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風魔の小次郎 風魔血風録

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10部分:第一話 小次郎出陣その十


第一話 小次郎出陣その十

「私はここからでも誠士館を勝たせることができる」
「そうなのか」
「そうだ。さて」
 クールな笑みを浮かべたまま試合を見る。
「風魔め。三人だけとは思わないことだ」
 そう言いながら右手に何かを持った。丁度また小次郎がシュートを放った時だった。
「よし!」
 小次郎はまた一点入ったと思った。しかしその時だった。
 ボールが不意に動きを変えた。それでゴールを逸れてしまったのだった。
 得点は入らなかった。それに留まらずボールは不自然な動きを続け誠士館のボールになり続ける。遂にはあれよこれよといった感じで一点を取られてしまったのだ。今度は誠士館側に歓声が起こった。
「まずは一点だ!」
「このまま逆転だ!」
「これでよし」
 壬生は歓声に沸く観客席の中で一人ほくそ笑む。
「このまま逆転するぞ」
「そうか。そういうことか」
 武蔵はグラウンドを見たままその壬生に対して声をかけた。
「それで勝つつもりか」
「これならばあの風魔もどうこうすることもできない」
 それが壬生の考えであった。
「これで。勝つ」
 壬生はそれを確信していた。しかしであった。
 小次郎は一点入れられたところで自分から交代を申し出て来た。蘭子はそれを聞いて怪訝な顔で彼に対して問うのだった。
「どういうことだ?」
「さっきのボールの動き見ただろ」
「ああ」
 蘭子は小次郎のその言葉に対して頷く。彼女もそれはよく見ていた。
「確かにな」
「そういうことだよ。あの三人だけじゃなかったってことだ」
「他にも夜叉がいるのか」
「しかもグラウンドの外にな。だからだよ」
 小次郎はまた言う。
「こっちもグラウンドの外に出る。それでやってやるさ」
「そうか」
「別にそれでいいよな」
「闘いは御前に任せる」
 蘭子の決断だった。
「好きなようにやれ」
「わかったぜ。それじゃあな」
 こうして選手交代となった。小次郎は着替えて化粧も落としこれまでの小次郎になって蘭子の横に来た。ただその手には何かを持っていた。
「それでどうするのだ?」
「まあ見てなって」
 グラウンドを見据えたまま蘭子に応える。
「絶対に勝たせるからよ。俺がな」
 そう言いながら試合を見続ける。ボールはまた誠子やかたにとって都合のいい動きを見せてきた。白凰側の放ったシュートがまた奇妙な動きを見せたのである。
 それはゴールから外れようとしている。しかしここで急に角度を変えたのだ。
「むっ!?」
「まさか」
 それを見た壬生と武蔵はまた同時に声をあげた。ボールはそのまま奇怪な動きを見せてゴールに入った。白凰にとっては貴重な一点であった。
「やったわ!」
「これで!」
 姫子もイレブンもそれを見て歓声をあげる。白凰側の観客席もスタンドも笑顔になる。試合の流れを決めるような貴重な一点なのは間違いない。
 だがこれは誠士館にとっては痛い一点だ。応援団も観客席も重い沈黙に包まれた。その中で壬生と武蔵は剣呑な顔をしていた。
「風魔だな」
「間違いない」
 二人は言い合う。
「では行くか」
「そうだな」
 武蔵は壬生の言葉に頷いた。そして観客席から離れて何処かへと向かうのだった。
 そして小次郎も。点が入ったのを見届けてから蘭子に対して告げるのだった。
「ちょっと行ってくるぜ」
「何処へだ?」
「トイレだよ」
「木刀を持ってか」
 小次郎の手に木刀があるのを言う。だが顔も目もグラウンドに向けている。
「随分と変わったトイレだな」
「すぐに戻るぜ」
 それでも小次郎は言うのだった。
「それでいいよな」
「ああ。しかしだ」
「しかし?」
「油断するな」
 こう小次郎に忠告した。
「あの三人とは比較にならない程手強いぞ」
「へっ、相手が誰でも平気だぜ」
 小次郎は強気に言葉を返した。顔も自信に満ちた笑みが浮かんでいる。
「この俺様がいる限りな」
 最後にこう言ってグラウンドを後にする。小次郎が向かうのは球場の駐車場だった。
 そこは屋内にあった。その為日差しが差し込まず暗いものがある。だが今は夜の暗さではなく青い世界だ。青い暗さがアスファルトも天井も壁も彩っていたのだ。小次郎はその中を一人進んでいた。すると前から二人の男がやって来た。
「まずは褒めておこう」
 長髪の男が最初に小次郎に言ってきた。言葉と共にその足を止める。しかし小次郎は木刀を右手に担いだまま足を止めない。歩き続けている。
「私は夜叉一族の中でも手裏剣に関しては随一なのだがな」
「へっ、俺だって風魔の中じゃ手裏剣は上手い方なんだぜ」
 小次郎は不敵にその男に言い返す。
「まあそっちも上手い方だけれどな」
「お互いというわけか。さて」
 ここで男はその手に持つ木刀を構えてきた。中段であった。
「まずは名乗ろう。私は壬生攻介」
「風魔の小次郎」
 名乗りと共に足を止めた。そのうえで構えに入った。
 木刀を下に向けている。壬生の中段に対するように。
「行くぜ」
「私の名は聞いているな」
 壬生は小次郎に対して問う。
「夜叉一族の中において」
「随一の剣の使い手だってな」
 壬生に言い返した。
「総帥の兄ちゃんから聞いたぜ」
「なら話は早い。では・・・・・・」
「ああ」
「参る!」
「一つ言っておく」
 ここで武蔵が小次郎に対して言ってきた。
「んっ!?おめえは」
「飛鳥武蔵」
 今度は彼が名乗った。
「俺は今は闘わない。ただ闘いを見届けさせてもらう」
「立会人ってわけかよ」
「そういうことだ。そしてだ」
「何だよ、言うことは一つじゃなかったのかよ」
 こう武蔵に突っ込みを入れるが武蔵はそれを無視する形で話を進めるのだった。
 
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