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ラブライブ!サンシャイン!!~千歌キチとAqoursの夢の軌道~

作者:高田黒蜜
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第3話:ダイスキ→カガヤキ

 
前書き
よろしくお願いします。 

 
開演10分前。雨がだんだん強くなってきた。
天気予報によれば正午あたりがピークだそうだが、見事に後ろへずれ込んでいる模様。


「……やっぱり慣れないわ。本当にこんなに短くて大丈夫なの?」


3人はすでに衣装を着て、待機しているところ。梨子はやはりこういった服には抵抗がある様子だ。
太ももの真ん中あたりまでしか丈がないのは制服とほとんど同じだが、なんかフリフリしている。脚もそうだが、上半身も肩まで見える衣装なので、全体的に露出度が高いのだ。彼女が恥じらいを感じているのは、そのせいもあるだろう。
そうしていると、なにやら千歌が携帯を取り出していじりはじめた。何?写真を撮ってほしい?もう僕の画像フォルダにきっちり写真を納品した。

「大丈夫だって!μ'sの最初のライブの衣装だって……これだよ!」
「まあ、大体のスクールアイドルはこれくらいの短さのスカートは履くよな」
「はぁ……やっぱりやめておけばよかったかも、スクールアイドル」
「大丈夫!ステージ出ちゃえば忘れるよ!」
「まあ、3人とも似合ってるからいいじゃねぇか」

千歌はみかん色、梨子はピンク、曜は水色。それぞれのメンバーに衣装の色がマッチングしている。
特に千歌はよく似合ってると思う。髪の色や彼女の雰囲気によく合っている色、それがみかん色なのだ。色は曜の一任だったが、センスはあるなとつくづく思う。

「ふっふっふ、いい仕事するでしょ?」
「調子乗ったから曜だけマイナス50点な」
「ちょ、引きすぎでしょ!」
「それにしても、曜ちゃんにこんな特技があったなんてね。正直意外だったわ」
「コスプレ好きだからね〜、たまに変な方向行くけど……」

さっきまで緊張していた梨子も、それが少し和らいだようだ。日常的なやりとりは、こういう場面で時に役に立つ。
それでも、会話が自然と流れていた時間が止まれば、張りつめた静寂が拡がる。


「そろそろだね……えっと、どうするんだっけ」


打って変わった、恐縮が含まれた声が行き渡った。


「はは、さっきやったじゃんかみんなで」
「確か、こうやって手を重ねて……」


1度は同じように積まれた手。
しかし、彼女の言葉ですぐに解かれる。


「──つなごっか」
「え?」
「こうやって互いに手をつないで……ね?あったかくて好き……」
「ほんとだ……」


再びの静寂。しかし、前のような尖った雰囲気は消え、まどろむような安堵を含む静寂だ。
空から降る雫が、地を打ちつける音が聴こえる。


「雨……だね」
「強くなってきたな……」
「みんな、来てくれるかな?」
「もし来てくれなかったら……」
「じゃあ、ここでやめて終わりにする?」
「それ、曜の買い被りかよ」


軽い笑い声が立った。不安はもうそこにはない。
あるのは、未来へと進む気持ち。目の前を立ち塞ぐ壁を乗り越え、壊し、倒す気持ち。その先にある景色を見たいという気持ち。



「──さあ、行こう!!今、全力で、輝こう!!」






「「「「Aqours、サンシャイン!!」」」」






かくして、幕は開かれた。






──しかし、現実は非情なものだ。
"頑張った事実"と"報われる可能性"は比例しない。






目を開いた先にあったのは──やっと10人か、それより少し多いかという観客。
思うところは色々ある。ただこのことだけは現実として僕の心に強く焼き付いた。


満員は、叶わなかった。


落胆する3人──当然だ。この日のために積み上げたものが、一気に崩れてしまうような感覚がある。裏から見ていても、いたたまれない。満員にできなかった以上、これが終われば解散になってしまうのだから。
ポケットに突っ込んでいた、ライブのチラシを握りしめる。口の奥でガリッと骨と骨が擦れるような音が響いた。







────だが。
どんなに拍手が少なくても、どんなに現実が残酷でも、舞台に立ったならば目の前にいる人々に輝きを届ける──それがスクールアイドルだ。今や全国の女子高生の憧れの的であるスクールアイドル界のパイオニア・A-RISEも、そしてアキバドームでの全国大会開催へ大きく影響したスクールアイドル界の伝説・μ's。その2つのグループのファーストライブだって、決して成功とは言えないものだった。あのA-RISEやμ'sでさえ、だ。
今のこの状況は、数百、数千とあったファーストライブの失敗例の1つに過ぎない。だから、彼女たちは前進する。失敗を失敗のままにしないためにも。







「私たちは!!スクールアイドル、せーの!」








そして、彼女たちは公言する。









「「「『Aqours』です!!」」」






──────






Aqoursというのは、違った意思の持ち主の集まりだ。






「私たちは、その輝きと!」




桜内梨子。彼女は、幼い頃からピアノ漬けの日々を送ってきた。
しかし、高校に入ってからはスランプに陥り、発表会では何も弾かず──いや、弾けずにその場を去ったこともある。
だが、ある少女との出会いが彼女の心を動かした。スクールアイドルが猛烈に好きな少女で、自分をしつこく勧誘してきた少女で、海の音を聴くきっかけを与えてくれた少女。
気がつけば、彼女自身もスクールアイドルの魅力を見出しつつあったが、スクールアイドルなど、やらない、やれないと思った。自分にはピアノがあるから。
そんな葛藤が続いていたとき、少女に言われた。「スクールアイドルをやってみて、笑顔になれたらまた弾けばいい」──と。


彼女は、"自分を変えたい"という意思の持ち主だ。








「あきらめない気持ちと!」




渡辺曜。彼女は、いわゆる凡人ではない。天才だ。
高飛び込みで高校トップレベルの選手であり、コスプレが好きだからと言って、自分でデザイン製作まで行ってしまう。慣れていないはずのチラシ配りを簡単にこなし、ダンスのズレなどにもすぐ気付く。才色兼備、まさしくそんな言葉が似合う、ある少女とは対照的な人間だ。
そんな彼女が、小学校のときから抱いていた思い。それは、少女と共に何か夢中になることをやりたいという思い──それは叶うことなく、彼女の心の底に沈んだままだった。
しかし、高校2年生にして、やっと叶うときが巡ってきたと確信した。少女にも夢中になって、本気なれるものができたんだ──と。それがスクールアイドルだった。


彼女は、"一緒に夢中になりたい"という意思の持ち主だ。








「信じる力に憧れ、スクールアイドルを始めました!


目標は──スクールアイドル、『μ's』です!!」




そして、高海千歌。
彼女は、普通だ。ずっと頑張ってきたことがあるわけでもない。大好きなことがあるわけでも、夢中でのめり込んできたこともこれといってない。飽きっぽくて、何か始めてもすぐにやめてしまう。将来こんな風になりたいという夢があるわけでもない。故に、普通だったのだ。
そんなときに出会ったもの―――"μ's"。
その出会いは衝撃だった。彼女と同じどこにでもいる普通の高校生が、キラキラしていた。輝いていた。そして、いつの間にか夢中になっていた。「この人たちが目指したところを、自分も目指したい」と思うようになっていたのだ。今まで何もなかった彼女が、普通だった彼女が、変わる時がきたのだ。


彼女は、"輝きたい"という意思の持ち主だ。









そして。この3人の他に、"もう1人のAqoursメンバー"と言っていい人物がいる。
野鷹孝紘。彼は、千歌のためにスクールアイドルを知り、千歌のためにAqoursの手伝いを始め、誰よりも身近な位置で彼女たちを見てきた。
頭の中はいつでも千歌、千歌、千歌。基本的になんでもそつなくこなすところは曜と似ているが、彼女ほど器用ではなく、いわゆる器用貧乏な人間。口も悪く、色々残念な人間だと思われがちな彼だが、孝紘がいなければ今のAqoursは存在しなかった。
そんな彼の意思はただ1つ。"千歌が見る世界を、僕も横で見ていけるようになりたい"──ただ、それだけ。






4人の意思はバラバラかもしれない。でも、それが今のAqoursなのだ。
それぞれがそれぞれの目指す場所へ、スクールアイドルというボードの上で前進していく。






「聴いてください!!」







──────







────キラリ!ときめきが生まれたんだと 気が付いたワケは目の前のキミだってことさ──







正直、まだ悔しい。僕が、もっと集客できたんじゃないか……僕がもっと、何か行動を起こしていれば──
彼女たちが新たに輝きだそうとしているのを、止めたくはなかった。僕が何とかしなければならなかった。
だけど、今やるべきことはひとつ。どうなったにせよ、3人を最後まで見届ける。最後の最後まで目を離さないこと。
……すごい。直前であれだけ完成していたのに、まだ上を行くか。本当にすげぇな、こいつら……後ろから見ていてもわかる。誰が一番彼女たちの練習を見てきたと思ってる?一番心配していた千歌も、まったく動きにズレがない。歌も、みんな綺麗だ……
ふと目頭が熱くなる。なんで泣こうとしてんだ、僕は親かよ……でも、今日は許してくれ……止められそうにない。悔し涙か、嬉し涙なのか、もう自分でもわかんねェ。
この曲を作ったときのことを思い出す。千歌が歌詞を書き、そして梨子が作曲して形にする……そんなことあったなァ。梨子がいくつか作ってきた曲の中から「これだ!!」ってのが見つかったときは、みんなでハイタッチしたっけ。
これからがサビ、一番盛り上がりをみせる。そんな風に考えていた。





しかし、神様ってのはどんだけ情がねぇんだろうな……







電気が、落ちた。ステージの照明、音が消え去った体育館は、闇へと呑まれていく。
おそらく、原因は落雷だろう。先程から外から轟音が聞こえる。くそッ、なんでこんなときに……!



「あ………」
「どうすれば………」
「一体……どうしたら………」



3人は立ちつくす。照明、音響がすべて機能しなくなり、途方に暮れる彼女たちの声のみが響く。
暗闇は、彼女たちの心を蝕む。ただでさえ、これが終わってしまえば解散が決まっているというのに……




「………気持ちが、つながり、そうなんだ…………」
「知らないことばかり、なにもかもが……」
「それでも、期待で足が軽いよ……!」




それでも、詩を紡ぐ。しかしそれは、歌にはもう聞こえなかった。
ただ、悲痛な、だが届かない叫びにしか聞こえなかった。
僕に……僕にできることはなんだ……なんでこういうときに限って頭が働かないんだよッ……!!



「温度差なんて…いつか消しちゃえってね…………げんきだよ…………んきをだして……くよ…………」



わかってる……僕が今行ってはいけないってことくらい……でも、僕が大好きな、愛おしいいつも周囲に笑顔を振りまくような女の子が今にも泣きそうになっているのに、動かないなんて………できるかよそんなこと…………!!




「………………うぅっ………………………」
「千歌────!」





僕が、ステージ上に飛び出そうとした瞬間だった。唐突に、白い光が全てを遮ったのだ。






「え………?」
「は?え?」







何が起きたんだ!?一体───思わず、ステージにそのまま出てしまった。




誰もが戸惑いを隠せなかったところに、聞き覚えのある声が差し込んだ。






「バカチカァ!!あんた、時間間違えたでしょ!!」





………は?時間を間違えたァ?
そう思って、さっき握りつぶしてしまったチラシをもう一回見返す。


「あ……ホントだ。僕たちは13時30分開演だと思ってたけど、こっちの紙だと14時00分になってるわ……」
「え、じゃあ……?」




そう言って見た扉の奥には。




「なッ、めちゃくちゃ人来てるぞ!?」
「ほ、ホントだ!!一体誰が時間間違えたの!?私は曜ちゃんから時間を聞いたわ」
「私は孝紘くんから聞いたよ?」
「僕は千歌から聞いたぜ。あっ………ってことは」
「………ごめんなさい」


千歌以外の3人は思わず膝に手をついた。そして見事に全員同時に、「はぁー………」と大きなため息をつく。
なんだこの茶番は……いや、それじゃ済まされないけど!なんだったの!?どれだけ落ち込んだと思ってるんだ……怒りを通り越して、呆れてものが言えない状態である。


「……まあ、ちゃんとチラシに書いてある時間と自分たちが言っていた時間が違うことに気づかなかった僕らも悪いってことで、お互い様だな……仕切り直して、頑張ってこうぜ」
「うん!!」
「ええ!!」
「ヨーソロー!!」
「んじゃ、人がすごく多いみたいだし、僕は会場の案内に回るわ。始まるまでには戻ってくるから、ちゃんとやれよ」


相変わらずバラバラな返事を聞いて一言言った後、ステージから飛び降りて、すぐに外へと向かう。
上靴のままだったが、そんなのはお構いなしに雨降りしきる世界へと飛び出した。傘はそこらへんにかかってるの取りました。すまん、後でちゃんと返す!!
そして──飛び出した先には、僕のよく知る人物が1人、傘を差して壁へ寄りかかっていた。


「──中で見ていけよ、果南。聴くだけじゃわかんねぇこともあるだろ?」
「何よ、まるでさっきから私がここにいたみたいな言い方じゃん」
「違うのか?」
「……気づいてたの?」
「いや、勘。てか、ステージ裏にいるやつがわかるわけないだろ。どうせ果南のことだし、さっきから来てたんだろうなって思って、それが偶然当たってただけ」
「やっぱり、孝紘には色々見透かされてる気がするよ」
「そんなことはない。感情が読めるわけでもあるまいし」


お互いに無表情。決して仲が悪いわけではなく、ただスクールアイドルが関わっている話だから、というだけである。詳しいことはなんも知らねぇが、まあ空気が悪くなるってことはスクールアイドルに対してこいつがいい思い出がないってことくらいはわかる。以前からそうだった。


「じゃあ、僕は会場案内するから」


一言置いてその場を去る前に、忠告を促す。


「最後に一つ言っておく。──自分の過去とあいつらを重ねるなよ」
「──ッ」


やっぱり……か。まあ、そこは僕が介入すべきところではない。自分自身でどうにかするべき、もしくは直接関わった人が力を貸すべきだ。
さァて、さっさと仕事を済ませよう。




──────




無事案内も終わって、今度は正面から3人を見ているところ。
サビもしっかり踊れている。歌声もブレが少ない。練習でやっていたこと以上のものが本番で出せるやつって本当にいたんだな……空想だと思ってた。
隣にいるのは、さっき「バカチカァ!!」と叫んだ張本人、高海美渡である。


「美渡姉、なんだかんだでやっぱシスコンじゃん。本当に会社の人たちを誘ってくるなんてさ」
「まあね。一応妹なわけだし、プリン貰ったし」
「相変わらず素直じゃないねェ……プリンごときで動かないだろ、アンタみたいな人は」
「あんたが素直すぎんのよ。そもそも、千歌キチにシスコンなんて言われたくないっての」
「はは、まったくだな」


そんな風に会話を交わしながらステージを見る美渡姉ぇの横顔は、どこか嬉しそうな……そんな感じがした。
周りの人もみんな、どこか楽しそうにしていた。老若男女、様々な人が集まっている。
本当によかった。あのタイミングで雷落とす時点で神様に情がねぇのは相変わらずだが、この町は違った。よくよく思い返せば、志満姉ぇも言ってたさ。「大丈夫よ。みんな、あたたかいから」と。その通りだったな。
確かに、ここは田舎だ。都会に比べれば、退屈な場所にも感じるだろう。僕だって、いつかは都会へ行きたい、そんな風に思ったこともある。
だけど、田舎だからこそできることっていうのは、必ずあると思えた。1人1人の距離が近いからこそ、できることがあるんだと思えた。
と、同時に。


「……僕は、この町の優しさに救われただけで、何もできなかったな」


周囲に聞こえないくらいの声で、そう呟いた。
僕の嫁とか言っておきながら、1人の女の子を助けてやることすらできなかった。そのことは、少しばかり自分の心を傷つけている。何もできなかった自分が悪いのだが。
……っと、どうやら終わったみたいだ。
体育館の至る所から拍手や歓声が、石油を掘り当てたかのように湧き出る。辺りを見渡すと、理事長や、ついこの前勧誘したが断られた1年生の子たちもいた。




結果?言わずもがな、大成功だ。






「彼女たちは言いました!!」
「スクールアイドルは、これからも広がっていく、どこまでだって行ける!どんな夢だって叶えられると!!」




曜と梨子が、会場全体に響き渡る声でそう言った。
が、なぜかいつの間にか生徒会長がステージ下、3人の目の前に仁王立ちしていた。あ野郎……また何か余計なことでも言いに来たのか。




「これは、今までのスクールアイドルの努力と、町の人たちの善意があっての成功ですわ。勘違いしないように!!」




詰まる所、お前らの力だけで成功したわけじゃねぇんだよと言いたいのだろう。あーイライラする。でも、ここで僕が出てもなんの意味もない。自分の感情を抑え、静かに黙っていることにした。
辛辣な言葉に、センターの少女は彼女なりの返答をする。




「わかってます!でも……でも、ただ見てるだけじゃ始まらないって!うまく言えないけど……今しかない、瞬間だから!」






高海千歌。桜内梨子。渡辺曜。Aqoursは、手を取り合って、最後に告げる。









「「「だから……輝きたい!!」」」










────雨雲の隙間から、力強く日が差し込んでいた。







 
 

 
後書き
やっぱり、ダイヤ様には好印象じゃなかったのか。
「当たり前だろ、てかあれだけ色々言われて(※アニメ1~6話参照)印象いい方が頭おかしいわ」
それが今となっては同じグループで活動する仲間だからねぇ……果南も同じだな。
「果南はまあ、ちっと話が別だわな。別に印象悪いわけじゃなかったし」
確かにそうだな。さて、次回からはるびまる加入編だけど、なんか思い出ある?
「……ルビィちゃんにめっちゃ怖がられた」
うん、当たり前だな。
「うわこの作者容赦ねェ!」
むしろ千歌キチド変態が男性恐怖症のルビィに怖がられないほうが謎だわ。
「表出ろ、今すぐ絞め殺してやる」 
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