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マクロスフロンティア【YATAGARASU of the learning wing】

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謝罪

 
前書き
後半は砂糖多めです。 

 
「おー、まるで新品だな。」

「全く……あんな無茶は今回限りにして欲しいですわ。お陰で貴重なデータは採れましたが、二度目はいりませんので。」

S.M.Sの専用格納庫。俺の目の前には修理が終わり、新品同様となって帰ってきたVF-25E/ad(相棒)がある。何でも修理ついでにFCSや航法系の改良と最適化をやってくれたらしい。

「至れり尽くせりだな。」

「ええ、L.A.I技術部の血と汗と涙と睡眠時間の結晶ですわ。」

「……リアルな事言うなよ……。」

そうは言うものの、ルナの目の下には大きな隈が出来ている。見た目が育ちのよさそうなお嬢様なだけにその姿にはかなり違和感がある。

「ああ、それと要望のあったレールカノンですが手を加えて可変速式にしましたわ。これで過剰火力を抑えられますわ。」

「何から何まで……済まんな。」

「いえいえ、データの為ですから♪」

「全く……大した女だよ、お前は。」

何だかんだでコイツとは四年間の付き合いになるが、見掛けによらず根性があって、おまけに強かだ。

「まあ、日曜に間に合って良かったですわね?」

「俺としてはもう少しVF-19に乗っていたかったんだがな。」

日曜日にはアルトの実戦投入テストがある。その相手役はピクシー小隊……と、見せ掛けて俺達レイヴン小隊が行う事になっている。流石に姐さんは出ないが。

そして、VF-19といえば……

「そういや、“あっち”はどうなってるんだ?」

「まだ掛かりますわね……何せプロジェクトは始まったばかり。まだプランの段階ですわ。」

「だよな。……今更だがVF-25/adと同時進行で大丈夫なのか?」

「ええ。VF-25/adは既に実用段階……その結果待ちなので、大して手は掛かりませんから。」

「Re.V……【リバイバル・バルキリー】計画か……既存機の改修(アップデート)という意味じゃVF-171もその仲間か?」

「まさか!アレは改修とは名ばかりのダウングレードですわ。性能を上げてこその改修です。」

Re.V計画。VF-25の原型となったYF-24系列の機体で培った技術を元に、既存機を一斉改修する計画……らしい。詳しいところはL.A.I及び新統合軍の機密になるので教えてもらっていない。この計画による改修の対象にVF-19も入っているのだ。ルナは新たにその計画にも携わっている。

主な軍需メーカー数社がそれぞれの技術で改修し、その上でコンペを行うとかなんとか。

昨今の軍縮ムードの中、バジュラという具体的な脅威のあるフロンティア船団ですら、新鋭機のVF-25はS.M.Sに配備されている30機余りしか存在しない。故に、既存機の改修延命というのはある意味必然の計画なのだろう。

「取り敢えず、プランを絞って、実機に反映するまで……そうですね、四、五ヶ月程でしょうか?」

「随分早いんだな。」

「機体そのものは既にありますし、使う技術も実証済みの物ですから、これくらいは当然ですわ。」

そういうものなのか?いや、コイツが言うならそうなんだろう。

「そっちも楽しみだが……目の前の事からだな。」

「そうですわね。最終点検も終わってるのであとは飛ばすだけですわ。若干感覚が変わってるでしょうから先ずは慎重にお願いしますね?」

ルナの台詞に右手を挙げて応えつつ、実に二週間振りの相棒に乗り込むのだった。










「あ、翼!」

アイランド1のとあるライブハウスの楽屋。奏に呼ばれて来た俺だが、予想外の人物がそこにいた。

「……ふぅん、貴方が奏の彼氏ね?」

「………ミス・シェリル・ノーム。どうしてここに?」

よもや銀河の妖精がいるとはな……。あ、グラス中尉もいるな。オズマ少佐の元カノなんだよな……別れた後少佐が二週間程めんどくさかったのを覚えてる。そういやシェリルの護衛だったな。

「あら、いたら悪いのかしら?」

……何だ?この試されてるような感覚は。こっちの反応を面白がってるみたいな……

「いや、アンタが彼氏と彼女の密会に出歯亀するような無粋な人だとは知らなかったから驚いただけで。」

「ちょっと…どうしてそうなるのよ!」

「……状況証拠から推論しただけだが?」

あれ?俺何か間違ったこと言った?

「翼、あんまりイジワルしちゃ駄目。シェリルもムキにならないで。」

奏が仲裁に入る。……意地悪したつもりは無いんだがな。まあいいとしよう。

「で、本当のところどうしてここにいるんだ?」

「……奏に彼氏がいるって聞いて、どんな人なのか興味があったのよ。」

ふーん、成程ね。……ん?待てよ、今の口振りからすると……

「……あれ?お前らって仲いいの?」

そう、そこだ。シェリルはまだフロンティアに来て精々二週間。同じ歌手同士だとしてもそもそも接点が……

「ちょっと前にトーク番組で一緒になったのよ。その時にね。」

奏からの説明で納得がいく。まあ確かに性格的には似てるもんな。強気のシェリルと大人しそうに見えて意外と大胆な奏。きっかけさえあればすぐに仲良く成れそうだ。……喧嘩でもしたら長引きそうだけどな。

「ああ、そう言えば……ミス・シェリル。」

「何よ……って何よ!?」

気持ちは分かる。初対面の人間がいきなり頭下げてきたらビックリするだろう。

S.M.S(ウチ)の新人が迷惑をかけた。済まなかった。」

「………いいわよ、そんな事。」

アルトの奴がシェリルを殺しかけたり一緒に死にかけたりしたのはアイツがS.M.Sに入る前の話だ。それでも奴の先輩である以上、一言詫びを入れるのが筋だろう。

「いずれは本人にも言わせたいが……会える機会が無いかも知れないからな。」

ともかくこれで言いたいことは言えた。

「……貴方ってS.M.Sの人よね?」

「そうだが……それが?」

「ええっと…その貴方がさっき言ってた新人。アルト、だったかしら?彼と会えないかしら?」

アルトと?やっぱり直接謝らせようと?……いや、この感じは違うな。多分……本人にとってはかなり大事な用向き、それも、他人に知られたくない系の。……アイツ何したんだ?

「そうだな……うーん……」

アルトは真っ直ぐな癖に妙にひねくれて素直じゃないからな……えーと、パターンとしては……

A.普通に呼び出す→警戒するかバックれる可能性大。

B.相手がシェリルだと伝えずに呼び出す→顔合わせた瞬間帰りかねん。

C.偶然を装い外で会わせる→渋々でも付き合う……か?

……よし、Cだな。

「アイツが外出する時に連絡する。連絡先は……アンタに直接じゃ不味いよな?」

「……そうね。マネージャーのグレイスの連絡先を教えておくからそこにお願い。」

「了解した。……ところで、そのマネージャーは何でいないんだ?」

さっきからそれが気になっていた。グラス中尉がいるんだしいてもおかしくは無いんだが……はて?

「ああ、仕事中に抜け出して来たから。グレイスまでいなくなると怪しまれるでしょ?」

……何となくだが、シェリルってルナにも似てる気がするな。変に悪知恵が働くトコとか。グラス中尉も渋い顔だ。

「え、でも……グレイスさん心配しない?」

「大丈夫よ。グレイスはインプラントの手術を受けてるから、その気になれば五分で私を見つけられるわ。」

………インプラント、ね。いやまあ、ギャラクシー船団は合法どころか一番インプラントが普及してた筈だしな。不思議じゃないんだが……どうにも肌に合わないんだよな。

人がインプラントしてるのをどうこう言うつもりは全く無いが、それでも自分が、というのにはかなり抵抗がある。実際拒絶反応なんかのリスクもほぼ無くなってメリットずくめらしいんだが……まあインプラント違法のフロンティアで暮らしている限り関係ないか。

「あー、ミス・シェリル?そろそろお時間の方も限界なんですが?」

あ、グラス中尉が動いた。まあ多忙なシェリルだ。今ここにいるのもかなり無理を通したんだろう。

「ええっ、もう!?……はぁ、仕方ないわね。翼、だったかしら?頼んだわね。奏、後はごゆっくり。じゃあねー♪」

それだけ言って楽屋から出ていった。ごゆっくり?何の事だ?

ふと気付けば楽屋には俺と奏の二人だけ。考えてみれば直接会って話すのは病院以来か。……そうだ、あの時以来だ。

あの後一応メールで謝ったんだけどな。それ以降互いに触れてこなかったから流してたんだけど……。

……不味い、思い出したら緊張してきた。

「……ねぇ翼。」

「ぅあい!?」

ビックリした……思わず奇声を上げてしまった。

「な、何よその声……じゃなくて、えっと……あの時はゴメンね?考えてみれば翼はなんにも悪いことしてなかったのにさ、その、勢いで殴っちゃって……」

「い、いや……あの時は俺が悪かったよ。少なくともいきなりやることじゃ無かった。」

「そう……うーん、じゃあ、おあいこって事で……いいかな?」

「うん、まあ……いいんじゃないか?」

まさか謝られるとはな……まあ確かに悪いこともやましいことも無かったんだが……それでも、なぁ?

「ま、まさか翼にあんな度胸があるなんて思ってなくて………」

「……?俺がどうしたって?」

「い、いいの!何でもないから!……ハァ」

……ホントにどうしたんだ?





奏side

あの時は本当にビックリした。思わず手が出ちゃったけど……実は嬉しかった。

翼は普段は男らしいというかカッコいいのにああいう何て言うか……その、雰囲気が出てきちゃうと途端に弱腰というか臆病になっちゃうから……

だから……えと、き…キスとか……そういう事って、普段は大体私からだったのよね。

でも、あの時……あの一瞬だけ、私は完全に翼に呑み込まれたというか……支配されたっていうか……べ、別に私にマゾっ気がある訳じゃないよ!?

でも、うん、何だろう?向こうのペースに乗せられた……そんな不思議な感じだった。今までのキスで一番ドキドキした。……まあだからこそ手が出ちゃったりしたんだけど……テヘッ♪

……なーんてやってる場合じゃないわよ。

まあ、その……だから……悪いことしちゃったお詫びっていうか……お返しっていうか……えっと……うーん……はぁ

あの時までは普通に言えたのにな……何でこんなに緊張するんだろう?……ある意味ではこれも翼のせいなんだよね……

……こうなったら、是が否でも翼に責任とって貰わなきゃ……これじゃ嫁にして貰うみたいね……駄目だ、自分で言ってて恥ずかしくなってきた。どうしよう?

ええい!落ち着きなさい美星奏。この程度の緊張、今までに何度も乗り越えて来たでしょう!初めてのオーディション、初仕事、初の路上ライブ、……あの時の告白だってそうよ。

言うのよ、奏。そう、

「女は度胸!」

「いきなりどうした!?」

「ひゃい!?」

………あー、声に出てた………?

どーしよう!?変な声まで出しちゃったし。いや、でも……一度決断したんだから、最後までやり遂げるのよ、奏!

「……翼!」





翼side

「……翼!」

なにやらさっきから一人で赤くなったり青くなったり白くなったり突然叫んだりと奇行を連発している奏が、何か決意の籠ったまなざしで俺を呼んだ。

「……何だ?」

「えっとね……その……この間の事のお詫びにさ、あー、うーん……」

お詫び?何か言いにくそうだな。そんな事よりも……

「……顔真っ赤だぞ?大丈夫か?」

「っ……!?だ、誰のせいだと思ってるのよこのバカ!」

……怒られた。え?こう言われたってことは俺のせいなの?

「えっと……だから……その、お、お詫びに……」

震えた声で続ける奏。そして。

「お、お詫びに……キスさせてあげる!!」

一気に言い切った。奏は耳まで真っ赤に染まってる。……多分俺もだけど。

え?それってお詫びなの?……いや、嬉しいかどうかと聞かれれば間違いなく嬉しいんだけど……どうなの?いいの?

「っ……早くしてよ。言っただけでも顔が熱いんだから……この上焦らされたら頭が溶けそう。」

そう言って眼を瞑る奏。……本気みたいだ。

ここまでされて何もできない様じゃ俺は男失格だろう。

「そ、それじゃ………」

そっと奏に近付き、顔を寄せる。そして……

ゆっくり、その唇に、自分の唇を重ねた。

どのぐらいそうしていたのか。一瞬にも、一時間にも思えるその時間が過ぎ、重ねた時と同じように、ゆっくり静かに離す。

「………そろそろ時間じゃないのか?」

「………うん。ライブ、楽しんでってね?」

直前までの緊張は何処へやら。奇妙に冷静で落ち着いた思考で奏を送り出し、次いで、自分の席……初めてのライブの時から変わらない、俺の特等席へと向かうのだった。 
 

 
後書き
一応この小説の原作+オリジナルのヒロイン達の扱いについて

奏→メインヒロイン

ルナ→仕事のパートナー(恋愛感情はなし)

フィーナ→手の掛かる後輩

シェリル→奏の友人。

ランカ→妹分

みたいな感じです。未だ未登場のランカとの関係についてはストリートライブの時にでも書こうかと思います。 
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