| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ViVi・dD・OG DAYS

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第7話 『百聞は一見にしかず』な、ナナミの説明

 ナナミを通してトリルのことは聞かされていた。
 フロニャルドを訪れたことがあることも、ミッドチルダの存在についても簡単な部分ではあるが知っていた。
 だが、ナナミが教えてくれたのは『ミッドチルダと言う異世界があって、その世界に知り合いがいる』と言うことだけ。
 それこそ、トリルとミッドチルダの繋がりに関しては何も知らされていない。
 ミルヒは必然的に『トリルは地球に住んでいる』と言う認識に至っていたのだった。
 内情を知らない彼女にとっては、それこそ自分の知っている知識でしか検証できないのだろう。
 だからこそトリル達が、どのようにして来ることができるのかが、理解できなかったのであった。

 それが、ヴィヴィオ達から『ミッドチルダ』と言う世界には魔法が存在する。
 そして『時空管理局』と言う組織が存在して、自由に時空を行き来できる手段があることを知ったのだった。 
 そして以前にトリル――時空管理局が訪れたのは10年前。当時、ミルヒは4歳であり前当主は健在だったのだろう。
 当主ではない、とても小さな女の子に国の報告などするはずもない。
 せいぜい親交のしるしとして手土産に持ってきた数々の品から、子供に好まれる代物を彼女へ与えて、何処の国の物かもわからずに、喜んで受け取っていたのが関の山なのだと思われる。
 とは言え、代表領主ともなれば毎日のように手土産や贈答品があるのだろう。
 きっと彼女も、与えられたとしても、そんな大量な手土産の1つにしか感じていなかったのかも知れない。
 そして、彼の口ぶりだとそれ以降に訪れていることはなさそうだ。
 つまり、フロニャルドの大地に時空管理局が来訪していたとしても、彼女の耳に入ることはないのである。

 彼女はヴィヴィオ達から話を聞くまで、シンクの住んでいる世界である『地球』を基準に考えていた。だから理解ができなかったのだろう。
 ところが、ミッドチルダの文明でならヴィヴィオに聞く限りの情報でも、来訪について、十分に理解ができるのだった。
 当然、ミッドチルダの知識がなかった時点では理解をしろと言われても無理なのだろうが。それはエクレやリコはもちろんのこと、後ろで聞いていたシンクもそうなのだろう。
 ミッドチルダ。
 きっとヴィヴィオ達の住む世界は、地球とフロニャルドを足して――更に高度な成長を成し遂げている世界なのではないか?
 彼女達はそんな風に感じていたのかも知れない。

「……シンク? こう言う、実際に直接話を聞いた方が良いことを何と言いましたっけ?」
「あー、ちょっと違うかも知れないけれど『百聞は一見にしかず』かな?」
「それですぅ」

 ミルヒは以前シンクに、彼の住んでいる国の『ことわざ』と言うものを何個か教わったことがある。
 その中の1つが今の状況に近いと感じていた彼女は、後ろを歩くシンクに声をかけたのだった。
 聞かれた彼は即座に彼女に教えてあげる。近くで聞いていた彼も、彼女と同じ事を考えていたのだろう。
 彼の言葉を受けて、胸につかえていた(もや)がはれたように、納得の笑みを溢しながら言葉を紡ぐミルヒ。
 そんな2人を微笑ましく眺めるトリル達なのであった。
  
 だが、実はこの話には巧妙な罠が潜んでいたのである。それは――
 トリルはナナミに全てを説明していたと言うこと。
 と言うよりも、説明していなければミルヒ達に信用されない可能性だってある。
 あいにく、彼は『O・HA・NA・SHI』スキル保持者ではないのである。
 その為、キチンとナナミに事情を説明して、自分の手の内を晒した状態でお願いをしていたのだった。
 ところが、それをナナミが覚え切れなかったのか、面倒だったのか。
 きっと信頼していたのだろう。自分達の紹介ならば、細かく説明をしなくとも受け入れてくれるだろう――。
 そんな風に、ナナミが肝心な部分を説明していなかったのが、ミルヒを悩ましていた原因なのであった。

「あー、先生の話を聞いて……やっと理解できましたよ」

 シンクはトリルに向かい、苦笑いを浮かべてそう告げたのだった。
 すると彼は、そのまま遠い方向へと顔を向けると――

「ナナミから聞かされた時には、なんで先生が異世界の人達と知り合いなのかが、全然わからなかったんですから……」
「あはははは……」

 頬を膨らましながら、そんなことを口走っていた。 
 そんな彼の言葉に苦笑いを奏でるトリル。すると、横にいたミルヒが2人を見つめて微笑むと、トリルに声をかけるのだった。

「トリルさんは、どうやってナナミさんがフロニャルドに行き来していることを知ったのですか?」
「……そこから伝わっていなかったのですか?」
「はい……まったく」
「あっ、僕も知りたいです! あとベッキーも知りたがっていましたから」

 彼女の問いに彼は驚いて問い返していた。しかし苦笑いを浮かべながら肯定する彼女を眺めながら――
 ほとんどの情報がないにも関らず、来訪を受け入れられた事実。
 それは、国の領主達と勇者達の間に、深くて強固な絆と絶対の信頼がなければ、成立などしないと言うこと。
 改めて、シンク達の絶大な信用に驚いていた。
 そして遠い空の下、今頃こちらへ向かっているであろうナナミへと最大の感謝をしながら、ナナミとの経緯を話し始めるのであった。

☆★☆

「――ファッ、ファッ……クシュン!」
「おい、ナナミ……大丈夫か?」
「ズズッ……ふぁー、ふん……んんっ。……大丈夫だよ?」
「そうか? ならば良いのだが……風邪ではなかろうな? もしや無理をして――」
「大丈夫だって! もぉ、レオ様は心配性だなぁー! ほら、この通り! ピンピンしているよ?」

 一方、無事にガレッド獅子団領国へと召還されたナナミ。
 彼女はガレッド獅子団領主。レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ――略称をレオ。周囲の者へは『閣下』と呼ばせている、ナナミと同い年の16歳の姫との再会を果たす。
 そしてナナミの到着を合図に、獅子団一向はフィリアンノ城を目指して歩みを進めるのだった。
 そんな道すがら、突然ナナミが大きなクシャミをする。隣にいたレオは彼女へ、心配そうに声をかけていた。
 彼女に心配ないと告げられて、ホッと胸をなでおろしたのも束の間、もしかしたら風邪なのか思い、彼女に再び問いかける。
 心配そうなレオの表情に苦笑いを浮かべて、もう1度心配がないことを満面の笑みとともに、両腕を直角に曲げたまま、上下に上げ下ろしをしながらアピールをするナナミ。
 そんな彼女の言動に、安堵の笑顔を向けるレオなのであった。そんな彼女の笑顔に、苦笑いを返しながら――

「……まぁ、大方――シンクや先生あたりが私の悪口でも言ってんじゃないかな?」

 彼女はそんなことを悪びれずに口走っていた。

「ほう? そうやも知れんな? ……ところで? その先生とやらの話を、わしも詳しく聞きたいんじゃがな?」

 そんな彼女の言葉を素直に受け止めていたレオは、彼女の話に出てきた『先生』のことを詳しく聞きだそうと興味津々な表情で訊ねていた。
 ミルヒ達に詳しく話していないことを、レオに対しても話している訳はない。彼女はそれで話が通用すると思っていたのだから。
 彼女はトリルとの経緯をレオや、周りで興味津々な表情を浮かべるガレットのみんなに説明することにしたのだった。
 
○●○

 時は遡り、数週間前のとある広場。
 
「……今日は、ここまでにしましょう!」

 トリルが、目の前にいる数名の老若男女に笑顔で声をかけていた。

「――お疲れ様でした!」

 声をかけられた人達は、一様に彼に対して挨拶をしていた。
 その後は地面に座る者や、そのまま立ち去る者など、各々の行動に移っていくのだった。
 此処はイギリスのとある地域。グレアム親子の自宅前に広がる公共の広場。
 ちょうど今、彼の教えているアスレチック競技と棒術のトレーニング教室が終了したところ。
 基本、彼は休日になるとイギリスの実家へ戻り、こうして近所の人達を相手に教室を開いているのだった。
 
 彼は小さい頃から、とある決意を固めてトレーニングに励んでいた。
 類い希な身体能力を武器に、中学入学直後に絡まれた不良グループを平伏し、そのグループのトップに君臨していた時期もある。勿論、自己防衛の為に倒した結果に過ぎないので本人的には興味がなかったのであるが、結果的に数年間トップに君臨することになったのだった。

 更に同じ頃。
 魔法の存在を知ることになり、とある真実を知った彼。目的の為に数年後、ミッドチルダの陸士訓練校に入学を果たしたのだった。
 卒業後。関係者に惜しまれつつも、ミッドチルダの地ではあるのだが、彼は喫茶店のマスターとしての道を選んだ。その為に平日は、ミッドチルダで生活をしている。

 とは言え、休日の空いている時間には、グレアム氏の身体を心配して、実家のあるイギリスに帰ってきていたのである。
 しかし高齢ではあるものの、特に付き添わなければいけない必要はなかった。
 付き添いには常に傍らにいる2匹の猫達がいる。余程、遠出でもしなければ出歩いても問題はなかった。
 そこでイギリスへ帰ってきている時間に、自分の培ってきたトレーニングや陸士訓練校時代のノウハウを役立てることは出来ないか?
 自分のトレーニングになり、人の役にも立つアスレチック競技と棒術の教室を開こうと考えたのである。

 しかし近所の人達は最初、誰も相手にしてくれなかった。
 エクササイズやダンスを習う人はいても、アスレチック競技と棒術を習おうと言う人はいない。
 更に、治安的な面で護身術を習っている人からすれば、彼の教えることなど単なる遊びだと思われていたのだろう。
 ところが、彼がアスレチックと棒術を教える目的は、護身の為なのであった。

 彼が求めるアスレチックと棒術の真髄――。
 アスレチックとは、則ち災害時の障害物に通じる。
 目の前の障害を、如何に冷静かつ無理な体勢でも迅速に行動できるか?
 どんな困難に直面しても、それを打破する精神力と、それを補える体力を身につける。
 実際に彼が陸士訓練校で学んだ実技訓練は、アスレチックのような訓練だったのである。

 そして、棒術――。
 此方は護身術そのものなのだ。
 確かに、実際に身の危険に直面する場合には棒など持ち合わせてはいないだろう。
 だが、棒術の真髄とは体さばきを指す。
 体さばきの延長線上に拳、掴みからの投げ、蹴り。そして、棒などの長物が存在するのだ。
 つまり、どの武術にも通じる基礎鍛錬になるのである。
 彼は自身の経験を基に、護身術の一環として訓練と言う風な堅苦しい感じではなく、楽しんで身に付けて欲しい。そんな意味合いを込めてアスレチック競技と棒術の教室を開いたのだが、世間には理解してもらえていなかった。
 誰からも相手にされないまま教室を開いて数ヶ月経過した頃。
 彼の教室に転機が訪れたのが、とある少女との出会いだったのである。

 少女は、突然やってきて――
「私にアスレッチック競技を教えてください!」
 そんなことを彼に言い放つ。そう、その少女と言うのがナナミだったのである。
 彼女はサーカスやアスレチックに魅せられて、その道に入ってきたのだと言う。
 彼女は自分の言葉を体現するように、かなり熱心に教えを請い、かなりの上達の早さを見せた。
 そう、彼の方が驚きを隠せないでいたくらいだったのである。

 勿論、彼女自身の身体能力の高さも然ることながら、彼の教えは実戦経験者のソレであった。
 いかに的確に、迅速に、効率の良い指示を出せるか。彼の指揮系統のスキルは相当なレベルのモノだったのだろう。
 その甲斐あってか、彼女はアスレチックの国際大会で優勝を果たすまでの実力を有するのだった。

 如何にアスレチック競技と言えども、国際大会ともなれば注目度は高い。
 その大会の優勝者を輩出した教室となれば、周りの目も変わってくるのであった。
 彼女の優勝のおかげで生徒が増えたことにより、何とか軌道に乗った彼の教室は、今日も無事に教室を終了したのである。

「…………」

 トリルは行き交う生徒達の波を眺めながら、その中の1人の少女。ナナミの姿を探していた。
 彼は少しだけ彼女と話をする機会を伺っていたのである。

「……あっ、いたいた!」

 そんな彼は少し離れた木陰の椅子に座ろうとしていた彼女の姿を見つける。
 彼は帰っていなかったことに安堵の笑みを浮かべて、彼女の元へと歩き出したのだった。 
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧