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巫女のホグワーツ入学記

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組み分け? どうでも良い

 
 残りの夏休みの合間に、私は教科書を全て暗記した。
 ジニーと同室で過ごしているが、教科書だけでは飽きてしまい、私はダイアゴン横丁の「フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店」で数冊の本を購入。本にはあまり興味はなかったが、魔法界の本はとても興味深い。

 幻想郷内の知識しかない私にとって、新しい世界の魔法やら歴史やらはとても新鮮なのだ。まぁ基本的に寝てる事が多いけど。

 私は部屋に籠もりっぱなしというわけではなく、幻想郷での機能が魔法界でも使えるかの確認をした。
 人目のつかない森の奥深くまで行き、手持ちのスペルカードと陰陽玉を試す。結果、幻想郷と同じく強大な力を持っていた。

 ありがたい事に、スペルカードや陰陽玉は魔法省には感知されないようだった。
 ヴォルデモート卿は、ハリー・ポッターによって力を失っているだけで、きっとまだ生きている。
 そう考える人が大多数だ。もし仮に彼が復活した場合に備え、いつでも万全な状態にしておかなければならない。死んだら再スタートというルールがある故の行動だ。
 善か悪か傍観者か、どの定位置につくかはまだ決めていない。
 何方にしろ、死ななければ話が終了するまで続くのだ。

 ガイドブックに書いてあった事を思い出すと、善についた場合はヴォルデモートが死んだら物語が終了。
 悪についた場合はハリー・ポッターが死んだら物語が終了。傍観者は不明だが、確実に何方かが死ぬまで続くのだろう。

 何方にしろ、敵の息の根が止まらないと物語は終わらない。
 元々の話だと、ハリー・ポッターが勝利するのだろう。なので、傍観者の場所にいてもいつかは物語は終了する。
 パチュリーは、「紅魔館メンバーと観る」と言っていたような気がする。どうせ幻想郷の時間は進んでいないし、このまま私が楽しんでも良いかもしれない。しかしまぁ、今決める事ではないだろう。



 そして遂に、私がホグワーツに入学する日がやってきた。


 相変わらずウィーズリー家にお世話になってしまっているが、彼等は快く受け入れてくれる。
 とても優しい人達だ。パーシーも、私に対して訝し気な表情を浮かべるのは止め、家族と同等に接してくれ始めた。

 ホグワーツへは、イギリスの都市ロンドンのキングス・クロス駅、9と4分の3番線に乗って行くらしい。
 私達は、空飛ぶ「車」というマグルの乗り物に乗り込み、キングス・クロスへと向かった。その車という乗り物は、アーサーの持ち物のようで、見た目と裏腹に中は全員が乗れるほど広かった。きっと、魔法で広げたのだろう。
 何時間か車で移動し、ついた先は巨大な駅だった。幻想郷には汽車やら駅やらはないが、とても立派なものだと聞いている。

 マグルだらけの駅へ飛び込む大勢の魔法使い。
 もう手慣れているのか、モリーは私達を連れてズカズカと歩いている。ただでさえ赤毛の集団という事で人の視線を引いているが、その中でも巫女服を着ている私は、完全に浮いていた。
 モリーは私に服を買ってくれようとしたが、私は巫女服の方がしっくりくるし動きやすいので、これ以外の服は出来ればきたくなかった。それでもホグワーツは制服に着替えなければならない。
 人間の里の寺小屋なら、私服で構わないのに…

「本当にマグルでいっぱいね…いらっしゃい。9と4分の3番線はこっちよ」

 モリーは軍団の先頭を切って、自分達が目立っている事もきにせずに早足で歩き続ける。
 すると、後ろから白ふくろうを持った眼鏡の少年が追いかけてきた。ふくろうを飼うのは魔法使いの特徴でもあるので、恐らく迷った新入生だろう。私は気が付いたが特に気にもせず、ウィーズリー家の後をついていった。
 赤毛の母親は4番線と5番線の間で止まり、息子達を促した。

「フレッド、行きなさい」
「ホホイノホーイ、フレッドちゃんが通りますヨォ」「おい待て、フレッドは俺だぞジョージ」
「どっちでも良いから行きなさい」

 フレッドとジョージの区別、モリーはついているようだったが、二人はよく嘘をつくのでもっと分からない。
 彼等は二人揃って、仲良く肩を組み、トランクの乗せたカートと共に壁の奥底へと消えていった。あまりに唐突な事だったので私も目を疑ったが、きっとこれが9と4分の3番線への行き方なのだろう。
 すると、眼鏡の少年が私に声をかけてきた。

「すみません、僕、9と4分の3番線の行き方が分からなくて…」
「あら、それなら私も同じよ。ん…?」

 私は少年の額に、稲妻型の傷跡がある事に気がついた。間違いない、彼がハリー・ポッターだろう。モリーは行き方を知らない私達に説明を始めた。

「あら、貴方も今年ホグワーツ入学なのね。駅の行き方は簡単なのよ、4番線と5番線の間の壁を通れば良いだけ。その時、怖い!とか行けない!とか思ったら激突するから気をつけて。小走りでも良いから、行ってみたらどうかしら?」
「眼鏡、行くわよ」
「えッ、う、うん!」

 私はハリー・ポッターの手を引き、一緒に壁の中へと飛び込んだ。
 私達は壁にぶつかる事などなく、そのまま進んでいた。ハリー・ポッターの感嘆の声が聞こえた。それもそうだろう。

 9と4分の3番線は、数多の魔女や魔法使い、その子供達で溢れかえっていた。紅の汽車より出る真っ白な煙が駅に充満し、それはそれで幻想的だった。私はハリー・ポッターを適当な場所に押し込み、ロンを待った。別に主人公と親しくなろうなどという気はない。

 ロンが出てくると、私は先に乗っているわとだけ言い、一人で紅の暴れ馬に乗り込んだ。
 小さなコンパーメントが各々にあり、どれも生徒がある程度乗り込んでいた。
 ハリー・ポッターも見つけられなかったので、私は仕方なく近くのコンパーメントをノックする。
 中を覗いてみると、シルバーブロンドの髪の少年と厳つい少年2人が中に座っていた。

「何の用だい?」

 シルバーブロンドの少年は、扉越しに私に話しかける。

「私もそのコンパーメントに入れてもらえない?」

 彼は私の姿を穴の開くほど見つめ、やがてはこう言った。

「僕が誰だか知って言っているのか?」
「さぁ? 魔法使いかしらね」
「ただの魔法使いと一緒にするな。僕は『純血』だぞ」

 あぁ、彼のような人物が純血主義というのか、と私は心の中でため息をついた。別に肯定も否定もしない。自分の考えを持つ事は悪い事ではない。入れてくれないのならばと私は彼に向かってこう言う。

「それを言うなら私も純血よ」
「…そうか、なら良い。入れ」
「命令口調が気に食わないわ。でも、ありがとうとだけ言っておく」

 私はそれだけ言うと、ドアをスライドさせて開け、中に入った。シルバーブロンドの少年の隣に座った。

「名前は?」
「普通は自分が先に名乗るものだけどね…博麗霊夢よ」
「ハクレイ、レイム? そんな名は聞いた事ないぞ」
「そりゃあそうよ。魔法界と接点はないんだから。でも私の一族は代々、特殊な力と霊力と魔法力を持っていたわ。あぁ、博麗が苗字よ」

 嘘は言っていない。代々の博麗の巫女は、私と同じように強大な力を有していた。魔法使いの家系というわけではないが、巫女も魔法使いもそれほど変わらないだろう。ただ文化が違うだけ。やっている事は似通っている。

「そうか。こいつらは、クラッブ、ゴイルだ。僕は、ドラコ・マルフォイ。由緒ある魔法使いの家系の人間さ」
「そう、宜しく」

 汽車が汽笛をあげ、動き始めた。最高速度まで達しても、私が飛んだ方が断然早い事は確かだった。
 私はそれから、ドラコ達と色々と魔法界について話した。知識はかなり備えていたので、話に置いていかれる事はなかった。

「霊夢は、学校の寮は何処に入りたい?」
「そうね…私は学べるならば何処でも良いわ。正直、寝泊りする寮が違うだけでしょう?」
「そんな事はない。それぞれの寮にそれぞれの意味がある。僕は断然、スリザリンだ。選ばれた者だけが入る事を許される寮。ハッフルパフなんかに入ったら僕は死ぬね。レイブンクローはまだマシだろうさ。でもグリフィンドールなんかは猿みたいに野蛮な連中しかいない。やっぱり、純血一族はスリザリンであるべきだ」
「あっそう」

 ホグワーツには四つの寮があり、グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンだ。どれも歴史ある立派な場所だと聞く。素質や才能によって分けられるらしいが、正直私は何処でも良い。
 一人でも生きていける。友人など作らなくても、とりあえず寝泊りする場所さえあれば良い。

 ホグワーツ生は何方かといえば、三人程のグループで行動すると聞いたが、特に一緒にいる意味もないだろう。
 寮を選べと言われたら、ロンやフレジョと同じ所を私は選ぶと思う。その方が、隠れ穴に戻る時も楽だろうし、知り合いと一緒の方が楽しいに違いない。異変解決の度に集まる妖怪達だって、毎度毎度博麗神社で酒を飲むが、迷惑と言いつつも私だって楽しんでいる。

 幻想郷が特に愛おしいとは思わない。たくさんの妖怪やら人間やらに囲まれてはいるが、私は結界を維持するだけの巫女。
 このまま帰らずとも良いかもしれない。どうせ時間は止まっているし。永遠のループを繰り返したってーー

「霊夢、おい霊夢! 聞いているのか?」
「…何? 考え事をしてたんだけど」
「ちゃんと聞け。折角話してやっているというのに…」
「で、何の話だっけ?」

 ため息を漏らしつつ私は隣のドラコをジロリと見る。

「魔法界にあまり接点がなかったお前に、僕が詳しい事を教えてやってるんだ。それも覚えてないのか?」
「私、3歩歩くと忘れるタイプだから」
「1歩も動いてないよな?!」

 ドラコの言葉を聞き流しつつ、私は外の景色に目を向けた。
 日が落ち、空が真っ赤に染まっている。月の姿も見えてきた。そろそろホグワーツへ到着するはずだ、とドラコが言う。
 私はコンパーメントの外に出て、ドラコ達の着替えを待つ。その間、私は辺りを見回した。私と同じく、着替えのため締め出されている生徒が見られた。純血社会は狭く、顔見知りも多いようなので、彼等は知り合いを見つけて駄弁っていた。

『ねぇねぇ、それでアルがねぇ〜』『純血主義というもんは…』『ハリー・ポッターが今年入学らしいよ』『え、何処のコンパーメント?』
「ハリー・ポッター…やっぱりあの眼鏡が、なのかしら」

 そういえば、ロンやフレジョなどは見かけなかった。きっと別の車両にいるのだろう。
 探されている様子もないので、こちらとしては万々歳だ。できれば一人が良い。

 その後、ドラコ達を締め出して私も着替えを始めた。巫女服の紐を解きつつ思う。
 もうこの巫女服とはお別れをしなければならないという事が、何だか寂しかった。
 肌身離さずいつでも身につけていた巫女服が、この肌触りが、恋しくなりそうだ。私は巫女服をたたみ、制服のローブに着替えた。スペルカードと陰陽玉をローブの方へとしまいこむ。慣れない不思議な服装に、私は大きな違和感を覚えた。

「リボンだけは、ずっとつけていよう」

 頭の上にある大きな赤いリボンは、せめてもの巫女の名残として。
 ホグワーツの校則では、服装に関しては制服を着用していればオーケーというものなので、リボンを取れと言われる事はないだろう。

 冷たい地上が分厚い闇に閉ざされ、朱を散らした汽車は綿を翼に変えた。目指すのはホグワーツ。汽車が黒を切り裂き、煙たい白で染めた。真珠のような光が、向こう側にいくつも見える。人里離れた魔法の世界で、私は何を学び、何を思うのだろう。
 ただ今は、目を閉じて描こう。美しい壮大な景色を。

 *

 汽車が止まった。黒染めの生徒達はざわめきだけを残し、次々と外へ飛び出していく。私はドラコの後に続いて、汽車を降りた。同じ服装ばかりで誰が誰だか分からないようにも見えるが、ロンの赤毛は健在していた。
 暗闇の中で燃え盛る炎は何よりも目立つ。私は人をかき分けて、ロンの所までやってきた。誰かと隣り合わせに話している様子で、私は後ろから肩を叩く

「ロン、私よ私」
「え、ワタシワタシ詐欺? ごめん、お金持ってないんだよなぁ」
「電話越しじゃないでしょうに」
「ごめんごめん」

 ロンは謝りつつも、笑いながら振り返る。ふと彼の話ていた相手を見ると、あの「ハリー・ポッター」だった。丸眼鏡にエメラルド色の瞳、真っ黒な髪の下に隠れた稲妻型の傷跡は、やっぱり彼だ。

「ハリー、彼女は霊夢だよ。博麗霊夢。ええっと…苗字が博麗で、名前が霊夢だよね」
「そう」
「僕はハリーだよ、ハリー・ポッター」
「やっぱりね。まぁ宜しく」

 この物語の最重要人物が此処に2名。ガイドブック曰く、後もう1人いるはずだ。
 マグル生まれの栗毛の少女、成績優秀でハリーとロンをサポートする側にあたるもう1人の親友。名前は何だっけ? 今の所は、実際の物語通りに進んでいるのだろう。ただ私が割り込んできたというだけで。

 その後、案内人であろう髭もじゃの大男に続いて、新入生は9と4分の3番線の終着点である「ホグズミード駅」を降り、そのまま進んだ。
 そこには大きな湖が広がっており、私達は3人乗りのボートに乗り込む。
 漕がずとも勝手に水の上を滑るボートの下では、大きな力強い生命が絶えず行き来していた。

 やがて橋が見え、壮大な城が見えてきた。
 紅魔館なんて鼻で笑ってしまうほど、大きな美しい城だ。

 湖面には城と月が映りこみ、揺れ刹那に消えていった。
 薄雲が割れ、饅頭の惑星が顔を覗かせた。
 厭世になんてならないほどの、素晴らしい景色だ。

 私は幻想郷とはまた違った光景に、目を奪われてしまっていた。
 途端に、自分のいた世界が狭かった事を感じる。

 ボートを降りて、城の中へ足を踏み入れた。大男は去って行ったが、やがて威厳のありそうな女性の魔女がやってきた。
 四角い眼鏡を押し上げ、”今から大広間にて「組み分けの儀式」を始める、自分は副校長のミネルバ・マクゴナガルだ”と告げる。新入生達は、自分達に一体どんな試練が待ち受けているのだろうと心配そうな表情を浮かべていた。
 しかし私は何も感じる事なく、ただ無となっていた。

 目の前の大きな扉が開かれ、私は新たな世界を開拓する第一歩を踏み出した。まだ何を成すかは決めていない。成り行きに任せるのもまた一向。上から見下ろすのも、下から見上げるのもまた楽しいだろう。
 しかし、その選択の第1回目は、この組み分けだーー

 大広間には4つの長いテーブルがあり、そこには各寮の生徒達が座り、入場してくる新入生を眺めていた。天井は穴を開けたかのように、外の満点の星空が見えた。空中には数多のロウソク達が揺らめき、ゆっくりと動いていた。
 上座のテーブルには、大人の魔女や魔法使い達が座っていた。恐らく教職員なのだろう。校長とおぼしき白ひげの半月形の眼鏡をかけた、相当なお歳の老人魔法使いだ。恐らく彼が、アルバス・ダンブルドア。ガイドブックには、『愛を愛するお茶目な腹黒ジジイ☆』とだけ載っていた。

 新入生を引率したマクゴナガル先生は、教職員テーブルの前に椅子を置き、その上に古ぼけた魔法使いの帽子を置いた。魔理沙の被っていた帽子に似ており、ズタズタに引き裂いてやりたい衝動に駆られるが、此処は我慢我慢…!
 すると、帽子がパックリと割れ、そこが口のようになり、帽子は歌い出した。下手でも上手でもない歌は、正直耳障りでしかない。寮の説明のようで、新入生ーー特にマグル生まれの子ーーは聞き入っていた。
 歌が終わると、大広間が拍手に包まれる。マクゴナガルは羊皮紙の巻き髪を取り出し、大きな声で言った。

「今からABC順に名前を呼ぶので、呼ばれた生徒は出てきて、この帽子をかぶりなさい」

 それから、次々と名前を呼ばれた。そして、ついに私の名前もーー

「ハクレイ・レイム!」

 私は一息ついて歩み始め、皆の前で帽子をかぶった。すると、帽子は頭の中にこんな言葉を投げかけてきた。

「うーむ、難しい子だ…才能も、知識も、狡猾さも、勇気も、優しさも、人望さえも…君のように全てが整いに整った生徒は実に久しい。しかし、君には『意欲』こそがない。『野心』もないな…一先ずの日常が得られれば十分といった所か。さぁ、何処に入れたものか…」
「どうぞ、適当な場所に入れて頂戴。数合わせでも構わない」
「適当? 本当にそれで良いのか? 君には様々な可能性がある」
「寮なんて、ただ寝泊まりするだけ。何処でも良いわ」
「それは違うぞ」

 組み分け帽子は一息つくと、皆に聞こえるような大きな声で言った。

「寮とは、同じ志や同じ考え、そして同じ趣向を持った者達が集まり、お互いに高め合っていくものである! つまり、狡賢いが勇気の欠片もない者がグリフィンドールに入ったら、頭のキレの悪い者がレイブンクローに入ったら、挑戦を恐れ自分の意見を持つ事ができない者がスリザリンに入ったら、人を慈しむ心のない者がハッフルパフに入ったら!! ホグワーツで過ごす意味が皆無となる。
 人は誰しも、頭と心の奥底に、誰もが羨むそれぞれの才能が眠らせている。それを見つけ出して相応しい寮へと送り出すのが私、『組み分け帽子』の役目だ。寮は、決して意味のないものではない。その隠された才能を開花するための、重要な場所なのだ!!」

 皆突如として叫んだ組み分け帽子に驚きの表情を浮かべた。彼は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと私にしか聞こえない声で再び話し始めた。

「君には、人でも生物でも、何でも惹きつける力があるね。でも、君は実質それを仲間だとは思っていない」
「友人とは思っているわ」
「その点は、スリザリンに相応しいだろう。しかしどうだろうか。それと同時に、誰かを助けるのが自分の役目だと思っているし、何事も恐れる事などない。グリフィンドールにも相応しい」

 確かに私は幻想郷の立場上は「異変」を解決し、人を助けなければならない。が、別に自負しているわけでもないし、私が何かを恐れる事がないのは、私が巫女だからだ。それは博麗の者として必然なのだろう。

「おや、自負していないと? そんなまさかぁ〜」
「ウザい」
「正直だな…君はまだ、自分がどのような道を進むかを決めていない。しかし、今決めるべき事ではない。そうだろう? 自分の選ぶ道にとって、自分の寮はただの壁にしか過ぎない。壁が嫌ならただ蹴破れば良いだけの話だ。私は、君の人生を決めるにはあまりにも小さな存在だ。故に今は、君に相応しい寮の名を伝えるとしよう」

 私は心なしか、それなりにワクワクしていた。

「…スリザリン!!」

 組み分けの言葉は永遠として天井に響き渡った。頭の奥深くに刻まれるような拍手が私を包みこむ。あまりに一瞬な事で、私は少しだけ考える事を止めてしまった。ただ無意識に帽子を脱ぎ、スリザリンのテーブルに歩いて行く。ただそれだけだった。
 轟然は瞬く間に消え去り、次の組み分けが始まった。それも束の間、グリフィンドールのテーブルから失望の声が聞こえてきた。フレジョやパーシーは、スリザリンにつく私を見ながら悲しそうな顔でいた。

「ようこそ、スリザリンへ」

 数名が私に笑いかけたが、私は素っ気なく返しただけだった。純血主義に興味はないので、スリザリンの人間とはあまりソリが合わなさそうである。
 その後、ドラコ、クラッブ、ゴイル等がスリザリンのテーブルにやってきた。

「やぁ霊夢、君はきっとスリザリンだと思っていたよ」
「えぇそうね。正直、何処でも良かったんだけど」
「まぁ、そうかもな。あんなに組み分けに時間がかかるなんて…」

 そう言うとドラコは、私の隣に座る。周りのスリザリン生の熱い視線が何だか痛かった。ただそれを向けられているのは私ではなく、隣に座るドラコ・マルフォイというガキなわけだが。
 その後も、組み分けは続いた。ロンは血筋的にもすぐにグリフィンドールに組み分けされた。さぁ、今からハリー・ポッターの組み分けだ。

「ポッター・ハリー」

 マクゴナガルがそう言った途端、大広間はざわめきに包まれた。今何て言った? ハリー・ポッター? 嘘だろ、ハリー・ポッターなんて…ーーそんな台詞が星空の中で飛び交った。緊張して固まりながら歩くハリーを見て、ドラコは鼻で笑った。

「あれが英雄様かい? 『生き残った男の子』も、大した事はないな」
「確かに彼は、かなりオドオドした様子ね」

 ハリーは帽子をかぶると、目を瞑って組み分けを待った。まだだ、まだ組み分け帽子は寮の名を言わない。やがて、「グリフィンドール!」と叫んだ。
 その後、宴会が始まった。ホグワーツの食事はウィーズリー家のよりも豪奢だったが、やはり母の味というものには敵わない。
 スリザリンの人間は私の家の仕事にとても興味を持ったようで、詳しく聞いてきた。

「じゃあ霊夢は『巫女』っていう奴なんだな」
「そうよ、だから魔法界とは接点は持っていなかったの」
「お母さん、残念だったわね…」
「別に良いのよ。今も幸せだし、学校にも来れたしね。もしまだ結界を維持し続けなければならなかったら、私はずっと社にいたわ」

 正直、両親の事なんて知らない。気が付いたら博麗神社で巫女をやっていて、「異変」を解決して、魔理沙とお茶を飲んで…そんな日々を繰り返す毎日だった。自分の出生に興味はないので、特に調べもしなかったが。

「じゃあ霊夢は純血なんだね」
「そうね。純血とは限らないけど…代々巫女をやっているから」

 両親や先代の巫女の事なんて私は知らないから、今は嘘をつくしかない。それ以外にどうしろというのだ。

「ねぇねぇ、博麗の巫女にはどんな能力があるの?」
「内緒よ。でも、現存する魔法では、多分存在しないものばかりね」

 陰陽玉や弾幕やスペルカードや空を飛ぶ程度の能力だなんて、正直言えない。あくまでも最終手段だし、見せるのも面倒くさい。
 スリザリン内では、特に孤立する事も目立つ事もなさそうだ。

「本当はそんなのないんじゃないの?」

 犬のような顔をした女の子が、嫌味たらしい表情を浮かべて言った。しかし、私はそんな煽りに乗るような子供ではない。気持ちを抑える必要もなく、私は淡々と述べた。

「信じるも信じないもアンタの勝手。言いたければ言えば良いわー。私は気にしないから」
「あっそう。じゃあ言わせてもらうけど、アタシ『博麗』なんて家名聞いた事ないわ」
「そりゃあそうよ、魔法界とは関わらなかったんだから」
「本当はマグル生まれで、スリザリンにきちゃって孤立するのが家で嘘ついてるんじゃないの?」
「…アンタ、名前は?」
「ほら話をそらした。パンジー・パーキソン。”本当の純血”よ」

 あっそう。正直、誰が純血で誰がそうでないかなんて、私にはどうでも良い。

「そう言えば貴女、宿無しなんでしょ? 何処に住んでるの? もしかして…ホームレスとか?! うわぁ、不潔だわぁ」
「巫女が道端に寝転んでいるなんて大間ちが…」

 いや、私時々やってたわ。参拝客が来ないし暑いから、外で寝てたわ。
 否定できない事もあり、私は唸ってしまった。

「今はウィーズリー家にお世話になってる」
「ウィーズリーって! あの血を裏切る一族の? 貴女、本当に純血なの〜? そんな汚らわしい奴等の家に?」

 パンジーは私を嘲り笑った。ドラコはそんな彼女に、何やら不穏そうな目を向けている。パンジーはドラコが私の隣にいるのも気に食わないらしく、こんな事を言ってきた。

「ドラコ、そんな奴の隣は止めた方が良いわ。貴方は、由緒ある家系の子息で魔法界でも1、2を争うほどの財力を誇る御曹司ーー」
「霊夢は純血だろう? なら別に僕が隣でも良いじゃないか」
「でも、そいつはウィーズリーのーー」
「霊夢、僕の家に来ないか? ウィーズリー家よりは、もっと良い待遇を受けれるはずさ」
「遠慮しておくわ。もうお世話になっている事だし…他の人の家に行くなんて、失礼でしょ?」
「いや、あんな奴等に失礼も失礼じゃないも関係ないさ。僕の方から、交渉でもしておくよ」
「あっそう。ま、寝泊りできるなら何処でも良いから、どうぞご勝手に」

 パンジーは何故だか分からないが、嫉妬をしているような空気を纏っていた。歯を食いしばり、フォークを握りしめ、ドラコと喋る私を憎々しく睨みつけた。そんな嫉妬する事でもないと思うが、上級生曰く、

「普通ね、彼と喋る事さえ皆光栄に思うのよ。だって、マルフォイ家の人間だもの。養女の誘いも等しいのに断るなんて、霊夢は勇気があるのね…」

 養女の誘いも等しいとは言われたが、ドラコの独断で決められる事ではないだろうし、私だって隠れ穴の生活は中々気に入っている。毎日のクィディッチや庭小人の駆除ーーしかし、仲睦まじい家族の中に、全くの他人である私が入るのもいかがなものかなとも思った。それは何処でも同じだろうが。

 夕食の席が終わり、校長の挨拶も終わると、一年生は監督生の引率に従って、地下牢にあるスリザリン寮まで向かった。湖の下にあるせいか、緑色のランプで薄暗かった。寮に入るには動く肖像画に合言葉を言わなければならないようだったが、「純血」という何ともスリザリンらしい合言葉だ。
 寮監のセブルス・スネイプがやってきて、新入生の寮の部屋を伝え始めた。私は、パンジー・パーキソンを含めるその他スリザリン女生徒3人と同室だった。
 スネイプ先生が去ると、パンジーはまたしても私に突っかかってきた。

「ねぇ博麗、貴女特別な能力があるんでしょ? だったらさ、アタシと勝負しなさいよ」
「勝負? それはまた、ガキっぽい事を…面倒くさい」
「今から一週間後、湖のほとりで『決闘』をしましょ? 魔法使いの決闘。その時に、貴女の特別な力って奴を見せなさいよ」
「決闘…まぁ良いけど。ま、別にアンタに私の力を見せるつもりはないけどね」
「そんなの、無理矢理にでも出させる。そして、そんな生意気な口、二度と叩けないようにしてやるから、覚悟してなさい」
「…変な奴」

 勿論弾幕やスペルカードを見せるつもりはないし、その必要性もないだろう。パンジーがドラコに好意を寄せている事は確かだ。私の力が見たいというより、何方がドラコに相応しいかを決めたいと言った所だろうか。しかし、私は幻想郷の人間故に、向かってきた奴は誰であろうと全力で叩きのめすという確固たる幻想郷的思考を持っている。博麗の巫女である私は尚更、だ。
 パンジーが部屋へ上がっていくと、ドラコが心配そうに話しかけてきた。

「あー、パーキソンは…あまり気にしない方が良い。決闘なんかしなくても…」
「私は、一度決めた事は絶対に曲げない質だから。心配は無用。でもまぁ、その決闘にアンタも来てくれたら良いけど」
「僕も、か?」
「えぇ。心配してくれるなら、ちょっとは見に来て頂戴」

 私が言うと、ドラコは少し考えた後、笑顔で頷いた。素直なのは良い事だ。さぁ、これからが楽しみだ。
 
 

 
後書き
あ、ハリポタの本が幻想入りしているのかとか、そういうのはナシでお願いします。
多分、香霖堂で売ってたんですよ。 
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