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トラベル・トラベル・ポケモン世界

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24話目 同盟強攻




「……グレイサン、本当に迷惑をかけて悪かった……ライフ団なんかに負けて、人質にされて……完全にアンタの足を引っ張ってしまったな」
「何とかなった訳だし、もう気にするなよ。別に誰が悪いとかって問題じゃないだろ」
 ライフ団のオコトとナオミとの戦闘を終え、グレイとイザルの2人はヒヨワタウンのポケモンセンターに戻ってきた。

 ポケモンの体力を回復させ、2人で何となく先のライフ団とのやり取りについての反省会をしている内に、いつのまにか強さについての話題に変わっていた。
「……なあグレイサン、アンタは持ってるジムバッジが2つとか言ってたが、実際はそれ以上の実力を持ってるんじゃないか? どうやってそんなに強くなった?」
「ポケモンを戦わせてる内に自然に強くなったけどな」
「……そんな当たり前の事は分かっているのさ! ……どこのバトルクラブに所属してるのかを訊いているのさ!」
 ここで、グレイは聞きなれない単語を耳にして、思わず聞き直す。
「バトルクラブ? 何だよそれ?」
 そのグレイの言葉を聞き、イザルは呆れの表情を浮かべながら言葉を返す。
「……アンタ、バトルクラブも知らないのか!? ……そんなんで、よくここまで強く……いや、アンタはそういう人間だよな。だんだんアンタの事が分かってきた気がするな」
 なに1人で勝手に納得してんだ、と思わず言いたくなったグレイだが、バトルクラブについて情報を引き出すために我慢して説明を促すことにする。
「そのバトルクラブってのは何なんだ?」
「……バトルクラブっていうのは、その名の通り、ポケモンバトルをするために人が集まるクラブのことさ。まあ、バトルができる以外にも、トレーニングルームがあったり、クラブ所属者に向けた講習会があったりと、とにかくポケモンを強くするための設備が整った場所なのさ」
「へえ、でもなあ……ただバトルして強くなりたいだけなら、普通に道端のトレーナー相手にバトルすればいいんじゃないか?」
「……真剣に強くなろうとしてる奴は、実力がついてきたらバトルクラブでバトルするようになるのが普通なのさ。だから、強いトレーナーと数多く戦いたいなら、バトルクラブに所属すれば良いという訳さ。……もっとも、クラブには同じような実力の者が集まりやすいから、本当に強い相手と戦う機会が少なくなるかもしれないがな」
 イザルの説明を聞いたグレイは、バトルクラブに魅力を感じた。強いトレーナーが多く集まる場所ならば、戦闘狂のギャラドスの遊び相手も簡単に見つかると考えたからである。
 熱心に話を聞くグレイに、イザルが提案をする。
「……興味があるなら、俺と行ってみるかい?」
「本当か? 案内してくれよ」
「……ああ、分かった。このヒヨワタウンにいる俺の親戚に頼んで、車で近くのバトルクラブまで送ってもらおう」
「親戚? お前の親戚がこの町にいるのか?」
「……そうさ、俺は親戚に会うためにヒヨワタウンに来たのさ。……そんな事でもなければ、こんな行き止まりの町に用事なんか無いだろ? ……そう言えばアンタは、何の用でこの町に来たんだ?」
「いや、別に用があって来た訳じゃなくてな……都市間を結ぶ街道を歩いてたら、舗装がロクにされてないボロボロの道があったから、面白そうだからその道を歩いてたらこの町に着いたんだよ」
「……アンタ、暇人なんだな」
「言うな! 自分でも分かってんだよ!」



 イザルの親戚に車で送り届けてもらい、グレイとイザルは、その日の夕方にとあるバトルクラブの前に立っていた。
 グレイが看板の文字を読み上げる。
「バトルクラブ『ハーフ・シリアス』第18号支部……『ハーフ・シリアス』っていうのが、このクラブの名前か?」
「……ああ。数多くの支部が各地にあって、トラベル地方では有名なバトルクラブの1つだな。……ハーフ・シリアスの理念は、『アソビ半分、マジメ半分』だ。道端の気楽なバトルとは違う勝敗を気にする真剣なバトルがしたい。だが、別に一流のトレーナー目指してバトルを極めたい訳ではない。趣味の真剣バトル……そういう中途半端な者のために開かれたのが最初らしい」
「じゃああんまり真剣にバトルしてる奴は少ないのか?」
「……そんな事はない。今まで道端でのバトルしか経験が無いアンタから見れば、十分に真剣にやってるように見えるハズさ。それに、今では一流のトレーナーへの通過点としてハーフ・シリアスを利用する人も多い。……俺もその内の1人さ」
「へえ、でもそれだと、アソビ半分マジメ半分の理念に反するぐらいの強い奴が現れるんじゃないか?」
「……それも心配無用だ。このクラブに所属できるトレーナーは、トラベル地方のジムバッジ所持数が1個から5個のトレーナーだけなのさ。6個目のジムバッジを手に入れれば除籍される、つまり卒業という訳さ。……まあ俺の説明を聞くより、とにかく入ってみればいいさ」
 イザルに言われ、グレイはとりあえず入ることにした。

 グレイは受付でジムバッジを2つ見せ、クラブ会員のイザルの紹介ということでゲストとして中に入ることになった。
 グレイは施設の案内図に目を通す。バトルができる場所の他にも、施設内ポケモンセンター、トレーニングルーム、図書館、さらに食事処や簡易的な宿泊施設などもある事が書いてあった。
「ん?」
 グレイは、その案内図の中に気になる場所を発見した。
「ワークインフォメーション? もしかして仕事を紹介してくれるのか?」
「……ああ。バトルクラブにはそれなりに実力あるトレーナーが集まるし、アンタのように金に苦労しながら旅してるトレーナーも多いからな。ポケモントレーナー向けの仕事を紹介しているのさ」
「へえ、興味あるなそれ。まあでも、それは後で見ればいいか」
 グレイは、まずは誰かとバトルしたいと思い、とりあえずバトルフィールドが多数設置されているフロアへと足を運ぶことにした。



「あら? グレイじゃない」
 突然に声をかけられ、グレイは声のした方向へ振り返った。
 声の主はエレナであった。突然のエレナの登場にグレイは少し驚いた。
「こんな所で偶然ねグレイ。あら、そちらの男の子は?」
 エレナがイザルの方に視線を向けながらそう訊ねた。
「エレナ、こいつはイザル、訳あってオレたちよりも年下で旅してるんだ。そしてイザルよ、あいつはエレナだ、オレと同じ町の出身だ」
 そう言いグレイは、エレナとイザルが互いに自己紹介する手間を省くために仲介の役割を果たした。
「イザル君……いえ、イザルでいいかしら? よろしくお願いするわ」
「……ああ、エレナサン。よろしく」
 互いに挨拶した後、イザルがエレナに訊ねる。
「……エレナサンは、グレイサンとはどういう関係なんだ?」
「どういう関係? グレイとはお互いにライバルよ……これで答えになっているかしら?」
「……ライバルか。……なあ、ライバルってどういう感じなんだ? アイツにだけは負けたくないとか、そういう感情になるのか?」
「そうね……本人の目の前で言うのもアレだけど、グレイにだけは死んでも絶対に負けたくないと思うわ。グレイに負けると、他の誰に負けた時にも感じたことがない程に悔しい気持ちになるの。別にグレイを嫌っている訳ではないのに不思議なのよね」
 そのエレナの言葉に、イザルが目を見開いた。
「……俺も昨日グレイサンにバトルで負けて、すごく悔しい思いをしたんだ。……その悔しさで昨日はよく眠れなかった。他の誰に負けた時にも、こんなに悔しいと思ったことはないんだ……なあエレナサン、俺はグレイサンをライバルだと思ってるって事なのか?」
「そうね、アナタはグレイをライバル視していると思うわ。ちなみに、アタシも1週間前にグレイに負けた時、悔しくて2日間くらいロクに眠れなかったわ」
「……そうか、俺はグレイサンをライバルだと思っているのか」
 そのイザルとエレナの会話を、グレイは若干引きながら聞いていた。
(いやいや……負けた悔しさで眠れないとか、どんだけオレに負けるのが嫌なんだよ! オレはエレナには何回か負けてるが、悔しさで夜眠れなかったことは流石に無いぞ!? ……もしかして、実はエレナがオレのことをライバルだと思ってる程には、オレはエレナのことをライバルだとは思ってないのか? というかイザルがライフ団に負けたのって寝不足が原因なんじゃないか?)
 グレイが1人であれこれ考えている時、突如エレナがイザルに提案をし始める。
「ねえイザル、アタシと同盟を組むのはどうかしら? 打倒グレイ同盟よ」
「……なるほど、敵の敵は味方って訳だな。分かった、その話に乗らせてもらう」
「おい、ちょっと待てお前ら! 本人の前で堂々と何やってんだよ!?」
 知り合い2人の仲を引き合わせたら、突如2人して自分に敵対し始めるという急展開にグレイは驚きを隠せない。
「安心してグレイ。べつにアナタを仲間外れにしてイザルと2人で仲良くなろうとしている訳ではないわ。アナタに勝つために情報交換をしたり、作戦を練ったりするだけよ」
「いやそれは分かるって! オレが言いたいのは、お前らだけ同盟組んで不公平だろって話! オレも打倒イザル同盟をエレナと組んだり、打倒エレナ同盟をイザルと組んだりしたいんだが」
 グレイのその言葉を聞き、エレナとイザルは顔を見合わせた。
 そして再度グレイに向き直り、それぞれ口を開く。
「申し訳ないけれど、アタシはイザルのことをライバルだとは思っていないから、アナタと同盟を組む必要を感じないわ。もちろん、アナタがイザルとどう戦えばいいのか相談したいと言うなら、いつでも相談には応じるわよ」
「……悪いが、俺もエレナサンのことはライバルだとは思ってないな。だからグレイサンと同盟を組む必要は無いと思うな」
「お前らけっこう酷い奴らだな、おい!」
 そして、疎外感による寂しさを強がりで誤魔化(ごまか)すために、グレイはつい余計な一言を放つことになる。
「お前ら、『打倒グレイ同盟』なんて言ってるが、要するにオレに負けた奴の集まりってことだろ? 『グレイ敗者の同盟』に改名した方がいいんじゃないか?」
 言い終わってからグレイは後悔した。2人の目つきが怖かったからである。
 グレイは冗談のつもりで言ったのだが、普段はクールな態度でも実は極度の負けず嫌いという共通点をもつエレナとイザルにとって、グレイの言葉は聞き流せるものではなかった。
「へえ……ずいぶんと言ってくれるじゃないのグレイ……!」
 エレナはイザルと視線を合わせた後、グレイに指を向けながら言い放つ。
「グレイ! 今からアタシたち打倒グレイ同盟は、アナタに勝負を挑むわ! ルールは、アタシとイザルがそれぞれ自分のポケモンを1体ずつと、グレイが自分のポケモン2体で戦うダブルバトルよ!」
 イザルも口を開く。
「……もし俺達が負けたら、これから俺達は『グレイ敗者の同盟』と名乗ることにしよう。……だが、俺達が勝った場合には『グレイ勝者の同盟』と名乗ることにする。……当然、グレイサンにもそう呼んでもらうからな……?」
「いやいや! さっきの言葉は冗談だから! 本気にすんなよ!?」
 冗談で済む内に早く謝ろうと思ったグレイだが、
「グレイ……まさかとは思うけど、この勝負から逃げたりはしないわよね?」
「……逃げた場合はグレイサンの不戦敗ということになるが?」
 エレナとイザルにとってグレイの言葉は既に冗談で済むものではなかったらしい。グレイに逃げ道は無い。
「分かった……勝負するからそんな睨むなよ……怖いから、マジで」



 バトルフィールドがあるフロアの天井はとても高く、飛行するポケモンが十分に戦えるように配慮されていた。
 3人は空いているバトルフィールドを借りて、グレイと、エレナ&イザルの、それぞれの陣営に分かれて向かい合っていた。
「じゃあ、2人いて有利なアタシたちから先にポケモンを出すわ」
 エレナはそう言い、モンスターボールを取り出した。エレナの隣のイザルも同じくモンスターボールを用意している。
「頼むわ、アブソル!」
「……リベンジだ、ハガネール……!」
 エレナとイザルはそう言い、それぞれ自分のポケモンを繰り出した。
(アブソルにハガネール……やっぱ2人とも戦闘能力に1番自信があるやつを出してきたな)
 グレイはどのポケモンで戦うべきか考える。
 グレイの手持ちポケモンの中で戦闘能力が飛びぬけて高いギャラドスは決定である。しかし、もう1体をどうするのか、グレイは悩んでいた。
 戦闘能力で言えば、ギャラドスの次に強いのはハピナスである。
 しかし、直接的な戦闘能力では表せない“ちょうおんぱ”(相手を混乱させる)や“しびれごな”(相手を麻痺させる)などの搦め手を使うビビヨンにも魅力はある。さらにビビヨンはグレイとの絆が深く、グレイの意思を敏感に読み取ってグレイの望む行動をしてくれる。
 また、相手に隙があればトレーナーの指示を待たずに攻撃できるレパルダスにも一考の価値がある。特に、ギャラドスが暴れることで戦場の状況が激しく変化することが予想される中では、その価値は高いと言える。
(だが、KKの他に誰を戦いに出したとしても、相手はまずKKと1対2で戦える状況を作るために、もう一方のポケモンを集中的に攻撃して手早く倒そうとするハズだ。集中的に狙われることが分かってるなら、“カウンター”で物理攻撃を倍返しにできて、さらに“タマゴうみ”で体力回復できる姐さんが適任だろ)
 グレイはそう考え、ギャラドスとハピナスで戦わせることに決めた。

 グレイがギャラドスとハピナスを出した直後、エレナとイザルは素早く耳打ちで何か情報交換を始めた。ギャラドスとハピナスが覚えている技を互いに教えあったり、作戦を立てているのだろうとグレイは検討をつけた。
(昨日イザルと戦った時にKKの技は4つとも全部使ったから、KKの最新情報はバレてんだろうな。姐さんの技は……どうだろうな? 1週間前にエレナと戦った時に“メガトンパンチ”と“タマゴうみ”は間違いなく使ったな。“カウンター”は……直接決めてはないが、見破られてた感があるから多分バレてる。見せてないのは“うたう”だけか……)
 ハピナスの“うたう”(相手を眠らせる技)が、この勝負の重要な要素になるとグレイは感じた。
 グレイは自分のギャラドスに視線を移す。戦闘狂のギャラドスは、戦いを始めたくてウズウズしており、その感情は待たされる事によってイライラに変わってきていることがグレイには分かった。
 エレナは、そんなギャラドスをちらちら見ながらイザルに耳打ちしている。
(ああ、KKを()らすのも作戦って訳か……その作戦、見事に当たってるよ……こりゃKKに最初から“あまごい”とか“にらみつける”を使わせるのは無理だな……)
 人間にもポケモンの技“ちょうはつ”が使えるんだな、などと下らない事をグレイが考えていると、やっとエレナから声がかけられる。
「待たせたわねグレイ、じゃあ勝負を始めましょうか。アナタの指示を合図に勝負を始めていいわよ」

「KK、もう攻撃していいぞ、しばらく好きに暴れてくれ」
 グレイのGOサインを聞き、ギャラドスは即座にハガネールに向かって全力で飛び立った。グレイは「好きに暴れてくれ」と言ったが、例えグレイが攻撃以外の指示をしたとしてもギャラドスは一切聞かなかっただろう。
「アブソル、“かげぶんしん”フォームA! そして“つるぎのまい”!」
「ハガネール、“あなをほる”だ! 地中で“ロックカット”」
 エレナとイザルも、それぞれ指示を開始した。
 ギャラドスはハガネールに向かって“たきのぼり”で水をまとって全力で突撃したが、ハガネールが地中に逃げたために攻撃は空振りに終わった。
 その隙にアブソルは“かげぶんしん”で自身の虚像を作り出し、さらに“つるぎのまい”で自身の攻撃力を大幅に高めた。
 ハガネールも地中で“ロックカット”を発動して自身の素早さを大幅に高めた。
「姐さん、全力の“メガトンパンチ”の準備だ」
 グレイは、相手がハピナスを集中的に攻撃してくることを予想し、相手の側からハピナスに近づいてくることを想定して技の準備を指示した。
 ハピナスはいつもよりゆっくりと拳に力を込め始めた。
「アブソル、二刀で攻撃!」
「ハガネール、這い出て“がんせきふうじ”だ!」
 エレナとイザルは共に攻撃指示に移行した。
 グレイは注意深くアブソルと地中にいるハガネールに意識を向け、ハピナスの全力“メガトンパンチ”を放つタイミングを伺う。
 アブソルは、頭の刃で“つじぎり”、尻尾の刃で“サイコカッター”を扱いながら相手に攻撃するべく向かって行く。
 ハガネールも地中から這い出て、“がんせきふうじ”で岩を飛ばして遠距離から攻撃を始めた。
「あれ……?」
 グレイは疑問の声をあげた。
 アブソルもハガネールも共に、暴れているギャラドスを相手に攻撃を開始した。
 アブソルが“かげぶんしん”でギャラドスを惑わしながら、肉弾戦を交えながら“つじぎり”と“サイコカッター”でギャラドスと近距離で戦っている。ハガネールは“がんせきふうじ”で遠距離からギャラドスを攻撃している。
 ハピナスが集中狙いされると予想していたグレイは、ハピナスが完全に放置されているこの状況に戸惑っていた。
「姐さん! “メガトンパンチ”で攻撃!」
 グレイは慌てて攻撃指示を出した。
 ハピナスは拳に込めた力を一気に解放し、拳を突き出した体勢のままハガネールに向かって勢いよく飛び出した。
 ハガネールはハピナスの攻撃を全く避けようとしなかったため、ハピナスの全力の“メガトンパンチ”による拳の一撃がハガネールに直撃した。
 しかし、ハガネールは大したダメージを受けた様子はなく、ギャラドスに攻撃を続ける。
 ハピナスの攻撃がほとんど効いていないことに驚くグレイに対し、イザルが口を開く。
「……俺のハガネールを物理攻撃で倒そうなんて、無理がある話じゃないかグレイサン? ……俺のハガネールの物理的な防御力の高さを舐めてもらっちゃ困るな。……アンタのギャラドスが物理攻撃で俺のハガネールにダメージを与えられる理由は、タイプ相性が良いのと、単にアンタのギャラドスが規格外なだけさ」
 イザルの言葉通り、ハピナスは何度も“メガトンパンチ”をハガネールに放つが、ハガネールは大きなダメージを受けている気配がない。
 またハガネールはギャラドスへの攻撃に集中し、ハピナスには攻撃してこないため、ハピナスは“カウンター”を狙うこともできない。
「だったら、姐さん! アブソルに“メガトンパンチ”だ!」
「……無駄さ。ハガネール、進路を塞げ」
 ハピナスは狙いをアブソルに変えるが、“ロックカット”の効果で素早い動きのハガネールがハピナスの進む先を封じるため、アブソルに近づくことができない。
「だったら姐さん、“うたう”だ!」
 グレイがハピナスに“うたう”を指示したのを聞き、イザルが慌ててハガネールに“がんせきふうじ”で防ぐように指示するが、それよりも早くハピナスの“うたう”がハガネールに命中した。
 ハガネールは眠ってしまった。
「姐さん! アブソルに“メガトンパンチ”!」
 ハピナスは、眠っているハガネールを乗り越えてアブソルの方へ向かう。
 現在アブソルは“かげぶんしん”で虚像を作り出している。見かけ上2体いるアブソルの片方を、ギャラドスが追っている。ハピナスはギャラドスが追っている側とは別のアブソルに狙いをつけた。
「アブソル、今! 二刀で攻撃!」
 エレナの指示により、見かけ上2体のアブソルが“つじぎり”と“サイコカッター”を同時に放った。
 ギャラドスの“たきのぼり”と、ハピナスの“メガトンパンチ”が、見かけ上2体のアブソルのそれぞれに向かって放たれた。
 本物のアブソルは、ハピナスが狙いをつけた方であった。ギャラドスの“たきのぼり”とぶつかり合ったアブソルは消え失せた。
 ハピナスの“メガトンパンチ”と、アブソルの“つじぎり”&“サイコカッター”が正面からぶつかり合った。
 しかし、ハピナスの“メガトンパンチ”は、アブソルが同時に放つ2つの技の内の1つである“つじぎり”さえも完全に相殺することができなかった。アブソルの“つじぎり”がハピナスに一方的にダメージを与え、同時に“サイコカッター”が放たれてハピナスに更なるダメージを負わせた。
 アブソルの攻撃をまともに受け、ハピナスは大きなダメージを受けてよろめいた。
 さらにエレナが指示を出す。
「アブソル、二刀でハガネールを起こして。手加減はいらないわ」
 ダメージを受けてよろめくハピナス、追って来るギャラドス、そのどちらも無視してアブソルは眠っているハガネールに近づいていく。
 次の瞬間、アブソルは眠っているハガネールに向かって、頭の刃から“つじぎり”、尻尾の刃から“サイコカッター”を放ち、同時に脚の爪でもハガネールを切り裂いた。
 突然に強力な攻撃を受けたハガネールは、大きなダメージと痛みに驚いて目を覚ました。
 直後、アブソルを追ってきたギャラドスの“たきのぼり”によってアブソルは派手に吹っ飛ばされた。
 しかし、すかさずハガネールが“がんせきふうじ”を放ってギャラドスにダメージを与える。
 イザルが、エレナに向かって口を開く。
「……手荒な目覚ましをどうも」
「眠る(たび)に手荒く起こすわよ。それが嫌なら眠らせないように戦ってちょうだい」
「……ああ、もう眠らせはしないさ」
 再びアブソルがギャラドスの相手をし始め、ハガネールはギャラドスに遠距離から攻撃しつつハピナスの進路を邪魔してハピナスの攻撃がアブソルに届かないように立ち回り始めた。
 再びハピナスが“うたう”でハガネールを眠らせようとするが、
「……ハガネール! “がんせきふうじ”で防げ!」
 イザルが素早く指示することで、ハピナスの“うたう”はハガネールの“がんせきふうじ”に一方的に打ち消された。
 “がんせきふうじ”によって放たれた岩石は、ハピナスにダメージを与えるだけでなく、岩石がハピナスの身体にまとわりついてハピナスの動きを鈍くした。

 ハピナスの攻撃はハガネールには効果が薄いため、グレイは何とかしてハピナスの攻撃をアブソルに当てようとしたが、全てハガネールに邪魔されて上手くいかない。そこでグレイは、ギャラドスを動かすことで状況を動かす作戦に切り替える。
「KK! アブソルじゃなくて、ハガネールを狙え!」
 グレイの命令にとりあえず従い、ギャラドスは標的をアブソルからハガネールに切り替え、ハガネールに向かって飛ぼうとした。
 しかしエレナはアブソルに指示して、しつこくギャラドスにまとわりついて挑発をするようにアブソルを仕向けた。
 戦闘狂のギャラドスにとって、目の前に存在するアブソルという殴れる対象の誘惑に勝つことは難しい事であった。ギャラドスはグレイの命令をあっさり放棄し、再びアブソルに向かって本能のままに攻撃を加え始めた。
「くっそ! だったらKK、“あまごい”だ!」
 グレイは、雨を降らせることでギャラドスに有利な状況を作り出そうと考えた。
 しかし、ギャラドスはグレイの指示を無視してアブソルへの攻撃を続ける。ハガネールから“がんせきふうじ”で遠距離攻撃されようともお構いなしである。
 トレーナーの指示を無視して好き勝手に暴れるギャラドスを見ながら、イザルがエレナに話しかける。
「……ギャラドスが制御不能な内になるべくダメージを与えるというアンタの作戦は、どうやら当たりだったようだなエレナサン。……ハガネールそこで“がんせきふうじ”!」
「そうね。グレイのギャラドスは……アブソル右にジャンプして二刀! 暴れ足りない状態ではグレイの言う事をほとんど聞かないから……アブソル左、そのまま攻撃! その間に倒してしまえばいいのよね……アブソル下がって受け止めて右!」
「……もっとも、指示を聞かない状態でも恐ろしく強いがな。あのギャラドスと対等に戦えるアンタのアブソルあっての作戦だな。……ハガネール、攻撃はギャラドスに向けろ! ハピナスに惑わされるな!」
「あのハピナスの攻撃を受け止めながら攻撃できるアナタの……アブソルかがんで避けて下から二刀! アナタのハガネールあってこその作戦でもあるわよ……アブソルかまわず肉弾戦、今よ二刀!」

 現在の状況は、アブソルとギャラドスが至近距離で戦い、ハガネールが遠距離からギャラドスを攻撃し、ハピナスはハガネールに足止めされている。
 グレイは、攻撃指示しか聞かないギャラドスを能動的に動かすことはできないため、ハピナスを動かして状況を変えようと努力した。しかし、イザルはハガネールに指示して、ハピナスの動きを適切に対処していた。

 ハピナスが“メガトンパンチ”を繰り出した場合は、動きが素早いハガネールが“メガトンパンチ”を身体で受け止める。また、ハガネールが遠距離のギャラドスへ放つ“がんせきふうじ”を中断することもない。
 ハピナスが“カウンター”を繰り出した場合は、ハガネールは特に何も対処せず遠距離のギャラドスに攻撃を続ける。当然、受けていないダメージを倍返しすることは不可能なので“カウンター”は不発に終わる。
 ハピナスが“うたう”を繰り出した場合は、ハガネールは攻撃技をハピナスに放って“うたう”を一方的に打ち消しつつ、ハピナスにダメージを与えてくる。

 グレイの考えは、ハピナスがハガネールにほとんどダメージを与えられないので、ハピナスの攻撃を何とかしてアブソルに当てたいというものであった。しかし、どう頑張ってもハピナスは、“ロックカット”で素早い動きになったハガネールを通り過ぎてアブソルの方へ向かうことはできなかった。
 仕方なくグレイは、ハピナスにとにかく攻撃するように指示し、ハガネールにダメージを与えることにした。しかし、ハピナスが攻撃し続けても、高い防御力をもつハガネールをすぐに倒すことはできなかった。



 しばらく同じ状況――アブソルとギャラドスが至近距離で戦い、ハガネールが遠距離からギャラドスを攻撃し、ハピナスはハガネールに足止めされている――が続いた。
 アブソルは、ギャラドスと死闘を繰り広げたことによって体力が減っていた。
 しかしギャラドスは、2体がかりで攻撃され続けたことによってアブソル以上に体力の消耗が激しかった。
(そろそろKKを回復させた方がいいよな……)
 そう考えたグレイは、ハピナスの“タマゴうみ”をギャラドスに使うために、再度ギャラドスを動かそうと決意する。
「KK、今度はアブソルじゃなくてハガネールと戦ってくれ! 姐さんは“タマゴうみ”の準備!」
 グレイの指示に対し、再びエレナはアブソルに指示して、しつこくギャラドスにまとわりついて挑発をするようにアブソルを仕向けた。
 しかし今度は、ギャラドスはアブソルの誘いには乗らず、ハガネールの方に向かって飛び立った。アブソルはギャラドスを追った。
「……ハガネール、“アイアンテール”で吹っ飛ばせ。……その後“あなをほる”」
 イザルはハピナスを指差しながら、そうハガネールに指示した。
 ハガネールは“アイアンテール”で鋼鉄の尻尾をハピナスに横方向から激しく叩きつけ、ハピナスを吹っ飛ばした。
 さらにハガネールは“あなをほる”で地中に逃げてギャラドスの攻撃をやり過ごした。
 標的を失ったギャラドスに、追ってきたアブソルが攻撃を再開した。これによって再びギャラドスは標的をアブソルに移し、アブソルを攻撃し始めた。
 吹っ飛ばされたハピナスは、“タマゴうみ”をギャラドスに使うためにギャラドスに近づくが、ハガネールが“あなをほる”で地中からハピナスを強襲してそれを防ぐ。
「イザル、もうハガネールの援護は無くてもギャラドスを倒すことはできるわ。イザルは今の内にハピナスを攻撃して」
「……ああ分かった」
 短い作戦会議の後、イザルは、積極的にハピナスを攻撃するようにハガネールに指示した。
 指示を受けたハガネールは、“タマゴうみ”をギャラドスに使おうとするハピナスに向かって“アイアンテール”で攻撃し始めた。
 ハピナスは何とか“アイアンテール”を避けてギャラドスに近づくが、今度は“あなをほる”でハガネールに地中から強襲されて足止めされた。

 ついに、ギャラドスは戦闘不能となって倒れた。

 グレイは、ハピナス1体だけで、アブソルとハガネールの2体を相手に戦わなければならなくなった。
 ハガネールは、ハピナスの攻撃ではほとんどダメージを与えられない強敵である。
 またアブソルは、1回の攻撃チャンスで“つじぎり”と“サイコカッター”の2つを同時に放つことができ、さらにその攻撃の威力も非常に高い強敵である。先ほどハピナスが“メガトンパンチ”を放った時には、同時に放たれる技の片方である“つじぎり”ですら打ち消すことができなかった。
 戦力差は非常に大きく、グレイには絶望的な状況であった。



「……ハガネール、“アイアンテール”」
「アブソル今よ、二刀!」
 ハガネールが“アイアンテール”で鋼鉄の尻尾を叩きつけてハピナスを攻撃する。
 ハピナスは“カウンター”で、受けたダメージをハガネールに倍返しにしたが、その直後にアブソルの“つじぎり”と“サイコカッター”が同時に放たれ、さらにアブソルは脚の爪でハピナスを切り裂いた。
 ダメージの限界を超え、ハピナスは戦闘不能となって倒れた。

 エレナとイザルが互いに片手でハイタッチしている光景を見て、グレイは自分が負けた事を実感した。
(ああ……負けた時のこの感覚、悔しさ、何か久しぶりだな……)
 グレイは、自分が何故エレナをライバル視していたのか思い出した。単純に、負けた時に悔しかったからである。
 エレナには1週間前に勝ち、イザルには昨日勝っている。勝ちが続いたからこそ、グレイは負けることの悔しさを忘れていた。
 グレイはバトルを振り返り、どこかに勝ち筋は無かったのかと考え始める。
(姐さんがKKを回復させるために“タマゴうみ”を使おうとした時から、ハガネールは姐さんに積極的に攻撃してきた。その時に“タマゴうみ”を諦めて“カウンター”でハガネールを早めに攻撃していれば結果は変わったか……?)
 さらに様々な考えがグレイに浮かぶ。
(いや、そもそも最初の方で姐さんがハガネールに足止めされた時に、姐さんの“うたう”でハガネールを釘付けにすれば良かったんだ! 姐さんが“うたう”を使った時だけはハガネールはKKへの攻撃を止めて姐さんに攻撃してただろ! 当然、姐さんはダメージを一方的に受けるだけだけど、その間だけはKKはアブソルと1対1の状況になってただろ! だから、姐さんの“うたう”でハガネールを釘付けにして、KKがアブソルを倒すのを待てば良かったんじゃないか?)
 さらにグレイは、エレナとイザルが自分のポケモンを(ねぎら)っている様子を見ながら思う。
(もしオレが、KKに言う事を聞いてもらえるくらい立派なトレーナーだったら……もしKKが最初からオレの言う事を聞いてくれれば……この勝負にも勝てたかもしれないな……)
 自分のギャラドスは言う事を聞かないポケモンである、という事で今まで納得していたグレイだが、自分のギャラドスを従わせたいという思いが不意に浮かんだ。



 なお、グレイが敗北したことによって「打倒グレイ同盟」は「グレイ勝者の同盟」へと改名されようとしたが、グレイの必死な懇願により、エレナとイザルの2人とそのポケモンの飯代を奢るという代償によってその改名は回避された。
 イザルが巨体のポケモンを複数所持していたため、飯代による出費はグレイの想像を大きく上回った。



 
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