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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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38話 途切れた1つの想い 3.12

 
前書き
えー、並行世界なので。その辺割愛くださいまし。
取りあえず書いていかないと・・・
 

 
* 月 グラナダ市 3.12

グレミーはグラナダ市の4つ星のホテルに宿を取っていた。戦力としては余りに乏しいグレミー艦隊はいち私兵として動く上で民間企業への転進が大きな勢力からの脅威を防いでいた。商談に次ぐ商談で着々とグレミーは企業としての幅を月まで広げていた。

部屋はそれ程広くはないシングルルームを取っていた。ベッドと椅子テーブルがある。その部屋にグレミーが座り、ジュドーとプルツーは立っていた。

グレミーの表情は険しい。帰属意識の組織が希望した地球圏の帰還は望郷の念からであることからジュドーとプルツーのもたらされた情報はそれに反することだった。

「地球圏からの離脱だと?」

グレミーは部屋の椅子より身を乗り出す様な仕草を見せては直ぐに腰かけた。ジュドーが取りまとめたレポートをグレミーに渡した。

「これは?」

グレミーが問うとジュドーは明確に可笑しな返答をした。

「オレたちが乗ってきたジオングにはギレンの遺産というべき意思が載っていた。それを書き上げただけだ。だがオレもそれが良いと思う」

ジュドーの隣に並んでいたプルツーも頷いていた。

「元々農業・・・第一次工業生産を基軸にしたグレミーカンパニーだ。ジオンの勧めは宇宙に出ることで地球に帰ることではない」

「プルツーの言う通り。オレたちは地球というお母さんに甘えていたんだ。ギレンはそれを実現しようとし、連邦にチャチャを入れられたのさ」

グレミーは書類に目を通した。ギレンの統治は地球連邦内から抜け出た組織の確立。しかしながら今のグレミー軍というべきかアクシズの当時は地球圏の帰属意識が根強かった。その為の独立戦争の仕掛け、統制でもあったのかもしれないとグレミーは考えた。

「・・・総帥は苦労していたんだな。連邦よりも強大な敵と対峙していた。地球というゆりかごに・・・」

グレミーは書類をテーブルに置いて宙を仰いだ。

「ふう・・・かくも私も皆の熱気に当てられ地球にこだわり過ぎていたのかもしれない・・・」

グレミーは姿勢を正し、ジュドーに向き合った。

「して、このマシュマー・セロ、キャラ・スーンたるもの。火星の先遣隊としてアステロイドベルトより持ち出したフィフスルナを中継地として今も活動中だと聞くが・・・」

ジュドーが頭を掻いて困った顔をした。

「そうなんだけどな。ここに来る前に協力してもらう為チラッと通信をしてみたんだ。元々ギレンの尖兵だからな」

「それで?」

「絶不調に終わった。アイツらは頭がイカれてる」

グレミーは不思議そうな顔をしていた。

「・・・それはどういうことだ?」

プルツーが代わりに説明した。

「マシュマー、キャラともジオンや地球圏など興味ないとさ」

ジュドーが不機嫌そうにその説明に上乗せした。

「あいつらにとっては世の中がどうのこうのなどどうでもいい話なんだ。農業と畜産に命を注ぎ過ぎて当初の目的を忘れていやがる。軍属じゃないのかアイツらは」

グレミーは手を顎にやり考えた。世間からの角度の問題であって、マシュマーらは世捨て人であり、地球の重力から放たれたニュータイプとも思えるとグレミーは1つ答えを出していた。

「・・・そんな彼らこそ我々には必要なんだ」

ジュドーとプルツーはキョトンとした。

「なんでだい?」

「お前らのレポートを読んだからだ。この思想、理想は少しでも地球圏の想いがあると実現しない危険な賭けだ」

プルツーは納得した。ジュドーは眉を潜めた。

「成程ね」

「何が成程だプルツー?」

「ジュドー、外に出ると言うこと自立とはうちに帰らない覚悟があってこそだ。そこに固執せずこじんまりとした小惑星で自活している彼らの精神は一つの解決策だ」

グレミーはプルツーの意見に頷く。

「そうだ。多様性の中でそんな想いも自立の1つのきっかけだ。だが、皆があいつ等みたいにバカではない」

「おいおい身も蓋もない」

ジュドーはマシュマーたちの同情した。その前まで非難していたのは誰だと言わんばかりの顔をプルツーは見せていた。

「イカれていると言った奴はどこのどいつだ?」

「おい、揚げ足取らないでくれ」

グレミーは軽く笑った。そして真顔になり2人が乗って持ってきた機体について質問した。

「して、お前たちが持ってきたジオングはどういう機体だ?」

ジュドーとプルツーは顔を合わせて肩を竦めた。ジュドーから話し出した。

「何というか・・・アレは兵器ではないが・・・」

「使いようによっては最強だな。武器はないが、サイコフレームによるサイコミュニケーターを極めた機体だ。その装置を使ってZZとキュベレイを持って帰ってきたんだ」

グレミーは腕を組み、話を聞いていた。ジュドーが話続けた。

「アレの機体の巨大さの理由のほとんどが電算システムだ。理論値では数百機の無人サイコフレーム機体を操作可能だ」

グレミーが少し考えて答えた。

「フロンティア開発に作業効率を図るためか。無人なら貴重な人材を失う必要ないからな」

グレミーはアクシズに居た。そこの開発は常に危険と隣り合わせだった。全ては人海戦術で、いつ小惑星帯で事故は起きるかで大人たちは不安だった。そんな危険性ですら地球圏への望郷の念の後押しをしていた。実際アクシズは戻って来ていた。

ジュドー、プルツーもその話をグレミーやアクシズの面々から聞いていた。望郷の念が一番の敵。
それを解消しない限りは地球からの巣立ちは不可能な話だった。

「・・・地球圏のコロニーもまだ地球があるから安心していられる。地球から遠ざかることで念は強まる。それが解消できない」

グレミーがそう話すとジュドーが指を鳴らし、問題についてある一つの回答を提示した。

「その故郷の念の話だけどよ。あのジオングは人の脳波まで干渉できる性能がある」

プルツーも頷き、ある実験結果を伝えた。

「ここに来る前にサイド3のコロニーの様子を伝えたが覚えているかグレミー?」

「ああ、何か洗脳されたような機械的な動きを全員がしていたことか?どうしてそうなったかは知らんが」

「その洗脳をこのジオングで解いた」

グレミーは感嘆した。

「ほう、1つのコロニーの制圧が可能だと」

ジュドーとプルツーは首を振った。

「いや、オレとプルツーでその洗脳を解くだけで精一杯だった。モビルスーツと違って人の心は複雑すぎる」

「簡単な洗脳ぐらいなら、地の部分に貼り付いた不純物を取り除くだけでいけた」

「だから、コイツで人へ安堵感ぐらいなら与えられるということさ」

ジュドーは笑みを浮かべて話した。プルツーは平然としている。グレミーはその話を目を瞑り検討した。ジオングで全てをカバーできるほどの性能はないと判断した。グレミーは首を振る。

「お前たちの力ではジオング有っても夢物語だ。総帥の遺産はそんなものなのか・・・」

グレミーのため息を付く。そんなため息をジュドーは再び指を鳴らす。それにグレミーは不満げに言った。

「なんだ、出し惜しみするんじゃない」

「別に出し惜しみじゃないさ。この機体の巨大さの理由は電算システム、インターフェイスが桁違いだからだ。その理由はこいつはあるものの管制塔だったんだ」

そうジュドーが言うと、プルツーがタブレット端末をポケットから出して、あるホログラムを映した。それは機械的な球体だった。当然グレミーは疑問を述べた。

「なんだこれは?」

「ゼウスというらしい。何処にあるかは知らないが、この球体の機能が全ての不安や問題を解消してくれるということだ。その不安などの想いを燃料にして動くらしい。その影響力は地球圏をカバーする」

プルツーがそう話すと、ジュドーが補足した。

「この球体の制御にジオングが必要だというわけだ。独自でもそれなりの機能は活かせるみたいだけどね。ただ不安定らしい」

グレミーは機械が思念を燃料として動くという不可思議な現象に一瞬戸惑いを覚えたが実際サイコミュがそうなので、そのまま飲み込んだ。ホログラムとそれについての追加資料をプルツーから提出されてそれをグレミーは読んだ。グレミーは取りあえず結論を出した。

「・・・当面はフィフスルナへの交渉とゼウスの捜索だな。この事業はイーノらも必要となるな」

ジュドーが頷く。

「イーノが築き上げたアナハイムと連邦とのパイプが農業事業を迅速にサイドでも有数の会社まで成長させたからな。この一大事業も奴の集金力をあてにしようぜ」

プルツーが行動の提案をした。

「ゼウスは私とジュドーでやる。あのジオングとゼウスはリンクしているみたいだからな。探しやすいと思う。フィフスは誰をやる?」

グレミーは悩んだ。ジュドーたちが正論で伝えても取り付く島もなかった。その方向性ではだめだと言うことだ。自然主義に囚われたマシュマーらを説得するには。ふとジュドーはあることを思い出した。

「そういえば・・・」

グレミーとプルツーはジュドーの答えを待った。

「以前シャングリラ時代、オレらがシャトルで宇宙探検していたとき、地球圏に忘れられたコロニーがあった。そこの族長と面識がある」

「なんだい、そんなところがあるのか?」

プルツーが相槌を打つと、ジュドーはタブレット端末で航路図を出して場所を指した。

「場所はここだ。そこは軍事力も持たず独自の生活圏を築いていた。あそこの族長の黒幕が嫌な奴でそいつをオレらが叩きのめしたんだ。サラサとラサラがいる。彼女らなら交渉役に適任だ」

グレミーはどんなひとか気になった。交渉役で自分たちの運命も握るためでもあった。まず自分がそのものと会う必要があった。

「それではジュドー、その彼女らを紹介してくれないか?それで判断する」

「OK。モンドとビーチャを付ける。アイツらならサラサたちの橋渡しに適任だ」

そして細部を詰めて、ジュドーとプルツーはグレミーの部屋から退出していった。
グレミーは椅子にもたれかかり、振り返って総括していた。
 
「(私はあの頃は野心に溢れていたが、こうまでも落ち着いてしまった。理由はわかる。ジオンが失われてから大義が消えたからだ。今は唯の農夫だ。愛想を尽かしラカンは出ていった。急にのしかかってきた皆を守らねばならないという責任がこの様だ・・・。だが、これが良い心地だと感じる。私も普通な感覚の持ち主だということだな」)

グレミーは立ち上がり、港の母艦へ連絡を入れた。通信に出たのはエルだった。

「ハ~イ、グレミー。どうしたの?」

「ビーチャとモンドは居るか?」

「うん、モビルスーツデッキでザクⅢとゲーマルクの世話をしているよ」

「了解だ。直ぐにでも出港するから準備しておくようにと伝えてほしい」

エルは突然の事で驚く。

「エッ!今から!どこに?」

「最終的な目標はジオン所有の漂流小惑星フィフスルナだ。連邦らに捕捉される前に拿捕する」

エルはグレミーの回答にキョトンとした。

「フィフスルナ?何それ」

「これからのカンパニーの宇宙開拓の為に必要な小惑星だ。勢力も弱い我々に最高のカードとなり得る。地球主義な者達にはとても邪魔な存在だ」

「なるほど~。それを今度は会社所有にするのね」

エルは今までのグレミーが会社の為にしてきたことを振り返っていた。必要なものは全て登記して所有していった。今度はそれが小惑星だった。

「しかしそれが難航している為、ある援助を受けることにした。その橋渡しでムーンムーンへ行く」

そのコロニーの名前にエルは首を傾げた。

「何でだい?あんな田舎コロニーに何があるというのかい?」

グレミーはその質問に回答する。

「私は面識がないが、そこと族長にフィフスルナを仕切る者達を説得してもらうというのがジュドーの考えだ。フィフスルナに住まう者達が一種のスピリチュアリズムに冒されている恐れがある。我々の話が通じないらしいのでな」

エルはそれ聞くと腕を組み頷いた。

「彼女なら話ができるかもしれないな。わかったさ。準備しとくからこっちにきなさんな」

そう言ってエルは通信を切った。グレミーは立ち上がり部屋を後にした。

* フィフスルナ宙域 グレミー旗艦エンドラ 3.14

艦橋でグレミーは交渉の結果を待っていた。アステロイドベルトには鉱物資源などの探索で開拓は進んでいたが恒久的な移住空間の建設ではなかった。

その拠り所を開拓しようとする計画がこのフィフスルナ。そこの住人は既に自活可能な力を持っている。その技術の取得は火星の移住に欠かせないものだろう、そうグレミーは考えていた。

アクシズの時代もそうであったが、ライフラインの安定供給は欠かせない。結局のところ地球からの補給が命綱。それでは自活ではない。

このフィフスルナはジオンの記録によれば、ここ1年無補給らしい。フィフスルナは小惑星ながらテラフォーミングに成功した稀有な拠点なのだ。その成果を火星で行おうと言う訳だ。

グレミーはサラサとラサラに会った。両女史とも信頼におけることが分かった。
彼女らの感性ならば、グレミーの感性ではあのマシュマーらとは話すらできないことが分かった。

グレミーはサラサとマシュマー、キャラとの会話を聞いていた。ギレン総帥の遺志を継ぎ、火星のテラフォーミングに助力して欲しい・・・という説得が利かない理由が良く分かる。

彼らは純粋な農夫だった。日々の暮らしの維持で必死であり満足充実していた。それに水を差すグレミーらの行動は敵愾心以外の何物でもなかった。

グレミーは腕を組み、頭を掻き、首を回すなど落ち着きなく、その姿を見たエルはグレミーに声を掛けた。

「どうしたんだい?落ち着きないよ」

そう言われたグレミーは深くため息を付いた。

「ふう・・・何かむず痒い感覚がする」

エルはちょっと考え込んでは両手をポンと叩いた。

「それは蕁麻疹だよ。グレミー、ここ最近休めていないじゃない?」

グレミーは自身の組織の為ほぼ無休で尽くしてきていた。そのガタがここに来てきたようだとエルに言われて自覚はしたが、それにしても嫌な感じがしっくりこない。

「そうだな。この辺で一休みしたいが、何か嫌な感覚にならないか?」

エルはグレミーの問いかけに呆けた。

「なんだい?急に意味不明な・・・」

しかし、グレミーの嫌悪感がエルにもゆっくりながら感じ取れてきた。この宙域を蝕むような感覚だった。エルも徐々に顔を顰める。

「確かに・・・むず痒いね・・・なんだいこのプレッシャーは・・・」

グレミーは一足跳びで艦橋の出口、通路へのドアに近付いた。

「エル、ここは任せる」

エルは突然の願いに戸惑う。

「ちょっとグレミー!どこ行くの?」

「バウで出る。何か嫌なものがこの宙域へ近づいてくる」

そう言ってグレミーはモビルスーツデッキへと急いでいった。

* 同艦内 格納庫

モンドはザクⅢを整備していた。ふと見上げるとグレミーが無重力により、浮遊しては自機のバウへ取り付く姿を見て取れた。

「おーい、グレミー!何しに行くんだよ」

その声にグレミーは反応し、

「モンド!お前も一緒に哨戒しに行くぞ。メカニックらを皆格納庫から出るよう通達してくれ」

モンドはグレミーの真剣身のある声に顔を引き締めて、周囲に出撃の話を伝える。

「わかった。これからスクランブルだ。みんな下がってくれ!」

モンドの声掛けに周りのスタッフは皆引き揚げていった。自身もザクⅢに搭乗し、グレミーは先んじてカタパルトに乗って出撃した。

「グレミー、バウ出るぞ!」

モンドはグレミーの出撃を見届けるとザクⅢをカタパルトに乗せた。

「モンド、ザク出る!」

推進力を得たザクⅢは宇宙空間へ勢いよく飛び出ていった。その瞬間モンドはこの宙域にまとわりつく嫌な感覚に包まれた。

「うげ、なんだこれは?」

その問いにグレミーはバウを使い、正面を指差した。

「アレがその正体だ・・・」

モンドはグレミーの指すところを見ると、そこには1機のモビルスーツと10数機程のモビルアーマーが編隊を組んで待ち構えていた。

* マ・クベ部隊 宙域 同日

マ・クベはモビルスーツのコックピット内で瞑想していた。
10数機の護衛はかのクローンたちだった。皆銀色のエルメスに乗り、マ・クベのローゼンズールを護衛していた。

この機体はマーサによってカスタマイズされた。エルメスらのコントロール仕様に仕立てた。
これによってマ・クベの能力でクローン部隊を手足の様に扱える。

マ・クベの仕事はフィフスルナを潰す事だった。理由は、

「ギレンのやることなど私の仕事の差し支えにしかならないでしょう。フロンティアなんていらないわ。私がビスト家当主として世界を良い方向へ導くから」

という風に根拠もない、第一ビスト家当主は順序良く往くなら夫の方だろうとマ・クベは思った。ただ自分のやりたいように思うがままにしたいだけであった。

最もこの指示はフロンタルが裏から手びいきしていたことをマ・クベは知っていた。

「(あんなものが何の脅威か・・・)」

マ・クベはそう思った。ゼウスのブラックボックスの解析が進み、ギレンの野望としてゼウスとフィフスルナの関係がゼウスに登録されていた。マ・クベも一読はしている。人類の地球外適応試験。地球を棄てても生きる為の技術と精神力。フィフスルナの実地調査は全てゼウスへデータとして転送される。

人類にとってはプラス材料な実験だろう。だがフロンタルはそうは感じないらしい。それ故にマーサを誘導させて、フィフスルナの破壊をマ・クベに命じたのだろう。

「(全て実験データは自動でゼウスに転送される仕組みになっている。あの中の者らはそれをルーティンワークとして外部との接触も断つように洗脳されているはずだが、それを消すとは)」

実験を独占したいということなのかと考えたが、それがフロンタルの願いと考えるにはいささか無理があった。マ・クベ自身が話をして分かっていた。それはフロンタルには野心がないこと。何かを向上させるなどそういう意味合いで。何か目的はあるはずなのだが、それを人間としての側面で考えると彼には当てはまらない。

「(・・・ただ消したいだけのか?)」

そう結論が出てしまう。彼の願いは抹消にあると。このフロンティア開発は地球圏との離脱よりも人類の可能性を更に高める。人類が地球圏の外に出る次のステージに繋がること。それを消すと言うことは彼は人類を地球圏内に留めておきたいということ。

マ・クベは想像した。そして嘲笑していた。

「成程、私の様な破綻者には持って来いの人物だフロンタルは。それが望みならばあのフィフスフナとやらも掃除していてやろう」

マ・クベはVRメットを被り、脳波で周囲のエルメスに通達した。マ・クベはマーサ、フロンタルによって強化されていた。その成果によりクローン達に意思伝達命令ができるようになっていた。

周囲のエルメスはジオン初期のエルメスとは若干異なっていた。まるでクジャクの様に背にランスの様なファンネル8基を背負っていた。マ・クベの命により周囲に2機を残して全てがフィフスルナへと突撃していった。

その状況をグレミーとモンドは目撃していた。向かってくるエルメスらから発せられる邪気は殺気でもあった。これにグレミー、モンドともこれから向かってくる敵が何をしたいかを肌で感しては即座に戦闘態勢を取った。

「一機として抜かれるなよモンド!」

「ああ、わかってるさ。ラサラさんがあそこにいるんだ。やらせはしない」

グレミーは感覚を研ぎ澄まし、向かってくる全てのエルメスを捉えた。その感覚にエルメスのクローン達は急停止した。その感覚をマ・クベも感じ取っていた。

「(なんだ?全て射貫かれる様な感じは・・・)」

マ・クベは前衛のエルメスのサイコミュをハックして目の前の敵を見た。目の前には2機のモビルスーツ。その1機からとてつもない威圧感がエルメスらに向けられていた。

グレミーは感心した。エルメスがすべて急停止したことに。

「ほう、大分ましな敵らしいな」

そう言いながらライフルをエルメスの方へ向けていた。いつでも射撃出る様に。
マ・クベは少しの時間静観したが、即座に仕掛けることにした。事態を変える為には行動が必要だと考えてのことだった。

エルメスからランスファンネルが放たれた。グレミーはそれをライフルで無駄玉せず撃ち落としていったが数基だけ。10数機の1機当たり8基。数が多かった。

「埒があかない。このままではジリ貧になるな。ならば」

グレミーは狙いを変えてエルメスを落とすことにした。ビームライフルをエルメスに向けて撃ち放った。グレミーの視野はエルメスの動力系統の急所を捉えていた。1撃で射貫かれたエルメスは爆発はせずにその場に停止し、行動不能に陥った。

それを見ていたモンドがビームサーベルでとどめをさした。

「グレミーの後始末ぐらいやらないとオレの価値がない」

行動不能のエルメスを袈裟斬りでサーベルを振り落とし、爆破四散させた。グレミーはランスファンネルの猛攻を凌いでは他のエルメスも同様に射貫き、モンドがとどめを刺す。10分間で4体のエルメスが撃破されていた。

マ・クベは目の前の敵の脅威を理解し、自身のローゼンズールを戦闘宙域へ移動させた。
マ・クベの移動にグレミー、モンドが気付く。嫌な感覚の根源が近づいてきたからだった。

マ・クベはクローンらにファンネルの収容と戦闘距離を置くようい命じた。グレミーとモンドはエルメスが射程外に出たことにより、一旦戦闘を休止した。グレミーとモンドの前にローゼンズールが来ていた。ローゼンズールから発光信号が出ていた。宙域内で受信できれば肉声で交信可能な信号だった。

「そこの2機モビルスーツよ。私が相手しよう」

そうマ・クベが告げるとエルメスたちがグレミー達を迂回するようにフィフスルナへ進路向けて動き出した。

「まっ・・・逃がすか!」

グレミーが行動を取ろうとすると体が一瞬固まった。まるで金縛りのようだった。
その原因を知るか如くマ・クベが言い放った。

「私がお前たちの相手をするのだ。他には目を配らせん」

ローゼンズールから発せられる闘気がグレミーとモンドを戦慄させた。正面向かって対峙しなければ致命傷を受けかねない威圧感だった。グレミーは深呼吸をして相手に飲まれないように対処し、モンドへこう伝えた。

「モンド、回線でフィフスルナへ連絡。壊滅の脅威が迫っている。そこから逃げろと」

モンドはグレミーと違って汗だくになり、何とか意識だけは保っていた。戦闘に支障が出るほどのコンディションだったので、グレミーに頼み込んだ。

「わ・・・わかった。グレミー、オレは・・・」

その様子を察したグレミーはバウで手振りでモンドを後方へ下がるように伝えた。マ・クベはモンドが後方へ下がる事に特別意識はしなかった。計算上、モンドが追いかけようがエルメスたちには追い付かないと、仮に追いついてもモンドではエルメスの相手にはならないと先ほどの戦闘で読んでいた。

グレミーはライフルの射線をローゼンズールに向けた。しかし引き金が引けなかった。

「・・・こいつは、当たらない」

グレミーの空間認識能力はジオンの中でも異質だった。グレミーは狙ったものを全て落とす才能があった。故にアクシズで異才を放ち、ギレンにも好かれていた。前提として狙えたかどうかだった。

ローゼンズールは射程内に入っていたが狙えなかった。射線は向けていても避けられるイメージしか湧かなかった。グレミーはライフルを握ったまま、もう片方の手にサーベルを持った。

「(時間が無い。仕掛けて隙を作る)」

グレミーはローゼンズールに斬りかかっていった。ローゼンズールは腕のインコムを作動させてグレミーの上下を挟み込む形で射撃した。

「甘い!」

グレミーの空間認識能力は射撃だけでなく敵の攻撃も然り。ローゼンズールの攻撃を肩の動きや胴体の捻りなどで回避しながらもローゼンズールへ接近していった。マ・クベはその動きに感嘆し、自機を後方へ下げた。

「インコムを避けるとは。出来るパイロットではないか」

グレミーのバウとマ・クベのローゼンズールは至近距離となった。グレミーはローゼンズール目がけてサーベルを振り下ろした。マ・クベはローゼンズールを体を開いて、バウを中に入れる様な形に持っていった。

グレミーのサーベルは下ろしてからすぐさま横へ薙ぎ払おうとしたが、ローゼンズールのインコムがピンポイントにバウのサーベルを握る手を狙撃して、破壊した。しかしその爆発の余波でローゼンズールの片腕のインコムの線が一緒に切れてしまった。

その損傷にマ・クベは計算外であって、苦虫を潰したかのような表情を見せていた。そんな猶予もないままグレミーの攻撃は続く。

グレミーは衝撃で逃げたローゼンズールを近距離で射程に収めた。今度は躊躇なかった。感覚的に直撃確実だったからだ。

「とどめだ」

グレミーがライフルの引き金を引いて、ローゼンズールへ直撃弾を浴びせた。しかし、ローゼンズールの前で緑白い発光ではじかれてしまった。その現象にグレミーは驚いていた。

「なんだと!」

グレミーはI・フィールドか何かのジャマ-かと想像した。ローゼンズールにI・フィールドは搭載はされていたが、この防御では使用していなかった。ローゼンズールの周囲が徐々に緑白くなっていった。

「・・・死ぬかと思った。・・・この私を殺そうとしたな・・・」

マ・クベが唸った。その瞬間マ・クベ自身も何か得体の知れないものに意識が飲み込まれようとしていた。マ・クベは薄れゆく意識の中でモニターにあるシステム動作の信号が映し出されていた。

「(PD-Mだと・・・まさかフロンタルが・・・う・・ぐ・・)」

マ・クベのローゼンズールは煌々と緑白く輝いていた。その姿をグレミーが見とれたが即座に操縦桿を握り、ローゼンズールと距離を置いた。

「この光はなんだ。そしてこの絶望感は・・・」

グレミーは目の前の敵を相手にしてはならないという感覚を本能で感じた。有り得ないことが起きている。今まで感じていた悪寒の正体がこれだったのかと思った。

少し後ろにいたモンドは固まっていた。ローゼンズールの得体の知れない発光に金縛りにあったかのようだった。その感覚にモンドは感想を漏らしていた。

「なんだよこれ・・・。ハハ・・・動けないじゃないか」

その金縛りもローゼンズールの発光が収まった時、何故か解けていた。グレミー、モンドともただの緊張だったのだろうと思った。しかし変わらないのはローゼンズールの存在感だった。

一瞬だった。グレミーの後方のザクⅢがインコムで撃墜されていた。
その光景を見てグレミーは唖然としていた。

「(早すぎる・・・)」

モンドの死に悲しむ暇なく自身の死の危機が迫っていた。ほぼ至近までローゼンズールが詰め寄っていた。グレミーはライフルをローゼンズールに目がけて放ったが弾かれてしまう。

「(こいつは・・・いわゆるサイコフィールドか。バウのサイコミュを凌駕する)」

現在のモビルスーツの機構は全てサイコフレームが一部仕様となっていた。その為サイコフィールドを展開できる者同士ではフィールドの強さに関係していた。

グレミーはバウを飛行形態に変形させて、脱兎の如く逃げることを優先した。

「(今死ぬわけにはいかない)」

グレミーは一路エンドラへ帰投するため戦場から離脱を図った。しかしローゼンズールはそんなグレミーを追撃していった。

* フィフスルナ 居住区 マシュマー邸 執務室 同日

マシュマーは執務机に座り、報告書を作成していた。その場にはキャラとサラサ、ラサラ姉妹にビーチャが居た。キャラがマシュマーに話し掛けていた。

「マシュマー、このコらの力にならないか?彼女の自然思想はあたしたちに通ずるものがあるよ」

マシュマーはキャラの話に目を一度だけ上げて、再びパソコンに目を落とした。

サラサとラサラはその部屋の端にある長いソファーに腰を下ろしていた。その椅子の隣にビーチャが腕を組んで立っていた。そのビーチャの腕時計型通信機が呼び出しの音を出していた。

「なんだ。エル」

ビーチャは通信に応じた。相手先の声が尋常ではなかった。

「ビーチャ!急いで逃げて。そこで殺戮が起きる」

その連絡に執務室の全員がビーチャを見た。ビーチャは頭を掻いて内容を尋ねた。

「一体どんな物騒な話だ。詳しく簡潔に言ってくれ」

「フィフスルナがエルメスに包囲されて、槍型のファンネルで全ての区画を破壊するつもりだ。グレミーからそう連絡があった。追伸でそいつらにモンドが・・・殺された」

モンドの事でビーチャの顔色が変わった。そして声のトーンが落ちた。

「そうか・・・ビーチャがか・・・わかった。すぐ脱出する」

ビーチャが通信を切ると、ビーチャはサラサ、ラサラにフィフスルナより出る旨を伝えた。

「サラサさんにラサラさん。話は深刻です。モンドがやられることは尋常ではありません」

「そ・・・そんな。モンドさんが・・・うう・・・」

モンドの死を聞くや否やラサラは慟哭した。
サラサはその脅威について黙って頷きながらも、ラサラを慰めていた。

その話を聞いていたマシュマーは港と通信を既に取り終えていて、物事の真偽を確認できていた。
マシュマーがビーチャに向けて話す。

「・・・ビーチャ君。君の友人の話はどうやら真実のようだ」

キャラがマシュマーの話に驚く。

「おい、マジで言ってんのかよマシュマー」

「ああ、部下の話によるとあと30分後にはフィフスルナにモビルアーマータイプが10機近く到着予定だ。識別不能なので、どうやら招かざる客のようだ」

マシュマーは立ち上がりビーチャへ提案した。

「無論、我々は防衛の為戦う。が、君らは部外者だ。この宙域は戦闘状態に入る。即刻出ていってもらおう。キャラ、ビグザムは?」

マシュマーの問いかけにキャラは指を鳴らして答えた。

「いつでも」

「わかった。ビーチャ君、サラサさん、ラサラさん。君たちの脱出の援護ぐらいはできるだろう」

そう言うとマシュマーは執務室から出ていった。ビーチャはサラサ、ラサラに声を掛けた。

「生憎オレたちには戦力はない。元々交渉で来たからな。港のシャトルでエンドラに戻りましょう」

「ええ、それがいいでしょう。ラサラ行きましょう」

「はい、姉さん」

ビーチャ達も館を出て、港へ急ぎ足で向かって行った。

* フィフスルナ 宙域 ビグザム コックピット内

マシュマーはビグザムに搭乗していた。7年前と比べて改修、改良され、今は1人乗り用のモビルアーマーとなっていた。コックピットのユニットはサイコフレームで作られていた。

マシュマーは360度全天周モニターコックピット内で包囲網を固めつつあるエルメスを眺めていた。

「ふむ、絶景かな。冷たい殺意が私の肌を冷やしてくれる」

そうマシュマーが独り言を言うと、ワイプにキャラが映し出されていた。

「おいマシュマー!何訳の分からないことを言っているんだい」

マシュマーは画面を見ては横目で自分の傍に飛んでくる赤いヤクトドーガを見た。そして再びワイプに映るキャラに目を戻した。

「フフ・・・キャラよ。この未開の地で私らは熱くなり過ぎていたのだよ。このような演出でのクールダウンもたまには必要と思わないか?」

「バカか?あたしは戦闘で燃えるタイプなんだよ。いい迷惑だ」

マシュマーは上目使いでフンと鼻を鳴らした。

「思想の相違だな。さて、サクッと片づけてやろうか」

ワイプ映像のキャラはニヤッと笑った。

「そこについては同意する」

2人は包囲網を敷くエルメスを眺めていた。

* フィフスルナから脱出のシャトル内

ビーチャはフィフスルナを取り囲むエルメスらとその中央に座するマシュマーとキャラの機体を船内の後部カメラより見ていた。シャトルの出発はエルメス部隊の到着前だったため、既に安全圏内だった。

「マシュマーさん・・・ご無事で・・・」

ビーチャが座る操縦席の隣でサラサが祈っていた。ラサラは目を腫らし、そしてまだ薄っすらと泣いていた。ビーチャは2人を見て、ここへ同伴したことに後悔した。

「(畜生・・・グレミーの判断が間違っていたとは言わんが、結果がこれだ。モンドが・・・畜生め!)」

ビーチャは操縦桿を握りながら震えていた。今になって家族のような存在の喪失感がビーチャを襲っていていた。それに気が付いたサラサは無言でビーチャの手の上に手を重ねた。大丈夫という念を込めて。

「!」

ビーチャはサラサの行為に一瞬驚いたが甘えることにした。シートにもたれかかり、少し目を閉じた。
深呼吸をしてから気合いを入れた。

「ふう。有難うサラサさん。大丈夫です」

ビーチャは振り返り、サラサを見て笑顔を見せた。サラサはその表情を見て微笑み返した。

「ふふ、でもあまり無理なさらず」

ビーチャは顔を引き締めて、フィフスルナを省みることなく進路に目を向けた。
取りあえずはエンドラへ戻る事が今のミッションだということを自分へ言い聞かせていた。

* グレミー旗艦 艦橋

艦橋は敵機来襲のサイレンで慌ただしかった。エルが各クルーへ指示を出していた。

「索敵!どの方向から何が来るか確認してよ!砲撃手は周囲のデブリのゴミを掃除しといて。無線はグレミーとの交信は?・・あー、モビルスーツ部隊の出撃?そうねえ、何があるか分からないからスクランブルね。で、・・・ビーチャのシャトルが向かってる?ガイドビーコンを出しといて」

エルは艦橋内を縦横無尽に走り回り、クルーはエルを頼る。エルは目を回しそうになっていた。
1人のオペレーターがエルを呼んでいた。グレミーとの通信が取れたのだが、通信状態が悪いとの回答だった。そこでエルが代わりにその通信に出た。

「ジジ・・・早・・・そこか・・・いど・・・来る・・・」

ホントに通信が悪かった。戦闘状態であることが明らかだった。そして索敵モニターは遠くながらもグレミー機のサインをキャッチしていた。

「ったくよ~、何がどこからどんな感じで来るって?」

「ジジジ・・・・」

通信が1分程、通信雑音が聞こえたのちにいきなりハッキリとした音声がエルに届いた。通信可能なラインまでグレミーがやって来ていた。

「エル!モンドをやった奴が私を追跡してきている」

「なんだって!そんな厄介な奴を何でこっちに連れてきた!」

「総員に退避命令を出せ!」

エルはグレミーが艦を捨てろという命令に当然問いただす。

「何で艦を捨てなければならないの!」

「無人艦でも大きな的だ。私の帰る母艦が無くなれば私が更に窮地に立つだろう。そう思わせるためだ」

エルは戦慄した。グレミーの言い回し方はまるで自分が囮になるようなことを言っていた。

「グレミー・・・私たちだけ助かろうなんて!」

「業務命令だ!早くしろ。選択の余地はない!」

「そこまで・・・そこまでしないといけないのか!」

「そこまでの敵だ!通信を切る」

グレミーによって一方的に通信が切られた。エルは震えながら、全クルーに艦内放送で退避命令を下した。

「総員退避!脱出シャトルへ急げ!砲撃手は遠隔処理を仕掛け、退避完了後グレミーの方角へ威嚇射撃。ビーチャへ進路の変更を伝えるんだ。目的地は地球圏サイド3宙域」

そこからの艦内のクルーの動きは素早かった。10分後には既にシャトルへ皆乗り込み、エンドラより四散していった。

* バウ グレミー機

グレミーは飛行形態で自身の母艦へ向かっていた。追跡するローゼンズールとは幾ばかりか距離は離れた。

「(だが、いつまでも逃げられない。燃料には限りがある・・・ん、しかしあのモビルスーツの拠点は?)」

一瞬過ぎった考え。片道切符の様なものならば、逃げ回ればローゼンズールはガス欠で終わる。若しくは燃料補給に拠点へ引き返す可能性もある。それにしても隙はあるとグレミーは思った。

グレミーは通信文を受けた。エルからだった。全員の退避が完了したと報告があった。その後の威嚇射撃のことも書いてあった。

「(よし。一度エンドラに補給に戻ろう)」

グレミーは既に目視でエンドラの姿を見ていた。

グレミーはモビルスーツ形態に戻り、エンドラへ強制着艦した。エンドラのハッチをバウのマニュピレーターを使い手動で開けた。

中には脱出の為に出払ったモビルスーツの跡、シャトルの格納されていた跡が見えた。
グレミーはバウのまま入っていって、周りを見渡した。補給燃料のタンクを探していた。
それを探している時に1つのモビルスーツが目に入った。

「(こいつがまだあったか。ビーチャが載っていなかったからな)」

グレミーはバウの機体破損と燃料のことを考えて即断でそのモビルスーツへと移った。
燃料ゲージを確認し、満タンを理解した。

「(このゲーマルクならば、バウよりも火力が違う)」

グレミーの耳にエンドラの砲撃音が聞こえた。エルの言った威嚇射撃だろうとグレミーは思った。
グレミーはエンドラからゲーマルクで再度出撃した。と言えど、エンドラのすぐ傍に居た。

グレミーは手で両手のツボを揉んでいた。

「さて・・・そろそろ来るか」

グレミーがそう呟くと遠目からローゼンズールがスピードを出して近づいてきた。そうグレミーが思った瞬間後背のエンドラから爆発音が聞こえた。

「なっ!」

グレミーが後方カメラで確認すると、有線アームがエンドラを破壊しつつあった。ローゼンズールはまだグレミーの射程でなかった。

「なんて距離を!」

グレミーはローゼンズールの広域射程に驚いた。グレミーは離れていると不利、近づいても不利の為逃げたが、どのみち待つことが不利と理解した。ゲーマルクをフルスロットルでローゼンズールへ向かって行った。

「この火力でお前のサイコフィールドを押し切る!」

グレミーも自身のサイコフィールドを展開して、ローゼンズールに近距離でメガ粒子砲を浴びせた。
しかしローゼンズールは雨を凌ぐ傘の様に粒子砲を弾いていた。それを見たグレミーはサーベルを取り出して、より近距離で斬り込んでいった。

「ならば直接!」

ローゼンズールはその斬撃を最小限の体捌き、捻りで避けた。サーベルでの直接攻撃は有効だとグレミーは思った。グレミーの攻撃は続く。避けた先にマザーファンネルをグレミーは仕込んでいた。

後背からローゼンズールを攻撃しようと念じたが、ローゼンズールのインコムは既にこの宙域に戻って来ていて、グレミーのマザーファンネルを破壊していた。

「読まれてた。だが!」

グレミーはローゼンズールの体を掴めるぐらいの距離にいた。サーベルを持たない方の腕を伸ばしてローゼンズールの肩を掴んだ。そしてゲーマルクをローゼンズールの正面に抱き合わせた。

「この距離ならば!」

ゲーマルクの零距離粒子砲が放たれようとした。しかしローゼンズールの中央より緑白い発光が斥力となりゲーマルクを強制的に引き剝がした。

「ぐっ・・・」

ゲーマルクはローゼンズールと少し距離を置く形になった。相変わらず離れると不利な展開の為、グレミーは舌打ちをしていた。

「ちぃ。死角がない」

グレミーが勝機が見いだせないでいた時、辺りに異様な感覚が漂っていた。それはこの宙域から逃げるエルやビーチャら、エンドラの全クルーの居場所が理解できる感覚。

グレミーは焦っていた。この感覚は自分が発したものでない。これを知っている、または知りたいから出ている感覚。それを発したものは目の前にいるローゼンズールだということを。

「・・・貴様、一体何で見せた。このイメージは!」

するとグレミーの視えた中で、シャトルの1つが爆発四散した。その映像には有線アームが視えていた。

グレミーはじっとローゼンズールを見据えた。有線アームの1つがそこには無かった。
グレミーは静かに震えていた。そしてゆっくりと怒りを煮えたぎらせていた。

「・・・そうか。全てを奪おうとするんだな。貴様は・・・貴様はー!」

グレミーの憤怒の精神がグレミー自身の才能を昇華させた。
ゲーマルクから緑白い光が放たれて、グレミーはその事に気づいていない。しかしそれ以外は気付いていた。

「(・・・視える。奴の隙が)」

グレミーは残存のマザーファンネルを起動させて、ローゼンズールを攻撃した。今度は距離が有ってもローゼンズールは避けていた。

「(避けた。しかし逃さん)」

グレミーは再びスラスターを全開にして、ローゼンズールに迫った。再びゲーマルクのサーベルがローゼンズールへ振り下ろされた。今度は避け切れない。ローゼンズールの頭上から二つに機体が割れるかと思った。

ローゼンズールの有線アームの残りの手がゲーマルクのサーベルを持つ腕を下から掴んだ。
ローゼンズールから発光信号音声がグレミーへ語り掛けていた。

「・・・ここまでだな。お前らはここで終わる。私がパンドラボックスの恩恵を授かったのだからな」

グレミーは話の内容が理解できなかった。

「何のことだ。パンドラボックスとは?」

マ・クベは正気に戻っていた。マ・クベは一笑してその質問に答えた。

「この世の怨念、憎悪、災厄の感情が収められた箱。それを理解することで得られる叡智。人の感情は負の産物故に、それを極めた力はサイコミュを極限まで性能を発揮できる」

ローゼンズールのアームはゲーマルクの力を凌駕し、サーベルを持つ腕を握り潰していた。

「なんと。素晴らしすぎる」

マ・クベは自身の力に感嘆していた。そしてより力を欲しようとしていた。

「私の力の源は不幸を呼ぶこと。お前たちの繋がりを全て断つことにしよう」

マ・クベは展開できる有限の視野を宙域に展開し、エンドラの脱出艇を全て射程に収めた。
その感覚はグレミーにも伝わった。

「や・・・やめろー!」

グレミーはゲーマルクをローゼンズールへと突撃させた。ローゼンズールは向かってくるゲーマルクを蹴り一閃で胴体部を蹴り抜いた。ゲーマルクは上半身と下半身で真っ二つになった。その力もマ・クベは驚き興奮していた。

「ふ、フハハハハハ!なんてパワーだ」

マ・クべは高らかに笑っていた。その時、破壊されたはずのゲーマルクがローゼンズールに吸い寄せられるように同機に貼り付いた。そのぶつかった衝撃にマ・クベは再度驚く。

「なんだ。これは?」

するとマ・クベの頭にグレミーの声が響いた。

「(そんなに力誇りたいならくれてやる。これがお前の望む負の力だ!)」

マ・クベが聞いた言葉の後にローゼンズールの全ての計器が振り切れ、オーバーロードし始めていた。

「なんだと!バカな!よせ、やめろー!」

ローゼンズールは内部から膨らみ始めてその膨張に耐え切れず爆発四散した。

* フィフスルナ 宙域

キャラは腹部脇に大きな傷を負っていた。自分でも目が霞んでいるのが理解できた。恐らく出血多量だということだろうと。

「はあ・・・なんだよ・・・これは」

キャラが薄れゆく意識の中で眺めていたのは炎上するフィフスルナと全体がランスファンネルで串刺しにされたビグザムだった。通信に応答はない。マシュマーは恐らく話せない状態なんだろうと思っていた。

「ハハ・・・それはあたしもそうなるな・・・ゲホ・・・」

キャラの乗るヤクトドーガも四肢無惨に破壊されていた。しかし、エルメス全機の撃墜に成功していた。

「あーあ・・・あたしらの生活が・・・結構充実してたんだけどな~」

キャラは涙を一筋流して、ゆっくりと眠りについた。



 
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