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幽雅に舞え!

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白熱!エンタメバトルショー

すっかりジャックに呑まれてしまった観客たちの声に押されるようにして、サファイアはコンテストのステージに上がる。一度は出てみたいと思ってはいたが、まさかこんな形になるとは到底予想していなかった。

(一体なんでこんなことに……この子はなんで俺を指名したんだ?)

 困惑しながらジャックを見つめるサファイア。それがわかっているのだろう。ジャックはにっこりとほほ笑んでこう言った。

「どうしたのお兄さん?こんなに大勢のお客さんが見てくれてるんだから、笑顔でいなくちゃつまんないよ?」
「そうだけど……なんで君は俺を?」
「だってお兄さん、こういう場に憧れてるんでしょ?」
「だから、なんでそんなこと知ってるんだよ」
「ふふーん。お兄さんが勝ったら教えてあげてもいいよ」

 はぐらかすジャック。不承不承、サファイアは頷いた。それを見て満足そうに頷き、ジャックは宣言する。

「ルールは普通のコンテストと違って3対3のシングルバトル。でもあくまでここはコンテストだからね。バトルの後、ここにいる審査員さんにどっちのバトルがよかったか多数決で決めてもらう。それでいいかな?」
「……ああ、いいよ」

 審査員は5人。バトルが終わった後、彼らの判決が勝敗を決めるというわけだ。通常のバトルとは違い、あくまでも観客を魅了できるかどうかがコンテストの肝となる。

「そ……それでは急遽ジャック少年の意思で決定しましたコンテストでは異色のシングルバトル、始めましょう!さあ二人とも、どうぞ!」

 実況者は少し慌てているようだが、何かおかしい。観客はすっかりジャックに引き込まれていて、突然始まったこのバトルをみんなが肯定している。

(これはまるで、兄上とネビリムの時みたいだ……これは偶然なのかな?)
ルビーは観客席から彼を観察する。ともあれ今はサファイアを応援することしか出来ないが。

(よくわからないけど、やるしかない。こうなったら今見てる人相手に俺のポケモンバトルを魅せてやる!)
「いけっ、ヤミラミ!」
「いくよ、ポワルン!」

 お互いが一匹目のポケモンを繰り出す。ジャックが出すのはさっきのバトルで見せた雲のようなポケモンだ。

「ヤミラミかあ……じゃあなんでもいいかな。ポワルン、日本晴れ!」
「先手必勝、猫騙しだ!」

 ヤミラミが一気にポワルンに近づき、目の前で両手を合わせ大きな音を打ち鳴らす。ポワルンはそれに驚いて技が出せなかった。

(天候を変えられると厄介だ、ここは一気に行く!)
「ヤミラミ、はたき落とす!さらにみだれひっかき!」

 その隙にポワルンを地面に叩きつけ、バウンドしたところを連続でひっかく。雲のような体が傷ついていくが――

「さすがだね、お兄さん。でもこれじゃ終わらないよ?」
「何?」

 サファイアの頬に、ぽつぽつと雫があたる。上を見上げれば空が曇り、雨が降り始めていた。ポワルンは傷つきながらも雨乞いを使っていたのだ。雲のような体が、水滴のような青く丸い姿に変化していく。

「ヤミラミ、一旦下がれ!」
「ポワルン、ハイドロポンプだ!」

 ジャックの命令で、ポワルンの眼前に大量の水が集まり、怒涛となって一気にまっすぐ放たれる。それはヤミラミに直撃し、まっすぐ吹っ飛ばして壁に叩きつけた。凄まじい水の一撃に、観客が盛り上がる。

「これで一歩リードかな?」
「……いいや、まだ互角さ。そうだろ、ヤミラミ」

 起き上がったヤミラミの笑い声がフィールドに響く。ヤミラミはハイドロポンプを受ける直前にメガシンカし、水を大楯で受け止めていた。結果吹き飛ばされはしたものの、大ダメージには至らなかったというわけだ。

「へえ……さっそく使ってきたね。ポワルン、ウェザーボール!」
「ヤミラミ、守るだ!」

 ポワルンの放つ球体が頭上から強い雨のように水の塊になってヤミラミを打ち付けるのを、緑色のバリアーが防ぐ。

「さすがの防御力だね。でも守ってばかりじゃ勝てないよ?」
「言われるまでもないさ、ヤミラミ、シャドークロー!」
「それ、届くの?」

 ヤミラミの爪が影を宿す。とはいえかの距離はかなり遠い。振るわれた爪は、虚しく空を切るかと思われたが。

「届かせてみせるさ。この天候、利用させてもらう!」

 ぽつぽつと振る雨は、見えないが一つ一つが小さな影を作り出している。それを継いでいき、闇の爪は大きく伸びて――

「しまった、ポワルン!」
「もう遅いぜ!」

 無警戒なポワルンの体を切り裂いた。油断していたため急所を狙うことも容易だった。

「決まったー!サファイア君のヤミラミ、メガシンカを決めてポワルンの猛攻を凌ぎ、不意をつくシャドークローで一気に刈り取った!」

 実況者の声と観客の歓声に包まれ、笑顔を浮かべるサファイア。ジャックは参ったな、と頬を掻いている。

「油断はするもんじゃないぜ。さあ、どっからでもかかってこい!」
「……その言葉、お兄さんにそっくりそのまま返すよ?」
「えっ?」
「ポワルン、ぼうふう!」
「!!」

 ポワルンが倒れた状態から力を発揮し、フィールド全体に爆風を起こす。ヤミラミが咄嗟に大楯を構えるが、風は自在に吹き荒れ後ろからヤミラミを襲った。ヤミラミの体が吹き飛ばされ、天に舞う。

「これでおしまい、ウェザーボール!」

 もう一度水の塊が放たれ、ヤミラミに直撃する。空中のヤミラミにまさに暴風雨と化してぶつかり、地面に叩きつけた。ヤミラミがぐるぐると目を回して倒れる。戦闘不能だ。

「……確かに油断した。戻れヤミラミ」
「ポワルン、お疲れ」
「戻すのか?」
「大分消耗してるしね。頑張ってくれたからもういいよ」

 そう言ってポワルンをボールに戻すジャックには、余裕がある。それに先ほどの自分が不利な状態になってからの逆転劇。

(まるで、シリアみたいだ)

 使うポケモンは違えど、サファイアには彼のバトルにシリアの面影が見えた。そんな感慨に囚われるサファイアに、ジャックはニコニコと話しかける。

「どうしたのお兄さん?次のポケモンを出してよ」

ジャックはすでにカクレオンを出している。観客席からも早く出せ、待たせるなという声が飛んでいた。

「……ああ。いくぞ、フワンテ」
「じゃあさっそく。カクレオン、影打ち!」
「しっぺ返しだ!」

 カクレオンが舌を出して、そこから影による先制技を放つのを敢えて受ける。そしてそっくり返すように、フワンテも影を放射する。カクレオンの体がのけぞり、舌を巻いた。

「しっぺ返しは相手よりも遅く行動した時、威力が二倍になる!」
「先制技を読んでの判断ってことか……やるね」
「その通りさ。フワンテ、風起こし!」
「カクレオン!」

 ジャックがカクレオンに目くばせする。すると、カクレオンの姿が空間に溶けるように隠れた。舞う風は空を切り、その姿を見失う。

「カクレオンの能力か……フワンテ、気合溜めだ!」
「さあ皆さん、僕のカクレオンはどこにいったでしょう?」

 フワンテに気合を溜めさせながら、サファイアは周囲に目を配らせる。観客もカクレオンの姿を探している。たっぷりと間をおいて、ジャックはフワンテを指さす。

「それでは、正解発表!正解は――そこだぁ!カクレオン、だまし討ち!」
「フワンテ、後ろに締め付ける!」

 フワンテの真後ろにカクレオンの姿が現れる。だが、サファイアはカクレオンの出現位置を読んでいた。恐らく現れるとすれば相手の死角だろうと。そこに締め付けるを命じ、フワンテの紐がカクレオンの体を締め付け――――なかった。それは空を切る。本体は、フワンテの目の前にいた。その舌が、フワンテを逆に締め付けにかかる。

「悪くない読みだね、だけど外れだよ。僕はあの時カクレオンに姿を隠すと同時に影分身を使うように命じていたのさ」
「……まさか」
「そう!君のフワンテの真後ろに現れたのは分身!本体はゆっくりと目の前まで移動していたってわけ」
「……なるほどな」
「しかもそれだけじゃないよ。僕のカクレオンは特性『変色』を持ってる。この特性は自分の受けた攻撃技を同じタイプになることが出来る!しっぺ返しは悪タイプの技だから今のカクレオンは悪タイプ。よって悪タイプの技のだまし討ちは威力が上がるってわけさ。早くなんとかしないと危ないよ?」
「いいや、それには及ばないさ」
「?」

 カクレオンはフワンテの体を締め付けている――ように見えて、実際には何もない空間をぐるりと巻いていただけだった。そのことに気が付いたジャックが、目を見開く。それを見て、サファイアは口の端を釣り上げて笑った。

「影分身を使っていたのはカクレオンだけじゃない、あんたがゆっくり時間を取ってる間に俺のフワンテも影分身を使っていたのさ!そして本体は――そこにいる!フワンテ、妖しい風だ!」

 カクレオンが狙っていたフワンテは、途中から作り出した分身にすり替わっていた。本物のフワンテは見えないほどに小さくなってその場から離れていたというわけである。そうして作り出した隙を逃さず、サファイアは一気に決めにいった。不可思議な紫色の風が舞い、カクレオンの体を打つ。だがカクレオンはたいして痛くもなさそうにフワンテを探している。

「まだまだ、悪タイプになったカクレオンにはゴーストタイプの技は通じないよ!」
「だけど、変色の特性でカクレオンはゴーストタイプになった。そして怪しい風は、フワンテの能力を上げることが出来る!フワンテ、シャドーボールだ!」

 フワンテの眼前に巨大な闇のエネルギーが固まり、球体となってカクレオンの体に打ち込まれる。威力、スピードと共に跳ね上がったそれは避けさせる暇もなくカクレオンに当たり――コンテスト会場の壁際までふっ飛ばした。

「綺麗に決まりました!巧妙な騙し合いを制し、サファイア選手のフワンテがカクレオンを下したーー!!」

 カクレオンの体が倒れ、舌がだらしなく口からはみ出る。それをジャックはボールに戻し――今までのあどけない笑みとは違う、獰猛ともいえる表情を一瞬みせた。サファイアだけが気付き、ぞっとする。とても子供の物とは思えない。

「……あんた、本当に何者なんだ?」
「僕はただの『ジャック』だよ?そんなことよりせっかく盛り上がってきたんだ。もっと楽しもうよ。その為にちょっと――本気出しちゃおっかな!!」

 ジャックがボールを持った右手と開いた手のひらを胸の前で合わせる。そんな仕草で押されたボールのスイッチから飛び出たのは――大きく丸みを帯びたボディをした、見るからに鋼タイプのポケモンだった。顔の部分に当たるであろう場所には、赤い点がいくつも並んでいる。


「さあ出ておいで、人々に恐れられし鋼のヒトガタ――レジスチル!!」


 そのポケモンは、ジャックを除くその場にいる誰もが見たことないポケモンだった。それを見た観客たちの反応は、興奮とは違うどよめき。レジスチルを見ていると得体のしれないものへの恐怖と、何か本能的な不安がこみあげてくるのだ。
 
(なんだ、こいつ……こんなのと戦って勝てるのか?)

 その感情は、目の前に相対するサファイアにもはっきりと沸き起こっていた。フワンテも、わずかに震えている。今笑っているのは、ジャックだけだ。

「いくよお兄さん。レジスチル、原始の力!」
「……フワンテ、妖しい風!」

 レジスチルの周りに浮かんだ岩が、小さくなったフワンテを的確に狙ってくる。それをフワンテは風で吹き飛ばそうとした。だがいくつかが、フワンテの体に当たる。能力をアップさせたフワンテ以上に、レジスチルの能力が高いのだ。

「この瞬間、元始の力の効力が発動!君の妖しい風と同じく、レジスチルの能力をアップさせるよ!」
「まだ強くなるのか……なら一気に決めてやる。フワンテ、シャドーボールだ!」

 レジスチルへの恐怖から、サファイアは勝負を焦った。巨大なシャドーボールがまっすぐ飛んで行き、闇のエネルギーがレジスチルの体を一瞬黒く染めるが――

「ふふん、そんなもんじゃ僕のレジスチルは倒せないよ!これでとどめだ、ラスターカノン!!」
「しまった……!」

 レジスチルは、平然とそこに立っていた。その顔のような点には一切の変化が読み取れない。レジスチルの眼前から、鈍色のエネルギーが溜まっていく。シャドーボールとは違い、周りに不吉な輝きをまき散らしながら放たれたそれはフワンテに避ける暇を与えなかった。

「……戻れ、フワンテ」
「これでお互い一匹ずつだね、お兄さん」

 屈託のない笑顔で、ジャックは笑っている。それをできるだけ見ないようにしながら、サファイアは最後のポケモンを繰り出した。

「……頼む、ジュペッタ」
「----」

 ジュペッタが声を上げて現れる。本来おどろおどろしいはずのそれは、レジスチルの圧倒的な威容の前にはまるで子供の悪戯のようにちっぽけに聞こえた。いつもなら落ち着けと諭してくれるジュペッタですら、目の前の敵に怯えている。

 そんなサファイアとジュペッタを見かねたのか、ジャックはポケットから包み紙を取り出してサファイアに放った。二人の距離は遠く、届かないかと思われたがそれは不思議な力に乗せられたかのようにサファイアに届く。

「もう、しょうがないなあ。お客さんを楽しませるお兄さんがそんなことでどうするの?飴ちゃんあげるから元気出してよ」
「これは……」

 ジャックがよこしたそれは、飴玉などではなかった。それは特殊な石。メガストーンに対応するもの。

「君はシリアのようなエンターテイナーを目指してるんでしょ?だったら、どんな敵が相手でも笑顔でいなきゃ。笑顔で、強くて、優雅で、幽玄で。そんなトレーナーに君はなるんじゃなかったの?」
「……」

 なぜジャックがそれを知っているのかはわからない。ただ一つ言えるのは、彼の言う通りだということ。


「さあ僕を、お客さん達を楽しませてよ。お兄さんなら、それが出来るよね?」

 
 ジャックは再びにっこりとほほ笑みかけた。さっきまでは恐怖を与えてきたそれに――サファイアは、笑って応える。全ての客席に聞こえるような大声で。


「レディース、エーンド、ジェントルメーン!!」


 突然の大声に、観客たちの視線が一斉にサファイアに集まる。それを受け止めるように両手を広げ、サファイアはこう宣言する。

「これより皆さまには、私の相棒、ジュペッタによる楽しいバトルをご覧いただきます!この一幕を、どうかお見逃しのないように!

ではまずは私の守りの大楯ヤミラミに引き続き――メガシンカ、いってみましょう!さあ皆さんもご一緒に!」

 渡されたキーストーンに反応してジュペッタの体が光り輝く。体のチャックが開いていき、その中から鋼をも切り裂く紫色の爪が現れる。


「現れ出でよ、全てを引き裂く戦慄のヒトガタ――メガジュペッタ!!」
「------!!」

 
 ケタケタケタケタ。恐ろしくも愛嬌のある叫びがステージに響き渡る。シリアと同じ口上でメガシンカをさせる。二度目のメガシンカがサファイアの体力を消耗させたが、サファイアは笑みを崩さなかった。それはレジスチルへの恐怖を打ち消し、再び観客たちに歓声を巻き起こした。

「さあ行くぞ、ジャック!俺たちの力、見せてやるぜ!」
「いいよ……すごくいい。それでこそ、僕の見込んだトレーナーだよ。

さあ……どこからでもかかっておいで!」

 メガシンカを遂げたジュペッタと、レジスチルがぶつかり合う――


「レジスチル、原始の力!」
「影分身で躱せ、ジュペッタ!」

 出現した岩の影を縫うように移動して、ジュペッタが避ける。メガシンカを果たしたジュペッタの特性は――

「いたずらごころ。変化技を使うときの早さが上がる特性だね。これは当てるのは難しそうだ」
「そこまで知ってて……だけど加減はしません。ジュペッタ、鬼火だ!」

 特性の力で弾丸のように飛ぶ鬼火がレジスチルに命中する。これでレジスチルは火傷を負った。

(レジスチルの攻撃力、防御力ははっきり言って脅威だ。ここは影分身でしのぎながら火傷のダメージで体力を削る!)

 戦略を建て、直線状に撃たれるチャージビームを躱す。原始の力やチャージビームは攻撃しながら自らの能力を上げる技だが、当たらなければその効力を発揮しない。

「さあ、僕とお客さんに魅せてよ、君のバトルを!レジスチル、ラスターカノン!」
「もう一度影分身!」

 鈍色のエネルギー弾が放たれる前に、ジュペッタの体は無数に分身している。狙いをつけられず、レジスチルの技は再び空を切る。

「ここからだ!ジュペッタ、影法師!!」
「----」

 影分身によって増えたジュペッタの体が巨大化し、無数の幻影と化してレジスチルを取り囲む。並のポケモンを恐怖を齎すサファイアたちの必殺技だが。

「面白い攻撃だね、でもそんなんじゃレジスチルは怖がらないよ!」

 レジスチルの文字通りの鉄面皮には、いかなる変化も見受けられない。通常であれば、まったく無意味な結果となるが、ここはコンテストだ。影分身とナイトヘッドの合わせ技に観客がわずかにいいぞ、頑張れと声をあげる。

「さっそく魅せてくれるね、面白いよ」
「まだです、さらにジュペッタ、虚栄巨影!!」

 まだサファイアたちの必殺技は終わっていない。ナイトヘッドにより巨大化した影を利用した、とてつもなく大きなシャドークローがレジスチルの体に襲い掛かる。それはレジスチルの鋼の体に当たり、引き裂いたかに思えた。

「どうだ!これが俺たちの全力だぜ!」
「すごい攻撃……必殺技に必殺技を重ねるなんてね」

 ジュペッタの体が元に戻り、レジスチルの姿が見えるようになる。観客、そしてサファイアもレジスチルの倒れた姿を予想したが――そこにいたのは、まるで無傷のレジスチルの姿だった。

「そんな……あの攻撃が効いてない!?」
「君があのナイトヘッド……影法師だったかな。それを使ってる間に僕はレジスチルに鉄壁を使わせたんだよ。その効果でレジスチルの防御力はさらにアップ!君の攻撃を防いだってわけさ」
「また能力をアップさせる技か……ならこれだ!ジュペッタ、嫌な音!」
「∺-∺-∺!!」

 ジュペッタのチャックの中からケラケラケタケタと、恐ろしくも愛らしい音がコンテスト会場に響く。耳を塞ぐ人もいれば、音楽の様に聞き惚れる人もいた。人を選ぶためコンテストではあまり使いたくない部類の技だ。

「防御力を下げようっていう魂胆かな、だけどそれも僕のレジスチルには通用しないんだよね。なぜならレジスチルの特性は『クリアボディ』!相手の能力を下げる技の効果を無効にするよ」
「そんな……それじゃあ、そっちは能力を上げたい放題で、こっちの能力を下げる技は受け付けないってことか!」
「そういうこと、さあレジスチル。今度は『のろい』だ!」

 レジスチルの体の周りに黒い点字が浮かんでいる。サファイアや観客には意味が分からないが、それは呪詛。その呪詛はレジスチルの速度を下げる代わりに、攻撃力と防御力をあげる。

「……だけど、そんなにゆっくりしてる余裕はないんじゃないですか?早く私のジュペッタを倒さなければ、火傷でダウンしてしまいますよ」
「お、冷静さを取り繕ったね。関心関心。だけど心配ご無用!レジスチル、眠る!」
「なっ……!」

 レジスチルが指示された通りに眠る。それによってレジスチルの体力が回復し――さらに、火傷の状態異常をも消し去った。瞳すらない鋼の姿が眠って微動だにしない様は、不吉な像を見ているような不気味さを感じさせる。

(ダメだ、隙がない……能力変化、回復技、そして高い自力……一体どこに弱点があるんだ)

 眠っている間は当然相手はは動けない。今がチャンスなのだが、どうすべきかをサファイアは見失っていた。状態異常も必殺技も通用しない。そんな相手にどう戦えばいいのか、答えが見いだせない。

 考えている間に時間が経ち、レジスチルが目覚めてその両手を上げた。

「ふふん、さすがにお手上げかな?僕も君の影分身相手には参ってるけど、どんなに分身に紛れても攻撃し続ければいつかは攻撃が当たるよね。レジスチルには眠るがある限り、無限に攻撃が出来るんだから」
「……」

 今のサファイアとジュペッタに、レジスチルが眠っている間に倒しきるだけの技はない。影分身で向こうの攻撃を躱すことは出来るが、能力の上がった向こうの攻撃は一発当たっただけでも致命傷だ。

(だけど、何かがおかしい。何か違和感がある、それはなんなんだ?)

「さあ、これ以上お客さんを魅せることは出来るかな?レジスチル、メタルクロー!」
「ジュペッタ、影分身!」

 レジスチルの腕が伸び、ジュペッタを引き裂こうとするのを分身で躱す。観客たちは今はハラハラしながら見ているようだが、いつまでもこの光景が続けば飽きられるだろう。そして自分たちも負ける。

 感じた違和感。この状況の打破するにはどうすればいいか。考えて、考えて考えて――

(……そうか!)

 答えを出す。だがそれは上手くいく保証はない、一種の賭け。

「……なあジャック。あんたさっき、無限に攻撃が出来る。そう言ったよな」
「うん、言ったよ?」

 にやり、とサファイアが笑う。それに合わせてジュペッタも笑った。主が策を思いついたのを感じ取ったから。


「悪いがその言葉――斬らせてもらう!!ジュペッタ、恨みだ!」
「!」
「----!」


 ジュペッタがレジスチルの攻撃に対して呪を込める。その効果は――


「恨みは相手の使える技の回数を下げる……そう、あんたの攻撃するチャンスは無限のようで無限じゃない。いくら強力なポケモンだろうと、いくら能力を上げようと――使える技の回数という限界があったのさ!後はそっちの攻撃を全てジュペッタが躱しきれば俺たちの勝ちだ!」


 わあっ、と観客たちが立ち上がり盛り上がる。繰り広げられる光景自体は一見変わらない。攻撃するレジスチルを、ジュペッタが避けるだけ。だが決定的に違うのは、それには終わりがあるということ。ジュペッタが攻撃を躱しきるか、レジスチルが攻撃を当ててジュペッタを倒すか。勝負はそこに絞られた。

「面白い……面白いよサファイア!いくら終わりがあるとはいえ僕の攻撃を全て躱しきるつもりだなんて!出来るもんならやってみてよ!」
「やってみせるさ、そうだろジュペッタ」
「----」

 勿論です、と相棒が答えたのがはっきりわかった。そのあとは、ジュペッタが影を利用し、レジスチルに悪戯のように時折攻撃をする余裕を交えてはステージを幽雅に舞い踊りながら、バトルを進める。結果は――


「……うん、決まったね」
「……ああ」


 レジスチルはジュペッタの攻撃を受けても眠るを繰り返し無傷。対するジュペッタは笑い声をあげるものの躱し続けて疲弊しきっている。お互いの体力の差は決定的だ。

「もう僕のレジスチルには『わるあがき』しかできない……君の勝ちだよ」

 ジャックがレジスチルをボールに戻す。勝者は――サファイアとジュペッタだ。


「決まりましたー!!長い、長い激闘の果てに勝利を掴んだのは、恨みで相手の技を全て削り切って勝負を続行不能に追い込んだサファイア選手のジュペッタだー!!」


 観客がサファイアとジャックを讃え、拍手をする。その二人も、お互いの健闘を讃えて握手をした。後は審査員の結果を待つだけだが。

「……ありがとう。楽しいバトルだったよ、サファイア。この勝負君の勝ちだ。」
「ああ、俺もだ。すごくワクワクした。……いいのか?」
「満足させてもらったしね。それじゃあ約束もあるし一足先に外で待ってるよ!」

 そう言ってジャックは観客に一礼した後、ステージから降りる。サファイアもそれに倣ってステージから退出した。そしてサファイアはジャックのいるであろうところに向かう。ルビーも一緒だ。彼にはいろいろと聞きたいことがある。

「やあ、二人とも来たね。待ってたよ」

 ジャックは言った通り待っていた。ルビーが開口一番こう言う。

「へえ、ちゃんと待ってたんだね。書置きの一つでも残していなくなってるかもと思ってたけど」
「やれやれ、君には可愛げがないなあ。サファイア君を見習ってよ」

 その口ぶりはまるでサファイアのこともルビーのことも昔から知っているかのよう。

「……どうして、俺たちの事そんなに知ってるんだ?」
「へへ、なんでだと思う?」

 屈託なく笑うジャックの表情は見た目通りの子供のそれだ。何でと言われても、わかるはずがない。

「詳しいことは言えないけどね。僕は君たちのことをずっと待ってたんだ。――僕を永遠の牢獄から解放してくれる人を」
「……?」

 ジャックとしてはそれで回答のつもりなのだろう。だがサファイアとルビーには余計訳が分からない。

「いずれわかるよ、いずれね。一つはっきり言えるのは、僕は君たちの成長にすっごーく期待してるってこと。そして今日君は僕の期待に一つ応えてくれた。今のところはそれだけでもういうことはないよ。頑張ってね」

 その言葉は一方的で、疑問を挟む余地を与えていない。

「さあ、この話はこれで終わり。他に何か聞きたいことはある?」

 まだ聞きたいことはあった。ルビーとサファイアは、同時に口を開く。

「君と兄上には、何か繋がりがあるのかい?」
「どうしてあんたのバトルは、そんなにシリアに似てるんだ?」

 二つの質問を聞き、ジャックは苦笑した。

「あはは、君たち本当に仲がいいんだね。――そうだね、出血大サービスで教えてあげちゃおっかな~どうしよっかな。うん」
「……はぐらかす気かい?」

 ルビーの目が鋭くなったので、まあまあと手のひらを前に出しながら、ジャックは言う。

「じゃあ教えてあげるよ。シリアとはいわゆる師匠と弟子ってやつだね」
「へえ、そうなのか……やっぱりジャックもシリアに憧れたのか?」
「えへへ、そんなところかな―」
「……」

 ジャックの答えは、意外にまともだった。ルビーは少し眉を顰めたが、サファイアにしてみればなんということもない。ジャックが弟子ということだろうと解釈する。

「……最後に一つ、君はどうしてあんな――誰も見たことがないようなポケモンを持っているんだい?」
「それは、教えてあーげない」

 今度こそはぐらかすジャック。ルビーはため息をついた。

「やれやれ、質問したつもりが逆に疑問が増えただけみたいだよ。これ以上聞いても意味はなさそうだ」
「ふふ、期待に沿えなくてごめんね?でも僕にもいろいろあるからさ」
「いいよ、お互いシリアに学んだ者同士ってことがわかっただけ嬉しいさ」

 弾んだ声でサファイアが言う。自分以外にもシリアに憧れた人がいて、その人と楽しいバトルが出来たのなら、サファイアには言うことがなかった。

「それじゃ僕はもう行くね。二人はデートの続きを楽しんでよ」
「なっ……!」
「……!」
「あ、そうだー!二人とも、キンセツシティのジムリーダーには気をつけてねー!!」
「え?あ、ああ。わかった!じゃあなー!!」

 あっけらかんとそ他人にう言われ、顔を赤くする二人。それを見て満足そうに頷いた後、ジャックは走りながら去っていく。後にはサファイアとルビーの二人が残された。

「さて……どうする?」
「……ここでぼうっとしてても仕方ないよ。まだまだカイナシティについたばかりだし、いろんなところを見て回ろう」
「……そうだな、そうするか」

 そうして、二人はカイナシティをめぐる。慌ただしい旅に、しばしの休息をとるのだった――。
 
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