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渚怺のチュートリアル

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プロローグ
  雪の街から#3

ふと右手の腕時計に目をやると、午後2時43分を指していた。
どのくらい歩いて、何人の人に道を聞いただろうか?・・・

多流人(もうこんな時間か・・・)

十字わきに建つ交番のお巡りさん、
コンビニのバイト店員、
スーパーマーケットで冷凍食品を並べているおばさん、
部活終わりの地元の男子高校生、

この街のことを知ってそうな人に手当たり次第聞いたはいいのだが・・・
市役所を右に曲がるやら消防署を通り過ぎるやら、そもそもこの街にどんな施設があって、それが何処にあるのかを知らない俺には理解できない話である。
ただ、それでも親切に答えてくれたことには、たぶん感謝しなければならないのだろう。
(主に殴り字で書かれた地図を理解しようとした姿に)

ふと、レンガ壁の上にいる三毛猫に

多流人「あのぉ、道を聞きたいんですけどぉ・・・って・・・」

分かるわけないか。
自分は何をしてるんだろう。
歩き疲れたせいか、自分を見失いかけてる気がする。

「周りには聞かれてないよなぁ?」

と心配しつつ、自分の事が何だかみじめな存在に思えてきた・・・
三毛猫はあくびを欠くと、こっちをじっと見つめてくる。

三毛猫「にゃ~~~・・・」

知らん、他を当たれ!!と言ってるかのように鳴き、何処かへ行ってしまった。
あの猫は何処に行くのだろうか?
今の俺と同じ孤独な道を歩んで行くのだろうか?
そんなことを考えていると、

通行人「ネコ二ハナシカケルヒトハッケン!!ドウカサレマシタカァ??」

多流人(ギクリ・・・聞かれていたんか~い!!!・・・)

あまりにも唐突すぎて思考が止まった。
振り向くと背の高いハーフの女性が立っていた。
足を開き、両手を腰に当てて、
そこの兄ちゃん・・・困ってるみたいじゃないかい。うちが丸く解決してやんよぉww・・・
的なノリを感じたが、全くもってカッコよくない。
流石に恥ずかしかったので、つい口を割ってしまった。

多流人「ち、違うんですぅ・・・これには深いわけがありましt

通行人「ヨウコソチキュウヘェ、ナンツッテ・・・ギァァハハハハハァ・・・」

多流人「?!?!?!?!?!・・・・・・・」

思考が完全に止まった・・・
こいつは何を言ってんだぁ・・・

通行人「キミオモシロイネェ・・・ソレェジャァァ・・・」

周りの通行人は俺を見るなり憐れんだ目で静かに通り過ぎていく。
見て見ぬふりというものだろう。

ある意味してやられた。
言葉を割ってまで話しかけてきたことは意味不明で、理解できなかった。
変な人に絡まれてしまった。

多流人(頭大丈夫か。この人・・・)

無駄に体力を使ってしまった気がする。
変な女性はスキップしながら立ち去り、やがてその姿は人込みに紛れて見えなくなった・・・

多流人(この街にも、あんな人いるんだなぁ・・・ある意味感心したわぁ)

気を取り戻そうとするも、さっきのがかなり来た・・・
正直、これ以上聞いても同じ答えが返ってきそうな予感がした。 

多流人(聞く人を間違えたかな?・・・)

そう思えてきた。

歩き疲れたせいか、膝が悲鳴を上げて、おまけに小腹も空いてきた。

「こういう時には、ゆっくりと糖分を補給したいものだぁぁぁぁ!!」

と、訴えてるかのようにお腹が激しく鳴る・・・
近くにカフェ的な店はやっていないだろうか?
俺は携帯端末を持ってはいるが案の定ガラケーである。
だから、地図機能やサーチ機能が全くと言っていいほど役に立たない。
だから歩いて探すしかなかった・・・

更に歩くと静かなところに出た。
体が熱さと疲労でふらついてきた。
東北の9月ってまだ暖かいんだなぁ・・・
としみじみ感じる。
(今日の雪の街の予想最高気温が27度ということもあるが)
俺に魔法が使えれば、すぐにでも日傘と休憩スペースが出せるのに・・・
静かなのは、恐らく車が走る道路がこの辺では少ないからだろう。
実際に車ひとつ見ない。

途方に暮れていたとき、何処からか甘い匂いがした。
嗅覚を尖らせながら辺りを見渡すと、ケーキ屋らしき店を見つけた。
趣のある洋風の3階建て一軒家の一階部分にそれはあった。
入口のわきに立てかけられた木製の看板には、

‘千鶴華シフォン‘(Chizuke)

と書いてある。
見た感じチェーン店ではなく、個人で経営している店のようだ。

多流人(ここで休憩しよう・・・)

最後の力を振り絞り、扉に手を掛ける。
何となく、あくまでも何となくなのだが・・・
この扉の向こうに、騒がしくて楽しい日常が今か今かと攻撃態勢をとってる気がしてならなかった・・・
そうでないことを祈りたいのだが・・・ 
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