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落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜

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番外編 生裁戦士セイントカイダーll
  第3話 巡り巡って

「ここか……」

 いつしかセイントカイダーの性能について思い返しているうちに、俺は城巌大学の正門までたどりついてしまっていた。
 そこで俺は、キャンパスの広大さに思わず息を呑んでしまう。

 幾つもの巨大な教棟が立ち並ぶその姿は、まさに圧巻。しかも、舞帆先輩が言うには宋響学園以上の最新設備が揃えられているらしい。
 これじゃあ、まるで大人と子供じゃないか。

「さすが先代セイントカイダーが進学した大学ってだけはあるなぁ……でも、こんな広いキャンパスからどうやって先輩を探せばいいんだ?」

 それが問題だ。俺は舞帆先輩がこの大学にいるというところまでは知っているが、具体的に彼女がどこでなにをしているのかまでは把握していない。
 この一帯を捜し回ろうとしたら、日が暮れるどころか日付が変わってしまう。

「参ったな……どうしたものか」

「どうしたの? 栂君」

「あ、お久しぶりです舞帆先輩。実は捜している人が――って、なあぁっ!?」

 ――思わぬ段階で、問題は解決された。

 目の前に現れたのは、正真正銘の桜田舞帆先輩。まさか向こうから現れるとは……。

 茶髪のポニーテールは相変わらずだが、可愛らしい私服をオシャレに着こなしている今の姿は、去年からは想像もつかない。

「あら、びっくりさせちゃった? ごめんなさい」

「いえ……。でも、早めに会えてよかったです。先輩がどこにいるかまではわかっていなかったので」

「お母さんに言付かって来てるのよね? 立ち話もなんだし、あそこのベンチに行きましょうか」

 俺は彼女に手を引かれ、木陰に日の光りを遮られているベンチへと向かう。
 そこに腰掛け、改めて辺りを見渡してみれば、多くの学生が楽しげにキャンパスライフを満喫しているように伺えた。

 もう少しその光景を眺めていたいとは思ったが、会長達が麻薬密売組織に挑もうとしている時に、そんなことをしているのは不謹慎もいいとこだろう。
 俺は早急に本題に入ることに決めた。

「校長先生からはもう話を聞かれていたのですか?」

「えぇ。なんでも……あなた、自分一人で無理にいろいろとしょい込んで、同じ役員の女の子から心配されてるらしいじゃない。いけないわね、女の子を泣かせるのは」

 ――この人まで、そんなことを言う。
 「セイントカイダー」という、俺には大きすぎる力を持ってしまった以上、一人でもやるべきことを成し遂げなくちゃいけないのに!

「――俺は、自分のするべきことをするだけです」

 そう、俺は断じた。
 無理だろうが無茶だろうが、俺がやらなきゃ誰がやる? 「セイントカイダー」である俺以外に、誰が?

「……そう。それがあなたのやり方なのね」

 そんな俺の胸中が顔に出ていたのか、舞帆先輩は悟ったような表情で正面に視線を移す。

 そして、「ふぅ」とため息をつくと――信じられないようなことを口にした。

「あーあ、やっぱり二代目の私なんかじゃ役には立たないなぁ」

 ――!?

「……どういう意味ですか? それ」

「お母さんからは聞いてないみたいね。……公にはされてないけど、『一番最初にセイントカイダーに変身した人間』は、私じゃないのよ」

 ……な、なんだと!?
 舞帆先輩より先に、セイントカイダーに変身した人間がいる!? マイナーチェンジされる前のセイントカイダーには舞帆先輩しか変身できない構造だったはずなのに、一体どうやって!?

 もはや、考えていることが表に出ているのを気にする余裕もない。俺は思い切り目を見開いて、舞帆先輩に注目した。

「お母さんは、きっとあの人になんとかして欲しかったのね。彼なら、あなたになにかいいアドバイスができるんじゃないかしら」

「……本当なんですか?」

「ふふっ。ちょっとおバカだけど、いざって時には頼りになる人だから、心配いらないわよ」

 ……信じられん。まさか舞帆先輩より先に、セイントカイダーに変身した人物がいるなんて。

 校長先生も舞帆先輩も、その人のことを深く信頼してるみたいだ。それほどの人物なのか?

「――その人には、会えますか?」

 気がつけば、そんな言葉を口にしていた。興味はない、といえば嘘になるからだ。

「うん、会えるわよ!」

 その問い掛けに、彼女は満面の笑みで答える。この時、俺の何かが、一歩前に進んだ。何となくだが――そんな気がした。

「あの人なら……今は……ねぇ」

「……?」

 ――気がしたのだが。

「今は……今は……今はねぇっ……!」

 どういうわけか、さっきまでのにこやかな表情とは打って変わって暗い顔になってしまった。
 どうしたというんだ?

「あの、舞帆先輩?」

「なによっ!」

 いきなり怒鳴られてしまった。この態度の急変は一体……?

「いえ、あの、先輩より先にセイントカイダーに変身したという人のことをですね――」

「知らないっ! 知らないもんっ!」

「えぇえ!?」

 ――ちょ、言ってることがめちゃくちゃじゃないか!? さっきまでの話は一体……!?

「舞帆様ーッ! 大路郎様はいずこにーッ!?」

「うおっ!?」

 予想の斜め上を行く舞帆先輩の対応に苦慮していると、今度は着物に身を包んだ和風美人が駆け付けてきた!
 用があるのは舞帆先輩らしいが……なんなんだ、この人は?

「はぁ、はぁ、はぁっ……キャンパス中を捜し回っても、見つかりませんの! 舞帆様、なにかご存じでは!?」

「……剣淵さん。船越君なら、平中さんの事務所よ」

「そ、そんなぁ〜っ! 大路郎様に嫁ぐために、この大学まで参ったといいますのにっ! またしても花子様のところへっ!? あんまりですぅ〜っ!」

「そ・う・よっ! なんなのよもうっ! 私達を差し置いて、平中さんと二人きりで事務所だなんていい度胸じゃないのっ! 一緒の大学に入れるように勉強も見てあげたっていうのにぃっ! もう泣き付かれたって、レポート手伝ってあげないんだからっ! もう知らないっ!」

 ある一人の人物のことで、二人の美女が憤慨したり泣きわめいたりしている……のか? なんだ、なんなんだこの状況は。

 ……だが、「船越」という名前は聞き覚えがあるな。確か、会長と副会長がその人物について、いろいろ言っていた記憶がある。

 確かセイントカイダーの主題歌を歌った人だったんだよな? 俺は去年のライブには仕事が山積みで行けなかったから知らないのだが。

 舞帆先輩が怒ってるのは、その「船越」という人のことなんだろうか。
 だとしたらその人も、この城巌大学に通っていると見て間違いないのだな。

 ……そういえば、「一番最初にセイントカイダーに変身した人間」の所在について聞こうとした時から、彼女は今みたいに苛立っている様子だった。

 ――まさか、舞帆先輩の言う「一番最初にセイントカイダーに変身した人間」……すなわち、初代セイントカイダーというのは……!?

「あの、舞帆先輩。その事務所というのは?」

「芸能事務所の『651(ムゴイ)プロダクション』よっ! それが何っ!?」

「あ、いえ、なんでもないです……どうも……」

 初代セイントカイダーを捜し出す手掛かりを得た俺は、「ありがとうございました。失礼します」とだけ言い残し、怒り狂ったり泣き崩れたりと忙しい美女二人を完全放置して、そそくさと城巌大学を後にする。

 もう少しスマートに出発したかったな……現役ヒーローなんだから。

 「651プロダクション」といえば、新人アイドルがブレイク中ということで、最近話題に挙がっているという話を聞いたことがある。

 舞帆先輩よりも先にセイントカイダーに変身していたという人物が、本当にそんなところにいるのだろうか?

 今考えても答えなんて出ないのはわかってはいるが、それでも気になって仕方がなかった。

 セイサイラーで街を行く俺の視界には、様々な有名スポットが入り込んでくる。

 近頃、「文倉ひかり」という超美人な新任院長が就任したことで有名になり、「聖母が経営する保護施設」と謳われている「加室孤児院」。

 若手社長の「笠野昭作」と天才パイロットの「桜田寛矢」、そして敏腕秘書の「田町竜誠」という、三大イケメンエリートを擁しているために、就職を希望する女性が絶えないという「ラーベ航空会社」の本社ビル。

 とある優秀な技術を持った二人の囚人が、礎を築いたとされる囚人ブランド「KARITANI&TOKOROZAWA」の本店。

 いずれも、この辺りに住む人間で知らない者はいないだろう。
 ――思えば、これだけの有名どころが全て、今年になってから台頭してきたものだというのは、すごい偶然なのだろうな。

 城巌大学を出発してから、およそ十五分。
 俺は「651プロダクション」という看板を掲げた、小さな事務所を発見することができた。周りには、話題の新人アイドルが写ったポスターが貼られている。

 だいたいの場所は知っているつもりでいたが、いざ捜すとなると建物が地味だから見つけにくい……。
 所属アイドルが売れてるなら、施設を拡大したっていいだろうに。

 俺はセイサイラーを「目立たないように」と事務所の裏へ隠し、事務所の前に立つ。

 ――そこで、気がついてしまった。

「……なんて聞けばいいんだろう」

 そうだった。

 考えてみれば、俺は「初代セイントカイダー」の本名を知らない。アポなしで事務所にお邪魔して、「初代セイントカイダーの方はいらっしゃいませんか」などと口走れば、痛い視線を向けられる事態は目に見えている!

 せめて、その人の身体的特徴だけでも聞いておくんだった……。

 そんな時、ここに来てのアクシデントに頭を抱える俺の脇を、綺麗におめかしした女性が通り過ぎた。

「こんにちはー……って、あれ? お客さんですか?」

 女性は元気よく入口の扉を開けて、事務所に入っていく――のを踏み止まり、入口の前で立ち往生している俺をキョトンとした顔で見ている。651プロの関係者だろうか?

「え、えーっとですね。俺は、その……」

「ああそっか、自己紹介がまだでしたね! 私は『平越路子(ひらこしみちこ)』! 651プロ所属の新人アイドルでーっす!」
 
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