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マクロスフロンティア【YATAGARASU of the learning wing】

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遭遇

 
前書き
ここから本編です。 

 
『翼!シェリルのライブチケット取れたってホント!?』

「だからそう言っただろ?二人分取れたって。」

電話の相手、美星(みほし)(かなで)に答える。

『だってトンでもないプレミア付いてるじゃない!それを二人分もどうやって……』

「いや、正確には三人分だな。どっかの会社の重役からポーカーの賭け金代わりに毟りとってきた。」

『うわぁ……翼って賭け事に関しては鬼のように強いもんね?……あれ?残りの一枚は?』

「ああ、オズマしょ……別の部隊の隊長の妹さんがシェリルの大ファンでさ。チケット頼まれてたんだよ元々。」

『ああ、成る程。それで賭けポーカー見逃して貰えたのね?』

「そーゆー事。んで、行くか?」

『勿論!』

「じゃ、あした午後2時に天空門前の広場でな。」

『分かった。ありがとう!愛してる!!』

「っ!?」

最後に、どえらいこと言われたが何か反応する前に通話が切れた。

「……ったく、電話越しに大声でそんなこと言ったら……」

「よう、烏羽!相変わらず仲いいな!」

「ヒューヒュー!流石、彼女がアイドルだと違うねぇ!!」

「このヤロー!!俺にもアイドルの娘紹介しろ!!」

「……こうなるじゃんかよ。」

基本気の良い……というかまあ癖のある連中の集まるS.M.S。そこの酒保。そこでこんな会話をしたのだからこうなる。

「よ、翼。随分と楽しそうなこと話してんじゃんか。」

「げ、姐さん……。」

声を掛けてきたのはアリーナ・ブリリアント少佐。親を亡くし、単身フロンティアに来た俺の身元引き受け人であり、同時に俺の所属するレイヴン小隊の隊長でもある。因みに姐さんとよんでるのはどう見たってヤバいオネーサンにしか見えないからだ。

その姐さんが、怖いくらいのニヤニヤ笑いを浮かべて近づいてくる。ヤバイ!?あれは何か厄介を持ち込んでくる前兆だ!!

「なあ翼?」

「すみません急用を思い出しましたので失礼します。」

一息に言い切ってから立ち去ろうとする。が、肩を掴まれて引き戻される。うげ、なんつー馬鹿力だ!?

「まだ何も言ってねーぞ?」

「……その顔は言ってるも同然です。」

この人の厄介は大抵洒落にならない。始末書の代筆に始まり、飲み屋のツケ、報告書の作製、お使い(入手困難なものばかり)、果てはチンピラ相手の喧嘩までさせられた。

「今回“は”そんな面倒でもねーから!聞いてみるだけ、な?」

「………分かりましたよ。はぁ……」

聞いたら逃げられない、それを分かってて言ってるんだからこの人は………

「んで、今度は何やらかした、もしくはやらかすんです?」

「やらかす事が前提か!?」

「否定できます?」

憤慨するアリーナ姐さんだが知ったことか。付き合わされる身にもなってくれ。……無理な話か。

「いや、ルカの奴にアクロバットのプログラムの演算頼まれてな。それを届けてくれ。」

「アクロバット?」

「ああ、なんでもシェリルのライブの演出でアクロバットやるらしい。」

へぇ……ルカって事はミシェルのチームだよな?シェリルのライブで飛べるってことは相当腕上げたんだな。最近シミュレーターも一緒にやってないから実感ないけどな。

「ホント、珍しくまともなお使いですね。そんくらいなら軽いですよ。」

「おし!んじゃあ頼んだぞ!この時間なら学園にいるだろ。」

姐さんから演算データの入ったメモリーチップを渡され、美星学園に向かうのだった。





「よお、ルカ、ミシェル。やってるな?」

「あ、翼先輩!どうしたんです?」

「げ!翼さん!?」

美星学園の屋上、練習をしていたらしい所に声を掛ける。

「姐さんからだ、ホレ。それとミシェル、げ!ってのは何だ?ええ?」

「う、いや、それは………それよりルカ、どうだ?」

「トリプルループからの急反転上昇、行けそうですね!」

ミシェルめ、話し逸らしたな?ミシェルがS.M.Sに入隊した時、学園でも先輩なのだからと俺が指導役に任命された。その時に色々としばき倒したんだけどそれがトラウマになってるらしい。と、その時。

「下らねぇな。俺なら五回は廻れる。」

一人黙々と紙飛行機を折っていた美形の少年が声を上げる。

「リスク高すぎるだろ。高々余興でそこまでやる必要ない。」

ミシェルの言葉を鼻で笑う少年。しかし、

「リーダーは俺だ。悔しかったら次の試験は頑張るんだな。万年二位のアルト“姫”。」

「お前!!」

あーあ、また始めたよ。

「お前らいい加減にしとけ。明日本番だろ?アルト、ミシェルの言ってることは正しい。認めたくなきゃ勝つんだな。それとミシェル、お前も面倒になるって分かっててからかうな。一々仲裁する俺やルカの身にもなってみろ。」

「ぐ……」

「………ふん。」

……おいおい。

「…………返事は?」

「「は、はい!!」」

「アハハハハ………。」

少しドスを利かせて言い聞かせたら綺麗にハモった返事が返ってきた。ルカも苦笑いだ。

「……お前のせいだぞミハエル!」

「うお!?危ないな全く……ん?」

突如手にした紙飛行機を全力で投げつけるアルト。かわしつつ抗議の声を上げようとするミシェルだがアルトが熱心に紙飛行機を見上げるのをみて口をつぐむ。

「……東の風四メートル、行ける。」

呟くや否や、ランチャーカタパルトに飛び付くアルト。そして射出、EXギアのスラスターを使って飛翔する。その様は、俺の最後の記憶よりも格段に滑らかだった。

「………腕は、上げたようだな?」

「……ええ、まあ。あいつ、センスだけはありますからね。」

アルトは不器用でひねくれものだが空を飛ぶ事に関しては誰よりも真っ直ぐだ。

「……明日、俺と奏も見に行くからな?楽しみにしてるぞ。」

「そ、そうですか。……まあ、できる限りはしますよ。」

「それだけ聞けりゃ十分だ。じゃ、頑張れよ。」










「………ってな事があった訳だ。」

「へぇー。これはシェリル以外にも楽しみが増えたね。」

昨日の経緯を傍らを歩く穹の蒼を映した様な髪と瞳をもつ少女に話す。

「フフッ、それにしても二人で出掛けるなんて久し振りだね、翼?」

「そうだな……学校卒業してからこっち、お互い余計に忙しくなったからな……」

俺はS.M.Sのパイロットとして、奏は駆け出しの歌手として、それぞれ忙しい毎日を送っている。今日みたいにお互いの休日が合う日など滅多にないのだ。

「久々のデートだからね?ここは男の子に甲斐性見せて欲しいなぁ?」

「ぐ……何だよ?」

「いやー、ライブの後で美味しいディナーでも奢ってくれると嬉しいなぁ?」

「………はいはい。分かりましたよお嬢様。」

奏もフロンティア船団ではそこそこの知名度があるから俺より稼いでる筈なんだけどな。かくいう俺もS.M.Sでパイロットやっている都合上、困らない程度には稼いでいる。奏の言うとおり、たまには甲斐性ってものを見せるか。

「行こう。そろそろ会場開くぞ?。」

「そうね。……天空門かぁ……。私もやったことないのに。」

奏はS.M.SのCMやら広報やらをやってるためにフロンティア船団内での知名度はそこそこ高い。が、それでもこのフロンティア最大の会場である天空門ではライブをやったことが無いのだ。シェリルの人気度が窺えるところだろう。

「じゃあ敵情視察も兼ねてってところか?」

「んー……純粋に生で聞いてみたいって方が大きいわね。何だかんだとシェリルが凄いのは確かよ。」

会話をしつつ会場に入る俺と奏。薄いドームを隔てた宇宙で行われている事など知らないままに。





無限に続く暗黒の虚空を、一機のVFが駆け抜ける。新統合軍の主力機、VF-171ナイトメアプラスの電子戦仕様機、RVF-171だ。

『こちらリード3、ポイントB-37異常なし。』

『了解、引き続き哨戒をお願いします。』

『了解………ん?何だ?』

『リード3、どうしましたか?』

次のポイントに向け、機首を返しかけたその時、RVF-171の背面に装備された高感度センサーレドームが何かを探知する。

『………っ!?本機前方400kmにデフォールド反応複数探知!!所属不明(アンノウン)!!』

『……リード3へ、アンノウンの正体を確認せよ。繰り返す、アンノウンの正体を確認せよ。』

『了解!間もなく望遠で………何だ、アレは?』

突如出現したアンノウン。その正体を突き止めようと前進したRVF-171に、複数の熱源が迫る。

『な……ミサイル!?っ……駄目だ、かわせな……』

最後まで言い切る事なく、光の華と化して虚空に消えた。





新統合軍フロンティア船団護衛艦隊旗艦の新マクロス級《バトル・フロンティア》。その艦橋は現在、突如発生した異常事態に騒然としていた。

船団前方の航路を確保していた哨戒機が突如出現したアンノウンによりロストし、追加で向かわせた機体も全てロスト。間もなく船団に到達するところまできてしまっていたのだった。

「仕方あるまい。ゴースト部隊を展開、それと長距離ミサイル発射用意!」

司令官らしき人物が指示を出す。間もなく無人戦闘機であるゴーストの編隊と多数の長距離ミサイルが放たれる。

「ミサイル同時着弾20秒前、着弾と同時にゴースト隊による攻撃開始。」

オペレーターが淡々と報告する。そして、

「着弾10秒前………5……4……3……2………」

この時点でバトル・フロンティアの乗組員はほぼ全て、この一撃で片が付くと思っていた。しかし、

「……!?EMCパルスです!!ミサイル、及びゴースト制御不能!!」

「馬鹿なっ!?」

EMCパルスを使用した電波妨害など未だ何処の勢力でも実用化していない。しかし、目の前のアンノウンは現実にやってみせた。

「まさか……アンノウンの映像データはあるか!?」

「は、はい!哨戒機がロスト直前に送信した物です!」

写し出されたのはVF程のサイズの巨大な―――虫であった。

「―――ビクター………!!」

司令官の呟きに意味を知るものの顔色が変わる。

「……バルキリー隊に緊急発進(スクランブル)を掛けろ!!大統領にも連絡を!!いいか、絶対に防衛線を死守しろ!!」





「本当なのかね?アンノウンがゴーストやミサイルに干渉したというのは……そうか……いや、いい。それよりも絶対に防衛線を維持してくれ。こちらでも手を打つ。」

現場の指揮官から報告を受け新たに指示をだす初老の男性。彼こそがこのフロンティア船団のトップ、グラス大統領である。

「……奴等、ですか?」

側に控える鋭い眼光の男、レオン・三島大統領首席補佐官が問いかける。

「うむ……いつか来ると分かっていた。来て欲しくは無かったが………三島補佐官、君に全権を任せる。それとビルラー氏に連絡を。」





「凄いな……」

何が凄いかってシェリルだ。ライブが始まって間もなく、アルトが無茶な機動をしてチームメンバーと接触、勢いでシェリルがステージから転落した。幸いギリギリで体勢を建て直したアルトが助け出したが。驚くべきはその後だった。

「……奏。お前ならどうだった?」

「無理よ、絶対仕切り直すわ。」

なんとシェリルは、アルトに助けられ、抱き上げられた格好のまま一曲歌いきってみせたのだ。

「悔しいけど……流石は《銀河の妖精》ねぇ。」

「頑張らないとな、《蒼穹の歌巫女》さん?」

「ちょ……ちょっと、止めてよ!その渾名!」

《蒼穹の歌巫女》というのは奏の渾名だ。深く澄みきった歌声と容姿からそう呼ばれている。尤も本人は恥ずかしくて余り好きじゃないらしいけど。

ともあれ会場のボルテージは最高潮。熱狂に包まれたホールの圧に一切負けず、むしろ押し返す勢いで歌い続けるシェリル。その姿にはどこか圧倒されるところがある。

この辺が奏との音楽の違いだな。シェリルの声は銀河の様に煌めいていて人を惹き付ける。対して奏は蒼い空のように深く透き通る声で人の心に染み込む。どっちが万人受けするかと言えば当然シェリルだろう。……尤も、それが全てではないし、仮にそう言ったらそれは奏にもシェリルにも失礼だろう。

と、そんな時だった。

突如会場のライトが通常の状態に戻る。と、同時に鳴り響く緊急事態のアラート。

さらに俺の携帯にもコールが掛かる。ライブの為に電源を切っていたにも関わらず通じるということは……恐らく緊急呼び出しだ。

「翼です。姐さん、何が起こったんです?」

通話の相手は姐さん……アリーナ・ヴァローナだ。

『……作戦コード・ビクター3が発令された。直ぐに来い。』

「……ビクター!」

奴等が―――知らず、胸元の金属片を掴む。

『どうやらあたしもお前も、奴等からは逃げられんらしい。なら、叩き潰すまでだ。』

「―――了解!」

通話を切って隣を見る。此方を見詰める奏の瞳には恐怖も、不安も、疑いも微塵もない。ただ、黙って俺の目を、その向こうに見えるのであろう俺の意志を見透かしている。

「……悪いが、デートは中止だな。」

「そう………」

すると奏は何を思ったのか体を此方に寄せる。そして……

「ん………っと。………死なないでね?」

「っ!?………お前って奴は……どうしてこう大胆なのか……。」

顔を近づけ、頬に口付けされた。突然のラブシーンに周囲の目が痛い。

「……まあいいさ、さっさと片付けて来るから、気を付けて…な?」

「うん。」

この時点で周囲の何人かは彼女が美星奏だと気付いたのだろう。俺に複雑な視線がいくつもの突き刺さる中、避難者の列に混じる奏を見送る。

「……ビクターか。やっぱりこれも運命って奴か?」

呟き、首に掛けた“それ”を掌に乗せ、一度握り締める。

「………バジュラ共……次は11年前の様にはいかないぞ……もう何一つ、奪わせやしない。」

己が決意を確かめ、S.M.Sに急ぐのであった。 
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