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方言

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第三章

「どうしてもね」
「わかりにくいよな」
「日本の北と南だし」
「余計に」
「言葉って難しいわ」
 こう津軽独特の訛りで言うのだった、それで。
 二人は仕事の度に話をするがどうしてもだった。
 時々わからないで聞きなおすことが続いた、しかし。
 その二人を見てだ、二人の所属する課の課長である日高一郎はこう言ったのだった。
「いいね、あの二人」
「仕事がですね」
「出来ますよね」
「いやいや、仕事だけじゃないんだよ」
 痩せた顔にある眼鏡の奥の目をきらりとさせての言葉だ。
「これがね」
「っていいますと」
「やっぱり言葉ですか」
「それが」
「あれは使えるよ」
 こう言うのだった。
「一つ策を思い浮かんだよ」
「策?」
「策ですか」
「二人共言葉を恥じていないから余計にいいよ」 
 それぞれの言葉の訛りをというのだ。
「だからいいよ」
「っていいますと」
「ここは」
「どういった策で」
「やがてわかるよ、今度二人を飲みに連れて行って話そう」 
 そして実際にだ、彼は自分の策を二人に飲み屋で話した。二人は彼からそう言われてまずはそれぞれだった。
 目を丸くさせてだ、そのうえで問い返した。
「それで、ですか」
「いいんですね」
「その時は思いきり喋って」
「そのうえで」
「頼む」
 日高は二人に微笑んで告げた。
「それでね」
「わかりました、じゃあ」
「そうさせてもらいます」
「そう、遠慮は無用だよ」
 まさにというのだ。
「その時はね」
「それなら」
「その時は」
 二人もこう返す、そしてだった。
 二人は暫くはこれまで通り仕事をした、だが。
 ある日だ、二人のところにだ。電話を受けた日高が来て言った。
「出番だよ」
「遂にですか」
「その時が来たんですね」
「そう、ではね」
「わかりました、それじゃあ」
「今から行きます」
 二人はそれぞれの訛りのある標準語で応えた、そしてだった。
 二人である場所に向かった、そこは二人のいる本社にある苦情受付係だった。何とそこにだ。
 明らかにその筋の人間が数人で乗り込んできていてだった、汚い言葉で喚いていた。どう見ても言い掛かりだった。
 その彼等のところにだ、二人は行ってだった。
 そのうえで彼等のそれぞれの方言で対応しだした、すると。
 男達は戸惑ってだ、こう言い合った。
「な、何じゃ!?」
「何じゃこの言葉」
「何処の言葉じゃ」
「日本語か」
 クレームのリズムを弱めた、しかし。
 二人はそれぞれの方言で対応し続けた、すると男達は今度はだった。
「われ等何て言うとるんじゃ」
「ちゃんと喋らんかい」
「ほんま何言うとるんじゃ」
「そやからこっちはな」
 だが二人は方言のままだ、彼等は勢いを削がれ。
 ここでだ、苦情受付のベテランが来てだ、彼等に冷静に対してだ。 
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