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提督はBarにいる。

作者:ごません
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一年の締めくくり

 天ぷらを作り終えてからもバタバタと忙しい限りだった。お節を重箱に詰めたり、年越し蕎麦用のそばつゆを拵えたり、しかしどうにか1800までには終わりそうな目処が付き、鳳翔達と茶を啜って一服していた。そこにやって来たのは逃亡者とその姉妹の一団。加賀以外は全員息を切らしている。球磨と多摩に到っては頭を抑えて涙目になっている。何をされたかは想像に難くない。

「加賀、ご苦労だったな。酒は後で届けさせるよ。」

「では、私は汗を流したいのでこれで。」

 加賀はそう言って一礼すると、さっさと食堂から出ていってしまった。

「さ~て、と?毎年懲りずに逃げ出しているお馬鹿な面々がまた顔を揃えている訳だが?」

「球磨はお馬鹿じゃないクマー!意外に優秀な球磨ちゃんっていつも誉められるクm……」

『あ゛?』

 木曾、アカン。怒っているのは解るが、それ姉に対してしていい表情と違う。球磨も木曾の一睨みにビビったのか、

「な、なんでもないクマー……」

 と黙り込んだ。多摩も木曾の迫力に気圧されたのか黙り込んでいる。しかし同じ軽巡の阿賀野は、いつものペースを崩さずに、寧ろ矢矧に対してプリプリ怒っている。

「ちょっと矢矧~!何で阿賀野を捕まえるのよ~っ!」

「はぁ!?何言ってるのよ阿賀野姉ぇ!阿賀野姉ぇが逃げたら私たち4人全員、お節もお蕎麦も宴会の参加もナシになるのよ!?」

 矢矧も普段の冷静沈着な様子からは想像できない剣幕だ。

「第一、『今年は酒匂が来て初めてのお正月だから、ちゃんとお祝いしてあげようね』って言い出したのは阿賀野姉ぇでしょ‼」

 そう、阿賀野型の末の妹・酒匂は秋の大規模作戦においてようやく我が鎮守府に着任したのだ。あの時は姉妹全員大泣きして大変だったなぁ……なんて、思い出に耽るのは後回しだ。それなのにこのだらし姉ぇは、

「あ、あれ~……っ?そ、そうだっけぇ。」

 などと、すっとぼけようとしている。矢矧よ、その握り拳は降り下ろすなよ。

「愛宕!貴女まで……」

「だ、だってぇ~…お掃除って苦手なんですものぉ~。」

 高雄に詰め寄られ小さくなる愛宕。全く、今までは口頭での厳重注意で済ませて来たが……仕方がない。



「お前らの気持ちはよ~く解った、お前たちの姉妹に免じてお節と年越し蕎麦の支給はしてやる。」

 ホッと胸を撫で下ろす逃亡者達。

「ただし!元旦から10日間、お前らは『間宮』並びに『鳳翔』の利用を禁ずる。」

 一気に血の気が失せる4人。阿賀野なんぞ、白眼を剥いて今にも卒倒しそうな様子だ。

「提督の鬼!悪魔~!」

「あんまりだクマ、横暴だクマー!」

「そんニャ…絶望だニャ……。」

「10日間オヤツ無しだなんて……。」

 正に非難轟々、といった様子の4人。しょうがないだろう、口で解らないなら処罰を与えなければ示しがつかん。

「それとも、正月三が日に神通のスペシャルメニュー訓練にするか?」

 俺はどちらでも構わんぞ?と選択は4人に任せた。

「「「「是非……1つ目でお願いします…。」」」」

 項垂れた様子で応える4人。だろうな、神通のスペシャルメニューを正月三が日にやるなんて俺も嫌だ。しかし、これでようやく懸案事項は全て片付いた。後は今年1年の無事を神様に拝んで、締めの挨拶をして終わりだ。

 1800。全ての艦娘が神棚のあるホールに集まった。俺を先頭にして綺麗に整列。神棚に正対して二礼・二拍・一礼。艦娘全員に猪口を配り、お神酒を注いでいく。全員に行き渡ったのを確認して、俺が口を開く。

「え~、今年も1年轟沈を出す事無く無事に乗り切る事が出来た。これはひとえに皆の努力の賜物だ。来年もまた、平穏無事に戦局を乗りきられますように。……乾杯!」

『乾杯!』

 全員の乾杯の合唱の後、全員がお神酒を飲み干した。これで今年は締めだ。そして明日からはまた、新しい戦いの1年が始まる。各艦娘が催す宴会に参加する者、姉妹で朝までまったりと過ごす者、早々に眠りに就く者。様々いる中で俺は何人かの艦娘に声をかけた。

『今日お節の仕込みをした艦娘は、2230に執務室に集合するように。』

 俺からの個人的な労いの為に。 
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