| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate プリズマクロエ お兄ちゃん強奪計画

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

カレー教徒

 特に誰も突っ込まず「ああ異世界だし仕方ない」と思ったが、クロエ達が昼食の準備に立った後、無口なバゼットの前には無口なバゼットが座っていた。
「まさか自分に会う日が来るとは思っていなかった、鏡とは逆だから、まるでドッペルゲンガーだ」
「お前のせいで私は有名人だ、もう隠密活動など不可能だし、行く先々で顔を知られていて、英雄扱いを受けてしまう」
 新聞やネットで発表されてしまい、顔が知れ渡ったので、前の任務中だったのも解任され、ロード・エルメロイと共に士郎一行回収と自分回収の任務に就かされていた。
 飛行機の中でもサングラスと風邪ひきマスクの下の顔に気付く者がいて、一緒に自撮り要求、サイン要求など乗客一か所集中で騒ぎになり、キャビンアテンダントには感動して泣かれ、機長にも握手されて不要なのにコクピット案内、サングラスもマスクも記念品として乗客に盗まれ、空港に降り立ってしまうとさらに大騒ぎ、胴上げまでされてしまった英雄じゃ無い方のバゼット。
 着た切りスズメで同じ服装もクローゼットに何着も並び、スーツと手袋と髪形でバレたのには気付いていなかった。
 もちろん同行していたロード・エルメロイ達からは「他人の振り」で通されてしまった気の毒な子。
 二人の見分け方としては、揉みくちゃにされてボタンとか飛んでネクタイも手袋も盗まれ、ボロボロの方がこの世界のバゼット、珍しくアイロンが効いたシャツとネクタイもして、きちんとしているのが異世界のバゼットだった。
 桜人形が暇なので士郎の女房気取りで炊事洗濯もして、客の衣服のアイロンがけまでしてワイシャツの首の汚れまで士郎と一緒にお洗濯、台所でも一緒にお料理、アンジェリカ、凜、ルヴィア、バゼットにはできない芸当だった。
「私は整形する、髪形も変えてロン毛、ヒラヒラのピンクでレースのワンピースを制服にする」
「うっ、それだけはやめてくれ、まだ海兵隊カットで、アウトドアの服装か、作業服でも着られる方がマシだ」
 ベリーショートでカーキ色かオリーブドラブのTシャツが似合いそうな軍人女とか、ムキムキでガテン系の女の方が似合い、ヒラヒラのピンクだけは勘弁してほしかったバゼット。
「サイズも同じだろうからノーメックス製(防炎)防弾スーツも全部お前にやる、使い慣れた隠し武器の場所も同じなのだろう、私はヒラヒラのロリータファッションでやり直す」
「ぐああっ」
 自分がかつらでも着けてロン毛で、地毛も伸ばして金髪にでも染めて、ロリータファッションに身を包み、上げ底の真っ赤な可愛らしい靴でも履いて街中を歩く姿を想像し、余りのイタさに苦痛の声を出してしまうバゼット。どんな拷問よりも効いた。
「この世界のリンとルヴィアが存在するのは確認されている、私と同じで大騒ぎだ、もう普通の生活などできん。先に見つけたので保護しているが、求婚や養子縁組要請が絶えない。どうだ、お前も結婚してみるか? 良家の子息とかより取りみどりだ」
 現在同じ被害にあっている、この世界のバゼット。魔術系の家の子息から言い寄られ、「同じ遺伝子で同じ顔なので同一人物と同じ、双子と一緒」なので、見合いとか婚約要請が大量。たまに「ジャパン、英雄バゼット様」で到着してしまう手紙があり、郵便局のオジサン所有の個人住居情報のビッグデータにも驚かされたが、順調に求婚や養子、契約の依頼が舞い込んでいるので、連絡先が知れている魔術協会あてに届く方は膨大な数になっていた。
「い、嫌だっ」
 家事一切不可、台所仕事不能、他の能力の代わりに女らしい一切の作業ができないバゼットは、結婚とかしたくなかった。
 さらにシローには胃袋を掴まれてしまっているので逃げられない。
 もし嫁ぐなら、同じ英雄であるシローで、炊事洗濯を任せて自分が働きに出るのなら、結婚もアリだと思い始めていた。
「下らん作業など召使に任せれば良いのだ、男もシロー・エミヤのように家事が上手で、戦闘など向いていない男も沢山いる、好きなのから選べ」
 この世界のバゼットは、自分宛てに来てしまった求婚要請を、全部バゼットに渡した。
「うわああっ」
 キモいオッサンから二枚目、ガリガリのもやしからムキムキのオッサン、中東ではハンサム過ぎて入国を断られるような優男まで満載の結婚要請が、袋から次から次へと山のように出て来た。
「うむ、やはりこのような物は本人が一番良い、偽物は退散するとしよう」
「待て、これはお前宛てだ、私ではないぞ…… まさか?」
 この世界のバゼットは、悪魔的な表情で笑った。
「もちろん、この中の全員に本物の居場所を教えた」
「うそ~~~~ん」
 バゼットは直ちに逃げる用意をして荷物を纏め、2階の窓から逃げようとしたが手遅れだった。
「バゼット様、我が愛しい天使よ」
「私と結婚してください」
「貴方はなぜバゼット様なのですか?」
 路地裏にまでビッシリと男どもが並び、ルヴィア狙いの金髪巨乳好き、凜狙いの貧乳脚細好き、イリヤ狙いのロリコン、クロエ好きの肌フェチ、美遊狙いの市松人形好き、人形で良いからとアンジェリカや桜人形狙いの男までプラカードを上げて殺到していた。
「しまったっ」
 先程、アインツベルンが追い払われる時に銃撃戦もあり、一瞬だけ包囲網が解かれていたが、その潮時に逃げなかった自分を責めるバゼットだった。
(もう異世界に逃げるしかない)
 窓枠にしがみついたり、屋敷内に侵入しようとすると、英国側の兵士がカラシニコフの7.6ミリ*39弾で射殺するのか、唯一この土地の中だけがセイフティゾーンなのを知って絶望する。
 後で人形を持って、間桐のジジイや雁夜か慎二の偽物も作って銀行に行くと言われていたので、その時にアンジェリカに連れ出して貰って、もう戻らないようにしようと心掛けた。
「おい、お前も異世界に来るか? ほとぼりが冷めるまで私の所でも、普通のホテルでも、敵以外追いかけてくる奴はいないぞ」
「ほ、本当かっ?」
 この世界のバゼットも、今の状況は懲り懲りだったので、渡りに船でバゼットの言葉に乗った。
 目で語るとロード・エルメロイも頷いて休暇や避難を許可してくれたので、一時異世界に逃げるつもりになった。

 やがて、クロエ達が悪魔の笑顔で客人にカレーを運んで来た。
 敬虔なカレー教徒になっていたバゼットも、異世界のバゼットも、日本製の市販のルーで作ったカレーを食べさせてもらった覚えがあるロード・エルメロイも、その魔性の匂いし陥落した。
「これは、食べられるのか?」
 アジア風の米の飯の隣に、何やら茶色い液体とか野菜がゴロゴロしている食物。
 毎日がフィッシュアンドチップスでも困らないバゼットは、インドでの任務以外では、ドイツのソーセージにカレー粉をかけて食べるブリトーだとか、そのぐらいしか知識が無かった。
「試してみるがいい」
 異世界の英雄バゼットも、クロエと同じ黒い笑顔で微笑んだ。
「なんちゅうもんを、なんちゅうもんを食べさせてくれたんや、シローはん」
 なぜか関西弁のロード・エルメロイ。英国風カレーとか、英国風プディング、フィッシュアンドチップスがゴミにしか思えなくなった。
「うがあああっ!」
 口からビームを吐いたこの世界のバゼットも、味皇様みたいに巨大化して大阪城かポートタワーでも着込んで、何かあらぬことを口走りながら走る羽目になった。
 付け合わせのサラダとか野菜、市販のドレッシングやマヨネーズまで美味しく、英国の食糧事情のひどさにも絶望した。
「嘘だっ、この国は恵まれ過ぎている、何故野菜やマヨネーズまで味が違う? 英国は神に呪われているっ! ブラッディメアリーの呪いだっ!」
 何かを悟ってしまったこの世界のバゼットは、数週間前の英雄バゼットと同じセリフを言った。
「う~ん、こりゃ、英国行きはキャンセルかな?」
 クロエの言葉に、何も言い返せない一同。
「シェフを雇います、日本からもフランス、イタリアからも。今までのは解雇して心を入れ替えます」
 ロード・エルメロイからも提案があり、今までのアホは全員クビ、食材も大陸から仕入れると言われた。
「アハハ、お兄ちゃんが調理係の方が繁盛しそうね」
「なん、だと?」
 そこで士郎が全力で食い付いて来た。厨房を任される。もうそれは夢のような男の天国で、魔術方面はもう懲り懲りの士郎も、学食に青春の涙と汗を捧げられるなら本望だった。
 料理好き男は、まずカレーとかシチューで目覚め、ビーフシチューとか、果てはボルシチまで手を出して、真っ赤になる野菜を仕入れて煮込む、煮込む、煮込む。
 カレー粉に手を出したら大体人生も終わりで、ガラムマサラ中毒の症状で「あ、こいつカレーやってるな?」とバレて、芸能人もテレビ出演がなくなる。
 カレー専門店で酔ったサラリーマンがそんなものを食ったら最期、人生を踏み誤って踏み抜いて弟子入りして、カレー専門店を開いてカレーを極める人生が始まってしまう。
 何とかサラリーマンに踏みとどまった者も、「蕎麦打ち」にまで手を出すと人生終了であった。
 家族に手打ち蕎麦をご馳走して、下手をすると蕎麦アレルギーの部下まで家に呼んで食べさせてしまい、感想を言わせる。
 ここで二流の料理人は、味を貶されると激怒したりするが、出汁の出所とかを当てられると大喜びしたり、料理好き男子がいれば「あいつは出来る奴だ」と褒めたりして、蕎麦やカレー、シチュー被害者を増やす。それもネズミ算的に。
「シ、シロー……」
 ここにもカレー堕ちしてカレー教徒に成り下がった女がいた。
「実はここだけの話、異世界のシローは聖杯戦争をしていないので、その間にカレーを研究して極め、粉から選んだ麻薬カレーを生産する能力を持っていると言われる」
「はあああっ?」
 もう、病んだイリヤ並みに、異世界のバゼットの言葉が天啓に聞こえ、ゴクリと喉を鳴らしたり、泣きながら頷いたり、両肩を掴まれて揺さぶられて、カレーの神の祝福に目覚めた。
 正悟カリー師、ターメリック・ムハマンド・ジャラララバード師誕生の瞬間であった?

 約3,4名をカリー地獄に招待して、人生を大きく踏み外させた手ごたえを感じたクロエは、満足してヨガのポーズで踊った。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧