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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第87話「助ける」

 
前書き
何気に司を覆う“殻”がプリエールの時よりもう一層増えてます。
図としては...。()=殻
(アースラ(奏達(葵&リニス(優輝 司))))
的な感じです。(わかりづらいですけど)
 

 






       =out side=







「っ....!“チェーンバインド”!“ラウンドシールド”!」

     ギィイイン!!

 飛んでくる閃光にバインドが絡みつき、ユーノの防御魔法によって防がれる。

「ぬぅうううううっ!!」

     バチィイッ!!

 さらに飛んでくる魔力弾を、ザフィーラが展開した障壁が受け止める。

「攻撃の頻度が少ないのが幸いやな...!」

「ですが、その分中は危険です。」

「中に入っていった皆が心配ですね...!」

 アースラの護衛を担っているはやて達は、中にいる皆の事を心配する。
 司による精神攻撃も、アースラ付近はさすがに範囲外だったようだ。

「っ、待って!この魔力は...!?」

「...馬鹿な...これほどの魔力、闇の書を超えるぞ...!?」

 そこへ、途轍もない魔力の波動を感じ取る。
 司の感情が爆発した事による魔力砲撃なのだが、はやて達にそれを知る由はない。



「っ、魔力計測器が振り切れた!?」

 一方、アースラ内でも魔力は検知され、騒ぎになっていた。

「まずい!まずいよ!あの魔力が解き放たれたら、次元震どころか次元断層が起きちゃう!」

「艦長!」

 アリシアが慌て、エイミィがリンディに指示を仰ぐ。

「.....私たちには、どうにもできないわ...。全員、次元震及び余波に備えて!」

「...優輝...頼んだよ...!」

 魔力が発生しているという事は、既に優輝が交戦しているという事。
 そう思ったアリシアは、優輝を信じて余波に備えた。





「.......。」

「なんだこの魔力は...!?優輝達は無事なのか...!?」

 気絶したなのは達を守っている奏達も魔力を感じ取り、その魔力に戦慄する。

「優輝....。」

「頼むぞ...。」

 ただ祈るしかない事に、親である優香と光輝は焦燥感に駆られる。

「....優輝さん...。」

 余波が来るであろう事を予期し、防御を固めていた奏もまた、何も助けになれない事を歯痒く思っていた。





「優ちゃん...!?」

「あれは...。」

 そして、最も優輝に近い位置にいる葵とリニスは、唯一優輝が構える光の弓矢の輝きを認識する事ができていた。

「なんて力...!」

「...あんなの、あたしが喰らったら即蒸発するよ...。まさに神の一撃...。」

 神力の輝きが見えるこそ、二人が戦慄するのは魔力ではなく優輝の力だった。

「っ...!」

     ギギギィイン!!

「っ、ぁ...!」

「葵さん!」

 しかし、中心に近い場所にいる二人に、驚いている暇などない。
 襲い掛かってきた触手を、葵は何とか逸らし、リニスが葵を連れてその場から離れる。

「おそらく...いや、ほぼ確実にとんでもない余波が来る!早く防御魔法を!」

「しかし、このような場所では...!」

 リニスが防御魔法を、葵がレイピアを振るいながら飛んでくる攻撃を防ぐ。
 魔力が司に集中しているからか、弾幕にならない程まで攻撃頻度が減っているため、二人でも難なく防ぐ事ができた。
 しかし、立ち止まって防御する暇がある訳ではなかった。

「あたしが盾になる!その間に術式を用意して!」

「分かりました...!」

 一番近い“殻”の内壁まで下がり、葵が霊力で身体強化してリニスの前に立つ。
 その間にリニスは頑丈な障壁を張るために術式を練る。

「護り...きるっ!!」

   ―――“刀技・金剛の構え”
   ―――“刀技・挺身の構え”

     ギギギギギギギギィイン!!

 レイピアを大量に魔力で作り出し、それを駆使して攻撃を弾く。
 負荷に耐え切れずに持っているレイピアが壊れても、すぐさま作り出しておいたレイピアを手に取り、触手や閃光を弾く。
 また、レイピアを射出する事で魔力弾も相殺する。

「っ...!行けます!!」

「了解!...“呪黒剣”!!」

 リニスの言葉に、レイピアを一際多く射出した後に飛び退き、リニスと並び立つようにしてから黒い剣を前方に生やす。
 気休めとは言え、その剣も盾となるようだ。

「重なり、高め合え...!」

   ―――“Decuple Protection(ディカプルプロテクション)

 リニスが十枚もの障壁を張る。
 重ねるように展開された障壁は、一枚一枚が相当な防御力を誇っているようだった。









   ―――....そして、二つの力が衝突した。











「っ....あの光は...。」

 外に出ていたユーノ達を戻し、シールドを張っていたアースラは、優輝が放った矢の光をようやく発見する。

「魔力が観測されない...って事は、優輝...!?」

「...あの光、間違いないよ。優輝が神降しした時にも見た力だ...。」

 ユーノがモニターに映る光を見ながらそう呟く。

「収束していた魔力が、打ち消されていきます...!」

「あれほどの魔力が相殺されるなんて...。」

 次元断層さえも起こしそうな魔力を、いとも容易く相殺した神降しの力に、リンディは驚きを隠せなかった。

「今の力の衝突で、黒い塊の一部が瓦解します!」

「...これで後は司を助けてくれれば...頑張って、優輝...!」

 あともう少しだと願い、アリシアは優輝達の無事を祈った。





「っ、ぁあああっ!?」

「ぁああああああ...!」

 一方、葵とリニスは余波をまともに食らい、十枚もの障壁と黒い剣はしばらく耐えたものの、砕かれて吹き飛ばされていた。
 だが、そのおかげで二人は何とか大ダメージを喰らっただけで済んだ。

「っ...!葵さん、リニスさん...!」

 そこへ、二人の防御のおかげで無事だった奏がやってきて、二人を保護する。
 どうやら、余波で“殻”が一つ吹き飛んだらしい。

「わ、私はまだ動けます...。しかし、葵さんが...。」

「っ、ぐ...咄嗟に動けるのはあたしだけだったしね...。」

 実は、障壁が破られて吹き飛ばされる瞬間、葵はリニスを庇っていたのだ。
 リニスは障壁の維持のために動けなかったため、結果的に葵が霊力で身体強化してリニスを余波から体を張って守ったのだ。

「(今の余波でこの“世界”そのものに穴が開いた。大して損害が出ていないのは障壁で防ごうとした範囲だけか...。)」

「今回復魔法を掛けます...!」

「助かるよ...。」

 ボロボロになり、リニスに回復魔法を掛けられながらも、葵は状況を把握する。
 “負の感情”による瘴気で構成されていた闇の世界は、優輝達の攻撃の余波で穴だらけとなっていたのだ。

「(...最深部だけはほぼ無傷...中までは分からないけど。...それに、膨張してる...。外側がボロボロになったのもあれが影響している...?)」

 葵は瘴気のように形を持たないモノで構成された世界の割にボロボロなままなのはおかしいと思い、規模を大きくした最深部の闇の塊を見る。

「...どの道、後は優ちゃんに託すしかない...か。」

「...優輝さん...。」

 もうあの中には侵入できそうにないと、葵は優輝に全てを託した。

「....少し、いいか?....認識阻害による記憶改竄が、解けたようだ。」

「え....?」

 そこへ、クロノが割り込んできてそう言った。

「認識阻害に割く力に余裕がないかは分からないが、僕も司の事は思い出した。...ヴィータ達も同じだろう。」

「そっか...。でも、今更変わらないよ。」

「ああ。...あれを見れば嫌でもわかるさ。」

 あれほどの余波を起こしていながら無事な最深部の闇の塊に、クロノは冷や汗を掻く。

「...さすがに無傷とまではいかなかったみたいだけど、それでも穴がいくつか開いた程度...。一体、中はどうなっているのやら...。」

 優輝が皆を庇うようにしたからか、葵たちのいる方面だけくりぬく線のように、最深部の塊にも穴が開いていた。

「司...!司ぁあああっ!!」

「ちょっ、神夜!落ち着け!」

「なんだ!?」

 気絶から目覚めたらしい神夜が、一人突っ込もうとしていた。
 どうやら、司の事を思い出し、さらに好いているが故に感情的になったらしい。
 それを、ヴィータとシグナムが何とか抑えていた。
 ちなみに、他の皆はまだ気絶していた。

「放してくれ!くそっ...なんで俺は司の事を...!」

「いいから落ち着け!お前らしくないぞ!」

 気絶から目を覚ましたばかりとはいえ、ヴィータとシグナムの制止を振り切る。

「...寝て。」

「がっ!?」

 ...と、そこで奏が刃を潰したハンドソニックで叩き、気絶させる。
 魔力をきっちりと込めて威力を相当高めたらしく、神夜の防御を貫いていた。

「...今行った所で、邪魔になるだけ...。」

「奏!?てめ、何を...!?」

 さすがにいきなり再度気絶させられたのにヴィータは憤る。

「...気絶でもさせなければ、余計な被害を増やしていたけれど?」

「っ...わーったよ!」

 奏の正論に言い返せず、ヴィータは渋々納得する。
 これが神夜が敵視している優輝であればそれでも何か言っていたが、相手が神夜とも親しくして“いた”奏だったため、何とか抑えたようだ。

「僕らも何かできないだろうか...。」

「....適当に攻撃を仕掛けて力を割くっていうのがあるけど...。」

「得策ではありませんね...。」

 既に戦い続きで疲弊しているクロノ達では、そんな耐久戦はできない。
 おまけに、何人かは未だに戦闘不能である。防御すらままならない。

 ...するとその時、最深部に開いていた穴から人影が()()飛び出してくる。

「あれは...。」

「優ちゃん...!?それに、かやちゃん!?」

 飛び出してきたのは優輝と椿。
 
 ...その事が表すのは、つまり....。

「...神降しが、解けた....!?」











       =優輝side=







   ―――時は少し遡り...







「っ....!」

 矢と砲撃の衝突による余波が治まる。
 少し辺りを見渡せば、瘴気によって構成された世界には所々穴が開いていた。
 神力による一撃だからだろう。相反する力がぶつかって瘴気の一部が消滅したらしい。

「っ、ぁ...!?」

 しかし、次の瞬間には僕の姿が元に戻ってしまった。
 すぐ傍には椿の姿が現れ、神降しをしていたため今は眠っている。

「まずい...!?」

 神降しが解けたという事は、僕の力が落ちてしまったという事。
 しかも、それは半分どころの話ではない。
 そうなれば、いくら瘴気を削ったと言えど、司さんの暴走を抑えるのは...。

「っ、ぎっ....!」

     バチィイッ!!

 襲い来る閃光を魔力を纏った拳で何とか逸らす。
 それだけでリヒトが展開していたグローブは破れ、僕は大きく後退した。

「くそっ....!」

 すぐさま縄を創造して椿に巻きつけ、次に迫る触手を躱す。
 少々乱暴な運び方だけど、我慢してくれよ椿...!

「ちっ...!」

     ギギギギギィイン!

 弾幕のように魔力弾が飛来する。
 それを創造した剣で相殺しようとするが、一部は相殺しきれないため、身を捻って躱す。

「(神降しが解ける制限時間まで、大体20分は残っていた!それなのに解けたのは...力を使い果たしたからか!?)」

 必死に攻撃を凌ぎながら、どうして神降しが解けたのか考える。

「(地球とは違う場所な上、この瘴気の量では神降しは保てなかった...って所が妥当か...。くそっ、さっきので神降しを保つ力を使い果たしたのか!)」

 いくつかの攻撃を凌ぎきり、ほんの少しだけできた隙を使い、椿に霊力を送る。
 そうする事で気つけ代わりになり、椿は目を覚まし、僕は縄を消す。

「っ...!(魔力収束...!まずい...!)」

 すぐさま飛来した魔力弾を躱し、触手を逸らしている時に魔力が収束するのを感知する。
 ギリギリ放たれた砲撃を躱す事はできたが、次に振るわれた触手は回避できなかった。

「っ、させないわ!」

「椿!?」

 ダメージ覚悟で逸らそうとすると、椿が障壁を張って防ぐ。
 触手が激突してもびくともしないその障壁に込められた力に、僕は驚く。

「神力...!?」

「まだ使える神力は残っていたのよ。でも、今ので最後。神降しが解けたと同時にほとんど失われてしまったわ。」

「そうか....っ!椿!」

 椿の言葉に僕は納得する。

 ...しかし、所詮は一枚だけの障壁。
 次々と放たれる攻撃を前に、障壁が持つ訳がない。
 おまけに、再び収束する魔力を感じ、僕は椿の前に立って魔力結晶を取り出す。

「“ドルヒボーレンベシースング”!!」

 閃光が放たれると同時に、僕が砲撃魔法を放つ。
 魔力結晶を用いて放たれた砲撃は....閃光によって貫かれた。

「しまっ....!?」

「っ!」

     バチィイッ!!

 収束していた魔力は、わかってはいたが魔力結晶一つ分以上だった。
 そこから放たれた砲撃など、相殺できるはずもない。

「助かった、椿...!」

「次、来るわよ!」

 障壁をも貫いた砲撃は、椿による霊力の籠った短刀で逸らされる。
 さすがに威力も激減していたらしい。...が、すぐに次の攻撃が来る。

「防ぐより躱す方がいいか...!」

「優輝!」

「っ、ぁああっ!?」

 閃光や魔力弾を躱すものの、いくらなんでも数が多すぎた。
 襲い来る触手を躱しきれずに、僕と椿は触手に防御魔法ごと吹き飛ばされた。





「っ.....!?」

 ...その時、確かに僕は見た。







   ―――中心部で、ジュエルシードを浮かべながら虚ろな目で僕らを見る司さんを。













「っ、ぐぅ....!」

「っぁ...!」

 最深部の空間から飛び出し、僕らは地面を滑りながらも着地する。
 だが、防御魔法越しとはいえ一撃を喰らったため、ダメージが大きい。

「ちっ...!」

 休む暇はない。追撃とばかりに襲い来る触手を逸らそうと、シャルを振るおうとする。

「はぁっ!」

     ギィイイン!

「葵...!」

 だが、その攻撃は葵が逸らしてくれた。

「優ちゃん!かやちゃん!無事...とは言えなさそうだね。」

「ああ...。」

 神降しが解けたのは僕らを見てわかっているのだろう。
 葵の表情には余裕がなく、焦っていた。

「(司さんを説得するにはもう一度最深部まで行く必要がある。だけど、それには...。)」

 神降し並とまでは言わないが、それに近い力が必要となる。

「........。」

「優ちゃん、どうするの?このままだと....。」

「...優輝?」

 黙っている僕に気づき、椿が訝しむ。

 ...神降しに近づける力は、ある事にはある。
 だが、その力は....。

「(他に何か...!)」

 その力を使うには神降しと同じく持続時間が短い...というより、持たない。
 だから、他に何かないか考え、“ある物”に気づく。

「...そうだ。僕は...僕らは助けに来たんだ。」

 “それ”に手を触れ、僕は気づく。僕の...僕らの心を蝕んでいた“モノ”に。

「...さっきまでは、僕に焦りや“まずい”と言った気持ちが溢れていた。」

 ...それは、詰まる所“負の感情”だ。
 そう、僕も...いや、おそらく全員が気づかない内に精神攻撃の影響を受けていたのだ。

「そんな気持ちを抱いていたら、救える“未来”は視えない!」

〈マスター...。〉

 リヒトも、今回ばかりは止めようとしない。
 これは、無茶をしなければ掴めない可能性だ。

「力を貸してくれ、シュライン!ジュエルシード!!」

 シュラインを懐から取り出し、ジュエルシードも全てリヒトから取り出す。
 そして、その力を行使するために、僕は術式を練り...。

「....“Anhalt auf(アンハルト・アウフ)”!!」

 魔法を、行使する。
 この魔法は、イメージする人物のステータスを僕に宿す魔法だ。
 そして、イメージする人物は決まっている...!

「“創造開始(シェプフング・アンファング)”...。司さん、君の力で救われた人は何人もいる。...その事を、今ここに示す!」

 シュラインの宿るジュエルシードを基に、一つの“デバイス”を創造する。
 十字架のような形状の槍型デバイス。...そう、シュラインだ。
 司さんのデバイスを創造し...僕は、司さんの力を宿す。

「全員、援護に回ってくれ!もう一度最深部に突っ込む!!」

 ジュエルシードの魔力を解き放ち、僕は仮初めの“天巫女”として対峙する。
 皆にそう指示を出し、僕は祈りの力を行使する...!

「邪なる力よ、退け...!我らの祈りで、皆に祝福を...!」

   ―――“Sanctuary(サンクチュアリ)

 ジュエルシードが一際輝き、魔法陣が広がっていく。
 その範囲は、僕らがいる場所だけでなく、アースラにまで届く...!

「...これで、精神攻撃の影響は消えたはずだ。」

 僕の言葉に皆が戸惑っている。
 ...当たり前か。僕一人に任せるようなものなのだから。

 ...でも、そんなの関係ない。すぐさま僕はシュラインを構える。

「穴を穿て、聖なる光よ!“聖撃”!!」

 天巫女の力に、瘴気が驚いたのだろうか?少し怯んでいた。
 その間に最深部への壁を掌底で攻撃し、そこに穴を開ける。

「っ!聖なる光よ、降り注げ!」

〈“Holy rain(ホーリーレイン)”〉

 だが、そこでようやく触手や閃光が襲い来る。
 それに対し、僕は祈りの力で閃光の雨を繰り出し、相殺しにかかる。

「贋作で悪いが、協力してもらうぞ...!断ち切れ!!」

   ―――“Saint slash(セイントスラッシュ)

 ジュエルシードの一つから魔力が迸り、それが斬撃となって触手を切り裂く。
 足を踏み出し、中へと突入しようとするが、穴が塞がりそうになる。

「させないよ!」

「...穿ちなさい!」

   ―――“呪黒砲”
   ―――“弓奥義・朱雀落”

 ...が、そこへ黒い砲撃と朱い矢が突き刺さり、穴を広げる。

「“サンダーレイジ”!」

「“アトミックブラスト”!」

「“トワイライトバスター”!」

 さらに、雷の砲撃が、巨大な魔力弾が、オレンジの砲撃が再度展開された弾幕を相殺する。
 リニスさん、母さん、父さんによる魔法だ。

「行って...!優輝さん...!」

     ギィイイン!

 僕に襲い掛かってきた触手を、目の前に加速して現れた奏が逸らす。
 ...それだけじゃない。遠くからいくつもの魔力弾が降り注いでいる。
 あの術式はクロノだ。...皆が、道を拓いてくれた。

「....任せてくれ。」

 広がった穴へと飛び込む。
 同時に、ジュエルシードの魔力を迸らせ、靄のような瘴気を吹き飛ばす。





『っ....!』

「......。」

 虚ろな目で佇む司さんと離れた位置で対峙する。
 互いに周りにジュエルシードを漂わせ、淡い水色の光が隔離された空間を照らす。
 紫色のこの空間は、さながらファンタジー物の異次元での最終決戦だ。

『ぁぁ...!』

「....!」

 空間が歪む。...正しくは、そう見えるように魔力が揺らめく。
 その瞬間に僕はジュエルシードを前面に向ける。

『ぁああああっ!!』

「っ....!」

 “相殺せよ”と強く念じ、魔力が解き放たれるのに合わせて僕も砲撃を放つ。
 祈りの力をジュエルシードで増幅させて繰り出した砲撃は、司さんの攻撃を相殺する。

『ぅぅぅ....!』

「くっ...!」

 蹲るように司さんは頭を抱え、その周りを回るようにジュエルシードが高速で回転する。
 そして、まさに弾幕のように砲撃や魔力弾が展開される。

「っ...!」

 こちらも光の雨が降り注ぐのをイメージし、さらに剣も創造して繰り出す。
 物量では未だに負けているため、相殺しきれないのは自力で躱す。

「(やはり偽物な上、数で負けているからか...!)」

 所詮は僕が天巫女の力を真似ただけ。
 暴走しているとはいえ、本物の力に真正面から勝てるはずもない。

『ぅ、ぁああ....!』

「っ...司さん...。」

 ...先ほどから司さんは、どこか苦しそうに頭を抱えてばかりだ。
 拒絶するような言動も素振りもない。...ただ、苦しそうだった。

「....この程度じゃない...!」

 襲い来る魔力を相殺できずに、僕はその場から飛び退く。
 追撃の如く振るわれた触手はシュラインを使って上手く逸らして防ぐ。

「天巫女の力は、この程度じゃない!」

 真似ただけの力。...それがどうした。
 ただ“凌ぐ”だけなら、例え全てで劣っていても可能だ...!

「ぜぁっ!!」

 祈りの力をジュエルシードで増幅し、それをシュラインに込める。
 そして、飛んできた空間を歪ませる程の魔力を、そのまま切り裂く。

『っ....!?』

「...司さんを助けたいと思う気持ちは、一つじゃない...!」

 創造魔法と祈りの力を合わせ、光の剣で弾幕を相殺する。
 ...創造魔法と祈りの力の相性は、実は結構良い。
 イメージを基に創造する魔法と、祈りを現実に反映させる力。
 どちらも似通った力なため、掛け合わせる事もできるのだ。

「....はぁっ!!」

   ―――“Prestige Creation(プリスティージクリエイション)

 波紋のように魔力が放たれる。
 その魔力は司さんから放たれる弾幕を悉く撃ち落とし、触手さえ相殺した。

「...ここに来た皆が、司さんを救いたいと、願っている!」

〈“Boost(ブースト)”!〉

 さらに、“助けたい”という意志にジュエルシードが反応する。
 シュラインを通し、ジュエルシードの魔力が僕の身体能力を上げる。

 ...ここからが、本番だ...!







「絶対に...助ける...!!」









 
 

 
後書き
Decuple Protection(ディカプルプロテクション)…リニスが扱う中で最高の防御力を誇る防御魔法。十重にもなる障壁で攻撃の衝撃を吸収して防ぎきる。無印でのなのはのSLBを余力を残して防ぎきれる。ただし、展開まで戦闘中にしては時間がかかるため、隙だらけになる。

Sanctuary(サンクチュアリ)…文字通り聖域となる領域を展開する。消費魔力は大きいため、ジュエルシードを用いるが、その効果は精神攻撃を完全無効化するという高性能。天巫女の本領の一端である。

聖撃…祈りの力を込めた掌底。シンプルな技だが、ジュエルシードの力を行使している今、それだけでも相当な威力を誇る。

Saint slash(セイントスラッシュ)…ジュエルシードの魔力を用いた斬撃。なのはの全力のハイペリオンスマッシャーも軽く切り裂ける。

Prestige Creation(プリスティージクリエイション)…“威光創造”。優輝の創造魔法と天巫女の祈祷顕現の力を組み合わせた技。膨大な魔力を用いてジュエルシードの魔力を相殺する。

Boost(ブースト)…祈りの力での身体強化の際のワード。某赤龍帝と違って倍加ではない。

描写されていませんが、アースラにいる皆も司の事を思い出しています。
尤も、騒いでいる暇はないので思い出した事に関しては後回しにしていますが。 
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