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高くて悪いか

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第五章

「僕の彼女なんだ」
「はじめまして。主浩の姉の優よ」 
 にこりとしてだ。彼女は亜美の頭の上から言ってきた。背の違いは二十五センチはある。
「宜しくね」
「は、はい」
 見上げながらだ。亜美は呆然となって返した。
「宜しくお願いします」
「じゃあ中に入って。皆揃ってるから」
「お父さんもお母さんも?」
「勿論よ。正平兄さんもいるからね」
「よかった。じゃあ皆に亜美ちゃん紹介させてもらうよ」
 猪木は笑顔で言うだけだった。そして。
 亜美に玄関から上にあがる様に促す。呆然としながらも。  
 亜美は靴を脱ぎ家にあがった。そして家の奥のリビングに入ると。
 巨人達がいた。誰もがだ。
 猪木よりも大きい。父も母も兄も。見れば祖父母と思われる老人二人もいるが彼等もだ。誰もが優に一メートル九十以上、男は全員二メートルあった。その彼等がだ。
 亜美を見てだ。笑顔で言うのだった。
「いや、奇麗な娘だね」
「小柄で可愛らしいね」
「主浩もいい娘と彼女になったね」
「宜しくね」
 亜美を見下ろしての言葉だった。亜美は今自分が小さくなったと思ってしまった。
 その彼女にだ。猪木が苦笑いで言ってきたのだった。
「座って。それにしてもね」
「それにしてもって?」
「よく僕みたいな小さな人と一緒になってくれたね」
 実は彼はだ。自分を小柄だと思っていたのだった。
「ずっと背が低くて彼女なんてできないって思ってたけれど」
「そうだったの」
「そうなんだ。けれど僕にも彼女ができて」
 それでだというのだ。彼は陽気に話してく。
「嬉しいからね。じゃあ遠慮なく食べて飲んで楽しんでね」
「ええ。それじゃあ」
 亜美は巨人達を見ながらそのうえでだ。あきらかに普通の人用ではない席に座った。出て来た御馳走は美味しく量も多かった。だがそれでもだった。
 この日のことには呆然となった。それでだった。
 翌日早速クラスメイト達にこのことを話す。それを聞いて彼女達も驚きを隠せずに言うのだった。
「確か彼氏って一メートル九十以上あるのよね」
「それってもうラガーマンかフットボーラーなんだけれど」
「プロレスラー並よ」
「それでもなのね」
 彼の家族はだ。誰もがだった。
「家族で一番小さいのね」
「それで自分は小柄って思ってるのね」
「っていうかお父さんやお兄さんだけじゃなくて」
「お母さんやお姉さんまで彼氏より大きいの」 
 そのプロレスラー並の彼よりもだというのだ。
「お祖父さんやお祖母さんも」
「それはまた凄いわね」
「私小さいって言われたわ」
 このこともだ。亜美は言った。
「あちらの家族の人達にね」
「えっ、亜美が小さい!?」
「嘘でしょ」
「こんなに背が高いのに」
「それで小さいって何よ」
「何かの冗談でしょ」
「いえ、本当なのよ」
 実際にそう言われたこともだ。亜美は話した。
「だって。彼のお母さんやお姉さんもね」
「大きいから?」
「だからそう言われたの」
「小さいって」
「彼のお母さんやお姉さんも彼より大きいのよ」
 一九〇以上ある彼よりもだというのだ。
「それなら一七〇位の私なんてね」
「小さく見えるのね」
「それでも」
「そうなのよ。正直信じられなかったわ」
 亜美はその時生まれてはじめて自分が小柄と言われたのだ。このこともはじめてだったのだ。そのはじめてのことに驚きを隠せなかったのだ。
「嘘みたいだったわよ」
「嘘っていうかね」
「有り得ないっていうか」
「話を聞いてる方もびっくりよ」
「凄いお家もあるわね」
「そうでしょ。それでね」
 ここまで話してだ。亜美はここでだった。
 何かを悟った顔になりそのうえで皆に言った。
「背が高いとか低いとかってね」
「それは?」
「それはっていうの?」
「そう。相対的なものでね」
 小さい中に入れば大きい、大きい中に入れば小さい、そうしたものだというのだ。
「特に意識することなかったのよ」
「じゃあ亜美のその背の高さも」
「気にしなくていいっていうのね」
「そういうものみたい。それがわかった気がするわ」
 その悟った顔での言葉である。
「そんなの気にしなくていいのよ」
「じゃあこれからはね」
「そういうこと考えないで彼氏と一緒にいるのね」
「そうするのね」
「ええ。吹っ切れたから」
 背が高いことを気にしなくなったというのだ。このことを言ってだ。
 そしてそのうえでその日の放課後彼と待ち合わせデートをするのだった。小さい二人同士で。

高くて悪いか   完


                      2012・5・31 
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