提督!」

 レジでの騒ぎを聞き付けて、奥から首謀者である明石が顔を出した。そして俺の顔を見ると、ギョッとした顔で驚いている。

「オウコラ淫乱ピンク、ゲッとはなんだゲッとは。ここは酒保なんだから俺にも利用する権利くらいあるだろ?なぁ?」

「うぅ……その通りです」

 俺は正論を述べているまでで、後ろめたい事をしている明石が悪い。

「ってなワケで中を見させて貰うぞ……っと」

 コンビニを巡る時、俺は大体雑誌コーナーからグルッと一回りするように商品を物色していく。今回もその順路で色々とチェックしていこう。まずは雑誌コーナーか……こうしてみると、コミックスやら週刊誌に月刊誌と、メジャーな漫画雑誌が結構置いてあるな。

「割と人気なんですよ、普段戦闘ばかりしてるせいかバトル物が多い男の子向けの雑誌が」

 説明役として明石を連行しつつ、店内を物色。〇ャンプやマ〇ジンの隣に『り〇ん』とか『マー〇レット』が置いてあるコンビニは中々無いが、これは女の園である鎮守府ならではってトコか。ファッション雑誌とかも多いしな。そして雑誌コーナーの一番奥、いわゆるエロ本コーナーにはウチの鎮守府をはじめとして各地のオータムクラウド先生……秋雲達の『力作』が鎮座していた。

「おいおい……なんだこりゃ?」

「見て解りません?エロ同人誌ですよ」

 何言ってんですか提督、位のノリで明石が言ってくる。

「そりゃ解るが……何でここで売ってる?」

「あ~……ウチの娘達の需要が高かった物ですから、酒保の売り上げから遣り繰りして仕入れてます」

 仕入れの交渉は秋雲がやったらしい。やはり同好の士……というか同じ艦娘だからな、交渉はスムーズに行ったらしい。まぁこれはセーフか。お次はドリンクコーナーだな。

「しかしまぁ何というか……酒の種類が多いな」

「そりゃ飲兵衛だらけの鎮守府ですから、置いとけば売れる商品を置かない訳が無いでしょう?」

 さもありなん。ビールに缶チューハイ、ボトルワインにウォッカ……カップ酒やウィスキー、日本酒まである。しかも定番的な物からマイナーな地ビールまで幅広く取り揃えてあるな。

「出撃前の奴等には売ってねぇだろうな?」

「勿論ですよ!そこは大淀にもキツく注意されましたから!」

 怪しいんだよなぁ……特に軽空母の連中とか、重巡とか、潜水艦の辺りが。

「て、提督!なんでここにおるんじゃ!?」

「いや、逆に何してんだよ浦風」

 ドリンクコーナーの近くにあった缶詰コーナーで品出しをしていたのは浦風だった。

「何って……アルバイトじゃけど?」

「バイトって……そんな金欠なのか」

「あぁ、違うんよぉ。ウチら、あんまりこういう店番とかの経験とか無いじゃろ?やから明石さんに頼んで、やらせて貰っとるんじゃ♪」

 そう言ってクルリと一回転してみせる浦風。普段と違う服装のせいもあってか、イメージが変わるもんだ。

「どうじゃ?中々似合っとるじゃろ?」

「まぁな、普段とは違う印象だよ」

 胸の辺りがはち切れそうになってるぞ、とは言わない事にした。




 缶詰やレトルト食品、カップ麺が置いてある棚と、スナック菓子や乾き物のツマミが陳列された棚か。普通のコンビニよりも種類も量も多い感じだな?

「そりゃあ飲兵衛ばかりの鎮守府ですからね、部屋飲みする娘も多いんですよ。そのニーズに対応しているだけです」

 ははぁ、こりゃマジでコンビニだわな。おにぎりやサンドイッチ、弁当のコーナーも充実してるし……ん?

「おい明石、この『加賀風肉じゃが』って何だ?」

「あぁそれですか?『鎮守府飯ウマ艦シリーズ』の商品ですね」

「なんだそりゃ」

 聞けば、ウチの鎮守府それなりに料理の上手い艦娘が揃っているらしいのだが、飯ウマトップにいる3人(鳳翔・間宮・俺?)の牙城が分厚過ぎて目立たないと。そこでそれに目を付けた明石が、その艦娘達に協力を要請して料理の監修をお願いしたらしい。加賀の肉じゃが以外にも、以前やった白露型のカレー大会の時のカレーだったり、熊野のサンドイッチだったり、その他色々とラインナップがあった。

「へぇ……中々面白いアイディアじゃないか」

「ありがとうございます!」

 こういう真っ当な商売をしてるなら、俺の心配も杞憂だったって事か。俺はサンドイッチ等とコーヒーを幾つか買い、会計を済ませる。

「はい、お釣りと……これおまけのガチャコインです」

 レジ打ちをしていた鹿島が、釣り銭と一緒に見慣れないコインを手渡してきた。スロットのコインに見えなくもないが、どうやら違う物らしい。

「ガチャコイン?」

「はい、入り口の所に置いてあるガチャを回せます。1回1コインで回せる機械と、10枚で1回回せる機械があります」

 ほぅ、買い物客へのサービスか。そういう地道な努力は悪くないな。

「どれ、やってみるか」

 ガチャの機械にコインを入れ、ハンドルを回すとお馴染みのカプセルが姿を現した。懐かしいなぁ、キンケシとかたま〇っちのパチモンとか色々あったな。なんて懐かしく思いながらカプセルを開ける。中には丸まった写真らしき物が入っている。広げてみて、そこに写っていた物に俺は愕然とした。

「明石、ちょっと来い」

「はい、何でs……あっ」

 俺の手に握られた物を見て、全てを察したらしい。

「正座」

「いや、あの、ここ土足で歩いてる床なんですけど?」

「せいざ」

「いや、ですからあの」

「せ・い・ざ!」

「ハイ」

 ブーブー文句を垂れる明石は封殺し、床に正座させる。

「さてと、コレが何か説明してもらおうか?」

 俺の手に握られていた物、それは『風呂に入る直前の俺の全裸写真』だった。 
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