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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第103話「陰陽師、式姫とは」

 
前書き
アリシア達の修行回パート2。
ついでにアリサ達の武器も決まります。
 

 




       =優輝side=





「さて、今日も頑張っていくぞー。」

「恭也達が今日は翠屋の手伝いだから、士郎の道場を使わせてもらう事になったわ。」

 小烏丸蓮さん(戸籍上はそうなっているらしい)が来訪した翌日、僕らは士郎さんの家にある道場を借りて、アリシア達の霊力の特訓に取り組んでいた。

「...あれ?昨日よりだいぶ涼しい...?」

「風を起こす術式を仕掛けておいた。風通しが良くなるだけでもマシだろ?」

 ただし氷系の術は使わない。まぁ、道場内はさすがに湿度と温度が合わさって滅茶苦茶暑いからな。熱中症にならないためにも風通しはよくしておいた。

「今回は特別講師として蓮さんも教えてくれるぞ。」

「...と言っても、私が教えられるのは刀の扱いぐらいですけど。」

「霊力の扱いは出来てるでしょう?それで充分よ。」

 しばらく滞在する間、蓮さんもアリシア達に教えてくれる事になった。
 まぁ、アリシアと契約した義理もあるんだろうな。

「とりあえず、霊力の基礎は大体できるようになったし、次の段階に入るわ。」

「次はどんな戦い方が得意、不得意か確かめるよ。」

 アリシアのみ制御がまだだけど、基礎自体はできている。
 だから次の段階に入ろうとしているのだ。
 ...別の機会で那美さんや久遠にも教えておかないとな。

「戦い方...?」

「そう。例えば蓮ちゃんみたいな刀を使った近接戦。敵の攻撃を受け止め、いなし、皆の盾となる戦い方とか、あたしのように回避しながら攻め続ける戦い方。」

「他にも、私みたいに弓を扱ったり、陰陽師や式姫にはそれぞれ戦い方というか...役割分担みたいなものがあるのよ。大抵、得意分野で役割を分担してるわ。」

 僕は例外みたいだな。得意不得意がないし。
 尤も、僕もそういった役割分担の話は聞いたことがないんだが...。

「昨日の内に簡単にまとめてきたわ。これを見て頂戴。」

「武士、槍術師、傾奇者、弓術士、(まじな)い師、巫女...それに、剣豪に符術師?」

「他にも少し書かれてるけど...。」

 椿が出した紙には、それぞれの役割と簡単な備考が書かれていた。
 また、他にも何か書かれており、少しばかり複雑そうだった。

「まず、武士ね。これには葵と蓮が当て嵌まるわ。敵の攻撃を引き付け、回避やいなし、もしくは受け止める事で、他の者を守る“盾”よ。もちろん、剣による攻撃にも秀でてるわ。」

「敵の攻撃を引き付け続けるので、自分で回復する手段も持ち合わせています。」

 椿の説明に蓮さんが補足する。...つまり、ゲームで言う“盾キャラ”か。

「次に槍術師。名前の通り槍を扱うわ。前衛でも後衛でも立ち回る事ができ、また術も扱う事ができる汎用性を持ち合わせているわ。」

「ただし、器用貧乏でもあるから、どれかに特化させる場合が多いよ。後ろから援護するもよし、前衛で武士と同じように敵の攻撃を引き付けるもよしってね。」

 万能ではあるが、それ故に器用貧乏と...。
 大抵は槍による攻撃に重点を置き、隙を突くように攻撃するらしい。

「次、傾奇者。文面じゃ分かりにくいけど、斧を扱うわ。素早いとは言い難く、術もあまり扱えないけど、強力な一撃を誇るわ。」

「所謂重戦士タイプか。なるほど。」

 ...僕ら全員に向いてなさそうだな。パワータイプってイメージがないし。
 強いて言うなら緋雪辺りかな。吸血鬼だし、力も強いしな。
 ...その場合、素早く一撃が強力な反則キャラみたいになってしまうが。

「次に弓術士。これは私を見た通り、弓を扱うわ。後衛からの援護射撃が主で、術もある程度使うわ。...ただ、接近戦がしづらいから気を付けなさい。」

「かやちゃんの場合は短刀でその部分を補っているね。」

 条件が揃えば一方的に攻撃できる役割でもある。
 ...まぁ、自衛のためなんだから戦う=弓術士の利を生かせない状況なんだが。

「呪い師は霊術に特化しているわ。基礎で教えた術をさらに実戦用に強化させ、さらに強力な術を扱うわ。こと術に関しては、最も秀でてるわね。」

「アリシアちゃんが扱い切れてなかった火焔旋風なんて、バンバン使いこなすよ。」

「ええ...あれを?」

 そういえば椿も普通に使ってたな。...なるほど、あれでまだ呪い師に劣るのか。
 所謂魔法使いみたいなポジションなのだろう。

「巫女は呪い師を回復に特化させたようなものよ。聖属性による術で、他の者を治癒させたり、障壁と成して護ったりするわ。」

「偶に霊術で使ってた障壁って...。」

「同じよ。ただ、簡易的な物ならすぐ張れるけど、強力なのは私だと扇や御札を必要とするわ。...そうね、那美が一番巫女らしいわね。元々巫女だけど。」

 一応、アルバイトだから本職ではないらしいけどね。
 確かに、那美さんは巫女っぽいな。回復とか扱って、攻撃を苦手としてるし。

「基本はこの六つの職業ね。」

「...あれ?この剣豪と符術師は?それと、他に二つ書いてるけど...。」

 司が示すのは、残り二つの職業と、“人魚”と“幽霊”という文字。
 態々書いてあるという事は、職業はともかく二つの単語も関係あるはずだが...。

「その二つの職業は陰陽師にしか扱えなくてね。剣豪の方はともかく、符術師は式姫でも真似できるのは少なかったわ。」

「へぇー...。」

 陰陽師限定...ゲームで言う主人公限定の職業って所か?

「剣豪は武士を攻撃特化にしたようなものよ。様々な属性を剣に付与し、相手の弱点を適格に突くように攻撃するわ。符術師は援護や付与に特化しているわ。御札を使って味方を強化したり、相手を弱らせたりね。」

「かやちゃんや優ちゃんの使う御札による衝撃波とかも、符術師の技に含まれるね。」

 剣豪は分かりやすく捉えると戦士から派生した剣士って所か。
 ...で、符術師はゲームで言うバフデバフを得意とする...と。

「じゃあ、この人魚とかは...?明らかに職業ではなさそうだけど...。」

「簡単に言えば、人魚は歌による援護を得意として、幽霊は憑依の効果を上げるのよ。」

「歌?憑依?」

 司やアリシア達は、いまいちピンとこないようだ。
 まぁ、僕もよくわからない。

「霊力を乗せた歌は、仲間に加護のような効果をもたらすわ。素早さが上がったり、術の効果が強化されたりね。」

「憑依っていうのは....今は説明しても無駄だね。一応言うけど。」

 無駄...と言う事は、今はできないのだろう。
 蓮さんも少し寂しそうに目を伏せているし。

「憑依と言うのは、その式姫の力の一部を他の式姫や陰陽師に貸し与える事よ。」

「幽霊で憑依って言ったら、取り憑くってイメージだろうけど...まぁ、大体合ってるかな。憑依された者は憑依した者の力の一部を扱えたりするよ。」

「例えば、椿さんが私に憑依したとすれば、私が弓を扱える事になりますね。」

 ただし、やはり得手不得手はあるらしく、使える力に限度があるらしい。

「...便利だけど...二人は今まで使ってなかったよね?ユニゾンはともかく...。」

「...できないのよ。」

「妖が跋扈していた時代は、霊力とかが豊富でね...。なんというか、環境が変化していって、あたし達が全盛期の力を出せなくなってから、使えなくなったんだよ。」

「詳しい原因は不明だけど、一番の原因は主や方位師を失った事だと思っているわ。」

 つまり、環境が整っており、その上で相応の人員が必要と...。

「主は...今は優輝君がなってるよね?その方位師っていうのは...。」

「陰陽師を支える術師の事よ。遠征する際に、転送したり、念....まぁ、念話みたいなものね。それで会話したりもできるわ。また、式姫の召喚の手助けをしたり...。」

「とにかく、陰陽師を支える存在だね。憑依の儀式にも関係してるよ。」

「...だから今はできないと...。」

 現代じゃ難しいのだろう。さすがに椿や葵もそれらの知識が豊富な訳ではないし。

「...まぁ、そんな感じで、人魚と幽霊の二つは深く考えなくていいわ。」

「とりあえず、こんな感じで八つに分けたから、どれが一番自分に合うか試してみて。」

「相手なら私がなりましょう。」

 解説が終わり、次に実践に入る。
 葵の言葉を切欠に、それぞれがどんな職業に寄せるか試すようだ。
 その中でも、司は槍術師を真っ先に選んだらしい。...まぁ、元々シュラインは槍だからな。それ以外にないだろう。

「言い忘れていたけど、今言っていたのとはまた別に、“副職業”というのもあるわ。」

「これは...まぁ、兼業みたいなものだね。あたし達式姫にはそういう概念がなかったけど、陰陽師は職業という一種の加護を得ていて、本来なら一つの職業にしかなれない所を、一部分だけ加護を得る事で、その職業の力の一部を扱う感じだね。」

 ゲームで言うメインジョブとサブジョブの関係だろうか?
 となると、司で例えると副職業は巫女になるな。...主職業でも良さそうだが。

「深く考えなくていいわ。役割を絞る事で、極めやすいようにする措置なだけだから。」

「実際、全ての職業の力を自在に扱う陰陽師もいたしね。」

 確かに、ゲームのようにできる事...やる事を絞った方が極めやすい。
 そう言った目的も含めての“職業”だったのだろう。

「まずはどこから入るかと言う分野から選んでもいいわよ。」

「んー...悩むなぁ...。」

 並べられたそれぞれの職業の武器に、アリシアが悩む。
 ちなみに、武器(木製)を創ったのは僕だ。

「一通り使ってみたらどうだ?」

「そっか、その手もあったね。」

 どれが一番合っているかは相手をする僕らが見極めてもいいしな。
 そういう訳で、司以外の皆は一通り武器を試すようだ。





     ギィイン!

「...うーん...。」

 アリシアが放った矢を防ぎ、これで一通り見終わる。
 見ていた限り、どれが筋が良いか大体わかった。

「奏はやっぱり剣豪が一番合いそうだな。元々ハンドソニックが二刀のようなものだし、小太刀程の長さの二刀流が合っている。」

「...私も、しっくり来たわ。」

 奏も司同様、元々使っていた武器に近い職業が適していた。
 他に適正があるとしたら...武士か符術師だろう。身体強化とかも得意だし。

「アリサちゃんは武士か剣豪だね。あたしみたいに回避しながら斬るっていうのが一番合ってると思うよ。筋もよかったし。」

「へぇ...まぁ、あたしもなんだかしっくり来てたし、カッコいいものね。こういうの。」

 アリサは主職業が武士で副職業が剣豪と言ったスタイルが適していた。
 葵と似たようなスタイルで、回避型のアタッカーだ。

「すずかさんは槍術師か呪い師が合っているかと思われます。長柄の武器の扱いが出来ていましたし、術と併用していたので、味方を守りながら戦えるかと。」

「そう...かなぁ?術を使いながら戦うのはできるけど、武器は....。」

 蓮さんがすずかに適した職業を教えているが、あまりしっくりこないようだ。
 術を扱いながら戦う事はできても、武器がしっくり来ないらしい。
 それでも、筋はよかったと思うが...。

「呪い師ではいまいち術の火力に欠けます。それを補うためにも、槍術師が合うかと。」

「うーん...まぁ、慣れてみます。」

 すずかは指示や援護に適しているようだし、後ろから味方に指示を出して的確な防御を行う方が合っているかもしれない。
 職業に当て嵌めにくいが、強いて言うなら...という事で槍術師なのだろう。

「さて、肝心のアリシアは....。」

「...........。」

「あ、あの...椿?」

 アリシアの方を見ると、椿が悩んだ様子でじっとアリシアを見ていた。

「一見、弓道をやっているから弓術士が適していると思ったのだけど...。」

「だけど...どうしたんだ?」

 椿の困り様は、“どうしようもない”じゃなく、むしろ“どうするべきか”と言う、よくわからないような困り方だった。

「...所詮、弓道は“戦い”のための弓じゃない...って事ね。」

「え、えっと...結局、私は...。」

「...アリシア。」

 葛藤が少しあったのか、ようやく椿はアリシアに適している職業を告げる。

「...貴女は全部よ。」

「........はい?」

「だから、全部よ。全てに適しているわ。それも、器用貧乏よりも万能に近い感じでね。」

 ...それは、とんでもない才能じゃないだろうか?

「ええっ!?ぜ、全部って事はこの...八つ全て!?」

「ええ。どれも伸びしろがあるわ。」

 本人も自覚がなかったらしく、アリシアは驚く。
 ...確かに、傾奇者ですら筋はよかったな。

「だけど、そうなるとどれを伸ばせば...。」

「ぜ、全部とかはダメなの?」

「...本当にそうするのかしら?」

「う、なんだか嫌な予感...。」

 実際、全部を伸ばそうとすれば相応の苦労が必須となる。
 つまり...。

「...今まで以上に厳しく行くわよ?」

「やっぱり...!」

 短時間で上達するには、特訓の密度を上げるしかない。
 基礎が整えば整う程上達しやすくはなるが、アリシアには厳しいだろう。

「まぁ、目先の目標はなのは達に御守りを作る事だ。だから、呪い師や符術師、巫女辺りを重点的に伸ばせばいいんじゃないか?」

「...それもそうね。失念していたわ。」

「た、助かった...。」

 特訓で忘れがちだが、本来の目標はこれだ。
 膨大な霊力を制御する目的もあるが、アリシアの最初の目標は御守りを作る事。
 なら、まずはそれに適した職業を伸ばすべきだろう。

「あたし達の中で一番御守りや護符の制作に向いているのはかやちゃんだし、その間に他の皆は適正のある職業を伸ばそっか。」

「そうね。基礎しか教えていないから、応用を教えておくわ。」

「じゃあ、司とすずかは僕が、奏の相手は蓮さんで頼みます。葵はアリサを頼む。」

 この中で最も槍に慣れている僕は二人を、残りの二人は剣が扱える二人に任せる。

「よ、よろしく優輝君。」

「お手柔らかに...。」

「んー...優しくっていう保証はないけど、いっちょやるよ。」

 短期で上達するには実践あるのみだ。
 とにかく手合わせをして、ダメな所を指摘していく。
 持久力があまりつかないが、そこは後からでも補えるしな。

「槍って言うのは基本的に突きが主体だ。本来はそのリーチを生かすからな。だけど、肉薄されるとどうも取り回しが難しくなる。そこも含めて実践形式で教えていくよ。まずは司、シュラインを振るう感覚で来てくれ。」

「分かった。じゃあ...行くよ!」

「すずかもこれを見てできる限り学習してくれ...よっと!」

 自分用の木製の槍を創造し、司の突きを逸らす。
 すぐさま司は槍を回転させ、柄で攻撃。さらに回して連撃を放ってくる。

「はぁっ!」

「っと!」

 それらを躱し、横にずれると大きく薙ぎ払ってくる。
 だけど、それはあっさりと僕に受け止められる。

「素の身体能力だと、突きのスピードも取り回しも遅いな。次、霊力も自由に使用してくれ。術の併用も頼む。」

「了、解!」

 霊力も使うように言うと、途端に素早くなり、連続の突きが迫る。
 それらを、僕は槍の中心を持って小回りを利かせながら逸らす。

「ふっ...!」

   ―――“風車”

「甘い。」

   ―――“霊撃”

 突き、払いと器用に攻撃を繰り出して来るが、僕はそれを大きく弾く。
 隙を補うために司は霊術を使用するが、すぐさま僕は相殺する。

「はぁああああ....!」

「っと...!」

 その瞬間を狙うように、大振りの一撃が迫る。
 振り下ろされた槍を、僕は後ろに下がって躱すも、司はそれを地面に叩きつけて跳躍。
 槍を一回転させてさらに強力な叩きつけを放ってくる。
 もちろん、そんな大振りの攻撃は簡単に避けれる。

「っ....!」

「遅い!」

 すぐさま体勢を立て直して、僕の薙ぎ払いを防ぐ司。
 しかし、もう手遅れだ。そのまま僕は連撃を放って槍を弾き飛ばす。

「....強いね、優輝君...。」

「まぁ、ほとんどの武器は扱えるからな。」

 剣はもちろん、槍、斧、弓、棒、ハンマーやトンファーも使えるな。
 全部導王時代に扱えるようになったものだ。

「それで、司の反省点だが...。やっぱりあれだな。祈祷顕現や魔法に頼っていた節が見られる。基本的な槍の技術が大雑把だ。」

「あぅ...やっぱり...。」

 予想していたものの、実際に言われて司はへこむ。

「それと、まだ霊術が基礎しかできていないから、織り交ぜれていないな。ここは仕方ないから次第に慣れるしかないだろう。」

「うーん...槍を使った上手い動きがいまいちわからないんだよね...。」

 確かに、槍の上手い立ち回りは分かり辛い。
 リーチを生かした攻撃も、懐に入られれば役に立たないしな。

「槍は突いた後に細かく動かして攻撃して、懐に入られたら柄を使って攻撃を逸らすべきだな。ただ突くだけだと、隙だらけだ。実際、さっきも何度も反撃できた。」

「なるほど...。」

「詳しい説明は後にして...次はすずかだな。」

「...さっきので自信がないんだけど...。」

「まぁ、何事も挑戦だ。とりあえずやってみて。」

 すずかがおずおずと構える。

「とりあえず、霊術は身体強化一辺倒で、槍捌きを重点的に鍛えよう。ただ、余裕があれば...と言うより、“ここだ”って所で攻撃術を使ってもいい。」

「が、頑張ってみる...!」

 僕の見込み通りなら、夜の一族の身体能力もあって巧く動けるはず...。

「やぁっ!」

 単純な突きが迫る。やはり、槍の技術は素人そのものだ。
 とりあえず、大きく弾き、防げるタイミングで薙ぎ払う。

「きゃっ!?」

「(...さぁ、どう来る?)」

 防がせたが、僕はそのまま大きく吹き飛ばす。
 すると、すずかは空中で体勢を立て直し....。

「っ....!」

   ―――“氷柱”

「っと...!」

 霊術で攻撃してきた。さらに、着地と同時に僕へと肉迫する。
 落ち着いて霊術を相殺し、放たれた突きを逸らす。

「は、ぁっ....!」

「お....?」

 すずかはそのまま舞うように立ち回り、何度も突きや薙ぎ払いを繰り出してくる。
 元々身体能力が高いのもあり、上手い立ち回りだ。
 少し弾き飛ばすとすかさずに霊術で攻撃してくるのも巧い。

「(...見込み通りだな。)」

 とりあえず一度終わらすために、霊術を相殺して素早く突く。
 すずかの槍を捉え、弾き飛ばした事で手合わせは終了する。

「す、凄い....。」

「あれ....?」

 驚く司と、呆然としているすずか。
 まぁ、すずかのあの動きを見ればな...。本人もびっくりしているし。

「な?結構動けるだろう?」

「う、うん...。」

 すずかは学校の球技大会のドッチボールとかで凄い活躍を見せるからな。
 咄嗟の判断ができるのだろう。ただし、実戦じゃないのが前提だが。

「...私より上手く動いていたような...。」

「司の場合は魔導師としてのスタイルに慣れすぎているからだな。似たような動きをしていたから、それを変えようとして上手く動かせなかったって所だ。」

「そっか...癖とかで動きが阻害されるんだね。」

「そう言う事。反面、すずかは類似した動きすらやった事のない事にチャレンジしたため、身体能力と咄嗟の判断で行動して、結果的にいい動きができたって事だ。」

 ゲームとかそういうものでも、“初見の方が良い動きができた”と言う事がある。
 それと一緒のようなものだろう。...まぁ、最初だけだが。

「言い忘れていたが、すずかは思い切りが必要だな。元々運動神経は良いんだし、経験を積んでいけば自ずと上達すると思うよ。」

「すずかちゃんは戦略系のゲームもできたから、複数戦では司令塔も兼ねた方がいいかもしれないね。蓮さんが言ってたみたいに、味方を守りながらね。」

「そっかぁ...。」

 そうこうしている内に、アリサと葵の方も終わったみたいだ。
 アリサは結構息切れしているが、やっぱり葵は余裕らしい。

「やっぱり単調だねー。刀の振り方を教えた方がいいかな?」

「はぁ....はぁ....ぜ、是非そうしてもらいたいわね...。」

 木刀とは言え、何度も振るってそうとう疲れたらしい。
 ...武器の扱い方の基礎も平行して教えていかないとな...。

「...奏ちゃん、凄いね。」

「元々身体強化の霊術は一番出来てたし、二刀流は以前から使ってたからな。」

 そして、奏と蓮さん。
 短めの木刀二本を振るい、奏は蓮さんに斬りかかっている。
 しかし、蓮さんはその全てを木刀一本で全て凌いでいた。
 二人共霊力で身体強化しているとはいえ、あまりにも蓮さんが圧倒していた。

「はっ、はっ、....はぁっ!」

「....!」

     カン!カカァン!

 片方で防がせ、もう片方で切り裂く。...手数の差による常套手段だ。
 しかし、蓮さんは一瞬だけ一撃目を押し退け、瞬時に二刀共弾いて防ぐ。

「っ....!」

「...終わりです。」

 ついに隙を晒してしまった奏の懐に蓮さんは接近し、首に木刀を据えて終了する。

「動きも立ち回りも我流にしては筋がいいです。しかし、一撃一撃が軽いですね。」

「はぁ....はぁ....やっぱり、そこが欠点...。」

「自覚はしていたようですね。後は基礎を整え、その欠点をなくせばいいでしょう。」

 霊力を用いた戦いで、最も優れているのは奏のようだな。
 元々身体強化は得意だし、砲撃魔法や射撃魔法のような技が使えない事以外は大して変わっていないからな。

「少し休憩したらもう一度だ。アリサとすずかはとりあえず自衛の手段として覚えているから、今度は守りを重視してみてくれ。」

「わ、わかったわ...。」

「攻撃は苦手だけど、防御なら...。」

 二人共女の子な事には変わりない。椿たちと違って、二人は人を攻撃する事を躊躇う。
 それが上達の妨げにもなっているのだろう。...まぁ、そこは仕方ないだろう。

「っ、ぁああ~!!暑い!疲れたー!」

「...一度休憩しましょうか。」

 アリシアの方も一旦休憩に入ったようだ。
 ...まぁ、確かに暑いからな...。仕方ない、少しサービスするか。

「水属性と風属性の術を合わせて...即席クーラーの出来上がりってな。」

「あ、涼しい...。」

 この二つの属性を使った術で“氷血旋風”と言うのがあるが、これはそれを攻撃にならない程度にまで弱めたものだ。
 冷たい風を起こしているようなものなので、相当涼しいだろう。

「彼女達は自衛や、誰かを守るために研鑽を積んでいると聞きましたが...貴方はどういった理由で研鑽を積み重ねているのですか?」

「...突然ですね。まぁ...蓮さんと同じ理由ですよ。」

 休憩中、蓮さんにいきなりそう聞かれたので、正直に答える。

「私と...?」

「無力を感じた...だから繰り返さないためにも、今度は大丈夫だと胸を張って言えるように、僕は強くなり続けるんです。...そうでしょう?」

「.....なるほど。確かに、私と同じですね...。」

 蓮さんは常々真面目すぎる。
 だから、無力を感じてずっと研鑽を続けてきたのだろう。
 ...そう、“無力を感じた”んだ。僕のように。

「......。」

「お互い、頑張りましょう。」

「...そうですね。」

 過去に“何か”があった。それも、椿や葵にあった事と同じことが。
 ...おそらくは、話に出てくる前の主“とこよ”なる人物が関わっているのだろう。

「...敬語はなくて構いませんよ。私も癖とは言え人の事を言えませんが。」

「そう...かな?...気楽に話せるならそっちにするけど...。」

 無闇に聞く必要はないだろう。既に過去の事だからな。
 そう思いつつ、僕は蓮さんの言葉に甘え、敬語を外す事にした。

「...さて、休憩中も霊力を循環させるようにな。そうすると自然回復も早くなるし。」

「そうね。特にアリシア、霊力を制御するのにも丁度いいのだからそうしなさい。」

「うぅー...こういう持続系は苦手なんだけどなぁ...。」

 過去にどんな事があったか、確かに気にはなる。
 だけど、今はこうして皆の成長を見守るだけでもいいだろう。

 この後、実戦形式の特訓は続き、夕方まで皆を鍛えた。
 これでだいぶ上達しただろう。...代わりに油断すると筋肉痛になるけど。
 ちなみに、昼食は翠屋に行って済ませておいた。









 
 

 
後書き
各職業の説明には独自解釈が多々含まれています。また、御札による攻撃が符術師の技に含まれている扱いですが、かくりよの門ではそんな設定ありません。独自設定です。
...実際、ゲームシステムにある程度沿っていてもこれぐらいは出来てしまうと思います。

アリサとすずかの武器はinnocentを参照にしています。(剣と槍)
アリシアは....まだ未定です。

次回からはまた一話ずつの更新に戻ります。 
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