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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第47話『ボス戦』

「本当にやるのかい? そんなにボロボロな身体で」

「怪我は諦める理由にならないよ。大体、無抵抗なら殺すんだろ? だったら、生ある限り足掻かせてもらう」


息を整えながら、晴登は覚悟を決める。
あいつからは逃げられない。それが直感でわかったからだ。
というかそもそも、晴登は走ることがままならない。逃げられなくて当然だ。
だったらどうする? 『倒して逃げる』しか、方法はないだろ。


「でも、怖ぇな…」


晴登は負傷した横腹をチラリと見やった。
あいつは晴登を殺す気である。つまり、そうできる力を持ち合わせているのだ。
自分が負ければ、それは死を意味する。なのに、戦いからは逃げられない。
言い知れない恐怖が、晴登の心臓を強く拍動させた。


「キミがその気なら、ボクも手加減はしないよ。死をすんなりと受け入れられると、確かに面白くないからね」

「ユーモアなんか求めるなよ。こちとら殺されそうなんだから」


さて、相手もやる気になった。
よって、ここからが正念場となる。結果は勝つか負けるかだけ。一瞬の油断も許されない。
晴登は拳に風を纏わせ、臨戦態勢をとった。


「──じゃあ、始めようか」


彼の冷たく響いた声。刹那、晴登の背筋に悪寒が走る。
・・・いや、怯むな。一分の隙も見せてはいけない。堂々と構え、相手に攻撃を叩き込むことだけを考えればいい。
晴登は前を見据えたまま深呼吸、焦りを鎮めた。


「その身体でどこまで持つのか、楽しみだよ」


彼は楽観的な姿勢を崩さない。
何とかしてあの鼻を折ってやりたいが、まだ2人の間に距離がある。約5mか。
しかし、今の晴登の脚では到底埋められない。1歩を踏み出したら、痛みで倒れ込むのがオチ。
正直な話、今の晴登は直立がやっとなのだ。


「動かないのかい? …まぁ無理もないか。いたぶる趣味はないから、早く終わらせるよ」


──来る!

晴登は一瞬の判断で上半身を右へとずらす。するとその真横を拳サイズの氷塊が飛来していった。


「おぉ、よく避けたね」

「…いや、避けたはいいけど……くっそ痛ぇ…」


咄嗟とはいえ、今のを避けたのは何気に嬉しい。
その代わり、避けたことで脚や横腹にかなりの負荷がかかった訳だが。


「動けない上に避けれないとか・・・絶望的だろ」

「じゃあ次いくよ」

「…っ! くそっ!」


晴登の内心を露知らず、少年は次の氷塊を放つ。
先程と大きさも速さも変わらないが、回避を封じた晴登には、風を使うしか防御手段はない。
軌道を無理矢理に逸らし、氷塊はそこらの壁に衝突していく。


「といっても、この防ぎ方もマズいな…」


枯渇しかけている魔力をさらに削るのは、あまり良い選択とはいえない。
もし魔力が尽きれば、決め手に欠けるし、何より体力と比例しているから、いつかの伸太郎みたいに倒れてしまうだろう。
体術も、魔力もダメ。…てことは道がない。


「マジでヤバいじゃん…」


戦いに意気込むのはいいが、さすがに状況が悪すぎた。もっとも、逃げる選択肢はないのだが。


「随分と顔色が悪いじゃないか。どうかしたのかい?」

「人の顔色見れるぐらい余裕ってか。こっちの気も知らないで…」

「余裕に決まっているだろ。相手は満身創痍なんだし」

「そりゃそうか……」


相手からしてみれば、こんなボロボロな身体の奴に負ける方がおかしいのである。
攻撃もしてこないし、防御もしない。良いサンドバッグだ。
だからあいつが本気でやれば、晴登を倒すのは他愛もないはず。


「…つまり、結局は手加減してるんだろ。手数も少なすぎる」

「違うよ。ボクはまだ様子見のつもりなんだ。むしろ今の攻撃をそう思ってくれないと、さすがに弱りすぎでしょ」

「あぁそうですか」


少年の「当たり前」と言わんばかりの言い方に、晴登は吐き捨てるように返す。
正直、対等に渡り合える武器が“言葉”しかない。無論、諭して止めさせるとかは不可能なのは目に見えている。


「どうすりゃ切り抜けられる? 考えろ…!」


晴登は窮地を脱そうと、周りに気を配る。
偶然というべきか、ウォルエナの姿は1頭も見当たらない。恐らく、主人であるアイツがここにいるからだろう。
となると、不意討ちを喰らうことはないはず。だから、あいつとの1対1さえ制すれば、こっちのもんだ。


「こういう時は周りの地形を使ったりとか、何かしらのハッタリを仕掛けるとかすれば良かったっけな?」


こういう場面までマンガ知識に頼ろうとする自分が怖い。
しかし自分の記憶の中に、こんな状況に陥ったビジョンはない。だったら、何度もピンチになるマンガの主人公を真似するのが妥当なはずだ。


「でもこの場合は……? 『攻撃も防御もできない時の対処法』って……?」


しかし考えれば考えるほど、光が遠のいていく。
こんな絶望的な状況、さすがに見たことがない。自分の知能で打破するのは、どうも無理がある。


「いい加減、考えはまとまったかい? ボクだって、早く姉を探しに行きたいんだ」

「ユヅキをお前と逢わせる訳にはいかない。どんな関係だったか知らないけど、ダメな気がするからな」

「酷い言われようだ。所詮キミは余所者だろう? ボクらの問題に口を挟むなよ」

「関係あるさ。俺とユヅキは友達なんだから」

「はぁ…くだらない」


短気というべきか何というか、とりあえず無茶苦茶な奴だ。人1人捜すのに、街を壊滅させる必要があるのだろうか。本当に、ユヅキを捜しに来ただけなのだろうか…?


「お前、ユヅキを見つけてどうするんだ?」

「あ、それを訊く? そうだな・・・まぁ、教えてやってもいいか」


考える仕草を少し見せたあと、彼は勿体ぶるように言う。
そんな高圧的な態度に苛つきを覚えてしまうが、ここは一旦落ち着くことにした。
あいつの話は、きっと聞く価値があるはず──


「ボクはね、この街を征服しに来た。ボクの国のことを、大陸全土に知らしめたいんだ」


「……は?」







「少年は見つかったかい?」


青年の問いに耳を傾けながら、ユヅキは辺りを捜し続ける。しかし、一向に晴登の姿は見つからない。
青年が加入してくれたとはいえ、状況はあまり好転してくれてないようだ。


「いえ、どこにも見当たらないです。それよりも・・・えっと…」

「…そうだ、まだ名乗っていなかったね。僕はミライだ。君の名も聞いておこうか」

「ユヅキです」

「捜してる少年は・・・ハルトだっけ? うん、覚えたよ」


ユヅキの逡巡を察し、青年は『ミライ』と名乗った。
でも、名を聞くのが目的だった訳でなく・・・


「それで…何の話だったっかな?」

「あ、えっと、ミライさんは何か手掛かりはと」

「ううん、全然見当もつかない。本当に君は何もわからないのかい?」

「はい……」


やれやれ、と首を振るミライに、ユヅキは申し訳なさそうに言う。
先程までとは違い、ミライはユヅキを疑うことをしなくなった。ただ、手掛かりが一切掴めないため、ユヅキが無実という証明ができないのだ。


「黒幕は必ずいる。見つけ出して、復讐してやるんだ」


ユヅキはその言葉に反応する。
さっきも聞いた『復讐』とは、彼にとってどんな意味なのだろうか。


「あの、1ついいですか?」

「ん、何だい?」

「ミライさんは、この街をどう思ってるんですか?」


恐らく脈絡のない質問だ。ミライさんもキョトンとした顔でこちらを見ている。
しかし、彼は質問の意図を悟ったのか、微笑みを浮かべて、


「僕はこの街が大好きなんだ。生まれも育ちもこの場所さ。だから護りたい。せっかく持ってる力だ、僕の大好きなものを護るために使いたい」

「力・・・それって魔眼のことですか?」

「いや、魔眼はあくまで体質として持ってるだけだ。僕には持つべくして持った魔法が、他にちゃんとあるんだよ」


ユヅキに笑いかけ、己を語るミライ。その姿を見て、ユヅキは感動を覚えた。


「街を護るって…かなり大きいことですよね」

「少なくとも、凡人1人が呟く言葉じゃないだろうね」

「でも、ミライさんはやるんですよね?」

「ああ、黒幕を見つけ出して、必ず。まぁ君が黒幕じゃないことを祈ってるよ」

「だから、違うって言ってるじゃないですか!」


ユヅキは膨れっ面でミライに言うと、彼は冗談だと誤魔化した。
現在進行形で“頼れる存在”ではあるはずなんだけど・・・こうして見ると、本当にただの青年だ。

ユヅキは図らずも、口角を上げていた。
今までいなかった存在。友人だったり、家族だったり。でもラグナやハルトに続いて、ミライも自分と親身に接してくれている。それがたまらなく嬉しいのだ。


「良かった、ようやく笑ってくれた」

「い、今のは違うんです!」

「いいよ、隠さなくたって。それより、早くハルトに会いに行きたいんだろ?」

「う……はい」

「素直で何より。それじゃあ行こうか」


再び2人は、2つの捜索を続けた。







「征服って・・・どういうことだ?」

「そのまんまさ。ボクの国が、この広い王都を征服する。そうすれば、ボクの国の評価は上がるのさ」

「何のために…?」

「自己満足…だと言葉が悪いな。ボクはただ、『大陸の王』になりたいんだ」


ボクの国? 大陸の王? 言っている意味がよくわからない。
そもそもこんな少年が、国を持っているということなのか? それってどういう状況?


「…理解していない顔だね。簡単だよ。ボクの国もこの王都も、全ては同じ大陸上にあるだろ? そこで1番を目指すと言っているだけさ」

「そんなこと、できるのかよ…?」

「できるさ。人間風情がボクに勝てる訳がない。何せ、『鬼』の血を引いているからね」

「鬼…?」


鬼、というのは、頭に角の生えたアレのことだろうか。だが、目の前の少年がそんな大層な血を引いているようには、とても見えない。


「それも知らないのかい? どれだけ世間知らずなんだ、キミは。──鬼族というのは、最強に値する種族だよ。だから、人間という種族がボクらに敵う訳がないの。これでいい?」

「わざわざご丁寧に。それじゃあ、俺みたいな奴を倒すのは造作もないと?」

「その通りさ。ボクに勝負を挑んだのがキミの運の尽き。まぁいずれはウォルエナに喰われる運命だったと思うけど」


さて、情報収集のつもりが、とんでもないものを引き当ててしまった。あいつの言っていることが事実かどうかは不明だが、もし本当なら危険過ぎる。
『魔法が過剰に扱える少年』ならまだしも、『鬼の血を受け継ぐ、人から逸脱した少年』に勝てる訳がない。

マズい、マズすぎる。
まだハッキリしていないが、晴登と少年の間には、明確な力の差があるはずだ。
自分より強い相手に喧嘩を挑むのは、どこの世界においても自殺行為。この場合、そのまんまの意味で。

もう、助かる道がないのか……。


「…お前、人を殺して何も思わなかったのか?」


晴登は無意識の内に喋っていた。
明確な意図はない。強いて言えば、死ぬまでの時間稼ぎだ。
ただ、思った疑問を口にしただけ・・・


「当たり前だろ。この王都さえ征服できればいいんだから。人なんて余計な存在は消して当然だ」

「それ、本気で言ってるのか…?」

「ああ」


それを聞いた晴登の中の、何かが弾けた。


「お前、命を何だと思ってるんだよ」

「命は大切なものだよ。ただ、不必要な命だってこの世には有るんだけど」

「不必要な命なんかある訳ないだろ! お前が今殺そうとしている人たちの命は、不必要なんかじゃない!」

「どうしてさ。ボクの計画に、その人々は不必要だろう?」

「世界はお前中心に回ってるんじゃないんだよ! 不必要とか、お前が勝手に決めていい訳が──」



「いいんだよ」



突如、空気が凍りつく。晴登はそれに気圧され、言葉をつまらせた。

あいつの目の色が……変わった。


「御託はここまでだ。もうキミとはお別れしよう」

「…っ!」


淡い青の光が渦巻く掌を向けられ、晴登は金縛りにあったかのように動きが止まる。明瞭な殺意が全身を縛っているのだ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい…!!!


「じゃあね」


青い光が輝きを増していく。
そしてそれは、次第に晴登の視界を埋め尽くしていった。

遅れて感じたのは、そのまんまの意味で身も凍るような寒さ。触覚が機能を失っていく。

そして更に、鳴り響く轟音。鼓膜が張り裂けそうだった。
その音に伴う、風のような衝撃も平衡感覚を狂わせてくる。

何も見えない。何も感じない。何も聴こえない。
それなのに、光と音と寒さに身体中が蝕まれていくだけはわかった。


意識が遠くなっていく。



酸素が足りなくなり、まるで海の底へと溺れていく感覚だった。




呼吸がままならない。吸ったところで、吹雪を取り込むだけだった。





もはや無重力空間。上も下も、何もわからない。






眩しい。怖い。


寒い。怖い。


痛い。怖い。


辛い。怖い。


苦しい。怖い。


切ない。怖い。


恐い。怖い。


怖い。怖い。怖い。怖い。


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・・



死ぬのが──怖い。



誰か、誰か助けて。



死にたく、ない。



死にたくないよ……。



ー。


───。


─────。





──そして全てが途切れる瞬間、温かい光が晴登の手を包んだ。

 
 

 
後書き
戦闘シーンがほとんど無くて、タイトルと内容が一致しなかったのは反省してます。すいません。
そして文字を濫発させたのもすみません、謝ります。1回やってみたかったんですこれ()

でも、後悔はしていない!←

どうも。もちろんのことですが、一話じゃ終わりませんでした。次回とそのまた次回にまでいくかもしれません。
今回みたいに、下手くそな言葉を並べるだけのものになるかもしれませんが、文句を言わずに読んでいただければ幸いです。

それでは、また次回で! 
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