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平気な男

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第三章

「あいつが直接やったという証拠ではないからね」
「私が調べただけで」
「そう、完全な証拠ではないよ」
「ですが調べたら」
「言い繕いは何でも出来るさ」
 シニカルな笑みのままでだ、キャメロンはメイに答えた。
「悪人はそうするし特にああしたタイプの悪人はね」
「そうしますか」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのだった。
「証拠がないと言って会社に居座るよ」
「学生時代もそうしていましたか」
「自分は部活をさぼっても相手には部活に行けという奴だよ」
 そうしたこともしていたというのだ、ジョンソンは。
「面の皮の厚さも異常でね」
「では」
「君がこの証拠を出して私が受け取る」
「刑事事件になってもですか」
「完全な証拠でないならだ」
「裁判でもですか」
「無罪になる可能性はある、いや」
 キャメロンはメイにさらに言った。
「むしろね」
「無罪になる可能性が高い」
「君のそれが偽造だと言ってあいつが腕利きの弁護士を雇えばね」
「そして弁護士さんが陪審員の人達に訴えれば」
「何とでもなるものだよ、裁判はね」
「そうしたものですか」
「何しろ完全な証拠ではないからね」
 メイが調べたうえだけでのことでしかないからだというのだ。
「もっともよく君も調べたね」
「私は会社の事務でして」
「そのうえで出席や会計をチェックしていてか」
「妙に感じて調べました、すると」
「あいつに関わることでそうなっていた」
「それでなのですが」
「そうだね、それでもね」
 さらに言うキャメロンだった。
「君が調べただけでね」
「まだ不十分ですか」
「あいつがやったことの一部を朧ろでしかないだろう、朧ろ即ち幽霊だね」
 幽霊が透けていることからの言葉だ。
「幽霊は証拠になるかい?」
「いえ」
「そういうことだよ、残念だがね」
「これを出してもですか」
「そう、あいつは有罪に出来ない」
「そうですか」
「しかし」
 ここでだ、キャメロンはニヤリとした笑みになった。そのうえでメイにこうも言ったのだった。
「あいつが終わる時が来た」
「終わり、ですか」
「しかも最悪の、あいつを知る人間全員にとっては最高の結末がはじまるね」
「有罪にはならないですが」
「いやいや、君はまだ若い」
 メイその楚々とした顔立ちを見て言う。
「その若い君が気付いたんだ」
「だからですか」
「じゃあ他の人達もだよ」
 まさにというのだ。
「気付かない筈がないからね」
「会社の中で、ですか」
「幾らあいつが悪事を隠していてそれで平気な奴でもだよ」
「それでもですか」
「あいつはもう終わりだ」
「仰る意味がわかりませんが」
 メイはキャメロンの言葉に首を傾げさせて返した。 
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