| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

提督はBarにいる。

作者:ごません
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

アニヲタ比叡の優雅な?休日・4

「え~!?比叡さんてああいうくたびれた感じの人がいいんですか!?」

「てっきりお姉様LOVE一筋かと……山城さんとか大井さんみたいに。」

「でも、好みは人それぞれだからね。」

「ぴゃああぁぁぁぁ////」

 アニメそっちのけで比叡の男の趣味の話にすりかわってしまった。そこは女子、恋の話には目ざとい。

「え、あ、いやその……。まぁ、スパイクも格好いいなぁとは思うけど好みではない…かな?」

 目線を泳がせて必死に弁解する比叡に対し、阿賀野姉妹はニヤニヤと興味津々だ。普段はクールな矢矧でさえ食い付いている。

「じゃあじゃあ、比叡さんの好みってどんな人なんです?」

「え、それ聞くの?」

「「「「もちろん!」」」」

 4人に包囲されてはいくら戦艦でも逃げようがない。




「じゃあまずは……歳上と歳下、同年代ならどの人が良いですか!?」

 阿賀野が斬り込み役として聞いてきた。まずは小手調べに年齢の好み、といった所か。

「と、歳上……かな?」

「歳上なんだぁ……結構意外かも。」

「ねー。比叡さんて元気ハツラツ!って感じだから年下か同年代位の人がすきだと思ってた。」

 比叡の歳上好き、という解答に話を膨らませる能代と酒匂。続いて質問してきたのは能代だ。

「じゃあ、細身の人の方が好み?それともガチムチマッチョ?」

 ずいぶんと極端な例えだな、と口には出さずに心の中で突っ込む比叡。

「細身よりは筋肉質な方がいいなぁ……なんか、細いと頼り無さ気だし。」

「あぁ、それは何となく分かる気がするわね。」

 それに同意するのは矢矧。普段から自分にストイックな彼女から考えても、自分よりもナヨナヨした男は嫌なのだろう。比叡にしてみてもそれは同じだ。

 海外スターの好みの話をしても、他の娘達はブ〇ピとかト〇・クルーズとかにキャアキャア言っているが、比叡はシュワちゃんとかセガールとかガチムチ系のオジサマが格好いいと感じるのだ。

「じゃあやっぱり、身長は自分より高い方が良いのよね?」

 矢矧がさっきの話の流れから聞いてきた。

「そ、そうだね。私よりも身長低いのは嫌かなぁ。」

 そりゃそうだ、と比叡は密かに思う。……何しろ、初めて惚れた男の容姿がそうだったから。

「う~ん……。」

 先程から酒匂は顎に人差し指を当てて、しきりに首をかしげている。

「どうしたの酒匂ぁ。悩みならお姉ちゃんに言ってごらん?」

 少し酔いが回って来たのか、不審な動きの酒匂に阿賀野が抱きついた。

「うーんとぉ、比叡さんの好きな男の人のタイプって、歳上でぇ、背が高くてぇ、マッチョなんでしょ?……それってさぁ、司令の事じゃないかなぁ?」

 途端に噎せかえる比叡。この四女、抜けていそうで意外と鋭いのである。えっ!という顔になる三人。その視線を受けて赤くなって俯く比叡。何を隠そう、比叡の初恋の相手は姉の結婚相手であり義理の兄となった提督だった。




「さ、最初はね?お姉様大好きでそんなに気にならなかったし、寧ろお姉様が取られちゃいそうでヤキモチ妬いてたの。」

 真っ赤になりながら語りだす比叡。酒の勢いもあってか、口が軽い。

「でもねでもね、仕事してる時の真面目な顔とか、他の娘を褒めてあげてる時の優しそうな顔とか、『格好いいなぁ』って思うようになって……」

「はぁ……意外と乙女だったんですねぇ比叡さん。」

「ちょっと能代、言い方が無神経すぎよ!……それで?アプローチとかしなかったの?」

 ズケズケと意見を言う能代を嗜めつつ、次の話を促す矢矧。

「だって、司令もお姉様好きなの見え見えだったし、お姉様も相変わらず好きだったからお邪魔はしたくないし……」

 そういう比叡の目は潤んでおり、今にも雫が零れ落ちそうになっていた。そんな比叡を慰めるように、阿賀野が比叡の頭を抱き締めてよしよしと頭を撫でてやる。他の姉妹とはいえ長女は長女、こういう時の『妹の扱い』は馴れた物なのだろう。……普段のだらしなさは頂けないが。

「それに、私お酒弱いから司令のお店にもあんまり顔出せないし……。」

 それで思い付いたのが『提督と趣味を共有する』事だったのだ。それがきっかけでアニメを見るようになり、今では本当にアニメが好きになったのだ。


「そんな事無いと思うけどなぁ。」

 唐突にそう言ったのは酒匂だ。

「司令のお店、お酒が飲めない娘も行ってるよ?羽黒ちゃんとか、電ちゃんとか。飲めなくても司令は気遣ってくれるって言ってたよ?」



「比叡さんはねぇ、多分優しくて、司令も金剛さんもだ~い好きなんだよ。だから、金剛さんと司令を取り合いになりたくなくて、自分で諦めたんじゃないかなぁ?」

 酒匂は純粋な娘だ。だからこそ、自分の考えを包み隠さずストレートに言ってくる。……そう、比叡は自ら身を引いたのだ。提督と同じくらいに愛している姉の恋路の為に、自らの初恋を叶わぬ物と解っていても、二次元のアニメキャラや映画の俳優に面影を重ねている。それをズバリと指摘されたからか、比叡の目尻からすぅ……と一筋の涙が零れた。

「あ……あれ?おかしいなぁ、ちゃんと気持ちの整理は付けたのに…あれ?」

 拭っても拭っても、零れる滴を止める事が出来ない。そんな比叡を見て、能代が肩に手をポン、と置いた。

「比叡さん……飲みましょう!」

「ふぇ?だから、私お酒はあんまり……」

「だ・か・ら、ですよ。飲んで飲んで飲みまくって、イヤな事なんて綺麗さっぱり忘れちゃいましょう!」

「そうね、私達も付き合うわ。」

「今日はオールナイトでフィーバーだねっ!ぴゅう♪」

「よ~っし、阿賀野もいっぱい飲んでたべるぞ~っ!」

「「阿賀野姉ぇは自重して‼」」

 そんな姉妹独特の息の合った掛け合いを見ていたら、自然と笑みが零れてきた。

「よ~し……じゃあ今夜は飲み明かそうか!」

 そう言って比叡は缶ビールを開けると、喉を鳴らして一気に飲み干した。その苦味が、淡く切ない思い出も洗い流してくれるんじゃないか、そう思いながら。

~数時間後~

「ただ今戻りました~……とは言っても、比叡姉様も眠ってらっしゃるでしょうけど。」

 そう言って金剛型の談話室に戻ってきたのは霧島だ。彼氏である憲兵君とのデートを終えて帰ってきたのだ。お互いに明日も仕事がある身の上、流石にお泊まりは…と互いに配慮した結果の日帰りデートだった。尤も、既に日を跨いで翌日になってはいたが。

「……あら?」

 見ると、比叡の部屋から光が漏れている。またアニメを見て夜更かししているのだろうか?であれば幾ら姉とは言え注意しなくてはと部屋の扉を開けた。

「あらら、よっぽど楽しい飲み会だったようですね。」

 霧島も部屋の惨状を見て、苦笑いを浮かべた。部屋の中に散らばる酒の空き瓶や空き缶、お菓子や惣菜のパック。そのゴミの山の中に埋もれるように酔い潰れて寝込んでいる比叡と阿賀野型姉妹。風邪を引かれては敵わないから、と一人一人に毛布をかけてやりつつ、比叡の寝顔を伺う霧島。最近悩んでいたらしい姉が、これをきっかけに吹っ切ってくれれば……と末の妹は密かに願う。

「…さて、目が冴えてしまいましたね。お義兄様の店に飲み直しにでも行きましょうか。」

 誰に言うでもなくそう呟いて、比叡の部屋の電気を消す霧島。

「……おやすみ姉様、良い夢を。」

 そう言いながら、扉を閉めた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧