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渚怺のチュートリアル

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プロローグ
  雪の街から#2

俺は地図を頼りに暫く歩いていたら、もう収穫時の稲が実ってる田んぼが広がる田園に出た。
田んぼの辺りには、軍手やへのへのもへじの書かれた手製の顔が特徴のかかしが何体もある。
昔誰かに聞いた話によれば、稲を狙う鳥が寄り付かないようにする為らしい。

バスターミナルを出てどのくらい時間が過ぎたのだろうか?・・・
普段の俺ならあまり気にしない事なんだが、今日はやけに心配である。
何せ、何んとな~くこっちかな?なんて軽いノリで進んできた見知らぬ道を歩いているのだから。
田園風景が一面に広がるここは一体何処だろう?・・・
歩き疲れたせいか、次第に息が上がってきている。
少し休憩しよう。

ターミナルで買ッたお茶を飲みながら、現在地と家の方角を地図を片手に確認する。
しかし分らない。
大事なことだから2度言うが、俺は本当に地図を真面に見たことがない。
親が殴り字で持って行かせた地図を眺める。
そもそもこの地図は何処が北なのだろうか?・・・
訳が分からなかった・・・

眺めてから3分ぐらい経った。
3分なのに、ずいぶんと長い時間が経ったように感じる。
気のせいだろうか?・・・
眺めてることに集中して石のように固まっていた体を起こし、お茶を仕舞う。
やっぱり道を聞くべきだったか。

多流人(聞いたほうがいいかな?)

そう思い始めた。
だが・・・
市街地から相当離れたのか、建物らしきものは無く、おまけに人の気配ひとつなかった。

多流人(何だか、電車の中で見た夢と同じ景色のように思えてくるな・・・)

となると・・・
もう一度駅に戻って交番とかの人に道を聞くのが得策だろう。
あの時・・・
勘だの人間の本能だの、神様任せみたいなことをしなければよかったと反省している。

多流人(となると・・・)

もう一度地図に目をやり、地図と今ある田園風景を照らし合わせる。
そして必死にターミナルを探すが、分らない。

多流人(・・・・・・・)

見た感じ地図には田園風景らしきものは書かれていなかった。
略してあるのかと思ったが、そもそも田園は一般的にどう書かれているのかさえ俺は知らない。
地図を斜めに見たり逆に見たりして、今どこにいてどこに向かおうとしているのかを把握しようとする。
だが・・・

多流人「・・・・・・・・」

そして俺は悟った。
完全に迷子になったことを・・・

とにかく来た道を戻ることにした。
足を動かし、田園を歩く。
この道は何処に向かっているのだろうか?
考えたくなかった・・・

暫く進むと、奥のほうに人工物らしき建物が見えた。
道の両端に植えてある樹木の間から見る限り、高い時計塔のようだ。
わずかに見える時計の針は2時04分を指していた。

何とか人のいる市街地に出た。

多流人(良かった。何とか助かった・・・)

ターミナルの姿は見えないが、この際町の人に聞くのが早いと思った。
恐らくそれが得策だろう。
早速この街に詳しそうな人に道を聞いてみよう。
だが、一つだけ心配なことがあった。
仮にこの街のことを一番に知っている人に出会えたとしても、俺が理解できなかったこの地図を果たして正確に解読してくれるのだろうか?・・・
はっきり言うが、こんな親の汚い殴り字で書いた地図を理解できる人なんて、書いた本人ぐらいしかいない気がする。
聞くことが無駄に思える。
だがそれでも聞かなければ、何時まで経っても新居に辿り着けない。
無理にでもお願いしなければならなかった。
腹をくくって、ため息交じりに俺は探し始めた・・・ 
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