| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

方言

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第四章

 そのうえで大人しく帰ってもらった、それを見てだった。
 日高は会心の笑みでだ、こう言ったのだった。
「成功だな」
「二人の方言で、ですか」
「相手の勢いを削ぐ」
「そのうえで対応をする」
「そうした作戦ですか」
「ああした人はいるからね」
 共にいる苦情受付係のスタッフ達に言うのだった。
「だから君達も大変だと思ってね」
「そうした人達にはですか」
「あの二人ですか」
「それでなんですか」
「うん、上手くいったよ」
 まさにというのだ。
「あの方言でいきなり勢いよく言われたらね」
「鹿児島とか青森以外の人だと」
「戸惑いますね」
「どっちかの人でもね」
 鹿児島か青森出身の悪質なクレーマー達でもというのだ。
「勢いをくじくんだよ」
「勢いをくじいて」
「そうしてですから」
「それからベテランの人が出る」
「そうするんですね」
「クレーマーも勢いだよ」
 言い掛かりにしてもというのだ、相手はとにかく勢いで攻めて来る。しかしその勢いをくじいてしまえばというのだ。
「その勢いを防ぐ為にはね」
「方言ですか」
「それですか」
「うん、ちょっと聞くとわからない言葉を出す」
 青森や鹿児島の方言をというのだ。
「それで相手を戸惑わせて勢いをくじくんだよ」
「そうやり方もあるんですね」
「いや、面白いですね」
「相手がさらに激高しようにもそこで動きは止まる」 
 どうしてもだ、その前に戸惑うからである。怒るにしてもそこに至るまでのステップがあるがそのステップの瞬間にというのだ。
「そこでベテラン登場だよ」
「方言っていいですね」
「そうした使い方もあるなんて」
「いや、参考になりました」
「ではこれからも」
「二人の事情もあるけれど」
 苦情受付係ではない、他の課に所属しているからだ。他ならぬ彼の課の者達だ。
「若し行けるのなら」
「その時はですね」
「助っ人に来てもらいますね」
「そうしてもらうよ」
 こう苦情受付のスタッフ達に言うのだった、そして。
 日高もだ、仕事の後で二人に言った。
「ご苦労さん、これからも何かあったら」
「その時はですね」
「またですね」
「君達の都合がつけばね」
 あくまでその時限定にしてもというのだ。
「宜しく頼むよ」
「はい、わかりました」
「これからも」
 大作も琴乃も笑顔で応えた、そしてだった。
 二人は彼等の仕事をしながらも時折クレーマーの対応にも出る様になった、それは二人にとっても面白く。
「こうして方言が活かせるなんて」
「いいわね」
 そしてそうした時は思いきり方言を使い続けた、何時しか二人は方言の苦情助っ人と言われる様になったがそれもいいことだった。
 自分達の仕事にもそれが張り合いになってだ、組んでの仕事の能率も上がったが。
 やはりだ、時折どうしてもだった。
「あれっ、今何て」
「何て言ったの?」
 言葉のアクセントや訛りはどうしてもだった、お互いに聞きなおすことがあった。このことだけはどうしようもないことだった。二人にとっては。


方言   完


                           2016・2・21 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧