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DQ5~友と絆と男と女  (リュカ伝その1)

作者:あちゃ
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58.耳は遠くの事まで聞く事が出来るが、目は近くの事しか分からない。

<サンタローズ>

俺の目の前に風光明媚な村が広がっている。
とても美しい村が…
ここはサンタローズ…
ラインハットに攻め込まれる前のサンタローズ…俺は教会の横で村を一望している。
もう春だというのに肌寒いこの村で、人々は日々の営みに従事している…

「あの…旅のお方…どうかなさいましたか?」
荒らされる前の美しい風景に見入っていると、後ろから声をかけられた。
「申し訳ありません。あまりにも美しい村…だった…の…で…!」
振り返るとそこには、まだ10代半ばの美しいシスターが不思議そうな表情でこちらを見ている。
「?どうかしましたか?」
「し、失礼…美しいものに目が無くて…貴女はとても美しい!」
何より若い!
「まぁ…お上手ですのね」
恥ずかしそうに顔を赤らめる若かりしフレアさん。

そうだ!
このままじゃフレアさんは酷い目に遭ってしまう!
何とか助ける方法はないだろうか?
「シスター!貴女はこの村から離れるべきだ!」
俺は気付くとフレアさんに忠告していた。
「え!?何ですかいきなり!」
「今から1.2年後にこの村は滅ぼされる…その時貴女は酷い…不幸な目に遭ってしまう!せめて、その期間だけでもこの村から離れた方がいい!」
ポワン様には未来を変える様な事をしてはいけないと言われたのに…

「貴方は…占い師…ですか?」
「………いえ……ただ…貴女の未来を憂う者です…」
「…村人を見捨てて、私一人だけ逃げろと仰るのですか?」
確かにその通りだ…俺は卑怯にも彼女だけを助けようとしている…
「………はい……しかし、貴女の様な美しい女性が体験してはいけない事態が訪れます!ですから…どうか…」
未来を知っているとはこれ程辛い事なのか…

「お気遣いありがとうございます。ですが私はこの村を見捨てません!それに、失礼ですが…貴方の仰る通りの未来が訪れるとは限りません」
フレアさんはとても優しい笑顔で微笑んでくれた…
「しかし!私は貴女に幸せになって欲しい…不幸にはなってほしくない…」
「何故…初めてお会いした私を…気にかけてくれるのですか?」
心がはち切れそうだ…俺がフレアさんの事を知っていても、フレアさんは俺の事など知るはずがない…俺はまだ6歳の子供なのだから…
「…申し訳ありませんでした…詮無いを言ってしまって…」
「…い、いえ…」

フレアさんが俺の瞳を見つめている…
俺も彼女も互いに目を離せないでいる…
二人の男女が重なり合うのに、これ以上の事は必要なかった…



先程、物置小屋でフレアさんとキスをしていると、リュカ(6)と目が合った。
あのガキ…何、覗いてんだ!
まぁ…いい…
フレアさんの処女は俺が守ってやったんだ!
感謝しろよ!


教会の正面で途方に暮れているリュカ(6)を見つけ声をかける。
「やぁ、リュカ(6)。綺麗な宝玉だねぇ」
そう言って、リュカ(6)の手からゴールドオーブを奪い取る。
「あ!ちょ「あら?リュー君。私に会いに来てくれたの?」
文句を言おうとしたリュカ(6)の言葉を遮り、フレアさんが遅れて訪れた。
今がチャンス!!
リュカ(6)の視線がフレアさんに向いた隙に、ゴールドオーブと光る宝玉をすり替える。
もう用は無いし、あの男が何時来るか分からんし終わらせよう。

「ありがとう。これ返すよ」
偽物でも無くされたら困る!
俺は強引にリュカ(6)の腰の袋にしまい込んだ!
そして俺はリュカ(6)と同じ高さの目線になって囁く。
「その宝玉は、とても貴重な物だ。人にあげたりせず、大事にするんだよ」
「う、うん…」
うん、やはり俺は素直な良い子だ!

よし、ご褒美に安心させてやろう。
「フレアさんの処女は俺が貰った」
安心しろ!
フレアさんの処女は未来のお前の物だゾ!
お!?嬉しいのか、目を見開いて驚いている。
うん、これであの男が来ても大丈夫!

ただ…フレアさんを村から退避させられないのが心残りだ…
「それではシスター。私はこの辺で…あなたに出会えた事は、私の一生の宝です」
「まぁ…」
あ~…やっぱりフレアさんには幸せになって欲しいなぁ~…
「あの…お名前を教えて頂けますか?」

名前?
何て言う!?
リュカ(6)の前でリュカです、って言ったらマズイよね!
「次、お会いした時に名乗らせて頂きます。では、またお会いしましょう」
帰ったら、あの時のは僕でした~って言って、イチャつこう!



<サンタローズ-パパス邸>

実家の前で物思いに耽っていると中からサンチョが現れて俺を中に引き入れた。
どうやらパパスの客と勘違いしたらしい…
2階に案内され書斎に入ると、そこにはパパスが佇んでいた。
幼い頃は大きく見えたのに、今では俺と大して変わりはない…
瞳の奥が熱くなる…だが、ここで泣く訳にはいかない!
ぐっと涙を堪えパパスと対峙する様に向き直る。

「君は…どなたかな?いったい、何用かな?」
久しぶりに聞いた父の声…
「…はい…貴方はこれからラインハットへ赴くのでしょう」
マジで泣きそうになったので、慌てて話しかける。
「ほう…よく…知っているな…」
パパスが警戒心を露わにする。

「行けば不幸になる!行ってはいけない!と、言っても貴方はラインハットに行くのでしょう」
間違いなくいくだろう…
パパスがグランバニアの王だったとすれば、ラインハットの王とも知己だったかもしれない。
この人は知人の頼みを無碍に出来ない人だ…
それが俺の尊敬する父…パパスなのだから。

「君は占い師なのかね?生憎だが私は占いは信じないのだ」
「いえ…占いではありません…ただ…未来を憂う者です…」
「………」
自分でも思う…胡散臭い人物だと…
パパスも俺の事を疑っているのだろう。

「…貴方の息子さんは……リュカ(6)はこの先…極めて不幸な人生を歩みます」
俺が…息子が窮地に陥ると知れば、考えを変えるかもしれない…
「リュカが…」
そうすればパパスはラインハットには行かなくなる。
そしてサンタローズにも兵は押し寄せず、フレアさんも不幸にならないかもしれない…
「はい。ですから……………」

………いや!
これ以上言ってはいけない!
未来を変えてしまう…

「ですから、息子さんに優しくしてあげて下さい。息子さんは貴方の事が大好きなのです!」
俺はそこまで言うと、踵を返して立ち去った!
後ろではパパスが…父さんが何かを叫んでいるのだが振り返る事が出来ない!

もう…涙が溢れて止まらない…
俺は実家を出て歩き出す。
何処を歩いたのか分からない…
後ろを振り返らず…ひたすら歩いた。



<妖精の国>

気が付くと目の前にポワン様が佇んでいた。
ポワン様は静かに…優しく俺の頭を抱き締めてくれた。
俺はポワン様に抱き付き…声を殺して泣き続けた…
父さんを見殺しにした事に…フレアさんを見捨てた事に…



 
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