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時代が違えば

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第二章

 そしてワイルド自身もだ、天国でだった。
 彼が死んだ後のイギリスを見てだ、天使の一人にこんなことを言った。彼の好きな乗馬服を着ていて頭には輪がある。
「若しもだよ」
「はい、貴方が後世にいればですね」
「私はああした晩年を過ごさなかったかな」
「そうでしょうね」
 天使はワイルドに率直な顔で答えた。
「やはり」
「やっぱりそうなんだね」
「まあ貴方のことですから」
 ワイルドの顔をよく見てだ、天使はこうも言った。
「その世の中の摂理を無視した生活は言われていたでしょうが」
「同性愛を含めてだね」
「放蕩とかデカダンスでしたからね」
 ワイルドの生活、それはというのだ。
「美、芸術至上主義はいいとしまして」
「それは私の作風にも出ているよね」
「はい、存分に」
「私の美は耽美なのだよ」
 このことをだ、ワイルドは述べた。
「それが作風なのだからね」
「生活にもですね」
「出ていたというのですね」
「それだけなんだがね」
「そのそれだけが問題なんですよ」
 ワイルドの場合はとだ、天使は彼に自身に言った。共に雲の上から下界のロンドンを眺めつつ。
「貴方はそう思っておられても」
「私は糾弾されていたんだね」
「はい、ただ同性愛は」
 彼が牢獄に叩き込まれそこから寂しく無残な晩年を送ったきっかけになったこの嗜好はというと。
「今のイギリスではです」
「多くの人が楽しんでいるね」
「ですから。私は神の僕なので認めたくないですが」
 キリスト教は同性愛を禁じているからだ、そもそもワイルドが投獄されたのもキリスト教の倫理から作られた当時の法律による。
「その通りですね」
「そうだね」
「ですから貴方もです」
「投獄されずに済んだんだね」
「はい、そうです」
「となるとやっぱりだね」
 ここまで聞いてだ、ワイルドはその形のいい顎に手を当てて述べた。
「私はああした晩年を過ごさずに済んだんだね」
「梅毒も治る病気になっていましたしね」
「そして名作を書き続けていられた」
「はい」
 まさにというのだ。
「そうなっていました」
「そうだね」
「まあ梅毒は置いておきまして」
 当時は死に至る病気でありワイルド自身も直接の死因であったこの病気のことはとだ、天使は彼に話した。
「貴方は裁判になっていませんでした」
「逆に侯爵を名誉毀損で訴えていたしね」
「そちらで勝っていたかも知れないですね」
「では私はやはりだね」
「今現在のイギリスに生まれていれば」
「逮捕もされないで」
「大作家、文豪と言われていたでしょうね」 
 彼の文才を以てすればというのだ。 
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