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ViVi・dD・OG DAYS

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第6話 召還と転送

 そんなシンクとトリルが見つめる先――。
 少し前方を歩くヴィヴィオとアインハルト。その横を歩くミルヒとエクレとリコの3人は、楽しそうに彼女達の話に耳を傾けていたのである。

「……なるほど、みなさんは次元航行……船? ……と言うものに乗っていらしたのですね?」
「はいっ、そうなんです! 姫様」
「そうなんですかぁ」

 ミルヒ達は彼女達との会話で、彼女達の世界『ミッドチルダ』について色々と話を聞いていた。
 そして、彼女達は次元航行船と言う乗り物で来訪してきたことを知る。
 彼女が確認のつもりで訊ねると、純真無垢な瞳を輝かせて、元気な声でヴィヴィオが肯定をする。
 彼女はそんな輝いた瞳を見て、何故だか自分も幸せな気分になって微笑みを浮かべながら相槌を打っていたのだった。
 
 一方、ミルヒ達とは数歩ほど離れた位置で会話を聞いていた少女。
 ヴィヴィオの言葉を受けて『この手』の話に目がない――もとい、目を星のようにキラキラと輝かせ、尻尾をパタパタと振りつつ『愛くるしいフットワーク』で、リコはインファイターさながら、アインハルトの懐に飛び込むのであった。
 本来ならばヴィヴィオの懐に飛び込むべきなのだろうが、リコの進軍経路には――
 ビスコッティ共和国の誇る親衛隊隊長と、彼女の守護するべき相手である代表領主が、リコの行く手を阻んでいたのである。
 いかに小柄なリコであろうとも、2人の妨害を()(くぐ)って敵本陣へと到達するのは困難であった。
 その為に経路を変更して、手薄となったアインハルト陣営に突撃を決行したのである。
 つまりは、2人がヴィヴィオの傍で会話に夢中になっている為、自分が割って入るのは無粋だと感じて、隣を歩いていたアインハルトへと話の矛先を変えたのであろう。

「――そ、その船では、異世界へ自由に移動が可能なのでありますかっ!?」
「――そ、そうなりますね?」

 そんな彼女にゼロレンジ射撃ばりの好奇心の口撃を許したアインハルトは致命傷を回避するべく、半歩ほど後退しながら苦笑いを浮かべて、逃げ腰のカウンターのような言葉を返すのだった。
 とは言え、彼女は別にそのような接し方をされるのがイヤな訳ではない。普段から似たような生活を送っているから慣れているのだろう。
 どちらかと言えば、今ではその接し方を好んでいるようにも思える。
 もしかしたら、咄嗟にギュッと抱きしめたくなる衝動を抑える方が大変な時もあるのかも知れないのだが。
 彼女は視線をリコから、彼女と良く似たタイプの少女へと移した。
 視線の先の少女は、ミルヒとエクレと既に話の続きを楽しんでいる。
 リコも会話が続いていることに気づいたのか、視線を彼女達の方へと移す。
 2人は自然と会話の輪の中へ戻っていくのであった。

☆★☆
 
「つまりは、そちらの世界からは簡単に行き来ができると言うことですか? ……そうなると、国の警備も考えなければいけないのか……」
「あっ、それなら大丈夫です。私達のように、一般の人が行き来できる場所は、時空管理局と言う組織で管理されている世界だけなんです。でも、それ以外の世界に関しては座標が特定されている場所に、管理局の次元航行船でしか行くことはできないんです。管理局は組織なので、きちんとした場合以外には訪れることはないと思いますし、それ以外の人が不法で来ることはありません」
「そ、そうか……ならば、安心して良いのですね?」
「はい!」
「? えっと、それは……フロニャルドの座標は管理局で把握していると言うことなのですか?」
「……えーっと……トリルさーん?」

 話を聞いていたエクレは『簡単に次元を行き来できる』と言う点に、国を守る者として渋い顔をしながら考えごとを始めようとしていた。
 そんな彼女に『異世界への行き来は管理局の管轄』であることを伝える。
 同時に管理局の管理下である以上、不法な入国はないことを伝えた。
 その言葉に表情を和らげて安堵の表情で訊ねるエクレ。
 彼女の問いに満面の笑みで答えるヴィヴィオであった。
 しかし隣で会話を聞いていたミルヒは疑問の表情を浮かべて、ヴィヴィオに対して疑問を投げかけるのである。
 彼女の話では『座標を特定できない場所へは来訪できない』と結論が出ている。
 しかし自分の知る限り、彼女達の言う『管理局』から来訪を受け入れたことは1度もなかった。
 では、どうやって座標を把握していたのか? 彼女は、その点について質問するのだった。
 彼女の問いに自分では答えられないと判断したヴィヴィオは、後ろを振り向いてトリルを呼ぶことにした。
 その声に気づいて近づいてきた彼に――

「――座標は管理局で把握しているんですか?」

 唐突に訊ねたのだった。またもや『O・HA・NA・SHI』スキルを発動する彼女。
 しかし、今回の相手は高町親子を良く知り、そのスキルと幾度となく受けてきた彼。
 ごく自然の流れで彼女の問いに――

「まぁ、そうなるのかな? 正確には、俺とイグリルくん――あっ、今日の来訪に協力してもらった次元航行船の艦長で、管理局の人間なのですが……10年ほど前に、とある要請を受けてフロニャルドに数ヶ月滞在していたことがあるのです。ただ、以前の座標では少々遠い場所に位置していた為……シンクくん達に話を聞いて、大草原の位置を特定したのです」

 途中までをヴィヴィオに――そして、イグリルの名前を出した瞬間にミルヒ達が知らないことを理解して彼女達へ紹介するべく、視線を変えて敬語で説明をしていたのだった。
 とは言え、別に耐性がついていたから対処できたのではなく、ただ彼女達の後ろを歩いていた彼には、彼女達の会話が丸聞こえだった。ただ、それだけなのである。

 その話を聞いて、シンク達と大草原を目指している時に彼女が悩んでいた答えが出たのかも知れない。
 彼女は、表情にこそ出さないのだが、心の中で晴れ晴れとした感情を抱いていたのであった。

☆★☆

 シンクを始めとする勇者達3人。
 更に言えば、パスティヤ-ジュ公国第一公女にして次期代表領主見習いの少女。
 クーベル・エッシェンバッハ・パスティヤージュ。
 クー様と言う愛称で呼ばれる彼女の先祖である――『英雄王』アデライド・グランマニエ。
 彼女はパスティヤージュ『王国』としての最後の国王――クラリフィエ・エインズ・パスティヤージュが勇者召還で招いた元地球人でフランス出身の女性である。
 つまり、英雄王と現在の勇者3名。この4人以外でフロニャルドに足を踏み入れた異世界の人物をミルヒは知らなかった。
 そして、すべての訪問が勇者召還によるもの。それ以外にフロニャルドへ行き来できる方法など知らなかったのである。
 ――だからこそ、初めての勇者召還でシンクを招いた初日。
 暢気に帰還の話を切り出し――勇者召還は片道切符。帰還の(すべ)など知らないとリコに言われ、顔を青ざめていたのだろう。
 そう、彼女は他の手段はおろか、勇者召還のことさえも良く知らなかったから顔を青ざめていたのである。しかし、それもそのはず――。
 
 勇者召還とは、フロニャルドの地より与えられた神の加護の力を借り、異世界へ通ずる時空の道を切り開いて、異世界の人物を招き入れること。
 そのようなことが誰でも簡単に扱えるのであれば、私欲の為に扱う者が大陸へ戦慄を走らせかねない。
 だから大陸広しと言えども、召還を行えるのは国の代表領主のみ。
 そう、決して私欲の為ではなく、国の為。国の民の為。大陸を明るい未来へ導く為に与えられた特権なのだと思う。

 そしてシンクがナナミと、2人の共通の親友にして、パスティヤージュ公国の勇者――。
 レベッカ・アンダーソン――シンクとナナミからはベッキーの愛称で呼ばれている少女を連れ立って訪れた2度目の召還。
 その時にシンク達勇者3人は初めてクーベル並びにパスティヤージュの人達と出会う。
 そして彼女の歓迎により赴いたパスティヤージュ公国にて、全ての者達が英雄王と『魔王』ヴァレリア・カルバドス――
 永き眠りから目覚めた英雄王・アデルと、魔王・ヴァレリーとの面識をもつこととなった。
 英雄王が眠りにつく前。更に時間を遡り、彼女が勇者召還された時代――アデルがクラフィエの召還に応じた頃のことを知る者は、本人と魔王以外には此の地にはいない。
 更に、アデル以降に召還で誰かを招いたことはない。
 そう、最初のシンクの召還を済ませた時点では、召還について詳しく知る人物が存在しなかったと言うことを意味するのだ。
 つまり、シンクを最初に招いた段階では解決策を見出せなくて、頭を悩ませていたのだろう。
 自分達の世界では『こちらから招く』ことはあっても『向こうから来る』ことはない。
 そして召還こそが唯一の手段と考えていたのだった。

 だがしかし、そもそもトリル達は召還ではなく転送だと言っていた。
 それはフロニャルドでは考えられないのだが、相手は異世界なのであり得ることなのだろう。
 では仮に、召還ではない手段を用いたと仮定しよう。
 彼女は代表領主として各国問わず、大陸の情報に関しては把握している。だから異世界の来訪があれば耳に入るはず。
 だが、彼女が代表領主になってからの数年間に、そのような知らせを聞いたことがない。
 つまり異世界からの訪問自体が、この世界には皆無の現象なのだと思っていた。
 
 今回の訪問については、ナナミが彼女の知り合いからの提案を、シンクに話を通して、彼から自分へと舞い込んできたのである。
 つまりナナミの良く知る異世界の人物。それは地球の人間であると言うこと。
 そんな地球に住む人物が、フロニャルドの大地へと転送してくる。
 召還にしろ、転送にしろ――その類の現象は、人智を超えた神の力によるものだと彼女は思っていた。
 だが、シンク達に聞いている限りの地球には、神の力による現象など存在しないのだと言う。
 その時、思い至った事案――。
 シンクが最初に召還された時に、彼女達が初めて目にした『携帯電話』と言う地球の文明。
 彼はそれを『科学』と言うものだと教えてくれた。
 対する、フロニャルドの大地の与えし恩賞――フロニャ力のような存在を、地球では『魔法』と呼んでいるらしい。
 とは言え、魔法は空想の産物――現実には、地球では目にすることのない存在なのだと言う。
 つまり、今回の来訪はフロニャルドと同じような手段ではないのだと考えていた。
 それならばと、実際に目にした科学と言うものが、フロニャ力のような人智を超えた存在だと感じていた彼女は―― 
 もしや、科学とやらの力ならば可能なのでは? 
 そんな考えに至ったのだが、それを聞かれされた彼は、そこもまた魔法と同じで空想の域であると苦笑いを浮かべて教えてくれた。
 魔法は存在しない。科学でも不可能。
 では、どうやって来られるのだろう?
 そんな疑問に思っていた点も、トリルを始めとする来訪者達の話で理解できたのであった。
 
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