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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第四章 RE:BIRTH
  偽翼



「いったぁ・・・何すんのよもう」

ワイヤーで放り投げられ、彼女が落ちたのは穴の中。
その穴の中を滑り台のように落ちて行き、一つの部屋にやがて到着した。


見渡してみても、大したものはなにもない。



「中に入れたのはいいけど・・・どうしようかなぁ・・・・」

彼女は特にこういった侵入作戦ができる人間ではない。
ただ中に入って暴れ、走っていればいいだろうという考えだったし。


と、そこでガシャンという音がして、部屋にクリスタルの人形が入ってきた。

「え?ちょお!?」

ゴッ、バキィ!!


突っ込んできたそれを、半ばあわてた感じで蹴って、それでも十分に粉砕する唯子。
すると間髪入れずに次の人形が入ってきて、今度は三回の蹴りで倒す。

どうやら相手は彼女の力を測っているようだが、唯子としては邪魔なのが来たから吹っ飛ばしてるだけだ。



そうして二十体くらいまで倒したところで、床が砕けたクリスタルで覆われてしまう。
するとクリスタルが溶けて消え、その液体がさらさらと流れて行ってしまった。



「? そこ?」

そしてその流れた先を見て、バキッ!と拳を一発叩き込んだ。
衝撃を吸収する構造の壁だが、そのほんの少しの穴があるのではさすがに耐えられず、簡単に崩れた。

こうなれば簡単だ。



十五秒後には、この部屋には誰もいなくなった。





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「蒔風ェ!!!」


彼が、蒔風の名前を叫ぶ。

それは彼を止めるため―――
それは彼の目を覚まさせるため―――
それは仲間を救うため―――



どれも違う




「ついにこの時が来たな!!ブッ倒してやる!!!」




この男をブチのめす為である。
主に士が主導となって。




蒔風は開翼もせず、獄炎なども使わず、ただ剣技のみで彼らに攻め込んでいっていた。

当然と言えば当然だろう。
翼人は意志で戦う者だ。それが悪意であろうと善意であろうと、自身であろうと他人であろうと意志を得て立ち上がる彼らは強い。


それを上塗りされ、ただの人形のようにされては出せる力も出せないのだろう。



「よっし!!ブチのめして目ェ覚まさせるぞ!!」


「ねぇ・・・士さんって・・・・」

「ただ倒したいだけですよね・・・・」




無論、ノリノリなのは士くらいのものだが、結果的には皆の行動は変わらない。

この場に来ている他の人間は、普通に倒そうと、本気で掛かって行っている。




ディケイドに士が変身し、頭部のプレートで突っ込んでくる蒔風を弾き飛ばしてゆく。

ライドブッカーで切りかかっていくが、その剣筋を蒔風はするりといなしてディケイドの背中を転がって先に行く。
そしてディケイドの後ろにいたアーチャーに切りかかり、返す刃でセイバーを切り上げた。

そのタイミングでティアナが魔力弾を撃ち、蒔風がそれを回避するが魔力弾は蒔風を追って直角に曲がって行く。


その魔力弾を半ば無理やりな体勢で斬り落とす蒔風だが、そこにバーサーカーの雄叫びと共に斧剣が叩き落とされた。



「!!!」

「ゴッぉォォォオオオオオオオオオオオオオおおおお!!!」

ドゴンッッッ!!!!




思い切り振り降ろされた斧剣が蒔風の脳天に落ちて行き、それを蒔風が風林火山を頭上でクロスさせて受け止める。

しかしその威力は真正面から受け止めきれるものなどではない。
膝がガクリと少し崩れ、蒔風の体が押し込まれていく。



そこに



《FINAL ATTACK RIDE―――》




蒔風のこめかみに銃口が当てられ、ディケイドがカードを装填した。

ディメンションシュートのホログラムカードの一枚目と二枚目に蒔風が挟まれ、その後にも六枚くらいそれが続いていく。


「!!!」

「喰らえ」

ドンッッ!!



そして容赦なく引き金を引くディケイド。
一枚目をくぐった弾丸が巨大化して蒔風を押しのけ、さらに通過しながら肥大し、蒔風の体を押していく。


しかし一番最後のカードをくぐったところで弾丸(すでに砲弾と言った大きさだが)が、四つに割れて後方に飛んで行った。



「クソが!!」

「士さん、悪ですね~」




まるで悪役のセリフを吐くディケイドが見た蒔風の手には、風林火山ではなく天地陰陽・風斬車が握られていた。
どうやら風林火山は弾丸を止めるために手放したらしく、バーサーカーの斧剣の下に落ちている。


その蒔風に、クラウドが二刀握って斬りかかっていく。
風斬車を「天地」「陰陽」に分けて組み直し、下がりながらそれを受ける蒔風。


クラウドが大剣を叩きつけ、それを蒔風が体捌きで回避したところにもう一刀を斬りつける。

それを蒔風が側宙して回避し、そのままクラウドの胸に蹴りを放った。


が、その蹴りは理樹のバリアに阻まれ、一刀の掌底が蒔風の腹部にめり込んで身体を吹き飛ばす。

吹き飛びながらも蒔風は天地陰陽を投げ、クラウドたちの顔面を狙うもののそれは簡単に弾かれてしまう。




「タフだな」

ドスッ


アーチャーの短い一言と共に投影剣が射られ、それが蒔風の足元に刺さる。
そして


壊れた幻想(ブロークンファンタズム)


それが爆発し、蒔風の立ち位置を爆心地に変えた。
その攻撃を受けてごろごろと地面を転がる蒔風は、体のあちこちが煤けており、場所によっては甚大な火傷を負っている。


「死なれても困るが、あの程度で済まされるのも心外ものだな・・・・」



その驚異の耐久力に冷や汗を垂らすアーチャー。



「でもそれくらいのつもりじゃないと勝てませんよ!!」



その後ろからスバルが飛び出し、突っ込んでくる蒔風にカウンターを入れようと拳を握る。
リボルバーが唸り、その顔面に向かって拳を握って突き出した。


そして、蒔風がそのまま頭突きでそれを迎え撃つ。
バキリという嫌な音がして、そしてそれから蒔風の蹴りがスバルの腹に叩き込まれる。


「うグ・・・ゲホッ・・・・そんな・・・・・」



スバルが腹を押さえながら信じられないものを見たように蒔風を見る。


バキリ、といったのは、彼女の拳ではない。蒔風の頭蓋骨だ。
感触からして砕けてはいないが、ヒビは入っていると言ったところか。


そしてそれで拳を止めたうえで、スバルに反撃してきたのだ。



非殺傷と言っても、やはりそれは物質同士のぶつかり合いではあるのだから損傷はある。
だからこうした怪我は当然あるものだが、だからと言ってこの「行為」がまともであるわけがない。



「下手をすれば死ぬ判断だろ・・・・これ・・・・」




自分の命を無視した戦い。
それが簡単にできるのが、この男なのである。

覚悟も何も、ありはしない。
からっぽだとしても、彼はあっさり命を捨てられる。



頭部からドロリを血を流しながら、蒔風がまた突っ込んでいく。


クラウドたちがそれに対抗しようと剣を握り



「あなたたちは下がってなさい」



迎え撃つ前に、アリスが蒔風の腹に足刀を入れて真逆に吹き飛ばした。



「こんなところで全力を出してどうするんですか。たかだかこの程度一人に」



バサァッ!!とアリスが服を脱ぎ払い、ノースリーブの服に替わる。
そして、立ち上がってくる蒔風に対して、拳を真っ直ぐに向けて宣言した。


「手加減なんかしませんよ?見ているだけで嫌ですから、あなた」


管理者、ついに参戦






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唯子が通路を進んでいくと、十字路に行きついた。

行き先は三つ。
さて、どれに行こうか。


そう悩んでいると後ろから足音が聞こえてきてた。

右に入ろうとすると、そっちからも足音が。
真正面なんて進んだら後ろから見つかってしまう。

結論として、唯子は


「・・・・思い通りになるのはシャクだわ」


そういって、容赦なく右に向かって突っ走って行った。


数秒後、その通路の先から研究員の物らしい悲鳴と鈍い音、そして地面に倒れる音が聞こえてきた。

彼女は一番無事だった。




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「ハァッっ!!!」

ドッ・・・・・・ゴン!!



蒔風の胸に、アリスの拳がめり込んで吹き飛ぶ。
蒔風も受け身を取ってその衝撃を逃がすものの、見るからにボロボロになっていっていた。



アリスに選手交代してから、蒔風への攻撃は怒涛そのものだった。
攻撃はすべて受け流すか防がれ、確実な一撃が確実にダメージを与えて行っていた。


蒔風の蹴りをアリスが掌で流し、拳を避け、後ろ廻し蹴りを掴み取る。
そして地面にビタンビタンと叩きつけまくり、最期に円を描くように地面を引きずって投げ飛ばした。



攻撃されることに対して、蒔風は最善の対策をとっていた。
叩きつけられれば頭を抱え、投げ飛ばされたら衝撃を流して受け身を取る。

だとは言っても、やはり攻撃のダメージは耐えられるものではなく、明らかに致命傷の傷をすでに四つほど抱えていた。



「頭蓋骨陥没、気管破損、内臓損傷、動脈失血・・・・・・まったく、どれだけのことをすればそれだけ動けるのでしょうね」



半ば呆れたようにアリスが呟き、向かってくる蒔風を見つめた。

腕を肘から振り、力を溜めて蒔風が拳を全力で握りしめる。


そうして蒔風が放った打滅星を、アリスが拳とすれ違うようにして躱し、上腕を首の下に引っ掻けて地面に叩きつけた。


バンッ!!という音がして蒔風の身体が跳ね、地面から浮いたところにアリスのラッシュが叩き込まれる。


右ストレート、左ブロー、右蹴り上げ、右後ろ蹴り
後ろ蹴りでまた少し浮かせた身体に左アッパー、左蹴り上げ、頭を掴んで右ひざ蹴り、一回転して左エルボー


そして止めに両手の連続突きを十発叩き込んでから、一回転して十分な腰の捻りを練り込んだ後ろ高回し蹴りが側頭部に命中して吹き飛ばした。




「ア、アリスさん、舜さんは大丈夫なんですか!?」



一通り終わらせたアリスに、ティアナが駆け寄って聞く。
あれで蒔風は大丈夫なのか、と。


それに対し、アリスがニッコリと笑って答えた。


「ええ、大丈夫ですよ」



そう言うと、蒔風の体がグラリとしながらも立ち上がり、蒔風に向かって腕を伸ばして突っ込んできた。


「しつこい」


そしてそれにアリスは手に剣を一本出し、振り向くと同時に肩から股間にかけてバッサリと蒔風を切り捨てた。
ブシャァッ!と血が噴き出して、蒔風の体が荒野に沈む。



「舜!!!」

「・・・・・は?」



セイバーが倒れた蒔風に駈け寄り、ほかのみんなもそうする中、アリスが一人気の抜けた声を出した。


「ど、どうしたんですか?」

「どうしたって・・・・舜が!!」

「ええ、だから助けに行くのでしょう?」

「え?」

「え?」

「あれ?何かかみ合ってない?」



何やらおかしい。
アリスとセイバーたちの会話が成り立たない。


ティアナがおずおずとアリスに聞く。



「あのー・・・舜さんを助けに来たんですよね?」

「ええ」

「着きましたよね?」

「ええ」

「(蒔風を指さして)出てきましたよね?」

「ええ」

「あれ、舜さんですよね?」

「いいえ?」

「あれ?」




ここでかみ合わなくなる。
あれは蒔風ではないというのか。



「動きも、見た目も、確かに蒔風です。さらに言うなら「死の恐怖」も取り払われています」


でも、あれは蒔風舜ではない、らしい。


「死亡直後の死体に生前の電気信号などのデータを送ることで気配から何までそのままに人形とする技術を彼らは持っていたでしょう。それを蒔風でやっただけです」


アリス曰く、彼らは結局うまくは行かなかったものの、蒔風から得た膨大なデータを送りつけ、「この蒔風」を作ったようだ。
致死量ギリギリ、というのはこの男に対するモノだ。


「つまり士さんはそれに気づいていたからあれだけ本気だったんですね!!」

「あ・・・・・あぁ!あぁそうだ。だいたい全部わかってたさ」

「つまり、俺たちは謀られたのか」

「おそらく、あの中にまだ蒔風はいます。こうしている間にも、多くのデータや力を吸われて・・・・」

ダン!!ザザザザザザザザッッッ!!!



と、そこでアリスの言葉を遮るようにして城壁の上から何かが飛び出してきて彼等を取り囲んだ。
その数は十三。どうやら彼らはこの数が好きらしい。


そしてその顔は、全てさっきまで戦っていた相手と同じものだ。



「こいつらは・・・・」

「なんてことを」



周囲に現れた、十三体の蒔風。
十五天帝はさすがに全部ではなく、そのうちのいくつかを各人がもっていた。

風林火山を持つのが四体、天地陰陽が二体、獅子天麟が三体、龍虎雀武の未解放状態が二体、解放状態が二体だ。

とはいっても、いくつかは形だけの模造品らしいが、彼らの製造技術を考えると遜色はないものとみていいだろう。


「もう隠す必要はない、ってことか」

「だが、本気でやっていいなら(ガシャ)」

「やれない数じゃ・・・・」

ドンッッ!!!



武器を握り、じゃあ行くかというところで十三体全員にエネルギーが送り込まれた。
それは施設から送られているモノらしく、日光で薄れて見えにくいが、キラキラと光る銀白色をしていた。



「!!!」

「まさ・・・か・・・・!!!」

バンッッ!!!




そしてエネルギーが溜まったのか、十三人が全身に力を込めて何かを解放した。
その構えはまちまちだが、どれもがさっきの一体とは全く違う気配を漂わせている。



「ねえ、これって・・・」

「ああ、翼は出てないが・・・・「開翼」だ」

「まさか、ここまで翼人のことを知っているとは・・・・・!!」



限りなく蒔風に近づいた十三体が、武器をそれぞれ構えて周囲を回る。



そして、十三人と十人が一斉に動き出す。



偽りの銀白は、いらない。






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ガコン




施設内の天井にある扉が開く。
そこから一人の男が出てきた。



「・・・っとぉ・・・俺、こういうの得意じゃないんだけどねぇ・・・・ほら、大丈夫か?」

「あ、はい大丈夫です」

「問題ないぞ」


スタン、とそれに続いてなのはと星も降りてくる。

当初はこの男だけで来るはずだったのだが、二人がどうしてもとついてきたのだ。


「さて・・・・どっちかなぁ?こっちかな?ん?この機械どう使うんだ?」

「「・・・・・」」



それにしても機械が苦手なこの男一人で本当に大丈夫だったのだろうか?
ついてきてよかった気がする。


そう思いながら、なのはが機械を受け取ってこっちだと案内する。


「お、ありがとな。じゃ、いっちょ行きますか!」

シュッ、と敬礼のように指を向ける男が張り切る。



日高仁志、普段は皆からヒビキと呼ばれる男性が、先に進む。





別働隊が動き出す。




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「ここどこだ?」



気絶した研究員の胸ぐらをつかんでパッと放して落とす唯子。



あれぇ?と首をかしげ、彼女は先に進んでいく。





to be continued
 
 

 
後書き

実は蒔風ではなかったという件
そしてやはり敵は外道だった。


ちなみに青龍たちは気づいてましたけど、アリスと同じように「皆わかってるよね?」みたいな感じだったそうです。



そして侵入組。
ヒビキさんとか出したら面白い気がしたから出しました
今になって考えると超重要でした。

次回はまた戦闘


では、また次回で

 
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