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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
  なのはStrikerS ~予言の書~


「人造魔導師?あの子供が?」

「ギンガさんが言うには、そうらしいです」


蒔風は翌日から部屋をエリオと同室に戻していた。
そこで先日保護した少女が人造魔導師である、と聞かされたのだ。


「そっか~~~。ま、関係ないよ。子供は子供だ」


だが蒔風は思ったほど驚いていない。
だがエリオはどこかやるせない表情だ。


「きっと・・・・プロジェクトFATEはまだ続いてるんです。今日も、どこかで」



きっと自分の生まれの事もあるのだろう。
少女のこれからを思うと、少し気の毒になってしまう。


だがそれでも蒔風は大丈夫だ、と断言する。



「生まれた理由とか、どうしているのかなんてのは関係ない。生まれた理由なんかどうだっていい。問題はどうやって生きるかだ。だろ?エリオ」

「・・・・そう、ですね」

「さて、確かなのはが病院にその少女に会いに行くんだったな。行ってくるか」


エリオに手をひらひらと振って、蒔風が部屋を出る。
なのはと合流して聖王病院に向かうため、隊舎の駐車場へと足を運んだ。



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「シグナムが?意外だな」

「ああ。私はシスターシャッハや騎士カリムとの面識がある。ならば私が案内した方がよかろう」

「いや、シグナムってレヴァンティン以外のもの握れたんだなって」

「よし、蒔風。そこにパーキングエリアがある。私は降りて殺りたい事があるのだが?」

「ごめんなさい。だからアクセルふかさないでください。そのスピード怖いです」


後部座席と運転席で、危うく命のやり取りが行われるところだった。
その時助手席にいたなのはは、背中に冷や汗をかいていたという。


(舜君・・・・・冗談は選んでよ・・・・)


一番の被害者はなのはだったかもしれない。





とまあ、そんな会話もたけなわに、車は聖王医療病院に到着する。


車から降りる三人に、ひとりの女性が走ってきた。
何やら慌てた感じである。



「シグナム、あの人は?」

「シスターシャッハ。聖王教会の修道女にして、優秀な近代ベルカ式の騎士だ」


「で?本名は?」


「・・・・・・・シスターシャッハだ」

「・・・・・本名は?」

「・・・・・シスターシャッハ、どうされました?」

「(こいつ本名忘れたな)・・・・どうも初めまして。機動六課遊撃隊員の蒔風舜です」

「わ、私は聖王教会シスター、シャッハ・ヌエラです。実は・・・・」



車の方にまでシャッハが近づいてきて、シグナムが挨拶をする。
それに倣って蒔風となのはも挨拶をし、なにがあったのかを聞く。


なんでも保護していた少女が逃げ出してしまったそうなのだ。
現在、手の空いた者が全員で捜索に当たっているらしい。



「そんな大げさな」

「大げさなんて事はありませんよ!あの子は人造魔導師です。先天的にどんな能力を持っているかわかりません。もしそれが暴発でもしたら・・・・」

「だとしたら、すぐに大人数での捜索は止めとくんだな。それこそビビって暴発させるかも知れんぞ」


蒔風の言い分ももっともだ。
あまりの的確な言葉に、シャッハも「う・・・」とたじろいでしまう。


だが蒔風は笑顔で

「ま、気楽に探そうや。案外、そこらへんの庭でも散歩してるだけかもよ?」

といってポクポクと歩き始めた。


なのはとシグナムは目を合わせ、ハァ、とため息をつきながらその後を追っかけていった。



「シグナムさん、一体あの人は?」

「まぁ・・・その、気にするな・・・・」






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そうして蒔風が早速やってきたのは最初に言ってた中庭だ。


後ろからはなのはもついてきている。
理由としては、なんとなくついてきたくなったのだそうだ。



「で、なんで真っ先にここなの?」

「そうだねぇ、俺だったらここにくるから」

「??」

「つまりオレもガキだってことさ、ほれいた」



蒔風が指をさす。
その先の茂みがガサガサと揺れ、その中から金髪の少女だ出てきた。

病院特有である患者用の服を着て、手には小さなウサギのぬいぐるみ。
そして左右で色の違う瞳には、外の世界への怯えがあった。


とはいえ

「おお、オッドアイって奴か?キレーな目ぇしてんな。どうよ、この子?」

「しゅ、舜君・・・・」

蒔風が、猫でも持ち上げるかのようにひょいと持ち上げてその子をなのはのとこまで持ってきた。
脇に手を入れて高い高いと持ち上げてからベンチに座らせる蒔風。


「なにしてたんだ?」

「えっと・・・・」

「ん?どうしたの?」


蒔風となのはが二人揃って少女に訊く。
だが少女にとって、これがほとんど初めての他人との接触だ。

緊張か、恐れか、うまく言葉が出てこない。




そんなことをしていると、二階の窓がきらりと光り、何かが少女の目の前までやってこようとした。



「逆巻け!!ヴィンデルシャフ「子どもがビビる登場はNGラリアットォ!!!」っとぉ!?」



それは武装したシャッハだった。
二階の窓から少女と接近していた蒔風たちを見て、危険だと思ったのかその間に入ろうとしたのだ。

で、シャッハがそうしようとしてたのを、蒔風がラリアットで阻む。


いきなりの攻撃にとっさに身を翻してかわしたのはさすがはシグナムの良き剣友と言ったところか。

きっと彼女からしたら、この子は大変危険なのだろう。
うんうん、と蒔風がそれを理解し、頷きながらもシャッハの肩を掴んで、少女に聞こえないように言った。


「シャッハさん、確かにあの子は作られた命かもしれない。その身に危険な何かを宿しているのかもしれない。だけど、今のあの子はただ外に怯える小さな少女だ。子どもになにかあったら、それを止めるのが俺らの仕事。人造だろうが普通のだろうが、そこに違いはない。でしょう?」

「う・・・・む・・・・・・・・そ、そうですね・・・・すみませんでした。どうにも私は先に手が出てしまうようなので・・・・」



少ししょんぼりと肩を落としながら武装を解除するシャッハさん
それに蒔風が少し呆れ気味に聞いた。



「武闘派なのはいいけどさぁ・・・もしかしてあんた、バトルマニアか」

「え?いやですねぇ、私はただ模擬戦とか闘うのが好きなだけですよ?」

((それがバトルマニアって言うんだよ))



少女を抱えたなのはと、がっくりとうなだれる蒔風が同じことを思った。
ああ、こりゃシグナムとも気が合うや、と。



「さて・・・気を取り直して・・・嬢ちゃん、名前なんてんだ?」

「・・・・・えっと・・・・」

「ああ、俺は蒔風舜な?で、こっちのが」

「高町なのは。よろしくね?」


「わ、私は・・・・ヴィヴィオ・・・・」


「ヴィヴィオ・・・・ふむ、良い名じゃのう。よろしくだ、ヴィヴィオ」

「よろしくね?ヴィヴィオ」



「・・・・・うん」




そんなこんなでなんとかお知り合いになる事の出来た三人。





余談だがこの後シャッハはシグナムに「バトルマニアってなんですかね?」と聞いていたらしい。



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「着いた着いたっと・・・んあーーー、よく寝た」



車から降りる蒔風たち。
なのはの腕の中ではヴィヴィオが眠っている。
その寝顔は安心しきった子供となんら変わらない。


病院の警備では完全ではないため、六課で預かる事になったヴィヴィオを部屋に連れていくなのはと蒔風。




「で、この子の部屋どこにするよ?」

「一人部屋じゃかわいそうだし、かと言って何かあった時大丈夫なようにしたいからね」

「いくらなんでも男部屋には置けないだろ」

「だったら・・・・・」






と、とりあえずなのはとフェイトの部屋に連れていくことになる。





そして部屋に到着し、ベッドに下ろそうとしたそのとき、ヴィヴィオが目を覚ました。



「あ・・・なの・・・さん」

「ありゃ、なのさんじゃなくて、なのはさんだよ?」

「なのは・・・さん?」

「簡単に呼んじゃえよまったく。なのはでいいじゃん」



なのはとヴィヴィオのやり取りを見て苦笑しながら、蒔風がフォワードたちを呼ぶ。


これから今度ははやて、フェイトと共に聖王教会本部へと足を運び、何やら重大な話があるそうなのだ。
だからその間、彼らにヴィヴィオを見てもらおうという事になったのだが・・・・・


「え?・・・いっちゃうの?」

「そう、なのはさん、お仕事なの。だから・・・・・」


「え・・・ふえ・・・・・・・」


「あ」

「やべ・・・」



「いっちゃやぁだぁ~~~~~!!ふえええぇぇぇぇえええええ!!!!」



「泣いちった」

「しゅ、舜くん助けてよ~~~」


なのはは困った顔をして蒔風に助けを求める。


しかし蒔風もどうしたものかと肩をすくめた。


ヴィヴィオにとって、蒔風となのはは最初にコミュニケーションをとった他人だ。
信じられる人は彼らだけだろうし、その人物が離れてしまう事を、なによりも恐れたに違いない。

得になのはは女性ということもあり、ヴィヴィオにとって接しやすいのだろう。
それがわかっているからこそ、蒔風も何言えばいいのか分からなくなってしまっているのだ。

しかし、だからと言って蒔風の口から出てくる言葉はさすがにないだろう。


「まったく・・・・じゃあ選んでください。威嚇して泣きやませるか、威圧して泣きやませるか」

「もっとまともな方法ないの!?」

本当に何考えてるんだこの主人公。


と、そこで部屋のドアが開く。
フォワードたちがやってきたのだ。


「なのはさん、来ましたよ~~って、なんですかこれ?」

「オオ来たか!!実は君たちに彼女の事を頼みたいのだ!!!」

「ええ!?こ、子供の相手なんてできませんよ!?」

「は、初めてですし、なにしちゃうかわからないですって!!」

「名前はヴィヴィオ。どーだヴィヴィオ?此処にいるおねーちゃんたちがみんなヴィヴィオの友達になってくれるってさ」



「「「「こいつ聞いてねえ!?」」」」



フォワードフル無視状態の蒔風。

というか、ついにこいつって言われたぞ。




だがヴィヴィオは新しい人間関係の響きに、心が強く引かれていた。

「・・・・ともだち?」

「そうだ。こんなに頼もしいものはない、最高の宝物だ。みんなが一緒に遊んでくれるってさ」

「・・・・ほんとに?」

「ホントさ!大丈夫、ヴィヴィオ」

そう言ってなのはの足元に縋るヴィヴィオを抱きかかえ、蒔風が笑う。

「今まで一人でさみしかったんだよな?暗いとこばっかで怖かったんだよな?でも大丈夫。此処にいるみんなは、お前を一人にしないし、呼べばすぐに駆けつけてやる。だから今は少し我慢して、お仕事に行かせてくれないかい?」

そういう蒔風の言葉に、ヴィヴィオがコクン、と小さく頷いた。

その姿に、なのはは何かを感じていた。
それが何かは、わからないが。


「よろしい。じゃ、後はお任せしたよ、諸君」

「え?あ、はい!!」

「あ、でも私たち報告書とかまとめとかなきゃいけないんですけど・・・・・」


ティアナが思い出したように言う。
確かに、先日の戦闘はいろいろな事があった。


新たな敵勢力。その武装。
レリックは彼らの機転で奪われなかったが、非常に危ういところだった。そういった箇所の今後の対処法。


報告書にまとめる事は多いのだが・・・・


「ンなもんはすでに手を打ってある。現場の天馬さーん?」

蒔風がそういうと、モニターが現れてオフィスルームから天馬の中継がつながってきた。


『おう、こっちの作業はつつがなく進行してるぜ。なにも問題は『うっわぁ!?なんでこんなとこに空き缶がっ!?』『白虎!!それはさっきワシがまとめた書類じゃぞ!』『見事にデータ吹っ飛んでますねぇ』『またやり直しですか』『・・・・白虎、あなたは能力以前に体質的に書類仕事に向いてないのでは?』・・・・問題ねえよ☆』

「ならいいな(プツン)・・・というわけだ!!安心してヴィヴィオと戯れてやってくれ!!」

「「「「今の不安材料しかなかったんですけど!?」」」」


確かに不安はあるが、そもそものスペックは高いはずなので問題はない、と言って蒔風はフォワードたちにヴィヴィオを任せてはやてたちと合流する。



そして向かうは聖王教会。





明かされるのは、六課設立の本当の理由。






この部隊は、何のために存在したのか、明らかになる。


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「それにしても舜君が子どもの扱いに慣れていたなんて初めて知ったよ」

「えぇ?そうなんか?まーなんとなくわかる気もするなぁ」

「似たり寄ったりってことだよね!!」

「どーいう事だお前ら」



ワイワイと話しながら歩く四人。

先頭からはやて、なのは、フェイト、蒔風という順だ。
四人は聖王教会につき、長い廊下を歩きながらどうやってなのはがヴィヴィオから離れられたのかを話し合っていた。


「子どもの駄々って大変だったでしょ?どうやったの?」

「それは・・・ってかフェイトさん、あなた経験おありのようですが?」

「フェイトちゃんはキャロにエリオもおるし、ちっさい姪っ子たちもおるからなぁ」

「その歳でお母さんかよ」

「ま、まだ若いです!!」

「いつかはフェイトおばさんって・・・・いや、姪っ子いるから分類上は叔母か?」

「バルディッシュ」

《ぶった切ってもよろしいかと》

「うん、そうだよね」


「ごめんなさい、あなたまだ全然若いお姉ちゃんです。考えてみればここの四人同年齢でした」

「あはは、でもあのときの舜君、お父さんみたいでぴったりだったよ?」

「じゃあそーいうお前は母さんかっての」


「え?」


なのはがその言葉にポカンとする。

はやてもフェイトも、ああ、そうなるなぁ、とか言ってニヤニヤと笑っている。


瞬間、ボン、となのはの顔が赤くなり、からかうはやてやフェイトをポカポカと叩き始めた。

「お似合いやで~~?」

「やで~~?」


「もー、二人ともからかわないでよーーーー!!!!」


その間にもポカポカと叩いていくなのは。
それを見て蒔風が何かを危惧したが、すぐに「そんなことあるわけもない」と考えをまとめて三人についていく。

と、そこではやてが思いついたように言った。


「あれ?でも舜君、その姿のまま世界めぐってるんよね?」

「そうだが?」

「だったら舜君、肉体年齢は同じでも精神的にはうちらより上とちゃうん?」

「「あ」」

その言葉におお、と言って手をポン、と叩く蒔風。
しかし、フッ、と笑いながら髪を掻き上げ、笑いながら言った。

「俺の心はいつだって少年ハート。童心を忘れない、がコンセプト。だから俺は「ついたでー」最後まで言わせてくださいッ(泣)」


目的の部屋の前につき、コンコンとノックして返事を待つ四人。
とりあえず蒔風は落ち込んだ。

というか、かっこつけて言う事じゃないだろ。


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「機動六課隊長格ほか一名、只今参上いたしました」

部屋に入り、はやてたち三人が敬礼をして挨拶をする。
その後ろで蒔風が釣られるように慌てて敬礼。

だが、その先にいる人物に気付き、思わず声を上げた。


「クロちゃんやないけ!!!」

「やあ、他一名」

「辛辣ッ!」


いきなり蒔風を落ち込ませるその人物の名はクロノ・ハラオウン。
フェイトの兄であり、今は管理局の提督だ。


「ほ、他一名じゃないもん!!!クロちゃんのバーカ!!!」

「その呼び方をやめろ!!全く君は・・・いまだにそんななのか!?」


ギャイギャイと勝手に話し始めるクロノと蒔風。
その姿に呆気にとられたこの部屋の持ち主である女性が、ためらいがちに聞いてきた。


「えっと・・・・クロノ提督、この方は?」

「まったく・・・・騎士カリム、紹介します。彼の名前は蒔風舜。私の古い友人です」

「初めまして。蒔風舜と言います。ええ、それはもう間違いなく私は蒔風舜ですよ」

「は、はぁ・・・・」

「例え!!他の誰が蒔風舜を名乗ろうとも!!それでもこの私こそが!!世界唯一無二最強伝説の男たる蒔風旬という粗衣剤であるということは揺るぎのない事実なのでありますですよ!!!」

「黙れバカ」

「ごめんクロちゃん。だからバカはやめて?ほんとに傷つくから・・・・」

「舜君、こちらは聖王教会騎士団騎士で、管理局の理事官もしとるカリム・グラシア中将や。機動六課設立に尽力してもろうた内の一人なんやで?」


はやてがカリムを紹介する。
なんでも彼女が管理局に入ってからもいろいろと世話になった人物のようで、頼れるお姉ちゃんといった関係なのだそうだ。

ようやく蒔風謎のテンションタイムが切れたのか、それを聞いて蒔風が納得した顔を見せた。

「あーー、なるほど。「夜天の書」は古代ベルカ式だもんな。じゃあ納得ですわ」


ふむふむと顎に手を当て頷く蒔風。
そこでカリムも、ああ!!と納得したような声をあげて蒔風を見た。


「はやてが言ってた「なんでもできる凄い人」ってあなたの事?」

「はえ?」

「はやてが部隊作りたいって言ったときに、あなたのこと言ってたもの。ね?」

その言葉にはやてがあはは、と照れながら頬を掻く。

「そやな。うちもなんやかんやで舜君に憧れとった。おっきな力持って、それでいて小回りのきく舜君がな」


とまあ、そのあと簡単になのは達も自己紹介を済ませ、円卓に座って話を始める。
話の内容は、機動六課設立の秘密だ。



「舜君には話してなかったけど、私は昔っからこう言う部隊が欲しかったんや。管理局は大きな力を持つ大きな組織。それでできる事は多いけど、いざという時に小回りがきかへん」

「だからはやてちゃんは即時行動できる部隊を作りたいって言って、四年かけて作ったのがこの機動六課」

「って言うのは私たちも聞いてたんだけど・・・・」

「本当の理由があんのか?」

蒔風の問いに「本当の、というより別のやけど」と頷くはやて。
そしてその視線がカリムの方へと向く。



「その理由は私のレアスキルにあります」

そういって何枚かのお札の束を取り出すカリム。
それが彼女の周りにバラけ、短冊のように立って彼女を囲う。

そこには何かしらの文字が書かれており、何枚かが空中を滑るようになのはやフェイト、蒔風の前に飛んできた。


「私のレアスキル、|預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)。これは最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書きあらわす、という物です。ただ二つの月の魔力によるもので、それが揃わないと発動できない。だから年に一度しか書きあらわせないんですけどね」

そう言ってなのは達の前に出した札を戻し、説明を続ける。


「預言の中身は古代ベルカ語。しかも解釈によって意味が変わることもある難解な文章に加え、世界に起こる事件をランダムに書き出すだけで、解釈ミスも含めれば的中率や実用性は割とよく当たる占い程度です」

「それでも管理局の高官は毎年、年に一度はこの予言に目を通している。大きな災害や事件に関しては的中率は高いし、教会騎士で中将の力としての信頼も厚いから」

「ふーん。未来を見通す能力か」

その蒔風の言葉に、カリムがいいえ、それは少し違います、と首を振って答える。


「この能力はあくまでも、現時点での世界中のあらゆる情報を統括・検証して、現状で最も起こりうる可能性の高い事象を書きあらわす物です。だから」

「つまり、未来は変えられる、ってことか?」

「そうです」

「ちなみに地上本部のお偉いさんはこの能力がお嫌いでな。あんまし信用しとらんのや」




そこで蒔風がハイ、と手を挙げて質問をする。

「同じ管理局内でなんか分かれてんのか?地上とか、本局とかよくわからんのだが」

その質問に今さらか、と呆れるクロノ、頭を抱えるはやて、ポカンとしてしまうなのは達。
その各人の反応に、蒔風が少しうろたえてしまう。


「な、なんだよ?わかんない事あったっていいだろ!?」

「はぁ・・・・じゃあ僕がわかりやすく説明しようか」


クロノが蒔風に説明し始める。

まず、時空管理局と言う大きな組織があり、これを一般的に本局と言い、すべての部署を統括し、次元世界の管理を行っている。
この本局は直属に航空部隊や次元高校部隊を持っており、多くの魔導師を有していることが特徴的だ。

昔、地球で活動していたのはいわゆるこの「本局」だ。
次元の海を渡るので、単に「海」だとか「海の連中」といわれることもある。


そして、本局には地上部隊本部という管理局の地上施設がある。
要は、ミッドチルダや管理世界の内部を守る治安機構だ。

同じ管理局内。それも、地上本部はあくまでも管理局の一部分であるのだが、言わばその「海」と「陸」の仲が悪いのだ。


と言うのも、地上のトップからしてみれば「地上の平穏を守ってきたのは自分達」らしく、そこにいらない介入をされたくないらしい。
確かに、陸と空とじゃ勝手も違うし、各々の思想も変わってくるだろう。

それに加えて大きな事件を扱う本局は多くの優秀な魔導師を抱え込んでおり、地上はいつだって人材不足。
これでが腹も据えかねると言うものだ。


「で、その地上の事実上のトップと言うのが、この人、レジアス・ゲイズ中将」

「いかつい人だねぇ。この人が地上のトップか・・・凄い人なの?」

クロノが出したモニターを指さしながら、蒔風がはやてに聞く。


「まあ・・・・確かにすごい人はすごい人やで?入局40年の大ベテランで、「地上の守護者」なんて呼ばれとる」

「しかし古くからの武闘派でな。そのため、過激な言動や姿勢、武力から、本局から危険視もされている。黒い噂も絶えない人だ」


その説明を聞いて、蒔風が少し考えてから

「ふーん。ようは頑固ジジイってことか。融通利かなそうな顔してんもんなー」

と、気の抜けた声を出す。
それにズコッ、とこけるクロノだが、気を取り直して先に進める。


「それで、このレジアス中将がこの手のレアスキルが気に入らないらしくてな。カリムや、更に言うならはやての事も気に入らないらしい。その・・・なんだ」

「うちの事犯罪者の小娘って言いおったからなぁ、あのおっちゃん」

はやてがなんでもないように、それでも少し皮肉った顔をして笑いながら言う。



「はぁ~~~~・・・・さいですか」

それに対して蒔風の返事は実に魔の抜けたものだ。
その蒔風に、フェイトがあれ?と言った顔をする。


「舜なら怒ると思ったのに」

「バーロー。主犯ではないとはいえ、はやてが関わったあの事件は間違いなく犯罪のそれだ。だったら、それを撤回させる言葉を俺は持たんし、する気もない。はやてはちゃんとそれを償い、そして今をしっかりと生きている。だったらそれでいいさ」


しかし、それでもまあ、と前置きしてから蒔風がにやりと笑う。

「俺の目の前でそんなことのたまったらどうなるかは見物だよな?」

その蒔風の顔に四人の顔が引きつる。

((((ああ、あのおじさん終わったな))))


とまあ、とりあえず蒔風に管理局の事を簡単に説明し終え、元の話に戻される。




「それで騎士カリムの預言書に、数年前からある事件について書かれ始めた」

「それが、これです」

カリムが一枚の紙を出してきた。
それは清書されたもので、古代ベルカ語の詩文を、意味はそのままに訳したものだ。





            ~旧い結晶と無限の欲望が交わる地~
           ~死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る~
        ~死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち~
        ~それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる~




「これは・・・・」

「詳しい内容はよくわかりません。解釈の違いで、大きく変わってしまいますから。ですが、この予言は・・・・」

「なるほど、管理局地上本部が焼け落ちる、か。確かにこんなもの、信じる気にもならないだろうなぁ」

「ええ・・・案の定レジアス中将は信じはしませんでした。嫌っているレアスキルですし、何より自分の地上本部が焼け落ちるなどと露とも信じてはおらず、なにも対策を取ることはしませんでした」

「だが、こうして六課ができたってことは、信じた人はいたんだな?」

その言葉にクロノがうなづき、三人の人物をモニターに出す。


「そのためにまず、騎士カリムと僕、クロノ・ハラオウン。さらに僕とフェイトの母であるリンディ・ハラオウン総務統括官が部隊設立の後押しをしてくれている」

「さらにかの伝説の三提督も、非公式ながらうちらへの協力を申し出てくれとる」

更に映し出された三人に、なのはとフェイトが息を飲む。
蒔風だけはその三人がなんなのかわからず、また何も考えずにさらりと聞いた。


「このじいちゃんばあちゃんだれ?」


その質問になのはとフェイトがあわて始める。
なんでもこの三人、時空管理局の黎明期を支えた功労者たちらしく、とてもじゃないが一部隊に三人も協力を申し出ることなどあり得ないことなのだそうだ。

「へぇーーーッ。すっげえなぁ・・・その分、その予言の内容を危険視してるってことか」

「え、ええ。だからこそ、このチームが成り立ったのですよ」

「うちの要望と、管理局の要請が重なって出来たスペシャルチーム。そこに舜君まで来てくれたんやから、もう絶対大丈夫やな!!」


そのはやての言葉に、うんうんと大きくうなづく蒔風だがクロノはそんなはやてを抑えるようにと止める。

「はやて、舜をあまり調子に乗らせるな。突っ走ってなにするかわからないからな」

「そこは私が止めるから大丈夫だよ!!クロノ君!!」

「なのはまで・・・・はぁ・・・・」

そこからは知り合い同士のお茶会になりそうであった。

が、そこで蒔風がカリムに一つだけ願い出た。

「カリムさん、あなたの預言書の原本、見せていただけますか?」

「え?」


蒔風が言うのは清書されたものではなく、古代ベルカ語で書かれた大元の詩文を読ませろ、というのだ。

「舜君、なんで?」

「前も言った・・・・ああ、十年前だから覚えてないか?俺は言葉には強いんだよ。めぐるから」

その言葉になのはとクロノが思い出す。
たしかに、蒔風には世界をめぐるため、各世界で言葉が違うと不便だから自動翻訳能力がある、と


「そっか!!舜君に読んでもらえば一発だね!!」

「確かにそうだな・・・騎士カリム、読ませてやってはもらえないか?」

事情を知るクロノとなのはがカリムに頼む。
なにがなんだかわからないが、この二人が頼むなら、とカリムがすぐに取り出した。


それを手に取って蒔風が黙読していく。
その間になのはがフェイトやはやてにどういう事か説明していた。


それから数分後、蒔風がダァッ、と椅子の背もたれに寄りかかり、後ろに首を回して頭が痛い時のような顔をして言った。


「だ~~~めだ。大して意味変わらんわ」

そんな蒔風の答えだが、なのは達は当然内容は聞きたい。
そこで蒔風が読んだ感じをそのまま伝えた。

「管理局の古き時代の遺物と果てなき欲を持つ者の思惑が混じり合う
 そしてかつての王の翼が復活するだろう。
 生となる体を死によって変えられた者が蠢き、陸の守護たる塔は崩壊する
 その後、数多の海を駆ける船は墜ち、秩序は形を失う

 ・・・って感じだな」


「ホントにあんまり変わってないね」

「だろ?下手に意味が通じるような言葉になってるから、そこから突っ込んだ情報は入ってこないのよ。だからわかんのはここまでだ。だが、わかる事はいくつかあるな」

そう言って蒔風が立ち上がって指を立てて説明を始める。


「まず、管理局の遺物と果てなき欲望を持つ者。これがなんなのかはわからないが、後者はおそらく、スカリエッティで間違いない。科学者の好奇心は凄いからな。まさしく「果てなき欲望」だ」

「「かつての王」・・・っていうのは?」

「わからんな。「王の翼」もよくわからん。最初は翼人の事かとも思ったが、どうにもそうじゃないらしいし・・・・」

「よ、翼人!?あんな伝説を、信じてるんですか!?」


カリムが驚いて大きな声を出す。
それにびっくりする蒔風だが、クロノの方を見て、何かを目で問いかける。

だがそれに対してクロノは首を横に振ってNOと意思を表した。

それに納得して、蒔風が話を進めた。


「まあそれは置いといて次だ。『生となる体を死によって変えられた者』っつーのはおそらくあの全身タイツ共の事だな。魔法とは違う力を併用していたから、おそらくは・・・・」

「戦闘・・・・機人・・・・・」

「ありゃ、そういうの?あいつら。まあそれはあとで聞こう。どうやらあいつらが地上本部を焼くらしいな。あいつら、最低でも十人はいるみたいだし」

「あ、あれが十人・・・・」

「最低限な。何人いるかはわからん。で。そっから始める次元世界の秩序の崩壊。なるほど、面白いシナリオじゃないか」


「・・・・そうやね。何かのおとぎ話なら最高の出来やね」

「でも、これはほっておくと・・・・」

「現実になる可能性が高い。しかも、当の地上本部は無警戒と来た。こうなったら、俺たちで守ってやるしか無いねぇってわけさね」


その言葉にはやてが立ちあがり、拳を握って言った。
まるで自分はそうしなければならないと、自分に言い聞かせるかのように。

「そうや!!そのために機動六課は設立された。私たちはみんなを守る。私も、みんなを守らなあかん。だからなのは隊長、フェイト隊長、そして舜君。もう一度聞く。うちに付いてきて、くれるか?」

はやてが聞く。
これだけの事を聞いて、まだやってくれるかと。
しかしはやての顔を見るに、どのような返答が返ってくるかわかっているようだった。


「水臭いよ、はやてちゃん。私たち、友達じゃない」

「そうだよはやて。私たちは助け合う仲間だよ?」

「ってか、俺はもう関わるっつっただろーが。嫌だと言っても俺はやるから、覚悟しろよ?」


その言葉に、はやてが「ありがとーーー!!!」と言って三人に飛びついていく。
その仲のよさそうな四人に、クロノが笑った。




と、そこでカリムが質問をしてきた。




「えっと・・・それで舜さんは本当は何者なんですか?」

「「「「「え?」」」」」

「だって、おかしいじゃないですか。管理局員なのにその中身や伝説の三提督を知らない。そのくせ、翼人なんてアルハザードの時代でも伝説と言われていた翼人の事を知っていたり、古代ベルカ語をそのまま読めたり・・・・・・はやてに最初にもらった六課メンバーの書類にも彼のことは書いてなかったわ。本当はただの局員じゃないんでしょう?」


その問いになのは達一同が「あーーーー」と目線を逸らしていく。

だがカリムは絶対に訊きだすつもりだ。


「クロノくん」

「頼みは聞かんが、聞くだけならタダだぞ」

「なんでだよ!?こういう時に体よく切り捨てられるのがお前のいいところだろ!?」

「お前それ本人の目の前で言うのか?たとえネタでもカチンと来たぞ。凍るか?」

「エターナルフォースブリザードなんかこわかねぇ!!かかってこいや!!」

「その名前やめろって昔も言っただろうが!!エターナル・コフィンだ!!いい加減覚えろ!!」

「いいんだよ氷系最強の技は全部「エターナルフォースブリザード」だよ。俺なんか「ふぶき」も「ぜったいれいど」もそう叫んでやってたぜ?」

「知るか!!」

「ってなわけでクロちゃん、説明よろしく!!」

「・・・・くじょう」

「え?」

「屋上へ行こうぜ・・・・久々に・・・キレちまったよ・・・・」

「うわぉ」


そんな簡単な喧嘩を済ませ(実際には屋上はいかなかった。さすがに)とりあえずカリムは蒔風の素性を知ろうとズズィッと壁に追い込み始めていた。
それに対して沈黙し、視線で「助けて」とコールする蒔風だが


(知らん!)

(がんばって)

(うまくやってな~)

(えと・・・ガンバ!!)

(オゥノゥ)


助けはなかった。
希望はないんですか!!

「はぁ、わかりましたお教えしますよ。だから壁に追い込むのやめて・・・・っと、あとはあれです。あまり言いふらさないでくださいね。世界にいらん言い伝えとか作りたくないんで」








そうして蒔風が話を始める。

最初こそ信じられない、いや、信じる気にもなれなかったカリム。
しかしなのはやフェイトの持っている昔の映像や、はやて、クロノの証言。さらには蒔風が目の前で開翼までしたのだから、流石に信じざるを得ず・・・・

「す、凄いです!!!本物の翼人をこの目で見られるだなんて!!!!は、早く自慢しなきゃ・・・シャッハ!!シスターシャッハーーーー!!!!」

とかキャラ崩壊一直線しそうになるほどにまで興奮してしまったカリムさんでした。


「ダアアアア!!!おちついてカリムさん!!!だから嫌なんだ!!チクショウ!!前の翼人誰だよ!!!あんたが伝説残すから俺がこうやって苦労するんじゃないかー!!」



聖王教会に蒔風の声が木霊する。

結局、シャッハにも蒔風のことは知られる結果となってしまった。


蒔風さん、一言どうぞ。


「はぁ・・・・ま、いっか」





to be continued
 
 

 
後書き

アリス
「機動六課設立裏話編ですね」

それとヴィヴィオとのお知り合いの話。


アリス
「にしても蒔風でも予言は読み切れなかったんですね」

そうですねぇ
なまじ読める字に翻訳だから余計な情報は入ってこないんですよ。
完璧に読めないような言葉だったら単語の意味だとかも入ってくるんですけどね。


アリス
「どんな感じなんでしょう?」


そうだな・・・・・

古文の文章って、一応発音的には読めはするけど、意味は全くわからないでしょう?
あんな感じですね。


アリス
「そして壊滅的に書類仕事のできない白虎」

白虎は苦手なわけではないです。キチンと出来ます。
でもなぜかああうまくいかないんですよね。

アリス
「書類仕事限定の不幸体質?」

そうそれ!!




アリス
「次回、蒔風のある一日」

ではまた次回









もう~、フェイトママちょっと甘いよ

 
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