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幽雅に舞え!

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別れ。そして新たな仲間。

カイナシティを出たサファイア達は、キンセツシティを目指し一本道を歩く。さすがにこの辺りともなると草むらの回りにも人工物が増えてきて近代的な風景になっているのが感じられた。特に目を引くのはなんといっても、右手の上にあるサイクリングロードだ。自分の背よりもはるか高くにある道路というのは、サファイアもルビーも初めて見る。

「なんていうか・・・俺達、初めて見るものばっかりだな」
「まあ、お互いに狭い世界のなかにいたということだろうね。いいじゃないか、新鮮で」
「あの上にはどんなトレーナーがいるんだろうな、自転車に乗りながらバトルとかするのかな?」
「やれやれ、相変わらずのバトル脳だね。そんなの危なくてできるわけないじゃないか」
「・・・ま、それもそうか」
 
 この時二人はエメラルドがまさにその自転車に乗りながらバトルしていることなど想像もしなかった。
 
 しばらく歩き、二人はT字路にさしかかる。キンセツシティに向かうためには野生のポケモンが多く出没する長い草むらを通り抜けねばならない。サファイアは意気込み、ルビーが彼の後ろに隠れながら先に進むいつもの進行をとろうとしたときだった。
 
「そこの若いお二人さん、その草むらを進むのかい?」
「?」
 
サファイア達が振り向くと、そこには杖を付いた白髪の老人が一人いた。さっきまでは居なかったはずの人を不思議に思いつつも、こういうときに話をするのは大抵サファイアの役目だ。

「そうだけど・・・この先に何か危ないことでもあるんですか?」
「危ないこともなにも、この先には野生のポケモン が多くでるでの、お主らが通れるようなトレーナーか確かめようと思ってな」

 そういうことか、とサファイアは思った。なら心配はいらない。それを示すために、バッグのジムバッジを取り出して見せる。
 
「俺達バッジを二つ持ってるんだ。だから大丈夫だよ」
「ほっほっほ・・・大した自信じゃの」
 
 その時、老人の目が輝いた気がした。後ろのルビーがはっとして叫ぶ。
 
「サファイア君、危ない!」
「えっ・・・わっ!」
 
 回りを見ると、一本の老木がその大枝を降り下ろさんとしていた。慌ててルビーの手を引き避けるサファイア。
 
「なんだこいつ・・・野生のポケモンか!?」
「ほほ・・・儂のオーロットの攻撃をかわすとはやるの」
「あんたのポケモンだったのか!危ないじゃないか!」
「この程度の攻撃をよけれんではこの先の草むらにはいってもケガをするだけじゃよ。ーーさあ次はバトルじゃ!出でよ、儂のポケモン達!」
 
 老人は腰のボールを取りだし、上に放り投げた。中から出てきたのはーーカボチャのようなスカートをはいた人にも見えるポケモン、パンプジンだ。
 
「イタタタ・・・さあ、この先を行きたければ儂に勝つことじゃな!二人まとめてかかってきなさい!」
 
 老人は動かした腰をトントンと叩きながらも、鋭く言った。
 
「・・・俺だけじゃダメだってことか?」
「無論!」
「どうするルビー、いけるか?」
「面倒だけど、仕方ないね。この手のお爺さんは頑固だから。でておいでキュウコン」
「コーン!」
 
 キュウコンが元気よく鳴いて現れる。サファイアもジュペッタを出した。

「よし、二人ともポケモンを出したな。ならばゆくぞ!ウッドハンマーにシャドーボールじゃ!」
 
「影分身だ!」
「影分身」
 
 二匹の攻撃を、二人はいつものパターンでかわす。一気に増える影を見て、老人は杖でコツ、コツと地面を叩いた。
 
「いきなり逃げの姿勢とは二人とも根性がたらんの。ならばオーロット、あれじゃ!」
「オォー!」
 
 オーロットが吠えると、なんと回りに生い茂る木々達が、若木も老木も動き始めた。そしてそれらが、影に向かって突進していく。
 
「見るがいい、これがオーロットの能力じゃ!お主らの分身は消させてもらうぞ」
「くっ・・・だったら攻撃だ!ジュペッタ、シャドークロー!」
「キュウコン、パンプジンに鬼火!」
 
 ジュペッタが木々の影を継いでいき、一気に伸ばした影の爪でオーロットを襲う。さらにキュウコンがその尾から九個の揺らめく鬼火をはなつ。
 
「オーロット、身代わりじゃ!」
 
 だがオーロットは今度は自分の回りに木々を引き寄せ、二体の壁にする。爪も鬼火も木々に阻まれ、ダメージを与えられない。
 
「木は防御にも使えるってことか・・・」
「その通り、木を隠すなら森のなかじゃ、さあ今度はどうする若いの」
 
 あの木々を越えられなければダメージを与えることはかなわない。ならばーー
 
「ナイトヘッドだ!」
「ほう、そう来るかの」
 
 ジュペッタの体が巨大化し、相手を恐怖させることで精神的なダメージを与える。これならば木の遮蔽は関係ない。オーロットがその巨体におののく。
 
「だがまだじゃよ。パンプジン、日本晴れじゃ。そしてオーロット、木の実を食べてリフレッシュじゃ!」
 
 オーロットがオボンの実を食べて回復する。だがルビーとサファイアにしてみればそれどころではない。
 
「日本晴れ・・・!ルビー、どこかに隠れろ!」
「なんじゃ、日焼けなんぞ気にしとるのか?軟弱じゃのう」

 ルビーは頷いて日陰に隠れる。彼女は強い日差しには弱いのだ。バトルする二人との距離は離れるが、仕方がない。
 
「・・・こうなったら、さっさと終わらせる!ジュペッタ、影法師!」
 
 ジュペッタがふたたび影分身をし、さらに増えた分身が一斉に巨大化して更なる恐怖を演出する。これでオーロットに一気にダメージを与えようとするがーーオーロットは一心不乱に木の実を食べ続けている。木々についた木の実を収穫しているのだ。
 
「ほほ・・・残念じゃったの、儂のオーロットの特性は『収穫』じゃ。この特性は特に日差しが強いとき、食べた木の実をさらに食べ続けることができる!」
「なんだって!」
「これが儂らの攻撃防御回復完璧な戦術じゃ、どうじゃ?参ったかの?」
「そんなわけないさ、でも・・・どうして俺達の邪魔をするんだ?はっきりいって、この先の野生のポケモンがあんたほど強いとは思えない。なんでそこまでするんだ?」
「・・・」
「おい!」
 
 老人は答えなかった。サファイアが怒りそうになるのを、ルビーが制止する。
 
「無駄だよサファイア君。このご老人の目的は本当はそこじゃないから」
「・・・ルビーにはこのバトルの理由がわかってるのか?」
「確信は持てないけどね。でも・・・付き合ってあげてくれないかな」
 
 ルビーがこういうバトルに積極的になるのはかなり珍しい。ーーなら、彼女の意思を尊重しようと思った。
 
「わかった。そういうことなら全力でいくぜ!」
「助かるよ、ボクもそろそろ本気を出そうかなーーキュウコン、火炎放射!」
「ジュペッタ、虚栄巨影!」
 
 キュウコンの尾に業火が灯っていく。ずっと彼女はエネルギーを溜めていたのだ。それが今、九本の柱となってオーロットに放たれる。さらにジュペッタの巨大化した影の爪の部分が、鋭さを増してオーロットを襲うーー二人の全力攻撃にたいし、老人は唇を歪めた。

「ようやく歯ごたえのある攻撃をしてきよったな。オーロット、ゴーストダイブ!パンプジンはハロウィンじゃ!」 
 
 その攻撃に対しオーロットは、なんと木々の影にとけるようにその姿を消してしまった。炎と爪が木々を焼き、切り裂くがオーロットは出てこない。
 
「いったいどこに・・・」
「そこじゃよ、出てこいオーロット!」
 
 
 オーロットは、キュウコンの影から現れて思いきり体当たりした。キュウコンが吹き飛ばされる。
 
 「キュウコン!大丈夫、それにその姿は・・・」
 
 ルビーが驚く。それは相棒が大きなダメージを受けたというだけではない。キュウコンが口から吸血鬼のような鋭い歯が生えて、どこからつけられたか黒いマントを着けていたからだ。
 
「これはいったい・・・」
「パンプジンの技、『ハロウィン』の効果じゃよ。こいつはこの技を受けた相手に、ゴーストタイプを与える」
「タイプを・・・与える?」
 
 言っていることがピンとこず、おうむ返しになるサファイア。
 
「そうじゃ、これでお嬢ちゃんのキュウコンは炎・ゴーストタイプになった。つまり、ゴーストタイプの技が効果抜群となる!」
「そんな技があったなんて・・・」
 
 指をたてて説明する老人に、素直に驚くサファイア。この老人、技や特性の使いこなしかたが半端ではなかった。ーー今まで直接戦った相手のなかではトップクラスだろう。そんな相手とこんな道中で戦うことになるとは思わなかった。
 
(だけど俺は笑顔を忘れない。どんな相手でも、どんなときでも相手を笑顔にするバトルをするんだ)
 
「さあ、そろそろ勝負を決めさせてもらうぞ、オーロット、もう一度ゴーストダイブじゃ!」
 
 オーロットがふたたび影の中に隠れる。まだまだ木々はあるせいで、隠れ場所は無限大だ。
 
「サファイア君、どうする・・・」
「・・・」
 
 考える。本当に影に隠れる相手を見つける方法はないのか。敵の影を、はっきり写し出すことができればーー
 
「ジュペッタ、虚栄巨影だ!」
「ーーーー!」
 
 ジュペッタがふたたび巨大化し、その鋭き爪に大きな闇を灯す。そしてサファイアはルビーを見た。
 
「ルビー、キュウコンに空へ火炎放射を打たせてくれ!」
「わかった、キュウコン!」
 
 迷いなく、サファイアのいう通りに空に火炎放射を打たせる。勿論それは空を切り、どこにも当たらないーー訳ではなかった。それは巨大化したジュペッタにあたり、その影を紅く燃やした
 
「・・・なんの真似かの?」
 
 首をかしげる老人、サファイアは自分の読み通りになったことに強い笑みを浮かべた。
 
「深紅の焔が、見えない影を照らし出す!あんたの居場所、これで見切った!ジュペッタ、これが俺達の新しい技ーー散魂焔爪!!」
 
 天に伸びた焔は地面の影をも照らし、くっきりと見せていた。それによってジュペッタはオーロットの居場所を見切り、焔を宿した真っ赤な爪で引き裂く!
 
「なんと・・・儂のオーロットが一撃で戦闘不能に・・・この土壇場でこんな技を思い付くとはの」
 
 サファイアを称える老人に、サファイアは首を振った。
 
「ヒントをくれたのはあんたさ」
「どういうことかな?」
「あんたはハロウィンでキュウコンを炎・ゴーストタイプにしたっていったよな・・・だったら技も工夫すれば、二つのタイプを持たせることができるかもって思ったんだ」
「ほほ・・・確かにそういう技もあるよ。じゃがそれを自力で編み出すとは・・・大したもんじゃ」
「あんたにはまだパンプジンが残ってる、もういいのか?」
「パンプジンはオーロットをサポートするためのポケモンじゃ・・・もう、思い残すことはないよ。」
「えっ?」
「ありかとうの、二人とも。こんな老いぼれの我儘に付き合ってくれて・・・」
 
 すると老人は、空中に浮かび上がったかと思うと突然その姿を消してしまった。慌てて回りを見回すサファイア。
 
「なんだ?ポケモンの技か?」
「違うよサファイア君、これはーー」
 
 ルビーが何かを説明しようとした時だった。一人の老婆が家から出てきて、二人を家に招くーー
 
 
 
「そっか・・・そういうことだったのか」

 
 
 サファイアとルビーは老婆から事情を聞いた。あの老人は、元はカロス地方のトレーナーで、生涯現役を謳った有名なトレーナーであったこと。だがバトルの途中で心臓が止まり、亡くなってしまったこと・・・そして、こちらに引っ越してきてからというもの、生前バトルの途中で死んでしまった無念を晴らそうと草むらを行こうとするトレーナーにバトルを仕掛けていたことを。
 
 
「今まで色んなバトルをしとったが、じいさんは満足できんかったんじゃろうな。なかなか成仏せんかった・・・きっとあんた達とのバトルが楽しかったんじゃろうな。ありがとう、本当にありがとうよ・・・」
 
 涙ながらに言う老婆。彼女の気持ちが収まるのを待ってから、サファイアは聞いた。
 
「・・・あの、失礼かもしれませんけど、このポケモン達はどうするんですか?」
 
 回復させたオーロットとパンプジンを見る。死んだ老人に付き合ってバトルをするということは、きっと彼らはバトルが好きなのだろうと思った。だが一緒に戦うトレーナーが今はいない。

「そうじゃのう・・・これからは儂が世話をするかのう。じゃがそれもいつまでできるか・・・」
 
 老婆は不安そうにポケモン達を見た。老い先短い自覚があるのだろう。
 
「だったらそのポケモン・・・俺達に預けて貰えませんか?ポケモン達がいいなら、ですけど」
「サファイア君・・・」 
 
 ルビーがその心中を察して呟く。
 
「そのポケモン達、すっごく強かった、バトルを楽しんでた。それがもうバトルできなくなるなんて・・・もったいないよ」
「そうじゃのう・・・いいかい?パンプジン、オーロット・・・」
「オー・・・」
「パン!」
 
 オーロットはサファイアに、パンプジンはルビーに近づいて笑ったーーように見えた。ついてきてくれるということだろう。
 
「それじゃあ、これからよろしくなオーロット」
「いいんだね、パンプジン?」
 
 するとパンプジンは、二人に小さなカボチャを放った。それを二人が受け止めるとーーボワンと音をたてて煙を放つ。

「そうそう、パンプジンは『ハロウィン』で服を作るのが好きでねえ・・・それはきっと、パンプジンの気持ちじゃよ。遠慮なく受け取りなさい」
 
 サファイアの手には漆黒のダークスーツが、ルビーの手には白黒の魔女の衣装が握られていた。サイズも見たところぴったりだ。老婆が笑って言う。
 
「ささ、さっそく着てみてごらん、ついでだから今日は泊まっておいき、一人になると思うと寂しくなるからねえ・・・」
 
 そう言われては断れるはずもないし、ありがたい申し出でもあった。二人は言葉に甘え、オーロットやパンプジンと老人の思出話を聞きながら一夜を過ごすのだったーー 
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