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提督はBarにいる。

作者:ごません
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実録!ブルネイ鎮守府24時・その2

09:00 【書類仕事は山の様です】

 ミーティングが終わると、大淀さんと一緒に書類を仕分けたりサインを入れたりしていきます。どうしても提督ご本人のサインが必要な物以外は大淀さんが代筆していますので、多少は楽ですが……。

「それでもこの書類の山は、凄いですね」

「そうですか?一時期はこの3倍はありましたよ」

 手を動かすのは止める事無く、大淀さんがそう言ってのける。

「今よりも奪還した海域が少なかった頃は遠征と護衛任務、それに海域奪還の為の出撃も多かったですからね。それを処理する為の書類が減っただけ、今はまだ楽ですよ?」

 今でも大規模作戦の際にはこの倍くらいの量にはなりますよ、とも大淀さんは言っている。うえぇ、これよりもっと多い時期もあるんですか……。

「ほら、親潮さん!手が止まってますよ?」

「ああっ!ごめんなさい!」

 事務仕事だけでも重労働です……




10:00 【帰還報告はてんやわんやです】

 10時頃になると遠征から帰ってきた皆さんが帰還報告にやってきます。後で報告書も上げてもらうそうなのですが、帰還報告の時にも運んできた物資の量、使用した弾薬・燃料の量、受けた損害などを聞いてメモしていきます。後で提出してもらう報告書と照らし合わせてチェックするためだそうですが、大淀さんが聞いている事をメモするだけでも大変です。

「えぇと、燃料が30に弾薬が100……それと高速修復材が1と。他には何か報告すべき点はありますか?」

「ん~、特にはねぇぜ?」

 私が聞き取りをしているのは天龍さん。先程長距離練習航海から帰還して、荷降ろししたその足でこちらにいらしたそうです。

「嘘おっしゃい、何で卯月ちゃんがずぶ濡れなんです?」

 後ろから口を挟んできたのは大淀さん。同時に帰還報告に来た遠征部隊の対応をしていたのに見逃さなかったんですか……流石です。対して天龍さんは慌ててますね、明らかにマズい物が見つかった、という感じです。

「い、いやぁ、別に、これはさぁ……」

「卯月がよそ見してて、岩礁に足引っ掛けて転んだ」

「ちょ、弥生ぃ!?何でバラしちゃうぴょん!……あっ」

 弥生さんの自白(?)により、卯月ちゃんの慢心が発覚。背後から恐ろしいオーラを感じます。

「卯月ちゃん?」

「は、はひぃっぴょん!」

「何で、よそ見なんてしてたんです?」

「あぅ、そのぉ……道中大きなカモメの群れに遭遇して、心がぴょんぴょんした結果ですぴょん……です」

 卯月ちゃん、大淀さんの迫力に怯えて日本語がおかしくなってます。ちょっと可愛い。

「卯月ちゃん?」

「はひぃっ!かかか、解体はしないで欲しいぴょん……」

「しませんよ?解体なんて」

「ふぇっ?」

「慢心は怪我の素です。どんなに簡単に思える任務でも、気を抜いてはいけません。解りましたか?」

「はいですぴょん!」

 ふぅ、と溜め息を吐き出した大淀さんは何かの資料をペラペラ捲っています。

「卯月ちゃんはずぶ濡れですから念のためお風呂に入って体調を整えて下さい。天龍さん達は15分の小休止の後、再び長距離練習航海に出てもらいます」

 お咎めは無し、なのでしょうか?天龍さんと卯月ちゃんもホッとした様子です。

「あぁそれと、今回の件は提督に報告しますからそのおつもりで」

 それを聞いた瞬間、卯月ちゃんは引っくり返って気絶してしまいました。悪戯の常習犯である卯月ちゃんは、提督にこっぴどく怒られてから軽くトラウマになっている、というのは後から聞きました。

「ちょ、俺も悪いのか!?」

「当たり前です、部下のミスを隠すその優しさは評価できますけどそれを隠蔽しようとしたのは重大な責任問題ですよ?」

「うぐぅ……」

 天龍さんは正にぐぅの音も出ないといった様子で、トボトボと執務室を出ていかれました。気絶した卯月ちゃんはズルズルと弥生ちゃんが引きずって行きましたが、あれで大丈夫なんでしょうか?やっぱり大淀さんは恐ろしい方です。




11:00 【工廠はとっても勉強になります!】

 大淀さんと連れ立って、工廠にやって来ました!春の大規模作戦に備えて装備の開発や改修を行うそうです。

「おはよう、親潮ちゃん。今日は秘書艦なんだ?」

「お早うございます、明石さん」

「無駄口叩いてないで、とっとと仕事しなさいよこの淫乱ピンク」

「ちょっ、また淫乱ピンクって呼ぶし!」

 大淀さんと明石さんはとても仲良しです。鎮守府設立当初からの付き合いだそうですから、それも当然なのかも知れませんが。

「さて、開発は零戦狙いで4回。建造も最低値で4回行うようにとのご指示です」

「あ~、改修に回す分か。んじゃ手の空いてる空母の娘、誰か呼んでくれる?」

 明石さんが近くに居た妖精さんにそう話しかけると、頷いた妖精さんが内線を使ってどこかに連絡を入れます。その間にも建造の準備を進めていく明石さん。

「あの、明石さん?」

「んー?どしたの親潮ちゃん」

「現在ウチの鎮守府には300を超える艦娘が在籍してますよね?それなのに更に増員するんですか?」

「あ~、違う違う。今ウチで建造してる娘は他の鎮守府に送り出してるの」

 明石さんによると、日本海軍は現在、鎮守府や泊地とは呼べない位の大きさの艦娘運用の為の拠点を多数建設中らしい。そして哨戒区域を細かく分けて、鎮守府1つ辺りの負担を減らすという政策を取っているそうで、艦娘の手が足りないそうです。そこで、比較的資源に余裕のある鎮守府に物資の融通を見返りに建造を要請し、体裁を整えているそうだ。

「だから、ウチで建造しても損は無いの。寧ろ建造した分よりも多く資源が入るから、実質黒字なんだから!」

 ウハウハと笑う明石さんを見ていると、何だか悪い事をしている人に見えてきました。そんな事を考えていると、

「明石さん、翔鶴参りました」

「しょしょしょ、翔鶴さん!」

 やって来たのは五航戦姉妹の姉・翔鶴さんだった。なんでも、他の空母の人達は演習やら遠征やらで忙しく、手の離せる人が居なかったらしい。

「いや~悪いねぇ。確か今日は非番だった筈でしょ?翔鶴」

「いえいえ、この程度のお手伝いでお役に立てるなら、私も嬉しいですから」

 艦娘の兵装開発はかなり特殊です。妖精さんの作った開発マシンという機械に資材を入れて、スイッチを押すとランダムに何かが出来上がる……らしいです。その時、スイッチを押した艦娘の艦種によって出来やすい物に偏りがあり、一定の確率で失敗もするらしいです。

「んじゃ、今回は零戦52型狙ってくから、ちゃんと念じててね?」

「はい、いつでもOKです!」

 明石さんが資材の投入口に陣取り、翔鶴さんがスイッチの前に立ちます。

「えぇと、燃料20、鋼材60、弾薬が10にボーキが110と……翔鶴、押して~!」

「では、行きます!」

 緊張の瞬間です。暫く唸りをあげていた開発マシンから、チーンという音がしました。取り出し口の蓋を開けると……

「あ~惜しい!21型かぁ」

 零戦は零戦でしたが、52型よりも前の21型が出てきました。でも、まだ諦める時ではありません!そんな私をよそに、大淀さんは腕時計をしきりに気にしています。

「明石、すいませんが私達はそろそろ執務室に戻ります」

 えっ!?開発の結果を見届けないのですか!しかし明石さんは工廠内の壁掛け時計を見て納得したようで、

「あ~、そろそろ提督起きてくる時間だもんねぇ。解った、残りの3回はこっちでやっとくよ」

「開発結果はちゃんと報告してくださいよ?」

「解ってるって、アンタとは付き合い長いんだから」

「じゃ、任せます。……親潮さん、行きますよ」

「あっ!は、はい!」

 色んな所を走り回って……秘書艦って大変です。
 
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