| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

暁ラブライブ!アンソロジー~ご注文は愛の重たい女の子ですか?~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

We are meant for each other. 【ナイル川に住むワニ】

 
前書き
後半戦突入!前回のオオトリを務めた”ナイル川に住むワニ”さんです!



みなさまお久しぶりです。ナイル川に住むワニと申します。
前回に引き続き、ウォールさんの企画に参加できたことを嬉しく思います。

たっぷり堪能していただければと思います。
そんなに長くありませんので、隙間時間に読んでいただければ幸いです。




 

 






……プラットホームでは朝の通勤ラッシュがスタートしつつある。朝の明るみが果てしない遠方からにじむように広がってくる。その明るみは、いつも電車が目の前を通り過ぎるとチカチカと光ったり消えたりして少し眩しい。


8:45。
通学で使う、いつもの電車がやって来た。その電車を見るたびにいつも胸の鼓動が加速するから困りものだ。だけど、この体が火照る感覚は嫌いじゃない。

 私は、静かな朝が好きだ。周りの家並みはまだ静かに眠っている朝早い時間に、時折の電車のレールのきしみと、微かなラジオ体操のメロディーを聴きながら散歩する。とても気分は清々しくなり、今日も一日頑張れそうな気がするからだ。高校時代はいつも学校に遅刻するギリギリまで寝て、妹やお母さんにたたき起こされるまで寝ていたけど、大学生になって、あの人に出会ってからは別人のような生活を送っている。
 
私自身もそれは自覚している。

 そして、電車に乗っている時間も好きだ。
今朝も会えるかな?と、電車のドアが開くとすぐに私は乗り込み、大好きなあの人を探す。今日の占いで私は一位だ。大好きな彼と沢山話せるチャンス!ラッキーアイテムはピンクのハンカチ!女の子なのにそういったところに無頓着な私が珍しく持っていると、気持ちだけ女子力上がったような気がする。

ドキドキした胸の鼓動を抑え、私は電車内を見渡す。

…あぁ、いつものところにいた。また会えたね!彼はドア付近の椅子に座っていた。耳にイヤホンをしながらスマホを眺めている。聞いている曲は彼の大好きなアーティストだろう。いつも楽しそうにそのアーティストの事を話していたもんね!今度のライブは東京だって話だから、きっと行くんだよね。


 背丈は173cm、体重は62,4㎏と平均的なあの人の今日の服装は水色をベースにしたプルパーカーに、少し色落ちしたジーンズ。去年()と買い物行ったときに購入し、外出するときは片時も離さず持っているナップザック。今日は少しおしゃれしているのか少しふわっと全体的に盛り上がった髪形だ。

「…かっこいいな」

そう、呟かざるを得なかった。似合っている。

 ふと、彼が顔を上げてこっちを見たような気がして、私は思わず顔を伏せてしまった。見ているだけで恥ずかしいのに目を合わせられない。変な子だって思われていないか不安だなァ。
あの人の側によって「おはよう!今日もいい天気だね!」って声をかけてお話がしたいな。でも…無理カナ

…でも、でもね?それでいいかなって最近思うようになったの。
向こうは私の事を知らなくても…ううん、もしかすると、去年の第二回ラブライブ!を見てくれていたのなら知っているのかもしれない。でも、話しかけられなくても、私の事を知らなくてもそれでいい。


得意なスポーツはテニス。”去年のインターハイで惜しくもベスト8だったけど、母校の歴史を塗り替える素晴らしい結果だった”。勉強も”三年間上位を維持していて、推薦があったのにも関わらず、それを蹴って今の大学に自力で入学した”とても優秀な彼。

彼女いない歴=年齢だけど、告白された回数は今まで36回、去年のバレンタインデーで42個のチョコをもらって苦笑いしている彼。

一人一人の気持ちを尊重する故に断る度に辛そうな表情を知っているヨ?


全部…ワタシ…知ってるヨ?





そう、例えば今君が取り出したスマホ。
きっと女の子の連絡先、全部消えてるよね?私はだれとやりとりしてるだとか、知ってるんだよ。だって、アイツらの住所と名前と、電話番号手に入れているんだから。その人達といつ、どこで、何をしているのかも知ってるんだ。

だって、貴方に馴れ馴れしくて今すぐ離れて欲しいんだもの。だから最近女の子から避けられているって感じがしていると嬉しいな~!

それだけじゃないヨ?貴方の行動パターンとか何気ない仕草まで全部瞼の裏まで知っているんだから。


「あ、おはよう…」
「ん?あぁ、おはよう」


大学までの途中の駅。彼の隣にやってきた、彼に片思いしている憎い女の子が彼に声をかけている。
ショートカットの彼女は、自分を可愛く見せる角度を熟知しているかのように彼女は上目遣いで彼とお話ししている。その姿が頭にきて、咄嗟に自分のスマホで彼女のSNSのアカウントを乗っ取る。当然、彼に近寄る害虫なので排除するのは当然なの☆

…でもまぁ、彼の良いところはいつも友達とじゃれ合うフレンドリーさ。分け隔てなくみんなに笑顔で優しい。人より少しおしゃれに気を付けていて、最近は髪形を気にするようになって。たくさんの人から相談を受けるほどの厚い人望がある彼だから、ちょっとした害虫に目を付けられてもおかしくないよね。

でも、私という女の子がいておきながら害虫と戯れるなんて信じられないし、今すぐ離れて欲しいの!
女の子には優しくしないでほしい。




「あ、あの!」
「…ん?」



勇気を振り絞って彼に声をかけるワタシ。
ちょっぴり驚いていた顔は可愛かったけど、すぐに私の視線は隣の女の子の腰元に行く。


なんで貴方が害虫の腰に手をあてて寄せているのかわからなかった。なんで?ワタシ、貴方のカノジョだョ?どうしてそういう不安にさせるようなことをするのかなァ?

「ねぇ、ワタシ、貴方のカノジョだョね?この女はワタシ達のカンケ―を引き裂こうとする悪い害虫だョ?害虫は...駆除しないとダメなんだョ。ほら、だから離れて欲しいナ」
「......」


別に私は間違ったことは言ってないのに害虫はおろか、カレも残念な人を見るような眼差しを向ける。
ワタシにとって、当たり前の事。例えば、包丁を突き刺せば、体内から血液が飛び散って死ぬのと同じ。彼には...ワタシとの間にある赤い糸は見えないのカナ?

「...」
「ずっと貴方の後ろを貴方の影を踏みながら見ていたんだよ?ずっとずっとずっと!それなのに!」
「もう、いいよ」


彼は、彼の言葉の意味に”拒”が混ざっていた気がした。彼は呆れているようで…いや、怒っているんだ。だけどなんで貴方がワタシに怒っているノ?怒る相手はワタシじゃなくて隣の害虫でしょ?

だけど彼が見ている先には確かにワタシがいて、それが本当にわからなかった。

「君…確か、二年前”μ`s”というグループで日本のアイドル界を騒がせた




———”高坂穂乃果”さん…でしょ?」




 呆れた声でそう言った。ワタシの事をなんでそういう他人行儀な態度で言うのかわからない。ワタシ達は”恋人同士”なんだよね?この前だって貴方から”もらった合鍵”で部屋にお邪魔して、真っ暗な中”要らないモノ”とか全部処分してあげたのに…全部大事な彼氏の事を想っての行動なのに…

PCの隠しフォルダに入ってたHな動画も、恥を忍んで削除したんだよ?一人でするときはワタシの動画を使うって約束をしたのに…なんで破っちゃうのかナ?


「俺、君の彼氏じゃないし。というか全くかかわった覚え無いんだけど?なんでこういうことするの?」
「チガウよ?キミはワタシと結婚するって約束したじゃない。キミこそなんでこう意地悪するのかな?カノジョをいじめて楽しいノ?」


結婚までなかったことにされるのは傷つくよ。女の子にとって結婚はとっても大切なことなんだョ?

「...」
「ねぇ何とか言ってョ。今なら許してあげるから!ねぇねぇねぇ」
「...もう俺に近寄らないでくれませんか?これ以上酷いと警察呼びますので」



ワカラナイ。なんで怒ってるの?なんでそういう目でワタシを見るの?



『世田谷区~、世田谷区~』


機械音が電車内に響く。「もう行こう」と彼は害虫の手を握って、こっちに目もくれずに電車から降りようとドア前に移動してしまう。

ワタシには赤い糸が見える。運命の赤い糸。絶対に結ばれる。つまりこそれは、結ばれる二人の試練なんだネ?そうなんだ...


そういうことなら、と私はカバンから取り出す。特にどうということは無い、何処にでも売っているような安物だけど、今現在の試練を乗り越えるなら十分楽なもの。

ワタシの持ってる”ソレ”を見た電車内の乗客はなにやら騒ぎ出したけど、きっと応援の声だ。ラブライブ!でみんなから受け取った声援と比べるとちょっと少ないけど、今のワタシを勇気づけるのは持って来いの叫び声と黄色い声だね。


勇気づけられたワタシは、きらりと電車のライトを浴びて反射する”ソレ”を落ちないようにしっかり握って、高く、高く上げる。


そして。




…彼の隣の害虫めがけて振り下ろす。





振り下ろす瞬間に見えた、刃物に写るワタシの表情は涙を零しながら。




酷く、醜く。



高笑いしていた。






あの時とは違う。



からっぽな笑顔だった。





 
 

 
後書き
タイトルの直訳は『私たちは結ばれる運命』です。
高校を卒業し、一人暮らしを始めた穂乃果の前に現れた一人の青年。競争力の高い彼に惚れてしまった穂乃果は恋狂い、妄想という妄想に明け暮れてしまい現実と夢の区別ができなくなった。アイドルやってたから少しは振り向いてくれるだろうと達観しつつも、彼に近づけることなく、遂には他の女の子とキスしてる現場を目撃してしまった。それがきっかけとなり、精神的に壊れた穂乃果は———という構想から生まれた今回のお話です。


この先の展開は如何に!というところで今回は締めくくらせていただきます。私にもボキャブラリーや奇抜な構想を練ることができたらなーというちょっとした愚痴?後悔?を最後に今回はお暇させていただきます。

ではでは、この度ウォールさんの執筆活動二周年。誠におめでとうございます。今後もウォールさんの小説が多くの人に読まれ、名が広がる事を、一読者として応援しております!! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧