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マクロスフロンティア【YATAGARASU of the learning wing】

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訓練

「総員、敬礼!」

オズマ少佐の号令に、全員が一糸乱れぬ敬礼を行う。その中には、普段ふざけているクレイや生まれてこの方敬礼なんてしたこと無いんじゃないかという姐さんも入っている。

ギリアム大尉の葬式は、正規軍のそれと比べて非常に慎みやかに行われた。俺たちS.M.Sは民間軍事プロバイダー等と言葉を飾ってはいるが、平たく言えば傭兵だ。自分の意思で戦場に立てるが、その死に名誉は与えられない。表向きは事故死として扱われ、このフロンティアを巡る有機物へと溶けていく。

「……ギリアム大尉。」

あの人には色々と教わった事がある。以前、俺を大尉に昇進させ、新たに一個小隊を編成しないか、という打診があったとき、俺はあの人に相談した。

当時から既に小隊長クラスの腕を持ちつつ、本人の希望でオズマ少佐の部下であり続けていた彼ならば、自分の迷いの答えを知ってるのではないか、と思えたからだ。

その時言われた言葉を、俺は今でも一言一句違わず思い出せる。

『いいか、迷いがある内は隊長なんてやるもんじゃねぇ。ただのパイロットなら迷っても自分が死ぬだけだが、隊長が迷えば部下が死ぬ。……オズマ隊長もアリーナ少佐も、迷えない重圧と常に戦っている。あの人達は他人の命まで抱えて飛んでるんだ。……俺には出来なかった。………お前は、出来る筈だ。だが、きっと今じゃない。迷っているならやめておけ。』

この会話からもう一年は経つ。俺は、少しでも迷いを吹っ切れているんだろうか?

葬式が終わり、会場を出ると、アルトの奴がオズマ少佐の所に向かうのが見えた。奴は進む事に決めたのだろう。俺は?

……多分、まだ迷っている。俺に、他人を抱えて飛ぶ資格があるのだろうか?










「しかし翼……本気か?別にVF-25Aでもいいんだぞ?」

「……だったら何で勧めたんですか?あの名高きVF-19に乗れるチャンスだ。まさか俺が逃すとでも?」

「………そーだな。あの人の機体だもんな?」

「………それは余計ですよ、姐さん。」

アイランド1のとある居酒屋。俺と姐さんはそこの片隅で二人だけで呑んでいた。

しかし姐さんが俺を誘うとは珍しい。普段は俺と呑むと悪酔いするとか言って呑まないのだが。

そんな事を考えつつもお猪口の日本酒を空にし、新たに一杯注ぐ。

「お前……相変わらずザルだな。そんな強ぇのを顔色変えずに何本も……。」

「………それは姐さんのせいでしょうが……!」

誰だ。14のガキを居酒屋つれ回して酒呑ましてたのは。その癖してぶっ倒れるのはいつも姐さんなんだから。酔う訳にはいかないのだ、こっちは。

「まあいい。暫くはVF-19って事でいいんだな?」

「はい。まあ機体が戻るまで二週間、どうにか乗りこなして見せますよ。」

VF-19エクスカリバー、圧倒的な速度と機動性を備え、新統合軍では永らくエース専用機として運用されている。性能面ではVF-25に譲るものの、格闘戦(ドッグファイト)時の機動性は未だトップクラスを保つ。さらに、今回俺が乗るのは電子機器(アビオニクス)類をVF-25規格にアップデートしたカスタム機なので、実質VF-25と同等と言っても過言ではない。

だが……VF-19が必然的に持つとある問題。それは乗るパイロットだ。ISCを搭載していないVF-19では当然パイロットに莫大なGが掛かる。さらに尖った性能を持つVF-19は決して素人向きとは言えないVF-25より、輪をかけて操縦が難しい。VF-19に乗ったパイロットは多くとも、真に使いこなせたパイロットは数少なく、それこそ数えられる程しかいないのだ。

「だからこそ、乗ってみたいってのはバルキリー乗りなら一度は考えると思いますよ?」

エクスカリバーに乗るということは名実共にエースパイロットの証だ。憧れるパイロットは多い。

「……だよなぁ?何だかんだでアタシも乗ったことねぇし……まあフロンティアにはそもそもVF-19自体配備されて無いからな。」

「……そりゃあ……乗れるパイロットがいませんからね……あの惨状じゃあ。」

……実際、今の新統合軍は酷いものだ。上層部の無人機(ゴースト)頼りが現場にまで浸透し、士気も練度も低い。この間の襲撃を受けて辞めた連中も少なくないとか。

「ま、そんな状況だからこそ、アタシ達PMCの需要があるってもんだ。精々高く売り付けさせてもらおう。」

「それもそうですね。……とは言え、うちだけじゃ絶対数が限られてるんで出来るだけ強くなって欲しいですけど。」

あんな連中でも、いるのといないのとでは全然違う。数とは古来から最も単純で絶対的な力の一つだ。彼らには是非とも、背中を預ける……とはいかなくても、面倒を見ずに済むようになってほしいものだ。










一週間後、S.M.Sの格納庫にて

「おーおー、やってるねぇ。」

茶化す様に言うのはクレイだ。視線の先にはミシェルの檄に煽られて、動力の切れたEXギアを装着して走る――――と言うよりヨタヨタとふらつきながら歩くアルトの姿がある。

所謂鬼軍曹の扱きというやつだ。民間と軍隊の違いを体に叩き込むと同時に手っ取り早く兵士へと鍛え上げる。ミシェルとルカとフィーナの時は俺が担当だったし、俺とクレイは姐さんが担当だった。

因みに格闘はカナリア中尉に、射撃はオズマ少佐直々に教えているらしい。贅沢な奴だ、可哀想に。

で、そろそろ俺も訓練に協力して欲しいって言われたんだが……まさか、な。だがまあ確かに、『アレ』をやるなら早い方がいいか。

「んで?お前は乗れてんの?VF-19(コイツ)に。」

「……まあ、ボチボチだ。」

分かってはいたがかなりGがキツい。正直なところ乗りこなす、とまではいかないのが現状だ。一度本気で気を失いかけたが。

「ボチボチ…ね。吐いて無いだけでも凄ぇと俺は思うぜ?」

「かといってそこから先に進めないからなぁ………」

Gがキツい上に癖が強過ぎる機体だ。簡単に乗りこなせるとも思ってなかったが、まだ認識が甘かったと認めざるを得ない。

「ISCを産み出したL.A.I技術部がどれだけ偉大か再認識したよ。」

「だな。VF-25シリーズの性能はISCありきだからな。今の内に慣れとけば限界稼働時間越えても平気なんじゃないか?」

現状ISCの性能は、VF-25の最大機動時で120秒間だ。普通に操縦していればまず越える事はないが、対応しておくに越したことはない。なら……

「お前も乗るか?後部座席は空いてるぞ?」

「……全力で遠慮する。俺の機体はそんなに負荷が掛からねぇからな。」

VFに無理矢理VB並みの火力を持たせたクレイのシューターパックは当然というべきか重く、運動性が落ちる。一応VF-171ぐらいにはあるらしいが本家VF-25と比べて大幅に落ちるのは否めない。必然、機体への負荷も減る………と、思われがちだが違う。

「お前……射撃反動の相殺にISC使ってるだろ?」

本来VFの軽い機体でVBの兵装を扱うのには無理がある。その無理を通しているのがISCで、反動をフォールド空間に飛ばす事で機体が吹き飛ばない様にしているのだ。

これは俺のストライクパックのレールカノンにも言える。確か最大出力で最大機動時間に直すと5秒分ほどの反動が掛かった筈だ。

「ぐ……そもそも俺は動くポジションじゃないから良いんだよ!」

よっぽど乗りたくないらしい。まあ俺は前衛だから乗ろうと思えるが普通は避けたいわな。

「翼さん、ちょっといいですか?」

「ああ、ミシェル。……どーせ『アレ』だろ?いいぜ、何時だ?」

「相変わらず話が早い……明日にでもやりたいんですけど?」

「OK、えーっと明日なら……1400からでいいか?」

「……昼飯の後ですか?」

「の、方が良いだろ?飯はちゃんと食わせとけよ?」

「……俺、今までかなりキツい訓練組んできたつもりですけど、翼さんには敵いませんね。」

「ふん、百年早い。」

本当に相手を思いやるなら中途半端なメニューでは逆効果だ。徹底的に叩き潰すして、そこから這い上がらせる。成長させる為にはそれが一番早い。










翌日

「さて、早乙女准尉。覚悟はいいかな?」

「なあ翼さん、一体これは何の訓練なんだ?」

「烏羽中尉、だ。なに、嫌でもすぐに分かる。」

パイロットスーツを着用し、俺の機体の前に立つアルト。その肩を一度ポンと叩き、機体の後部座席を指差す。

「乗れ。」

「は?」

「二度は言わんぞ?今回の訓練は乗るだけだ。さっさとしろ!」

「…さ、サー・イエッサー!!」

軽く檄を飛ばすとそそくさと乗り込むアルト。……さて、吐くなよ?

「よし、行くぞ……レイヴン2よりデルタ1へ、これより訓練飛行を行う。発艦許可を。」

『デルタ1了解、発進を許可します。……スカル4は大丈夫ですか?』

「今は、な。帰りは分からん。念のためにカナリア中尉に声掛けといてくれ。」

『了解、格納庫で待機して貰います。スカル4、幸運を祈ります。』

「ちょっと待て!?無事じゃなくなるような何かが起こるのか!?」

「CPU、リニアカタパルトとのリンクを確認。」

『タイミングはお任せします。』

「了解、レイヴン2、発進する!アルト、喋るな舌噛むぞ?」

「無視するなぁぁぁ!!?」

カタパルトから射出されると同時にスラスターを全開で吹かす。加速度は瞬時に30Gには達しただろう。いきなり気を失ってないかどうかが心配だが、呻き声が聞こえる辺りまだ平気だろう。

「……っ、この程度コイツにとっては序ノ口だぞ?」

最高速度まで加速するとそこから曲芸機動(エアロバティックマニューバ)に移る。ハンマーヘッドにテールスライド、ナイフエッジやらバーティカル・キューバンエイト。止めとばかりにバレルロールしながらのハートループ。最後のなんかは宇宙空間でしかできない(空力的に)大技だ。

ぶっちゃげ俺でもギリギリの機動で、気を抜いたらそのまま意識を持ってかれそうだ。

ここまでやれば分かるだろう。これは新人をひたすらブン回すことでGのキツさを体に叩き込む訓練だ。ただしこれは教官役の人間もGに晒されるのだが……。

俺の時にはVF-171だったがまあ、出来るならキツい方がいいだろう。現にアルトも死にそうな顔こそしているが、まだ意識を保っている。

「さて、感想はどうだい、新人(ルーキー)?」

「………最悪だ。」

「喋る余裕があるか、なら次行くぞ?」

「ちょ、まっ!?」

お次は戦闘機動(コンバットマニューバ)だ。ちょうど近くにあったアステロイド帯に突っ込み、予め設置されていた的を撃ち落としつつ隙間を縫って飛ぶ。途中ガウォークやバトロイドを交え、ガンポッドと機銃を使って目の前に現れる的に射撃。

さらには周囲から放たれるペイント弾を紙一重で回避しながら応射。そんなギリギリの戦闘機動を10分ほど続ける。ここいらが限界だろう。

最後のターゲットを撃破。タイムは……11分27秒か。まだまだ、だな。

「さてと……よく気を失わなかったな。褒めてやるよ。」

「ま……まあな……。」

そう返すアルトだがその顔は真っ青だ。機内で吐かれても困るし戻るか。










「お疲れ様です、翼さん!」

「フィーナか、久しぶりにお前もどうだ?」

「えっと……遠慮しときます。」

訓練期間中も常に笑顔を絶やさずにいたフィーナだが、流石にこれだけは勘弁願いたい様だ。だがフィーナよ。お前の機体はF型だろう。ドッグファイト要因がそれでいいのか?

「そもそも翼さんがおかしいんですよ!普通あんなGに耐える方がどうかしてるんです!」

……そう言われてもな。

そうこうしている内にアルトがコックピットから這い出てくる。大丈夫か?

「あ、早乙女さん!無事ですか!?」

そう言ってアルトの方に駆け寄るフィーナ。が、その途中、何もない筈の床でつまづいてしまい、アルトの腹に頭突きをかます形になる。………まて、腹、だと?

「うっ!?」

直後、何があったかは敢えて語るまい。だが、一言言うなれば……フィーナにはかからなかった。ヘルメットのバイザーがまだ下りていたから。……それがアルトにとって幸運か不幸かは………本人に聞いてくれ。 
 

 
後書き
射撃反動のISCを用いた相殺はオリジナルです。たしかVF-25のガンポッドがISCがなければ使えなかった筈なのでその応用です。 
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