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落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜

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番外編 生裁戦士セイントカイダーll
  第2話 謎の初代セイントカイダー

「……失礼します。二年Aクラスの栂です」

 翌日の放課後、俺は予想通りに校長先生に校長室まで呼び出され、詰問を受けた。

 「なぜ他の生徒会役員に、頼ろうとしないのか」。
 それが主な内容だった。校長のデスクの前に立つ俺の眼前には、取調べを始める刑事のような面持ちで椅子に座る校長先生の姿がある。

 女に疎いと言われる俺でもわかるくらい、スーツをピシッと着こなしている彼女からは大人の色香が感じられた。
 しかし、今はそんなことに気を取られている場合ではない。

 この宋響学園の生徒会執行部に身を置く役員は、任命されてすぐに「ヒーローライセンス」の資格試験を受けることが義務付けられている。

 その試験に合格し、スーパーヒーロー評議会公認のヒーローだと認められれば、「生裁戦士セイントカイダー」の変身システムの運用を任され、学園のアイドル的存在となってPR活動を行うことになるのだ。

 余談だが、取得したライセンスは卒業後も別のヒーローになる際に使うことができる。「セイントカイダー」になることは、俺のような若手ヒーロー志望にとっての登竜門なわけだ。

 昨年度は本邦初の「教育機関のヒーロー」ということもあり、舞帆先輩の活躍で多大なPR効果を発揮し、今年度の入学希望者は過去最大のものとなっていた。

 ――その「セイントカイダー」としての「PR活動」で生徒会方面での活動が多忙になった場合、変身者は自分が担当している仕事のいくらかを、他の役員に委託することができる。

 俺はなんとかAランクのライセンスを取得して、セイントカイダーに変身する資格を掴んだが……生徒会での活動に手を抜いたことはない。

 本来ならば、三日に一回は周囲に委託することが推奨されている現在の環境で、俺はセイントカイダーになってから一ヶ月が経つ今になっても、一度も活動を休んでいなかった。

 助けてもらおうとは、思わない。
 自分の都合で他人の手を煩わせないように、俺はもっと強くならなくてはいけないんだ。

「絵麗乃の信用を得られなかったのは、俺の力不足です。以後はこのようなことにならないよう、従来以上の心構えで事に当たりたいと思います」

「その『信用』っていうのは何なのかしら? 『あなた一人さえいれば、後はなんとでもなる』なんていう、無責任な言い分のことじゃないでしょうね?」

「それは……」

「あの娘がそんないい加減な気持ちを持ってると思うの? ……いい? 私はあなたに何もかも一人でしょい込んで欲しくて、今の体制を作ったわけじゃないのよ。たった一人でも戦おうとする無茶苦茶な奴がいたからこそ、助け合いが必要なこの制度に決めたんだから」

 そう話す校長先生の目は、どこか遠い場所を眺めているかのようだった。
 「たった一人でも戦おうする無茶苦茶な奴」……か。

 先代セイントカイダーの桜田舞帆先輩のことだろうか? しかし、彼女は協調性に溢れた社交的な性格だったと聞いているが。

「さっきは『自分は信用されてない』なんて言ってたけど、実際のところはあなたの方が周りを信用してないだけなんじゃないかしら? 協力もせずに『あいつ一人にやらせれば上手くいく』とか言うような、自分勝手な連中がのさばる生徒会になるなんて、私は絶対に認めないわよ」

 許さない、と断じるような校長先生の剣幕に、思わず一瞬だけたじろいでしまった。なんとか気を持ち直そうと、息を呑みながらも俺はもう一度口を開く。

「いえ、決してそう言うわけでは――」

「じゃあ何? あなたはあの娘たち生徒会が心配してるって言うのに、それに取り合おうともせずに自分一人で解決するなんて言うつもりなのかしら? それが実現できるほど、あなたは強くはないはずよ。だからこそ、彼女はあなたを案じてる」

「だから、俺は今以上に強くなって、それでっ……!」

「周りには頼りたくない、かといって心配もされたくない。だから身の丈以上の力が欲しいってわけ? 痛々しい発想ね」

 校長先生は呆れた顔で俺を一瞥すると、こことは違うどこかを目指すような顔で、窓の外に目を向ける。

 ――俺は、この学園のヒーローなんだから。
 なんでも出来なくちゃいけない、学園のみんなの期待に応えなくちゃならない。そう思うことの、なにが痛々しいって言うんだ……?

「まぁ、そんな強情っ張りなところはウチの娘やあのおバカによく似てる、けどね」

「……?」

「――そうだわ、私があれこれと口を挟むよりかは、年の近い若者同士で答えを出した方がマシかも知れないし……」

 すると、校長先生は俺に視線を戻してゆっくり椅子から立ち上がり、真っ向から向き合うように目線を合わせてきた。

「一番最初にセイントカイダーに変身した人間――そいつに会ってきなさい。『先人の体験談』くらい説得力のあるものじゃなきゃ、あなたみたいな頑固者は動かないでしょう?」

 ……先人の体験談、か。

 となると、やはり桜田舞帆先輩に会いに行くことになるのか。
 あの人とは俺がセイントカイダーに選ばれた時、応援の言葉を貰って以来だ。

 あの人なら、今は宋響学園から少し離れた街中にある「城巌大学(じょうがんだいがく)」に通っている。この辺では屈指の一流大学だな。

 ――俺の何が変わるのは知らないが、何かしらの勉強には……なるか。

「……わかりました。すぐに出発します」

「えぇ。じっくり先輩方の説教を食らって、頭を冷やすといいわ。それから……」

 そこで一旦言葉を切ったかと思うと、今度は冷めた視線をジロリと向けて来る。

「『無茶ばかりの夫を心配する妻』の気持ちとか、考えてみることね」

 ――何の話だ?

 その後、校長室をあとにした俺の前には、見慣れた顔触れが並んでいた。

「みんな……」

 生徒会長の辻木隼人先輩。副会長の地坂結衣先輩。
 そして――会計を担当している、山岡絵麗乃。

 俺は彼女にチラリと視線を移すが、向こうは気まずそうに目を逸らしてしまった。

「栂。校長先生となにか話してたのか?」

 まず、辻木会長が訝しげに俺を問い詰める。
 単独行動が多い俺のことで、少しばかり気が立っている様子だ。

「ええ。先代セイントカイダーの桜田舞帆先輩に会って、助言を聞いてくるように言われました」

「舞帆先輩に? そうか……」

 だが、俺の返答に辻木会長は感慨深げな表情を見せ頷いていた。やはり彼にとっても、桜田舞帆先輩は尊敬するべき人なんだな。

「あっ! じゃあ、城巌大学に行くんだよね! 船越先輩、元気にしてるかなぁ〜っ!?」

「船……越?」

「フン! かつての学園きっての大問題児さ! セイントカイダーの主題歌で成功したのをいいことに、舞帆先輩と同じ大学に進学するとは、なんたる暴挙!」

 地坂副会長は「船越先輩」という人物に想いを馳せているようだったが、辻木会長はあまりその人についてはよく思っていないらしい。

「まぁ、あのような不良のことはどうでもいい。それより栂。僕達はこれから、麻薬密売組織の取り締まりに向かう」

 突然に切り出された、生徒会出動の知らせ。辻木会長の真剣な眼差しに、俺の表情も険しくなる。

「麻薬密売組織……最近、この辺りが物騒になっているという噂は聞いていましたが、そういうことだったんですか」

「ああ。基本的に逮捕するのは警察の仕事だが、ウチの生徒達に影響を与えかねない存在である以上、我が生徒会も動かなくてはなるまい」

「確かに専属ヒーローを擁しているからには、協力した方がPR効果は期待できますが……危険では?」

「なぁに。我々は組織の動きを追跡して、警察が来るまで連中をマークしておくだけだ。セイントカイダーの力を借りる必要もない。学ぶべきことがあるなら、お前は城巌大学に向かうといい」

 そう言って、辻木会長は余裕の笑みを浮かべて俺の肩を叩く。
 必要ない、と露骨に言われるのは気分のいいものじゃないが、教養を優先させてくれるのはありがたい。

「わかりました。では、これで失礼します」

 会長に背中を押されたことだし、学園を出るとしよう。

 そう思って、その場を後にする――はずだったのだが。

「あのっ……待って! 勇亮君!」

 ふと、それまで一言も喋らなかった絵麗乃が、この場で初めて口を開いた。

 柔らかい焦げ茶色のボブカットと、ぱっちりとした瞳が特徴の……まぁ、俗に言う「美少女」に分類される俺の友人だ。

 彼女とは中学の頃からの付き合いで、その時はよく一緒に遊んでいたものだが――最近では、同じ生徒会に身を置いているというのに、言葉を交わす機会すらなかなか見つからなかった。

 そんな彼女と、こうして向き合うのは、なんだか久しぶりのような気がした。

「どうした? 絵麗乃」

「えっと、その……」

 話し掛けておきながら言葉に詰まる彼女の姿は、さながら小動物のようだった。

 もともと、中学生と間違われるくらい幼い容姿を持っている絵麗乃だが、この時は百八十センチ以上ある俺の身長との対比もあってか、いつも以上に小柄に見えた。

「ね、ねぇ……勇亮君。疲れてない?」

「急にどうした?」

「え、ええとね、最近、なんだか勇亮君、無理してるって感じだし。最近じゃ、いつも頑張ってるところしか見たことないから……」

「――絵麗乃が心配するようなことなんて、ない」

 俺はそれだけ言って、彼女から目を背ける。視界から彼女の姿が消える一瞬の中で、悲しげな顔が目に焼き付いたような……そんな気がした。

「ちょっ……だめよ栂君っ! 奥さんを心配させちゃあっ!」

「お、おおおお奥さんっ!? 副会長なにを言ってるんですかあぁぁぁっ!?」

「お前の気持ちに気づいていないのは栂だけ――か。山岡も大変だな」

 後ろでなにか騒いでいるようだったが、詳しくは聞き取れなかったし、聞く気もなかった。
 俺は俺のするべきことをするだけだ。

 ――休む暇など、あるものか。それで心配されるのなら……俺の努力不足だ。

 体育館裏にある、セイントカイダーの地下秘密基地。一年前から、セイントカイダーの調整施設として使われはじめたばかりというだけあって、施設内の環境は概ね良好だ。

 俺は校長室を去ってから、ここへ足を運んでいた。
 有事に備えて、すぐにセイントカイダーとして出動できるように、パトロールを兼ねて城巌大学に向かうためだ。

「失礼します。寛毅さん、セイサイラーの整備は?」

「お? おぉ、万全だよ。万全だとも」

 純白のサイドカー付きバイク――すなわちセイサイラーを見つけた俺は、施設の床をモップで掃除している、事務員の桜田寛毅さんに声を掛ける。

 寛毅さんはここの掃除当番以外にも、セイサイラーのメンテナンスを務めている。

 一年前まではこの学園の校長だったのだが、今では(俺も詳しくは知らない)諸事情で、ここで下働きに駆り出される身になっているという。

 そして彼に代わり、この秘密基地で彼と同じことをしていた達城朝香が、校長として君臨しているわけだ。

 去年に何があってこんなことになっているのかは知らないが、セイントカイダーの整備体制が維持され続けているのは、現役の身としては助かる。

「どこに行こうというのかね? 栂勇亮」

「城巌大学に。先代セイントカイダーの桜田舞帆先輩に会えと言われましたので」

「ま、舞帆に……か。……そ、そうかそうか、行ってくるといい」

 寛毅さんはなぜかバツの悪そうな顔をしながらも、セイサイラー発進用のハッチを開けてくれた。

 俺は彼に一礼するとアクセルを一気に踏み込み、地上へと向かう坂を鋼鉄の二輪で駆け上がった。

 このセイサイラーは、俺が常に装着しているセイントカイダーの変身ブレスレットに次ぐ、ヒーロー活動における必須ツールだ。

 単にバイクとしての性能がいいだけではなく、セイントカイダーの重装備形態「生裁重装」に変身する機能も持ち合わせている。

 ブレスレットで変身する「生裁軽装」と合わせて使えれば、かなりの戦力になるだろう。

 ……とはいっても、生裁重装は俺には到底使いこなせない代物だ。
 以前、試しに変身してみたことがあったのだが、身体が鉛のように重くてほとんど動けなかった。

 それは舞帆先輩も同じだったらしく、これを扱うには相当な筋力と体力が必要になるらしい。

 ちなみに、去年まではセイントカイダーの変身システムは舞帆先輩の身体だけに合わせて造られていたが、今年からは誰でも問題なく着用できるように、変身機構にマイナーチェンジが施されている。

 その前の段階で、舞帆先輩以外の人間が変身しようとすると、身体のサイズが合わないために全身が締め付けられて激痛を伴うことになるらしい。
 なんとも恐ろしい話だ。身体が異常に重くなる生裁重装だと、なおさらだろう。

(……だが、初めて登場したセイントカイダーは生裁重装だったらしい。舞帆先輩だって、あれは使いこなせなかったはずなのに……一体、どういうことなんだ……?) 
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