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Fate/PhantasmClrown

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MySword,MyMaster
Act-1
  #2

 正直な話をしよう。

 氷室(ひむろ)雪華(せっか)=グレーシャ・スノードロップは、僕……『聖杯研究機関』こと『現代円卓騎士団』の局長である(たばね)裕一(ゆういち)の部下であり、傍使えであり、二歳年下の幼馴染であり――――そいでもって、絶賛片想い中の初恋の相手である。
 機関の職員たちは「絶対脈ありますって」「むしろ気付いてないの局長だけかよ」「とーへんぼくも突き詰めるともはや草も生えない」等々と訳の分からないことをほざいているが、確実に僕の片想いであろう。

 グレーシャは可愛い。人種は良く分からない。黒髪に青い瞳、顔立ちは東洋人っぽいのに肌は白いという、優性遺伝と劣性遺伝が絡み合った良く分からないしかし美しい外見からでは、そう言った方面の知識に乏しい僕では判別が出来ない。
 ただとにかく可愛い。つやつやした髪の毛は、ふわりと舞うたびに異様に良い香りがする。女の子ってみんなそんなもんなんだろうかとも思うがこれまた良く分からない。
 あまり笑わないが、しかし時々笑う。異常に可憐だ。天使か何かの間違いじゃないかと何度思ったことか。

 ともかく、グレーシャは外見的には超一級どころか超特級と言っても過言ではない。惚れた弱みによるフィルターを外してもそうとしか言えない。
 そんな可愛い女の子が、僕の様に、日本人なのに金髪碧眼で、なんか良く分からない組織に所属していて、しかも魔術師とかいうファンタジー極まりない職業についているうえに対して強くもない僕に恋する訳が無い。いや、グレーシャも魔術師なんだけども、こう、ねぇ。直接戦闘能力の差というか。

 僕の父親――(たばね)千斬(せんざん)は、かつて『最強の魔術使い』と言われていた。この世界の魔術ほぼすべてを司る魔術協会『時計塔』、錬金術を統べる『アトラス院』、なんか良く分からない『彷徨海』、そしてそれらと一応対立する『聖堂教会』――そのどれにも属さず、しかし封印指定にもならない訳の分からない存在。
 付け加えて『伝承保菌者(ゴッズホルダー)』と呼ばれる、神話の時代から受け継がれてきたマジックアイテムを管理する一族の末裔とかいうワケの分からないおまけまである。もうここまで来ると盛られすぎてて本当に自分の父親なのか怪しくなってくる。メアリースーだよ。言っちゃったよ。

 そんなリアルチート人間である父親の血を継いでいる……はずなのだが、残念ながら僕の魔術戦闘技能は『一般の魔術使い』の域を出ない。
 どうにも素質だけは父さんと同等ぐらいあるらしいんだけども、それが発現する可能性が壊滅的に低い。イメージとしては、ダム一杯分の水はあるけど、だせる水の量は日本のファーストフード店でもらえるストロー一本分くらいしかないというか、そんな所。

 父さんは僕が14歳の時に死んだ。理由は良く分からないけど、どこかに出かけた後、骸になって帰ってきた。何か任務にでも失敗したんだろう。目を剥いた主治医が「死体には絶対に触るな」と言っていたが、そもそも死骸に触る趣味は僕にはないので普通に聞いた。よく分からない。

 それはそれとしてともかく。
 僕はこの現代の騎士団のリーダーに、繰り上がるような形でなってしまったのである。戦闘能力ないのに。
 幸いなことにメンバー達とは仲がとてもよかったため、反対して反逆してくる人とかは特に居なかったんだけど、代わりに安全は脅かされる事になった。
 そこで騎士団の12人の幹部達が協議した結果、僕に傍使えを、ついでに護衛として付けることになる。

 選ばれたのがグレーシャだったというワケだ。

 彼女は、僕と父さんがかつて戦地で救った戦争孤児だ。以後なぜか僕によく懐いてくれていたが、四年間会っていなかった。

 再会した、12歳になっていた彼女は、空恐ろしいまでの美少女に成長していた。僕の心は一瞬にして打ち抜かれ――こう、なんというか、うん。まぁつまり一目惚れしたわけである。

 もちろん外見だけが好きなわけではないが、全部語ると日が暮れるので割愛する。
 ともかく、彼女は僕の傍使え兼護衛として就任した。『グレーシャ・スノードロップ』という名前はその時に騎士団につけられたコードネームのようなもの、らしい。それまでは普通に雪華と呼んでいた。よくわからない。僕にもカタカナのコードネームがあるらしいけど聞いたことが無い。

 彼女はとても献身的で、従順で、ついでに自己評価が大層低い。
 確かに、普通の魔術師として見た場合、彼女は三流も良い所だ。
 しかし彼女の真価はそこではなく、『単騎による護衛戦』にある。一回だけ模擬戦みたいなのを見たことがあるけど、もう何かよくわからなかった。うん。理解できない強さと言うかなんというか。「まじゅつのていぎがみだれる」というか。1990年代に流行ったという、どっかで聞いた、『和装の殺人鬼』の都市伝説の話を思い出すくらいには。

 あと外見に関する頓着が薄い。これも多分自己評価が低いからだ。平気で胸を押しつけてきたりする。気付いてないんだと思う。心臓に悪い。

 兎に角、こんな素敵な女の子が、僕を好きでいてくれる確率は大変低いと推定される。いつも従順に何でもいうことを聞いてくれるのは仕事だからだろう。
 
 僕自身、自制は効く方だと思ってるから、全力を以て恋心を隠匿している。ばれた暁には多分大変な事になるだろう。そもそもなんだよ、20歳にもなって。中学生かよ。

 
 さて。
 何でこんなどうでもいい…僕にとってはまるでどうでも良くない…話を今したかと言うと。

 ――場合によっては、彼女と今生の別れになる可能性のある事態に、遭遇しているからである。



 ***



 それは突然のことだった。

 聖杯研究機関の本部には、常に『聖杯戦争』が引き起こされる兆候を監視する装置がいくつもある。全世界、全地球、あらゆる場所を監視できる装置が、だ。
 その監視装置が――機関設立から十年以上たつがその内で初めて――反応を示したのである。

 聖杯戦争開幕の予兆。
 七人のマスターが選抜され、サーヴァントを召喚し、聖杯に辿り着くための殺し合いを始める、前触れ。

 聖杯研究機関…より正しくは現代円卓騎士団の内の『聖杯研究部門』にあたる組織である…は、最初に聖杯戦争が行われた1991年に設立され、以後聖杯戦争の開幕を常に、常に待ち望んできた。二度目となる1999年の聖杯戦争の際(この時期に父親が死んでいる)はマスター枠が先に埋まってしまい、参加ならず。故に今度行われる聖杯戦争には確実に参加するべく、例の装置が設置されたことを考えれば、その並々ならぬ願望が良く分かってもらえると思う。

 なぜ、こんな時代錯誤な騎士団が、時代錯誤なマジックアイテムを求め、最先端の魔導技術を使っているのか。その解答は、機関局長にして騎士団長である束家の、『伝承保菌者(ゴッズホルダー)』たる由縁――『聖剣』にある。

 束家はもともとはイングランドの一族だったという。僕が金髪碧眼なのは先祖返りというワケではないのでそれとは関係ないらしいが、遠い祖先はイギリス人だ。
 そして、その家系をさらに、さらに遠く遠くたどっていくと。

 祖先は、ある二人の兄弟の、どちらかに絞られる。

 兄の名は『アンブロシウス』。
 弟の名は『ユーサー』。

 兄はかつて、ブリテンを平定した常勝の王。しかし知名度的には、恐らく弟の方が圧倒的に高い。
 いや、正しくは、『その息子の知名度』が高いのである。

 彼の名は、『アーサー』。五世紀ごろ、神秘衰退せしブリテンにあって、妖精の鍛えた星の聖剣を携えて、ブリテンを支配していた悪竜ヴォーティーガーンやサクソン人を討ち果たし、ピクト人を退却させ、さらにはローマ遠征をも成功させた、伝説の騎士王。
 円卓の騎士と呼ばれる最強の部下たちを引き連れ、あらゆる開戦を連戦連勝。部下にして息子であるモードレッド卿の裏切りによって円卓が瓦解するまで、キャメロットの栄光を維持し続けた。
 最後はモードレッドと相討ちとなり、聖剣を騎士ベディヴィエールに預けて湖に返還させ、それを見届けて息絶えた、あるいは永遠の理想郷アヴァロンへと収納された、とされる。

 もうお分かりだろう。
 束家は、間接的、あるいは直接的なのかは不明だが、この騎士王アーサー・ペンドラゴンの血を継いでいるのである。
 そしてアーサー王に関連する『聖剣』と言えば、もはやその種類は限られてくる。

 束に伝わる聖剣が、その内のどれなのか、という確証はない。
 星の聖剣エクスカリバーか。
 選定の剣カリバーンか。
 あるいは、王位継承権たる宝剣クラレントか。
 ギリシアの大英雄から流れてきたとされる剛剣マルミアドワーズか。
 いずれにせよ、その力は圧倒的で。

 それゆえに、束は繁栄し、剣の時代が終わった現在にあっても、魔術協会と一線を画す活動が可能となっている。

 僕や父さんには薄い感慨であるが、1998年時点では存命だった祖父は、非常にこの『アーサー王と同じ血を引く』ということに対して誇りを持っていた。現代円卓騎士団を受け継いだその時に、その真の役割を聞かされ、それに妄執ともいえる執着を見せていた。

 当主となった今、僕もその役割を知っている。

 ――『ローエングリン』、という物語を知っているだろうか?
 文章でも、リヒャルト・ワーグナーのオペラでも何でも構わない。その筋書きによれば、世界の何処かには、円卓の騎士の一人、ギャラハッド卿が手に入れた聖杯を護る為の騎士団が存在する、という筋書きで、そこからつかわされてきた騎士ローエングリンと、ドイツのとある貴族の娘との悲恋を描いた物語、なのだが。
 この『世界の何処かにある騎士団』というのがキモだ。

 現代円卓騎士団は、この『聖杯騎士団』の現身として創設されたのだ。団長たる円卓の騎士第二席、サー・パーシヴァルの遺志を受け継いだ、という触れ込みで。

 本当なのかは分からない。
 分からない、が、少なくとも正しいことに、束はアーサー王と同じ血を継いでいるし、王権の象徴となる聖剣もまた、存在する。

 あとは、聖杯。それが揃えば、騎士団は『完成』する。

 この現世に、『円卓の騎士』は蘇る。


 ――なんという、夢物語。
 ――なんという、時代遅れの夢想。

 けれどそれがこの機関の役割であり、目的であり、存在意義。束に生まれた者の、至上命題。

 故に此度の聖杯戦争、何としてでも参加しなければならない、ということになった。僕としてはわりとどうでも良かったし、12人の幹部たちも若干引き気味ではあったのだ。ここまで来るといっそのこと、役割を放棄してもいいのでは? と思えるのだが、そうは問屋がおろさなかった。

 選出されたのである。
 何が?
 ――もちろん、マスターが。

 騎士団のメンバーの一人に、マスターの証である令呪が出現した。ここまで来るともう引き返せない。かつて聖杯戦争を主催・監督した聖堂教会にとっても、此度の聖杯戦争は予想外の出来事であるらしく、むしろ監督役ではなく参加者として全力を挙げるつもりだと来た。となると、マスター権を放棄する、ということは不可能になってくる。

 さらに僕にとって都合の悪いことに…そしてこれが、僕が冒頭のモノローグで恥ずかしいことを色々いった理由でもある…、マスターに選ばれたのは、当主たる僕でも、幹部たちでもなく。

 グレーシャだったのである。

 
 思い出せる……そして思い出すたびに頭が痛くなって悲壮感が僕を取り巻き始める……ああなんてこった、よりにもよってなんでグレーシャ、理由が良く分からない、と、あの日何度思った事か。

『そういえば。裕一、私、令呪が発現しました』
『ぶほぁっ!?』

 グレーシャに紅茶を淹れてもらって飲んでいた時に、唐突に始まったカミングアウト。本当ですよ、などといってぷちぷちとシャツのボタンを外し(!)、その白い胸元をあらわにした(!!)グレーシャ。確かに、その双丘の間に、羽を思わせる、三画の紋様。令呪――これまでの聖杯戦争の記録から類察するに、マスター位階第七位であることを示す令呪だった。

 令呪を機関内の別の魔術師に移すべきではないか、という意見も出た。彼女より強力な魔術師は幹部たちの中には何人もいるし、体裁的にはそれこそ僕がマスターとして参戦しなくてはならないまである。

 だけれど。

 ――もう一つ、最悪の問題があった。



 ***



「じゃぁ、再確認するよ」
「はい」

 従順に、短く答えるグレーシャ……いや、戦闘態勢(ぼくのてごま)である今は、雪華、と呼ぶ……の姿を見ていると、胸が痛くなる。愛する少女を、場合によっては生きて帰ることのできない死地に追いやる事への不安。どうしてこのような形でこの万能の願望器の奪い合いは開催されるのか、という、理不尽に対する怒り。

「此度の聖杯戦争は、この地球とほぼ同座標に出現した()()()()()――似通った性質を持つ原理から時計塔が命名したそれによれば、『鏡面界』、と呼ばれる世界で開催される。
 解析の結果分かったことは以下――鏡面界に入ることができるのは、『はじめに選出されたマスターたち』と、『はじめに召喚されたサーヴァントたち』だけ。令呪の受け渡しや、サーヴァントの再召喚は不可能。そして、鏡面界から出てくることができるのは、『生き残ったマスターとサーヴァント一組だけ』、ということだ」

 ――そう。それこそが、僕がこの事態を以て最悪、とする理由。

 霊子によって形成された仮想世界で行われる、サドンデスマッチ。それが、この『鏡面聖杯戦争』の正体だ。最後の一基になるまで殺し合い、最後の一組だけしか、生き残ることは叶わない。
 サーヴァントとマスター、そのどちらもが、殺害される。ギブアップは、不可能。

 本当に訳が分からない。誰が考えたのかは知らないが、これではマスターに選出されるということは、よほどの英霊を召喚するか、強力な魔術師でない限り、イコール『死』を意味するではないか。

 そんなの嫌だ。聖杯を手に入れることは大事だ。けれどそれと同時に、雪華を喪うことも堪えられない。

 だから、僕たち現代円卓騎士団ひいては聖杯研究機関は、彼女に、最強の聖遺物と、最強のサーヴァントを託す。

「僕が君に与える聖遺物は、我が束家に伝わる『聖剣』。ほぼ確実に召喚されるのは、過去二度の聖杯戦争で召喚され、最後まで生き残った最優のサーヴァント――『アーサー・ペンドラゴン』だ」

 僕達が選んだのは、最強を以て、王道をゆき、順当に聖杯戦争を勝ち上がる事だった。

 アーサー王は、かつて東京で行われた聖杯戦争、そのどちらにもセイバーのクラスとして参戦している。加えて二回目の聖杯戦争における彼のマスターは、お世辞にも一流とは言い難い魔術師であったとされる。

 そんなアーサー王を召喚することが叶えば、よほどアーサー王よりも強力な英雄…例えば、かつて世界の全てを見たという人類最古の英雄ギルガメッシュや、最強の英雄と名高いギリシアのヘラクレス、魔術と言う概念そのものをこの地にもたらした魔術王ソロモン…でもない限りは、勝ち残ってくれるだろう。勝ち残ってくれると、信じたい。

「アーサー、王……」

 雪華が、その名を紡ぐ。彼女は僕の目を見据えると、ふっ、と、少しだけ笑った。美しいその表情に、心臓が凄い勢いで脈動を始める。そんな場面じゃないのに……。

「あなたと、同じ、アーサー王ですね」
「そ、その例えはちょっと良く分からないかな……確かに僕は騎士団の長だけども……」

 ……伝説通りなら役職的にはパーシヴァルである。いや、そのどちらにも及ばないんだけどさ。

 ともかく。もう、雪華の出陣は決まってしまった。僕も覚悟を決めたから、先ほどの様に、彼女に「聖杯を僕に捧げろ」なんていう、およそ僕らしくない高圧的な命令を下したわけだし、きっと、雪華も覚悟を決めてくれたと思う。
 割とこう、役職に縋った悪ふざけ(パワハラ)を繰り出しては怒られていた父さんみたいで、なんか嫌だけど……仕方がない。僕達主従には、きっとこれが一番ふさわしかった。

 
 ――時間だ。

 もうすぐ、雪華の魔力が一番高まる時間。英霊の召喚に、最もふさわしい時刻となる。

「では、始めます」

 僕と雪華、そして12人の老若男女様々の幹部たち達が、この日の為に召喚室として設置された個室に赴いた。
 描かれた複雑な魔法陣。消去の中に退去。退去の陣を四つ刻んで、召喚の陣で囲ったそれ。――英霊召喚の魔法陣。

 その中央に、黄金の剣が安置されている。大ぶりの刃と長めの柄を持ったそれこそが、束の家に伝わる『生ける聖遺物』――『聖剣』だ。

 雪華の魔術回路が励起する。その唇が、喉が、音を紡ぐ。

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)
 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を、破却する――

「――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が王、束裕一。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王国へと至る三叉路は循環せよ」

 魔法陣が、光を灯した。雪華の詠唱に、答えたのだ。

 ――始まる。

「告げる。汝の身は『我が王』の下に。『我ら』が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ――」

 英霊召喚の詠唱は、本来の決まったモノに、アレンジを加えることでも十分に機能する。触媒と、そしてアレンジされた詠唱。そのどちらもがあれば、望みのサーヴァントをほぼ確実に呼び出すことも可能、とされているほどに。
 雪華は(僕としてはちょっと恥ずかしいけれど)、自分よりも僕、すなわちは『聖遺物の持ち主』、『正しき聖剣の継承者』とサーヴァントたる騎士王の間の(えにし)を強調することで、よりアーサー王が召喚されやすいように考えているのだと思う。

「誓いを此処に。我は常世全ての善となる者。我は常世全ての悪を敷く者」

 黄金の輝きが、溢れ出る。
 室内だというのに、強風が吹き荒れた。出所は魔方陣だ。膨大な魔力の奔流が、召喚室を駆け巡っているのだ。僕も幹部たちもたまらず腕で顔を覆う。

 けれど雪華だけは、微動だにせず祝詞を続ける。まるで巫女――いや、英霊をこの地に呼び寄せる、巫女そのものとして。

「汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!!」


 閃光。徐々に徐々に強くなっていった魔方陣の光が、爆発。
 
 そして真っ白に染まった視界の向こうに、映る、影。

 がしゃり、という音。靴音。鎧の、音。段々大きくなっていく、その音。

 立体魔方陣と化した召喚の陣の奥から、『彼』は現れた。

 
 それは『騎士』だ。蒼銀の騎士。
 悪魔とも竜とも取れる全面兜(フルフェイスヘルメット)で顔を覆ったその騎士は、傷つき、錆が浮き、しかしそれでも輝きを損なっていない白銀の鎧を身に纏い、だらり、と両手を下げて、降臨した。

「おお……」

 幹部の内の誰かが、思わず声を漏らす。あるいは、それは僕の声だったかもしれない。

 現れた騎士は、真っ直ぐに、雪華を見据えていた。

「――問おう」

 蒼銀の騎士は、声に出す。罅割れたようなエフェクトの掛かった声。しかし、確かに『王』であると分かる、威厳のある、若い声。

「――オマエが、俺のマスターか?」 
 

 
後書き
 この話が公開されるであろう2/24は、FGOでいよいよ新宿が実装ですね!! 残念ながらこの作品の原作でもあるPrototypeのサーヴァントは出ないっぽい気配でしたが……(

 なお、この話だけ七千文字近くありましたが、この先は大体三千文字強くらいしかないです。期待なさらないでくださいまし←

 ではでは、次回の更新でお会いしましょう。 
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