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提督はBarにいる。

作者:ごません
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おにぎりと汁物とスク水と。

「さてと、豚汁とせんべい汁は完成だ。残りはけんちん汁を作っていこうかね。」

「でも、けんちん汁って不思議な響きの名前だよね。和食なの?」

 確かに、出自を知らないとよくわからない名前だよな、けんちん汁。

「あ~、確か原型となった料理は精進料理。つまりは肉や魚を使わない寺の坊さん達の料理だったハズだな。」

 諸説あるが、有力とされているのは建長寺の修行僧が作っていたから「建長汁」、それが訛ってけんちん汁となったという説と、江戸時代に中国大陸から渡ってきた精進料理……所謂普茶料理(ふちゃりょうり)の巻繊(ケンチャン:刻んだ野菜と豆腐を混ぜて炒め、油揚げか湯葉で包んで揚げた料理)をアレンジし、汁物にしたのがけんちん汁となった、という説が二大巨頭だ。

「つまりは、お野菜の旨味だけで出汁を取るのが正式な作り方、という事ですか?」

「まぁな。原型は精進料理だから、出汁を取るのに使えるのは昆布と椎茸……鰹節は使わない。具材も野菜にコンニャク、油揚げと豆腐位だが、今は普通に合わせだしやら肉を入れたレシピの方が一般的だ。」

 それに、味付けも味噌仕立てと醤油ベースのすまし汁風と二分化している。こうやってみると、案外身近なようで奥が深いぞ、けんちん汁。



「さぁて、お勉強の時間は終わりっ。さっさと作るぞ~。」

 用意した具材は、ゴボウ・ニンジン・大根・干し椎茸・里芋・コンニャク・豆腐・油揚げ・ヒラタケ・鶏モモ肉。味付けは醤油ベースのすまし汁風で行こう。ヒラタケがない場合はしめじでもOKだ。

 まずは具材の下拵えをしつつ、同時進行で出し汁作りだな。ゴボウは斜めに薄切りにして水に曝して灰汁抜き、大根とニンジンは5mm幅の銀杏切り、里芋は皮を剥いて塩揉みしてぬめりを取り、下茹でしておこう。コンニャクは小さいお玉かスプーンで小さくちぎり、油揚げと鶏モモは小口切り。ヒラタケ(又はしめじ)は石附を落として小房に分ける。豆腐は布巾に包んで水分を切っておこう。

 同時進行で合わせだしを作る。そういや、本格的な出汁の取り方は大鯨にも教えた事が無かったな。昆布と鰹の合わせだしを取る場合、水2リットルに対して鰹節30g、昆布は産地によって変えた方が良いのだが、大体20g位と思っておけばいい。まずは昆布出汁の取り方だ。まずは昆布の表面をキッチンペーパーや乾いた布等で拭き取る。

「何で昆布を拭くんです?」

「昆布は採ったらすぐに砂利の上やアスファルトの上なんかに広げて乾燥させるんだ。だからどうしても細かい砂粒だとか汚れが付着してるんだ。それが残ってると繊細な昆布出汁に雑味が出るからな。」

「表面の白いのも拭き取るの?」

「それは旨味成分の塊だ。それが落ちるくらいゴシゴシ擦らなくても良いぞ。」

 汚れが落ちたら昆布を水に浸ける。水出しの方が上品な味が出るが、最低3時間は必要となるからな。今回はパスだ。昆布に切り込みを入れて出汁を取るやり方もあるが、あれはそれぞれメリット・デメリットがある。今回は切れ込みを入れてから水に浸けた。昆布を入れた鍋を火にかける。火加減は強火で温めていく。水が沸騰してきたら火加減を弱火にし、しばらくそのままにして昆布の旨味をしっかりと出す。しかし、この時アクと昆布の強い香りも出てしまう為にしっかりとアク取りをする。

 一度味見をして昆布の旨味が出ている事を確認したら、昆布を取り出してそのまま弱火にかける。こまめにアクを取り除いていくと澄んだ色の出汁になる。こうなると昆布のくどい香りや雑味もなくなり、円やかな味になる。こうなったら一旦火を止めて出汁の温度を下げる。煎茶同様、鰹節は熱湯で出汁を取ると美味しく無くなる。その為、差し水するか火を止めて温度を下げてから鰹節を加える。勿体ぶらずに一気にバサッと入れる。火を止めて温度を下げた場合には、ここで再び火を点ける。こまめにアクを取り続け、沸騰してきたらそのまま20~30秒、鰹出汁を煮出してやる。煮出し終わったら直ぐに火を止め、キッチンペーパーを使って出汁を濾してやる。一気にドバドバと注がずに、ゆっくりと濾してやると、澄んだ綺麗な出汁が取れる。これだけの手間暇をかけてやれば、円やかで自然な甘味さえ感じられる後味の良い出汁が出来上がりだ。

「ん、どうした大鯨。」

「いや、鰹節と昆布が勿体無いなぁと思って……」

 勿論、出し殻の昆布と鰹節は無駄にしない。定番な所だと佃煮とか、色々と利用できる。俺が後で調理しておこう。


 さて、海産物の出汁が取れたら、今度は山の幸。干し椎茸の出汁を取ろうか。といっても干し椎茸は大して難しくない。雑味の原因となる汚れを落とし、軽く日光に当てる。そうすると乾物独特のひなた臭さが取れるし、栄養成分のビタミンDが増える。そしたら干し椎茸は絶対に水出しの方が良い。お湯で戻すと苦味が出てしまう。時間としては3~4時間。今回は時間が無いから、俺が予め準備しておいた物を使う。出汁の分量としては水1リットルに対して干し椎茸30g。
戻した椎茸はけんちん汁の具材として使う。



 さぁ、一気に仕上げよう。鍋にごま油を敷き、まずは鶏モモ肉。焼き目が付いたら大根・ニンジン・下茹でした里芋・コンニャク・キノコ類・ゴボウの順に加えて炒めていく。水気を絞った豆腐を崩しながら加えて全体に混ざりあったら、先程取った2種類の出汁を加えて煮込む。こまめにアクを取りつつ、煮立ってきたら火を弱めて更に煮込む。具材が柔らかくなったら酒と醤油で味付け。味見をして塩で調整したら出来上がりだ。

「さぁ出来たぞ、けんちん汁。後は……握り飯もか。」

「そうですね、日も暮れて来たので急ぎましょう!」

 大鯨と時雨、そして俺は潜水艦達に振る舞う握り飯を大急ぎで握り終えると、汁物3種が入った鍋とカセットコンロ、テーブルに椅子、仮設テントを担ぎ出して港へ急ぐ。

 テントを設営し、カセットコンロに火を入れる。せんべい汁の鍋が温まってきたら汁物用せんべいを割って入れ、一煮立ち。せんべいがある程度汁を吸ったら完成だ。それと同時に海の方からザプ、ザプと何かが上がってくる音が聞こえる。

「お、来たか。」

 グッドタイミング。ウチの稼ぎ頭達のご帰還だ。 
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