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もう一人の八神

作者:リリック
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新暦79年
異世界旅行 ~カルナージ~
  memory:33 川遊び

-side 悠莉-

「あたしいっちばーん!」

そう叫びながら川に飛び込む水着姿のリオ。
穏やかな川に水しぶきが上がり、波紋が広かった。

「あー、リオずるーいっ!」

それを追うように、ヴィヴィオ、コロナ、ルーが次々に水しぶきを上げていく。

「アインハルトさんも来て下さーーいッ!」

「ホレ、呼んでるぞ」

「そのっ……」

ノーヴェさんが川で遊び始めた四人を指差すが、アインハルトは羽織っているパーカーの裾を弄って、モジモジしていた。
そして、キャッキャ騒いでいる四人に聞こえないよう小声で話した。

「できれば私は練習を……」

「まぁ、準備運動だと思って遊んでやれよ」

ノーヴェさんの言葉に少し困った表情になるアインハルト。
私はそれに苦笑する。

「練習なんていつでもできるでしょうに。一度騙されたと思って一緒に遊んできたらいいさ。何かいい発見があるかもしれない」

「それに、あのチビ達の水遊びは結構ハードだぜ」

結局、説得された形でアインハルトは渋々といった様子でパーカーを脱ぎ、川に入っていった。

「あ。アインハルトさん、どーぞー!」

「気持ちいいよ~♪」

リオとルーがアインハルトに気付いて手を大きく振る。

「まったく……。ノーヴェさんも大概世話好きですね」

「お前に言われたかねーよ。でもま、あいつを誘ったのはアタシだしな」

そう言って、再びヴィヴィオたちに目を向ける。

反対の岸まで泳いで競争したり、シンクロナイツをやったりと川の中を楽しんでいる。

「ユーリ、お前ホントにこっちでよかったのか? 大人組と一緒にトレーニングじゃなくて」

「別にいいですよ。大人組はデスクワークや平和な通常業務で鈍った体と実践勘を鍛えなおそう、が目的のようですから。それに、ルーやちびっこ三人に誘われたら断れませんから」

「そうかい」

それからノーヴェさんと遊びまわっているヴィヴィオたちを眺めた。
しばらくすると、アインハルトが息を切らしながら岸に上がってきた。

「お疲れ。あいつらの遊びはハードでしょ?」

アインハルトにタオルを手渡す。

「あ、ありがとうございます。……これでも、体力には自信があったんですが……」

「いや、大したもんだと思うぜ」

アインハルトを岩の上に座らせながらノーヴェさんが話す。

「あたしも救助隊の訓練で知ったんだけど、水中では地上にいるときのように力を入れようとしてもなかなかできないんだ。だから慣れていないと今のように体力を余計に消費する」

「なるほど」

「それにこういう風に遊びながらトレーニングを続けていくと柔らかくて持久力のある筋肉が自然とついてくるんだ」

と、ノーヴェさんのためになる話が終わると、アインハルトに「面白いものを見せてやる」と

言って立ち上がった。

「ヴィヴィオ、リオ、コロナ! ちょっと水斬りやって見せてくれよ!」

川の中にいる三人にそう頼むと元気よく返事が返ってきた。

「水斬り……?」

「まあ見てたらわかるよ」

アインハルトは首を傾げながらも呼ばれた三人に注目した。

三人は水の中で構えを取り、コロナ、リオ、ヴィヴィオの順で拳を振り抜く。
すると水面が割れ、水柱が立った。

「ん~、ヴィヴィオが一番進んだか」

「アインハルト試しにやってみたら?」

ルーテシアの提案にアインハルトは頷いて水の中に入っていった。
そして、回転の力を利用しようと体を捻り、一気に拳を振り抜いた。

「……あれ?」

直後、空から水がシャワーのように降り注いだ。
水柱はヴィヴィオたち以上に上がったものの、ほとんど前に斬れていなかった。

「おまえのはちょいと初速が速すぎるんだな」

と、アインハルトの打撃フォームを見て、アドバイスを始めるノーヴェさん。
その後、手本を見せると、ヴィヴィオたち三人とは段違いに川が綺麗に割れた。

「―――ま、こんなもんだ。やって見せたように拳だけじゃなく、蹴りでだってこんな風にできる。……そうだな、ユーリ! お前もアレでやってみてくんねーか?」

「だってよユー」

「んじゃま、やりますか」

私も水の中に入る。

アインハルトとの会話から察するにアレって言うのはきっと……

半身の状態で体勢を低くし、左手を腰に、右手をその延長線上に置く……鞘に入った刀を握るかのように。

一瞬の静寂。

その静寂を切り裂くように刀を抜いた。

「「「おおーーーっ!!」」」

「す、すごい……」

水柱はそれほど上がらないものの、綺麗に水がノーヴェさん以上に割れた。
それを目にしたちびっこ三人は興奮し、アインハルトは驚きをあらわにした。

「ま、こんなもんかな」

「さっすがユー♪」

「アインハルト、脱力した状態からインパクトの瞬間で加速させる。これがコツだよ」

それから、アインハルトは水斬りを続け、徐々に上達していった。
また、その隣でアインハルトに触発されたヴィヴィオもお昼近くまでずっと続けていた。



お昼を前にして先にロッジへと戻っていた私は、大人組と合流して昼食の準備に参加していた。
目の前のバーベキューコンロでいい感じに焼けている肉と野菜の串を皿に盛りつけてそれらを配膳する。
その配膳の途中でイスに座るとある二人に声をかける。

「その様子じゃ、ずっと水斬りの練習してたみたいだね。……まったく、程々にしとけって言ったのに……」

「うぅ~…だって……」

「す、すみません……」

ぷるぷると体を震わせるヴィヴィオとアインハルト。
人の忠告を聞かずにずっと水斬りしていた結果、顔が青白くなるほど体を冷やしてしまったようだ。

「夢中になるのはいいけど自己管理くらいちゃんとしなきゃ」

「「はい……」」

「ヴィヴィオちゃんもアインハルトちゃんももう少し待ってね。今日のお昼ご飯は温かいものいっぱい用意したからねー」

「「あ、ありがとうございます……」」

メガーヌさんがやんわりと会話に入ってくると二人に温かい飲み物を手渡した。

「わざわざすみません」

「いいのよ。気にしないで」

それから間もなくして料理全てがテーブルに並んだ。

「じゃあ、今日の好き日に感謝をこめて」

『いただきます!!』

メガーヌさんが音頭を取り、みんなであいさつを口にした。



楽しい昼食を取り終える。
片付けてがあらかた終えると、大人組は陸上戦へ、ルーとコロナとリオは書庫へ、ヴィヴィオとアインハルトは残って片付け。
それぞれで別れていたのだが、ついさっきノーヴェさんからスターズとライトニングの模擬戦があるとかで来ないかと誘われた。
だけどそれを断って森の中を一人散策をしていた。

「試験から解放されるってのはいいもんだね」

勉強から解放された独特の感覚を感じながら目的もなくのらりくらりと歩く。

はてさてこれから何をしようか。
適当な場所見つけて昼寝っていうのもいいかな? 起きた時体は痛くなりそうだけど、こういう機会はないし。
それか、明日の試合に向けて黒ウサギと組手を……

「って、イクスに預けたままだった。無理じゃん。イクスがこっちに到着するまで後一時間ぐらい……何をやるにも中途半端か。仕方ない、ロッジに戻って大人しく待ってよう。何かするならイクスが来た後でいいか」

-side end-

-side other-

「悠莉!」

「やっほイクス、待ってたよ」

悠莉がメガーヌに連絡をもらってロッジへと戻ると、イクスヴェリアとセインの姿があった。

「セイン久しぶり。イクスをこっちに連れてきてくれてありがと」

「いいのいいの。教会からの差し入れ持ってくるついでだったんだからさ」

と、野菜の入った籠を見せてくる。

「ユーリ君。そろそろイクスちゃんの荷物を部屋に運んであげたら?」

「私の部屋と一緒でしたよね?」

「ええそうよ」

イクスヴェリアの部屋を確認する悠莉に頷いたメガーヌ。
それを聞いた途端にイクスヴェリアの目が変わった。

「そうですか!? それじゃあ早く行きましょう悠莉!」

「はいはい。わかったからそんなに引っ張んないでってば」

嬉しそうに悠莉の手を引いてイクスヴェリアは悠莉を連れて行った。

「イクスちゃんもホント元気でいいわねー」

「いやまったく。イクスって悠莉のことになると……」

「いいじゃない。仲のいい証拠でしょ」

「だね」

悠莉とイクスヴェリアを見届けると、

「セインはいいの? みんなと遊んでこなくて」

「いやぁ、あたしは教会からの新鮮野菜とたまごの差し入れ持ってきただけだから」

「そんな硬いこと言っちゃって遊びたいくせにー」

「そ、それはそーなんだけど!」

メガーヌの言葉を否定せずにいたずらっ子独特の笑みを浮かべる。

「ま、せっかくだから軽く温泉サプライズの一つも仕掛けてみんなを楽しませてやっかなーとは思ってるけど」

ニシシと笑みを浮かべるセインに「あらあら」と微笑みメガーヌ。

この時セインの影が小さく揺らいだことに二人は気付かなかった。

-side end- 
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