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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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37話 まだ見えぬ夜明け 3.11

 
前書き
とてもゆっくりと書いております。 

 
* シロッコ艦隊 旗艦艦橋 3.11

シロッコは艦隊を微速前進に切り替えた。艦橋で士官たちが戦端を開くよう催促していた。ライラも不満をぶつけてきていた。

「シロッコ!怖気づいたのかい。今突っ込めばこちらが優勢なんだ。わかるだろ!」

シロッコは腕を組んで沈黙していた。艦隊の微速航行には2つ理由があった。
1つはティターンズ本隊の沈黙。もうひとつはメシアの行動だった。

シロッコはここに来て迷いが生じていた。

「(メシアは独自で行動を始めた。私の制御から離れたのか・・・)」

シロッコは自身の及ぶ力で彼女を管理していた。より強いシステムで彼女を閉じ込めようとした。その為にユニコーンを与えた。ユニコーンのシステムはパンドラボックスに近いものだと聞いていた。
日に増す彼女の力を抑えるにはこの世俗の感情を糧に取り込むユニコーンのシステムが一番だった。

それもいつまでも続かないだろうとシロッコは考えていた。彼女を攫ったときの自分の演技は本当に道化だった。そこまで虚勢を張らなければ自分がたじろぐ程だった。あの時の彼女の意思も大いなる意思の下作用されているものだと感じ取ることができた。あのプレッシャーに当てられれば大抵のニュータイプの種も芽吹く。シロッコ自身も例にもれない。

彼女を無理やりにも縛らなければならなかった理由は野放しにできなかったの一言に尽きた。自分が人より秀でていることに自覚はあるが故に見えた予測。実際に在り得ない現象を見せた。閃光の如くドゴス・ギアを貫き、地球へ降りたと思いきや、地力で宇宙へ舞い戻る芸当。異常だった。

シロッコは悪寒を感じた。後背にあるフロンタルよりも絶望的な感覚を。決して彼女は・・・救いたい想いが真実でもその逆らえない意思が人類救済しないだろうと。

「(希望と絶望がこんなにも背中合わせなものなのか・・・)」

メシアが善でもフロンタルが悪でも、到達点が同じならば意味がないとシロッコは見ていた。
シロッコの見る未来。それは過酷な道を歩みながらも生きる人の姿だった。

「(所詮は私と言えど、人のあがきと言う訳か・・・。超自然の前では)」

5分ぐらい瞑想していた。その姿にライラを始め士官らがシロッコの姿に驚きを見せた。

「あのシロッコが考えている」

ライラがそう呟く。今まで即断即決な計算された指示しか、話しかしないシロッコにおいて質問が返ってこない事に皆が危機感を感じた。

シロッコがゆっくりと目を開いた。事を為して結果を見ようと決断した。

「いずれにせよア・バオア・クーは落とさねばなるまい。サラ」

傍に居た小さな士官へ声を掛けた。

「お呼びですかシロッコ様」

「ロンド・ベルが交戦状態に入ったことを見計らって我々も前進を開始すると艦隊に伝えよ」

「了解いたしました」

サラは振り向きオペレーターの下へ歩いて行った。シロッコは不満を言う士官らへ現状を説明した。

「・・・本隊の微速航行はソロモンの艦隊の誘導によるものだ。シーマがロンド・ベルを引き付けてれる。その距離の優位性を利用し我々も動く。ロンド・ベルは選べない2択に迫られて自壊する」

ライラを始めとした士官らはシロッコの作戦に感嘆した。そしてシロッコは各員へ持ち場へ戻るよう促した。

「貴官らの活躍に期待する。呆けてしまい済まなかった」

シロッコが謝ってきた。その事にライラを始め士官らが後ずさりして持ち場へ走り戻っていった。
その姿にシロッコが苦笑した。

* ラー・ヤーク 艦橋 3.11

アムロらはラー・ヤークに収容され、一路アーティジブラルタルへ進路を向けていた。
皆戦闘で疲弊した体を休息に当てた。

夜明けににはまだ1時間ばかりあったが、ハヤト含めたクルー全員は航行の監視に務めていた。
ハヤトは艦長席で副官であり妻のフラウより現況を報告受けていた。

「宇宙もひと段落したか」

宇宙はティターンズの旗艦の大破と指揮官の戦死に伴い指揮系統が乱れ、全てが遊軍と化した。云わば烏合の衆であった。それを見逃さずブライトとシャアは電光石火の攻撃を加えて大艦隊は少数の部隊により全て迷い子の様に救援を求め降伏していった。

ハヤトが嘆息した。フラウがその意見に首を振った。

「いえ、シロッコらのティターンズの残党が妙な動きをしています。何かタイミングを計っているようで・・・」

ハヤトが宇宙の航路図をモニターに回すようクルーへ注文した。すると目の前の大画面モニターに地球圏の宇宙図が表示された。各艦隊や様々な軍の様子も映し出されていた。ハヤトはア・バオア・クーとソロモン、ルナツーの3つの分艦隊の運動に注目していた。

「3つとも石ころを率いて地球に向かいつつある。妙だ」

ハヤトは手を顎にやり、ティターンズはこの作戦行動が何の為かを考えていた。そして1つ見解をフラウへ話した。

「戦力で圧倒する為、各要塞の集合を掛けた可能性がある」

「拠点を集合させて?」

「彼らの強みである3つの要塞。文字通り要な訳で、仮にそこが反対組織に制圧されもしたら地球圏統一事業に支障がでるだろう」

フラウは頷く。ハヤトは話続けた。

「更なる戦術レベルで完全無欠な戦略レベルを補うと言う話だ。各個撃破を恐れてな」

フラウは少し考えて疑問を述べた。

「でも、今の連邦に歯向かえる勢力なんて・・・」

その回答にハヤトは首を振る。

「フラウ、オレたちみたいなのだよ」

「えっ?」

「あのダカールのゲリラ戦。オレたちみたいなのの氷山の一角だ。そんな組織が地球圏にはごまんといる。それが烏合の衆とはいえ多少の統率を持てば、連邦にとっては脅威だ」

フラウは息を飲んだ。私らと言えばただの市民だ。その市民が武力蜂起をする可能性をハヤトは示していた。確かにただの市民レベルな自分らが一端の軍艦を所有している話自体おかしい。フラウは時代が狂っていることを察した。

「確かに私たちがこんな舟に乗っていること自体が連邦にとって脅威だわ」

「そうだ。今や一市民がザクを所有する時代になってしまっている。そこに連邦は脅威を覚え議会開催に挑んだ節もあろう」

「そのために要塞の牽引ですか?」

ハヤトはフラウの問いかけに歯切れ悪く頷いた。各ラグランジュポイントの橋頭保と呼ばれる大型な箇所を失うことに管理を完璧にすることによって宇宙の支配をより簡素化できると考えられる。

コロニーの様な防衛力0な拠点など艦隊派遣で即座に吹き飛ばす事ができてしまう。石ころは中々破壊に手間取る。ハヤトは後もう一つ考えが浮かんでいたが、それはジオンならばやる手法かもしれない。ティターンズの地球愛に満ちたものが考えることではないと思い、特別口にすることは控えた。

* ラー・ヤーク艦内 展望ラウンジ

夜明け前、誰も寝静まってそのラウンジには2人しかいなかった。
1人はアムロ・レイ。もう一人はかつての宿敵であったシャア・アズナブル。このシャアは宇宙にいるシャアとは別人のシャアであった。宇宙のシャアがこの世界のシャアであり、アムロと今一緒にいるシャアこそがアムロの知るシャアであった。

席がカウンターの様に設置され、その向きはガラス張りで外に向いていた。そこに2人並び1つ席を飛ばして座っている。

「・・・私はお前と戦い、あの暖かなサイコフレームの共振に包まれていた」

「そうだったな」

アムロは素っ気ない。シャアは気にせずに話続けた。

「結局のところ、こんな別世界に私らは跳ばされた訳だ。あの時代、あの世界から邪魔者の様にな」

「そうかもしれないな」

「私は気付いた当初、不安定だった」

「・・・」

「だがサイアム・ビストに助けられて、調整を施された」

アムロは初めて反応した。

「サイアム・ビスト?」

「そうだ。かの老人が私に興味を持った。何故生きていたのかと。私にはわからなかった。最初はな」

シャアはアムロを視ようとせず真っすぐ夜明け空を見据えていた。

「私はシャア・アズナブルだったみたいだ」

「それはどういう意味だ」

「・・・実は本物のシャアはキシリアに殺されたのだ。前はな」

「・・・」

「前のシャアはシャア・アズナブルの戸籍を利用したのだ」

アムロはシャアの出生について初めて知った。シャアはそこが重要でないので直ぐ切り上げた。

「と言うことでその殺されるはずの機会で私は死ななかった。そこにサイアムは興味を持った」

「・・・成程ね」

「ビスト財団は我々が知る以前より人の可能性について研究していたことを知った。そのことは私が調整された後だった。その調整で私の不安定はある一つの箱によって封じられた」

「箱とは?」

「パンドラボックスと呼ばれている」

アムロはその存在をカミーユ経由で何となく聞いていた。アムロに答えることはない。まずは彼の話を全て聞いてから答えようと、答えることが生まれるだろうと考えていた。あのアクシズの戦いから時は既に7年余りも経つ。恨み蟠りなど既にアムロの中では風化しようともしていた。

「私を取り戻したときサイアムの願いを聞いた。彼は人の可能性を求める為に人に挑戦を求めたいと」

シャアの目線は夜明け前の地平線を見据えていた。

「私も現状を幾分か把握した後に彼の意見に同意した。その上で私の話を彼に伝え、彼は私の事を受け入れた。そしてサイコミュの進化による人類のパフォーマンスの向上とその結論付けることを命題とし私らは動くことに決めた」

シャアの手元にはコーヒーカップがあった。彼はひとすすりしては話続けた。

「これが物事の根幹だ。私は伝手でゴップに取り入り、連邦とジオンを共存させながらも均衡を取りつつサイコミュの進化に道筋を付けた。幸いお前の様なニュータイプがいることは知っていたからな」

「・・・その科白、もはや頭にもこない」

「私はニュータイプになりきれんかった男だ。お前からも見放され、ララァからも見放された。結果ララァをお前の手から救えなかったからな」

「・・・ララァはオレが殺した」

「結果はな。だが、この時代ではそこは干渉しまいか迷った。一度は見に行った。お前たちに救出されてからオーガスタ研究所に居た時のな。だがそこでララァに私は一つのおぞましさを感じた」

シャアが感情を初めて現した。後悔の念に近いとアムロは横目で表情から見て取れた。

「おぞましい?ララァがか」

「そうだ。彼女はニュータイプだ。それも(まこと)のな。人類の革新を求めてはいずれは彼女の様な存在が現れる。宣託の時というべきか・・・」

「意味が分からない。もう少し簡単に言ってくれ」

「サイコミュの進化は人心を反映して強大な力を生む。それは今までのお前たちの戦いで結果がそう告げた。その力は神の手の様な物理現象をも引き起こす。現代の科学者でも到達できない力に触れることが理解できないことで禁忌(タブー)なのだ。それを<(ことわり)>と呼ぶ」

「理?」

シャアはアムロに向き合って頷く。

「そうだ。森羅万象を司る力の名だ。それに触れることは己を滅ぼす。稀にその領域へ踏み入れることのできる存在が出ることも考慮していた。大抵はあの砂嵐の結末の様な状況となる」

アムロはシャアがあの戦いを何処かで見ていたことを知った。シャアはその事を人が人ならざる領域へ踏み入れた結果だと告げた。

「・・・全ては人の強い想い、願いがサイコミュへフィードバックされて起きた現象と?」

「そう捉えている。ナガノ博士もそこを問題視していた」

アムロはそこでナガノ博士の話が出てきたことに驚いた。シャアは「ちなみに君の御父上とは接点はないから安心したまえ」と一言添えた。

「サイコミュで起きる現象全てが今までの科学を覆す事象。それは周囲の意思の力と。普通に考えて在り得ない。非科学的だ。しかし現状で起きている出来事。脳波を利用してファンネルを使うことすら私らは自然と技術転用で使われていたがアレも不自然だ」

「それも理と?」

「そうだ。さて話を戻そう。私がララァにおぞましさを感じ、近付かなかったのはその大いなる意思を呼び起こす訳にはいかなかったからだ」

シャアはゆったりと話していた。夜明けを待つ様な穏やかな話し方で。

「お前との出会いでララァの持つ力の片鱗を呼び起こしていた。私も触れたことのある忌むべき力。あの力の一部で人を狂わす。だから私との出会い、触れ合いが全てを覚醒させてしまうと感覚で理解できた。私らがこの世界へ転送されたとき、大いなる意思も一緒に転移してきた」

アムロは無言で話を聞いた。

「大いなる意思とは、あの時代までの人々の想い、願いだ。それも一緒になってこの世界へやってきた。その力に運よくお前は触れずに来れたみたいだが、私は多少取り込まれた。だからララァの異質さも感じ取れた。その多くの残りはどこへ行ったかというと・・・」

アムロはシャアの答えを先に述べた。

「オレとお前、2人があの時代の想いを乗せてこの世界へやって来た。そのオレたちの想い、共通項はララァか」

「そうだ。あの時代の想いをこの世界のララァが全て背負い、同化した。最早狂う以上にララァは変化を遂げた。今のララァとは大いなる意思の事だ。アムロ、お前も私も知らない彼女になったのだ。彼女こそが理に触れることのできるニュータイプ。・・・いや、彼女こそが理なのかもしれん」

シャアは胸からタバコを取り出して火を付けた。

「宿命はそうは変わらん。時代的に揺らぎがあまりなければ、ララァは不幸にも命を落とすだろうと考えた。この時代のシャアが見出して戦場へ誘い、お前にしろ誰かに殺されると。私はそれに賭けた。何故なら情けないことに私はララァを殺せない」

アムロはシャアがララァを愛していたことを知っていた。それ故に違うが見た目が同じなララァを危険視しても直接には手を下すことができなかったんだと。

「そのためにシロッコとも接触をしたりもした」

アムロはそうだろうなと思った。シロッコが色々知り過ぎている点が多々見られた。あの傑物は感性が鋭い。シャア以外でも時代の織り手とも話したりもしているのだろうと想像できた。それシャアも次に述べ始めた。

「彼は私以外からでも色々知ったらしい。まあサイアムからと考えてもよいだろう。彼なりにララァを管理下に置くことを考えたらしい。その動機は不明だが、彼なりにララァをどうにかしようとまたは人類の革新を視たかったのかもしれない」

シロッコの思惑は万人の及ぶところではない。理解できれば前の世界でもカミーユとも分かり合えたはず。アムロもシロッコと話したりしたが親しくなりたいと考えたことは一回すらなかった。

「いずれにせよ人を超越したララァを止めることは現段階では不可能となった。彼女の動向自体も想像つかない。気が向けば世界を滅ぼし、もしかしたら何もしないかも知れない。だがそんな不安定な存在を居座らせたまま、暮らすには人類は臆病だ」

アムロはシャアの今までの話に若干違和感を覚えた。ララァ自身の話していたこと。目の前のシャアこそが壊れては破綻し、魂を救いたいと言っていた。その事をシャアへぶつけてみた。

「この世界のララァはお前が壊れて危険な存在と言っていたぞ」

「・・・冒されていた当時の私の存在は世界にとっては非常に危険だ。お前は力を触れずに来たが為、ララァは記憶だけを呼び覚ました。私は違う。あの力に触れたことがある。その事をこの世界へ飛ぶ時に大いなる意思の片割れを私が保持していたことを感覚で知っていたのだ。」

シャアの答えにアムロはララァの話を得心した。

「成程な。シャア、君も人智を超えた力に利用されることをララァは危惧していたんだ。そんな力に触れることが人を狂わす程の麻薬ような誘引作用を持っていることを」

アムロの言うことにシャアは頷く。

「制御できる力でない故にサイアムに出会えたことが奇蹟だったのかもしれん」

「だがお前とサイアムはそれで終いにはしなかった」

アムロは冷静にシャアを弾劾した。シャアは俯く。

「・・・返す言葉もないな。結局はその力の名残が私を驕りに駆り立てた」

「きっかけはシャアとサイアムの人類への挑戦。政治は世論で動くがそれが全てでない。拾えない声すらお前たちは拾うことを可能にするサイコミュを使い、人類の総意を求めた」

「その過程で触れてはならない領域まで成長するとは人の可能性を図り損ねた」

シャアが困った顔をしていた。しかしながらそれに責任を感じることはない。アムロにはそう見えていた。だからと言って特別怒りも感じない。アムロの中でこの7年間であのアクシズの戦いは終わっていた。シャアに覇気はなく、世捨て人の様な存在、敗北者だったとアムロは感じていた。

「私は当初道標はそれでも生きていく可能性へと向いて行くと考えていたが、滅びの道もあるという可能性も人の進化の果てにあるのかもしれない」

「・・・ララァの存在か・・・」

シャアは座っている椅子を回転させて窓に背を向ける状態になった。

「それだけじゃない。あの砂嵐のこと。人は全てがララァの様な存在になる可能性があるということだ」

「みんなが?」

シャアは席から立ち上がった。アムロも振り向きシャアを見る。

「私は傍観者として中途半端な存在だった。どうでもよいと思っていても、ララァの存在に危機感を覚えても何もできない。陰ながらなるべく人の答えを導いていくようにゴップを使って。こうしてお前たちの前に現れたのは物事の終局へと向かう為特等席で鑑賞しようと思ってな」

誰もが怒りに感じるような挑発にアムロはため息を付く。

「・・・みんなの前でそんな話をするなよ。吊し上げに遭うぞ」

「わかってるさ。私の今の身分はゴップの旧次席秘書官だからな」

「それで今は何と名乗っている?」

アムロはまさかシャアと名乗る訳にはいかないだろうと思っていた。しかし名は要る。ふと思いつく名前があった。シャアはその名前をアムロの前で名乗った。

「今はお前も知るクワトロ・バジーナだ。名前の取得にしても容易かった。一度使ったことある名前だからな。馴染みもある」

シャアは笑みを浮かべた。アムロも微笑を浮かべていた。
名前の取得にしても、以前本来のシャアが使用していた偽名であった。
同姓同名などいることが常識で連邦という大所帯になると、あまり調べもしないらしい。

そしてシャアは直ぐ真顔になった。

「お前らはシロッコと対峙する。シロッコも私がテコ入れした一人だ。その後サイアムの仕掛けが動くだろう」

アムロも真顔になり、サイアムの仕掛けについて尋ねた。

「サイアムのだと?オレも仕掛けられた一人だが、そんなのがいるのか?」

「・・・私も実際には知らない。ただ私の傷を背負ったパンドラボックスをサイアムが使っては私とは別に目的を果たそうとしている。最もその意思は既にサイアムから離れているがな」

アムロは手を顎にやり思考した。そしてシャアに質問を投げかけた。

「いずれにせよ答えは誰もに分からない。お前らの仕掛けを全て解いた時に何かが分かるということで良いのか?」

「それでも何もわからないかも知れない。だがララァが覚醒を果たしたことは何らかの予兆であることは確かだ。時代が、世界がもうすぐ飽和状態にあるということだろう。それがこぼれ弾けた時、起こることは何たるかは想像もつかない」

「でもお前とサイアムが仕掛けたことだろう?」

「私らはただストレスを与えた事での影響で変化を遂げるだろうと予測しただけに過ぎない。実際にサイコミュが在り得ない動きを見せたことで始めた話だ」

アムロは大体話を聞けたことで今まで聞いた話を振り返りシャアの冒されていたものを収容した箱について改めて聞いた。

「シャア、パンドラボックスについて知っていることを教えて欲しい」

「パンドラボックス・・・。アレはサイアムが財力を使って希望として開発した感応波の集約システムだ。その密度たるもの際限を知らない。サイアムは私が抱えていた幾億という感情を収容したとも聞く。脳波を吸い上げてエネルギーとして演算変換処理できる装置だそうだ。理論的にはそれを実用の装置へつなぐことでの爆発的な作業効率の向上が図れると」

「サイコフレームの様なものか」

「アレは操縦者の意識をアウトプットしているだけだ。パンドラボックスとの大きな違いは一つ一つの収容できる感応波の力など大したことはない。それが数千、数万という微小な感応波の集合体は私らの様なニュータイプを凌ぐ力を有する」

「・・・シャアとサイアムの仕掛けによるこの世界の歪な流れ、オレたちと一緒にタイムワープしてきた世界の感情がララァへ流れ込み覚醒。シロッコの暗躍とサイアムの残りの仕掛け。もうないよなシャア」

「ああ、私の仕掛けたものは全て終わった。思想の解放を目指しゴップに働きかけてサイアムの持つ切り札を運んでもらったのだが・・・」

「オレが運搬した彫像か」

シャアは頷く。

「そうだ。しかしキレイさっぱりとあの巨体の巨砲に吹き飛ばされた。政治機能と共にな。計算外だった。まあ今までも計算などしていなかったがな。最初ぐらいなものだ」

シャアは肩をすくめた。アムロはシャアが操作できたものを興味本位で聞いた。どうやら連邦の緒戦の月での安全な開発と厭戦でのジオンと連邦の長期化の働きかけだった。だからグラナダがジオン基地になって尚フォン・ブラウン市で見過ごされていたのだと。更にキシリアとビストとのやり取りも関係があったそうだ。敵も味方もあったものじゃないとアムロは思った。

「地獄の沙汰も何とやらだな」

アムロがそうぼやく。シャアは少し笑い、ラウンジをアムロを残して後にしようとした時、
ふと振り返りアムロへ真剣な顔で話し掛けた。

「アムロ・・・、お前はこの世界で一体何を成し遂げたい?」

唐突な質問にアムロは返答を窮した。暫く考えてから答えた。

「最初は自分の知識で戦争の早期終結を目指した。そうすればララァとの悲劇や他の悲劇を避けることができると。ただ・・・ただ単純な事を考えていた。今もそれを願う。起きている事態が誤っているならばオレはそれを止める」

シャアはその返答に悲しそうな表情をした。

「・・・いつかお前へ人類すべてに叡智を授けてみせよと告げた。それがこの7年間で私が努力したことだ。勿論その為の犠牲は私の責任でもある。アムロ、お前の様なニュータイプこそが様々な問題にあたり、考え、解決すべきだった」

そうシャアはアムロに言い、ラウンジを後にした。その表情にアムロはため息を付いた。

「(オレを買いかぶらないでくれ。思想などそんなことよりも日常の平和を保つで精一杯だし十分だ。シャアのような志はオレにはない)」

アムロは一人ゆっくりと昇りそうな朝日を見つめていた。

「(だが、ララァはあの砂嵐の根源を消した。そして理に触れてはならないと。あれを何を意味していることなのか・・・)」

いくら自問自答しても答えは得られない。ララァは味方なのかもしれない。でもシャアはそんな考えがナンセンスな存在だと言っていた。もうすぐアーティジブラルタルへ到着する。これから宇宙に上がり、残されたティターンズ残党と決戦を行う。一つ一つの積み重ねが答えを導きだしてくるだろうと楽観視することに決め込んだ。

* アーティジブラルタル 推進ロケット台 ラー・ヤーク 艦橋 11:00

固定された装置にラー・ヤークは乗っていた。乗っているだけならばまだ水平なのでブリッジに主要クルーが集まっていた。その中でクワトロと名乗るシャアが話をしていた。皆最初は訝しげにシャアを見ていた。明らかにあのネオジオンのシャアと瓜二つだったからだ。

元々自身でも道化と評す程演じるに巧みなシャアは怪しい点を感じさせず殆どの全クルーに話を信じ込ますことに成功していた。自身のシャアとの類似も世に似た人物など探せばいたりするものだということで片づけた。最もアムロとのタイムワープの件を除いては、そして搭乗していたカイ、ミハル、ハヤトを除いては。

「・・・と言うことで今日に至っている。何か質問でも有ればどうぞ」

するとカイがすっと手を挙げる。そしてとても直線的な責任を問う質問を投げかけた。

「クワトロ秘書官。個人的に聞きたいことは個人的にしたいと思います。さしあたりゴップがビスト財団通じて、またその逆かも知れませんが、人類の革新という当てもない計画がジオン独立戦争と今日までの犠牲者を生んできたという話でよろしいのでしょうか?」

クルー皆が当然の様に思っていた質問だった。悪意が皆シャアに向く。今までの戦いが為政者によるものだとシャアは告白していた。その取り巻きの1人であるシャアに矛先が向いた。シャアは頷く。

「そう取っていただいて構わない。成り行きでそうなった迄だが、いつの世も為政者が舵を切ってその方角がたまたま悪天候だったという話。それは舵取りの責任である」

シャアは一つ間を置いて、再び話し始めた。

「今までもそれを乗り越えては反省をし、人は学んできた。たらればの話、その時に右に切った舵を左に切ったらそれは犠牲者が少なかったかと尋ねればそれは答えられないだろう」

アムロはシャアの話に心の中で頷く。前の世界はその左に切った世界だった。今もそれなりの犠牲者は出ている。カイは納得する。

「成程。とても理論的な意見だ。検証する立場である我々には十分です。質問としてはとても不躾だったがこれも仕事柄なことと捉えていただけたらば幸いです」

シャアはカイの謝罪を受け入れた。最も両者とも悪意有って話をしてはいないことを知っていた。

「いえ、皆の言いたい意見を丸くそのまま問いて、そしてその答えを貴方は代表して受け入れた事に感謝致します」

このやり取りによりカイよりも博学でない他クルーはその悪意の矛先を見失ってしまった。ベイトがケッとケチを入れた。

「ったく、何なんだい。勝手な人のやり取りだけで人がこんなに死ぬなんて」

傍に居たバニングがベイトを宥めた。

「それが人というものだ。政治にしろ人がやっているものだからな」

「しかし隊長、モンシアが浮かばれませんぜ」

「その原動力の向け方で良い社会を生み出していければいいんじゃないか」

バニングもためらいがちながらも正論を述べてベイトを黙らせた。彼も部下の喪失に苛立ちがあった。

少し離れたところにアレンとクリスがその話を聞いていた。

「バニング隊長も苦しいねえ」

「・・・私も首都防衛隊の面々を失ってます。気持ちわかります」

クリスは下に俯く。そこにバーナード・ワイズマンが2人に飲み物を差し出した。

「あの人の気持ちわかりますよ。オレたちもどれだけの仲間を失ったか。その都度歯がゆい思いをしましたのでね」

クリスはバーニィの飲み物に手を出し、「有難う」と言葉を添えた。それをアレンは好機と見てその場を離れた。

「じゃあバーナード君といったか。お前に此奴任すわ」

「え?」

「な、大尉?」

2人とも驚きを見せた。その後アレンは捨て台詞を告げた。

「オレはこう見えて妻帯者なんだ。だからあんまり若い女史には付き合ってはいられないのよ」

アレンは飲み物だけ受け取り、その場から離れてバニングらに混じっていった。その事にクリスは笑い、バー二ィは苦笑した。

「ハハハ・・・私をお子様扱いか・・」

「ったく、余計な・・・」

「あら余計なの?」

バー二ィはクリスの軽い挑発に両手を挙げた。

「いえ、ドリンクサービスの狙いわかっていたでしょう」

「ふ~ん、まあこんなうら若き乙女に声を掛けてくる男性はそんなもんでしょうね」

「そう、そんなもんですよ」

「まあ健康的なことは良いことよ」

「そう思いますよ」

それからクリスとバー二ィは談話に華咲かせていた。

アムロ、シャア、カイ、ハヤトの4人が情報意見の交換をしている最中、カミーユから火急の知らせが舞い込んできた。

「アムロ中佐!緊急です。宇宙(そら)へ上がったら止めなければ!」

アムロはカミーユに内容を求めた。

「どうしたというんだカミーユ」

「ブライト艦長の回線から、ア・バオア・クー、ルナツーは予定のコースに乗って運行中ですがソロモンがコースを逸れてます」

シャアが眉を潜め、カイがため息を付いた。そしてハヤトが結論を言った。

「ココへ向かってきているんだろ」

「えっ?・・・そのようです」

その要件も4人の間で、ハヤトが危険視していたことでそれを話をしていた最中でもあった。ソロモンの地球落とし。理由は不明ながらもやる方は相応の覚悟と想いを持っての事。ならば我々が止めなければならないとアムロ、カイ、ハヤトは思っていた。

* 地球軌道圏内 ロンド・ベル艦隊旗艦 ラー・カイラム 同日

ブライトもソロモンの軌道を掴んでいた。いち早く艦隊をソロモンと地球の間へ滑らせた。
先の戦いで戦力の半分が補給が間に合わずに残存兵力でソロモンのティターンズ艦隊を相手にするほかなかった。戦力差はブライトらに分があった。上手く半包囲できればティターンズの軌道艦隊本隊よりくすねてきた兵器の利用ができた。

ソロモンの足を止めるべくブライトは先発部隊でケーラ、スレッガー両部隊をソロモンへ向かわせていた。隕石の軌道が落下阻止限界点を超える前に核パルスエンジンを破壊しなければならない。彼らはラー・カイラムらが向かうまでのソロモンの掃除だった。

ラー・カイラム艦橋でトーレスが両部隊の移動位置を逐次報告していた。

「ケーラ隊、ソロモンより手前で戦闘状態に入りました。スレッガー隊はその戦闘空域を迂回してソロモンの側面から突く形です」

ブライトはスレッガーの戦略眼に感心した。

「友軍の戦闘の間隙を突く。冷静な判断がないとできない芸当だ」

そうブライトが言うと副長のメランは頷いていた。そして疑問を口にした。

「だが何故あの艦隊はソロモンを地球落下軌道へなど・・・」

メランの意見にブライトが首を竦めた。

「ただの暴走だろう。現にア・バオア・クーとルナツーは減速し、牽制しているようだ。ティターンズの指揮系統はあの旗艦ドゴス・ギアの沈黙により取るべきの行動を取っている」

「確かにドゴス・ギアの撃沈で周囲状のティターンズの残存艦隊は様子見のようです」

「ひとつ、今起きている事態に善処することが大事さ。これからハヤトたちも合流してくる。こちらの陣容も少ないながらも厚くして今後を検討しなければな」

ブライトは腕を組んで、目の前のシーマ率いるソロモンのティターンズ艦隊を見据えていた。

* サイド3 空域

ジュドーとプルツーがZZとキュベレイMk-Ⅱで偵察飛行かねてやってきていた。
グレミーはサイド6の農業事業を足掛かりに月のグラナダ市を取り入り、サイド3の取り込みに掛かる所だった。

如何せん厚くのしかかる威圧感と絶望感に気分の悪さを感じる2人が先遣隊を志願した。
グレミーも了承し、可能ならばギレン総帥の様子も確認して欲しいとのことだった。

もうそろそろズム・シテイのコロニーに辿り着く。しかしながら偵察隊も何もいない。
それも異様だった。この空域が全てが異様なのだが。

途中でコロニーを覗いた。人が暮らしていた。普通にだが普通でない。まるで生気が感じられない。
人が規則正しく並び行動をする。そこから外れることがない。

プルツーも作られたものだが、感情はあった。ここに居る者はそれがまるで感じられない。
争いもないようだから一種のユートピアだろう。だがその気持ち悪さが尋常でない。

「生きているのに・・・生きていない」

プルツーがそう漏らす。ジュドーも頷く。

「ああ。アイツらは何かされたんだ。その原因もこの空域に感じる感覚だ」

他のいくつかのコロニーも同じだった。そして2人はズム・シテイの近くまで来た。そこで2人はある残留思念を感じた。その感覚にジュドーはプルツーに問う。

「感じたか、プルツー!」

「ああジュドー。わかる。・・・彼があのコロニーへ行くように促している」

「何かわからないが、この思念は悪くない。元々行くところだったから行こう」

「わかったジュドー」

ジュドーとプルツーは2人でズム・シテイのコロニーへと入っていった。

* ズム・シテイ内 政庁

ジュドーとプルツーは無人のコロニーを闊歩していた。
大きな特徴的な政庁。その中へ誘われるよう入っていった。

歩く音しか聞こえない。ジュドーとプルツーは気味悪さを感じていた。

「・・・街が死んでいる」

「そう思うよ。でもここに何故誘われたのだ」

何か意味があるはずだとジュドーは思った。プルツーは何かに憑りつかれたの様に歩み出していた。
その動きにジュドーは声を掛けた。

「おっ・・・おいプルツー!」

それでもプルツーは歩みを止めない。そしてある無機質な壁の前に付き、手を使い壁に指で叩いた。すると前の壁が開き通路ができた。その中をプルツーは入っていく。

ジュドーは唖然としながらもプルツーの後を追った。その中はとても広い空洞で、下へ降りる延々とも続く螺旋階段が続いていた。まるで黄泉路へ落ちていくかのようだった。

「なんだこの暗い空間は・・・」

ジュドーはその終着点に辿り着く。勿論プルツーもそこに居た。そこは何者かが荒らした後だった。ジュドーは荒れた中で幾人もの人が倒れているのを確認した。その者は皆裸だった。男性も女性も居た。

ジュドーは女性の裸を見て赤面した。恐る恐る近づくと顔を青ざめた。

「なっ・・・プルツー!・・・じゃない・・・」

プル、プルツーによく似た女性だった。男の方はグレミーだった。プルとグレミーが沢山死んでいた。
ジュドーはその異様さに、気持ち悪さにその場で吐いた。

「うっ・・・おえっ・・・」

ジュドーは落ち着き、ふと視線を上げると奥でプルツーが立っているのを見た。プルツーの視線の先に培養カプセルに入ったある人の部分が入っていた。それは五体が存在せず女性の体だけの姿だった。

「・・・これが私・・・」

プルツーはそっとそのカプセルに触れると突如光を放った。その光に反応して、ホログラムが出現した。ジュドーはそのホログラムに映る人物を知っていた。ギレン・ザビであった。

「・・・私はあらゆる可能性を考慮し、この仕掛けを残した。作動するとき私はこの世に存在しないだろう。生体反応の消失が起動できる条件の1つとなっている。そしてこれが起動するときは人類がある瀬戸際にあると考えている」

ジュドーはゆっくりながら話すギレンの声に耳を傾けていた。プルツーも我に返り、ギレンを見上げていた。

「私は私なりのやり方で人類を導くつもりであった。そして守るつもりでもあった。私は世界の全ての情報を持っていると自負している。しかしながら私も万能ではないことで鬼籍に入った訳だ。このクローン施設は守護の役割のひとつだ。彼らの特徴は不自然な点にあることだ。自然に反するもの。それに私は期待したい」

ジュドーはこのクローン施設を非人道的行為と感じ、それを期待するギレンに怒りを覚えた。

「プルツーは造りものなんかじゃない!」

そう本音をぶつけようともホログラムには返答する機能はない。ギレンは話し続けた。

「これより人の意思との戦いになる。その到達点はこの不自然なクローンですら自然の一部になり得るかもしれない。ならば人の手でつくりだそうがこの施設で作られたものも人なのだ」

すると壁が動き出し、その奥に大きな格納庫が見えた。その格納庫内に緑色の大きな機体が見えた。

「これをどう使うかは使う者次第だが、世界が良い方向に往くことを祈り、願い託す」

そしてギレンのホログラムが消えた。ジュドー、プルツーともギレンの話が意味不明だった。
ただひとつ正体不明なモビルアーマーをこの2人に託されたということだけだった。

プルツーは自分の掌を見た。

「・・・私に仕掛けられた細工だったのか・・・」

そう呟くと、ジュドーがプルツーに歩み寄ってきた。

「良く分からないけどくれるっていうなら貰って帰るか。一定の結果を残せたからな」

プルツーが「結果?」と聞くと、ジュドーは頷く。

「ああ、このシステムの起動条件がギレンの死だったわけだからな」

グレミーの指示の一つがギレン総帥の生死確認。このホログラムの再生がギレンの死による仕掛けだと本人が発言している。これを信じることにジュドーは決めた。

ジュドーとプルツーは新しく開かれた部屋、格納庫内へと足を運んだ。すると遠目からもコックピットが開いているのが分かった。ジュドーとプルツーはそこに乗り込んだ。どうやら2人乗りだということも分かった。座席が前後で2つあったからだ。

コックピットに収まったジュドーは感覚が研ぎ澄まされていた。このモビルアーマーの影響であった。それについて自身で驚いた。

「これは・・・」

その反応にプルツーも同意した。

「うん・・・ジュドー、わかるな」

「ああ・・・こいつは動かせる。いやそれ以上にしなくちゃならないことが」

「うん、わかるよ」

ジュドーとプルツーに体感したことない知識が頭へ入って来た。エンジンに火を入れると格納庫の扉が閉まり、そのフロアが下に降りる感覚を感じた。するとあるところで止まり、下がハッチになっているようで底が開く。ジュドーは機体をそのまま降下させると宇宙空間へと出た。

前部にプルツー、後部にジュドーが座乗し、頭で念じた。すると誰も乗っていないはずなのにZZとキュベレイMk-Ⅱがコロニーから出てきた。それを見てジュドーは口笛を吹いた。

「こいつは凄い。今までのインターフェイスとは桁違いだ」

「ジュドー、あまり調子にならないでよ。この機体はいわば危険物だ」

「わかってるさ。使いようによってはだ。コードネームは・・・」

プルツーが操作パネルからこの機体の品番を見つけた。

「NZ-999。ジオングだ・・・」

名前を聞いたジュドーは「さすがジオンの機体だけある名前だな」と呟いた。プルツーが操縦し、サイド3のある一つのコロニーへ近寄る。

「ジュドー、ここで1つ試してみよう」

プルツーの提案にジュドーは同意した。するとジオングの機体が緑白く輝きその光のカーテンが目の前のコロニーを包み込んだ。数十分後、プルツーとジュドーは汗だくになり、息切れを起こしていた。

「ハア・・・ハア・・・こいつは・・・きついぞプルツー」

「ハア・・・ハア・・・だけど・・・成果が出たはずだ・・・」

ジュドーはコロニーの通信機能を念でジャックした。そしてコロニー内の監視カメラを見ると、規則正しく動いていた人たちが自我を持って動き出していた。言わば普段通りの生活を営み始めていた。
ジュドーは頷き、プルツーは振り返りジュドーへ話し掛けた。

「ジュドー・・・ハアハア・・・今は・・・これだけに・・・」

「ああ・・・スーッ・・・ハア~・・・そうだな。今はここまでだな。プルツー、グレミーのところへ戻るぞ」

ジュドーが今度は操縦桿を握り、月へ向かって行った。それを見る一つの機体があった。とても巧妙に気配を消していた。赤い機体シナンジュだった。

中に乗るフロンタルがジオングの姿を見ていた。

「・・・フフ。ギレンの置き土産はゼウスシステム以外にあったとはな。それでも世界の痛みは解消されない。しかし面白い」

フロンタルは不敵に笑っていた。

「こう話がこじれる要因があることは私にとってはプラスだ」

フロンタルもシナンジュを操り、ゼウスへと帰投していった。


 
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