| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

239部分:第二十話 公孫賛、気付かれないのことその十五


第二十話 公孫賛、気付かれないのことその十五

「さて、何がいいかな」
「それだったらこれなんかどうですか?」
「よさそうだな。それではだ」
 許緒の薦めた歌を歌う。その頃夏侯淵は公孫賛と共に飲んでいた。公孫賛は飲みながら非常に悲しい顔であれこれと言っていた。
「私は生まれた時から扱いが悪かった」
「生まれた時からか」
「劉備いたな」
「うむ、玄徳殿だな」
「幼い頃から真名で呼び合う仲だった」
 まずはこう話した。
「しかしだ」
「しかしか」
「あいつはいつも真名を間違えてくれるのだ」
 実に悲しい顔になって話す。
「一度も合っていたことはない」
「真名を覚えてもらえないのか」
「そんなことは一度もなかった。しかもだ」
「しかもか」
「あいつに悪気は全くないのだ。天然なのだ」
 劉備の劉備たる所以である。
「完全に天然だ。悪気はない」
「だから怒るに怒れないのだな」
「困ったことにだ」
「そうだな。劉備殿は常に悪意はない」
 それは関羽も認める。彼女も一緒である。
「善意の方だ」
「それはわかる。桃香には悪意はない」
 これは公孫賛もわかることだった。
「しかしだ。それでもだ」
「どうにもならないか」
「うむ、困ったことにだ」
 こう話すのであった。
「注意してもその都度間違えられる。しかもだ」
「しかも?」
「桃香だけではないのだ」
 公孫賛の嘆きは続く。
「誰からも忘れられいることに気付かれなかった」
「不幸だったのだな」
 話を聞く夏侯淵の顔もしんみりとしたものになる。
「これまでずっと」
「両親に一緒にいることに気付かれず街の中で置いてけぼりにされたり家の中に気付いたら一人放置されていたこともあった」
 不幸はまだあった。
「友達は白馬のみだった。何とか努力して武勲を挙げてもだ」
「それはどうだったのだ?」
「いつも他の誰かがさらなる武勲を挙げて目立たなかった」
「申し訳ないが心当たりはある」
 夏侯淵は酒を飲みながら話した。
「華琳様、それに麗羽殿だな」
「それに孫堅殿もおられた」
 そうした面々のせいだった。
「いつもそういった面々がさらに武勲を挙げて政治でも派手に業績を挙げてだ」
「目立てなかったか」
「そうだ、私は帝にも何大将軍にもお声をかけてもらえなかった」
 ここでも目立てない彼女だった。
「そしてようやく幽州の牧になればだ」
「誰にも知られていなかったか」
「困ったことにだ」
「そうか。私はまだずっとましなのだな」
「夏侯淵殿もというと?」
「私は子供の頃から華琳様や麗羽様と一緒だった」
「あの派手な顔触れとか」
「そうだ。そして姉者や夏瞬達もだ」
 曹仁や曹洪のことである。
「一緒だった」
「そうか、一緒だったか」
「その通りだ。大変だったのだ」
 また言う彼女だった。
「麗羽殿は次から次にトラブルを引き起こし姉者は突き進むだけだ」
「何だ、袁紹殿も夏侯惇殿も昔からだったのだな」
「幼い頃からな」
 こう関羽にも話す。
「変わらずだった。華琳様は天才肌で色々なことをされる」
「それにも振り回されたか」
「華琳様は素晴しい方だ」
 曹操をけなすようなことは絶対になかった。やはり彼女もまた曹操の絶対の忠臣であり良臣であった。このことは揺らぐことがない。
「だが。妹分の夏瞬と冬瞬の面倒も見てだ」
「合わせて四人か」
「大変だった。麗羽殿は何故か御自身はダメージを受けられないしな」
「あいつは桁外れに運がいい」
 公孫賛もこのことはよく知っているようである。
「政治の現場を見ていて灌漑の時に巨大な魚が出て来て襲われても戦場で矢面に立っていても何があっても生き延びる」
「御本人がいると必ず何かが起こるがな」
「しかしあいつはダメージを受けない」
「受けていたのは私だ」
 それは夏侯淵の役目だった。
「華琳様を御守りして姉者を止めながらだ」
「大変だったのだな、貴殿も」
「前にひたすら出るのは姉者のいいところだ」
 姉のそうした性格は愛しているのだった。
「そして可愛いところでもある」
「そういえば貴殿達は袁紹殿も嫌いではないのだな」
「長い付き合いだからな」
 だからだというのだった。
「よいところも悪いところも知っている」
「だからか」
「麗羽殿も悪い方でも無能でもない」
 それは認めていた。
「あれで領民のことを念頭に置いていて戦場でも的確に指示を出し政治手腕もある」
「そういえば袁紹殿の領土も繁栄しているな」
「そうだ、しかしどうもな」
 ここでその袁紹の問題点も言った。
「非常にバランスが悪い方だからな。トラブルを招き寄せるし」
「それも昔からか」
「華琳様も何かと敵が多い」
「翠が襲い掛かって来たこともあったな。あれは」
「あれはもういいことだ」
 関羽に対して述べた。
「馬超殿も誤解を解いてくれたしな」
「だからいいのか」
「問題は宦官達だ。それに」
「それに?」
「司馬慰という男」
 飲みながらだが夏侯淵のその目に警戒するものが宿った。
「あの男、どうしても気になるな」
「そうなのか」
「一体何者か」
 夏侯淵は言う。
「華琳様に何かしようというのなら相手になるが」
「あくまで曹操殿を守るか」
「うむ、それが私の役目だ」
 公孫賛の言葉にもはっきりと答える。
「だからこそだ」
「わかった。それなら応援させてもらう」
「済まないな」
「いいことだ。それではな」
「今日は最後まで飲むか」
「そうしよう」
 公孫賛は笑顔でその夏侯淵と関羽に話した。そうしてだった。
 戦士達は北に向かう。しかしここで思わぬ事態も起ころうとしていた。


第二十話   完


                  2010・6・18
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧