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ラブライブ!サンシャイン!!~千歌キチとAqoursの夢の軌道~

作者:高田黒蜜
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第2話:サンシャイン

 
前書き
よろしくお願いします。 

 
ライブ本番を翌日に迎えた夜、明日の天気予報が雨というのが信じられないくらいに月光が窓から射し込んでいる。ベッドに体を横にし、何度も何度も彼女たちのスマホで撮影してきた練習風景をスクロールしながら見返していた。真剣な眼差しをして取り組む姿や、休憩中の笑顔、すべてが昨日のことのように蘇る。
どうしても眠れない。不安?それとも期待?自分でも解せない。この気持ちを整理してから床につきたいが、考える度に底へと沈んでいきそうな感覚がある。どうしたらいいもんかねェ……
そんなことを考えていると、ふと甲高い着信音が耳を突いた。また曜あたりからだろ────千歌?
え?千歌から着信?……今までにあったか?とりあえず電話に出ないと。

「も、もしもし?」
『孝紘くん……だよね。あはは、私何言ってるんだろ、孝紘くんの携帯にかけたんだから孝紘くんが出るに決まってるのに』
「はは、そうだな。で、こんな時間にどうしたよ」

冷静に対応しているように見えるかもしれないが、内心バクバクである。心臓張り裂けそうなくらいには緊張している。いつも聞いているはずの声が、何故かいつも以上に甘ったるく感じた。

『うん……なんか、眠れなくて。声が聞きたいなと思ったの。梨子ちゃんと曜ちゃんにもかけたんだけど、2人とも寝ちゃったっぽくてさ』
「まーもう夜中もいいところだしな。緊張してんの?」
『うん、多分そうか……な?』

なるほど……今の想い人の声の甘ったるさの所以は、人に甘えたいという意識から来るものだろうと勝手に想像する。いつものそれとはまた違った、少々の鉛が乗っかっている感じだ。らしくないといえば、らしくない。
僕がつい思考に耽って何も喋らずにいてしまったからか、彼女から言葉を切り出した。


その言葉は、なんだかとても苦しくて。



『──孝紘くん、ごめんね』




「え……?」

色が暗い。先の見えない。彼女は何を思ってその言葉を言った……いや、吐いたのだろうか。今の僕にはわからなかった。

『あ、ううん!なんでもないよ!』
「お、おう……それならいいけどさ」
『大丈夫大丈夫、なんか孝紘くんに電話したら緊張もだいぶなくなったよ!』

ここまで頑なに何かを隠そうとするのは、多分僕には言いにくいことだったりするのかもしれない。こういうことは無理に聞くと逆効果だったりする。今日は何も無かったことにしておくことにする。

『………』
「………」

沈黙。
黙っていても埒が明かないので、僕から話しかけに行ってみる。

「『あのッ………あ』」

うわァ……なにこれ、アニメとかでよく見る気まずいやつじゃねぇか。どうする、先に譲るか?

『……孝紘くんから言っていいよ』
「え、あァ、あのさ……」
『うん?』

──────何言うのか忘れた……ヤバい、どうしよう。なんて言うんだっけ、あー……牛乳プリンって美味しいよね!!
ちげぇわ、この流れでそれ言ったらただの空気読めないクソ野郎じゃねぇか!

「あのさッ!明日のライブ終わったら、2人でどっか遊びに行こうぜ!!」
『……ふぇ?』

ああああああああああああああああ!!何を口走ってるんですか野鷹くん!?なんで急にデートのお誘いしてるんですかねェ、僕自身わけがわからないよ……

「あーごめんごめん!じょうだ」
『さっき言ってたこと、ホント!?』
「え、えッ、ああ、うん」
『やったぁー!!孝紘くんと久しぶりに遊ぶぞー!!』

……なんか結果オーライですね。正直に言っていい?
めちゃくちゃ嬉しいんですがァァァァァァァァァ!!
この後、なんかどこに遊びに行くとかなんとかで色々盛り上がって、結局1時間くらい通話してた。寝不足不可避、何やってんだ僕……



──────




あー……やっぱりここのステップの部分がしっくりこない。そんなことを昨日のダンス練習の映像を見て考える。昨日深夜まで起きてたくせして、今日はいつもになくめちゃくちゃ早起き。4時って何?日が昇ってねェ。
それはいいとして、ダンスの件だが、昨日も遅くまで試行錯誤を重ねてたらバスがなくなったんだよなァ……曜と一緒に志満姉に家まで送ってもらった。
まあそれは置いといて、ここのステップ指摘した方がい────


「……」
「……」


あっれれー?なんで渡辺さんが家にいるのかなー?あ、そっかー、そういえば毎日起こしに来てくれるんだよねー。
でもなんでずっとこっち見てるのかな?僕に気があるのかな?悪いね、僕は千歌にしか興味ないんDA☆


………あ。


昨日の夜は通話後風呂入って、疲れてすぐ寝たんだ。パンツだけ履いて。


そう。つまり僕は、パンツ一丁。


相手が曜でよかったぜ……千歌にこんなところ見られたら、軽く8回は死ねる。


「服着てよッ!!」
「グハァッ!?」

そう言って、ブレザー型の制服を投げつけてきた。顔に直撃したし、なかなか痛いぞ♡渡辺許さねぇ。

「おい、世の中には投げていいものと、悪いものがあってだな」
「うん、孝紘くん。とりあえず服着よっか」
「人の話を聞け!!」
「人のふり見てわがふり直せ!!うるさいなパンツ男!!わいせつ罪で訴えるよ!?」
「うるせぇな脳筋女!!傷害罪で訴えんぞ!!」
「2人とも息ピッタリ。なんだかんだ言って付き合ってるんじゃ……」
「「それはない」」

母親介入すんな。てか誰かと付き合うどうこう以前に、僕は許嫁持ちだから。千歌ね。それは確定事項で、永遠不変のもの。異論は認めない。
とりあえず、満面の笑みで皮肉を吐くことにした。

「誰がこんな容姿端麗・完璧美少女さんなんかに惚れるんすかね……」
「いえいえ、こんな眉目秀麗・成績優秀、そして一途な息子さんなんて、私には不釣り合いですよ〜」
「おい。お前も皮肉言ってるだろ」
「え?なんのことかなぁ〜」
「ほらやっぱり仲良い。孝紘にはもったいないくらいだけど、長いことよろしくね」
「「だから違う!!」」

……時々、こいつ兄妹なんじゃないかなぁと思う時がある。息は合うんだよな、変なタイミングで。
こんな喧しい妹は嫌だけど。千歌だったら大歓迎。あ、でも結婚できないからダメだわ。前言撤回。



──────




「いやぁーついに今日かぁー!」


天真爛漫な嫁の声が体育館に響く。ぐうかわいい。マジLOVE20000000%だわ。


「なんでそんなに千歌ちゃんは元気なの……私、昨日全然眠れなかったのに……」


対照的に、緊張でガチガチな梨子。いや、まだ本番まで時間ありますけど……てか千歌も実際そんな寝てないぞ。むしろなんでこんなに元気なのかが不思議なくらい。


「まあまあ梨子ちゃん、お客さんを野菜だと思えば大丈夫だよ!」


あまり参考にならないアドバイスをする曜。梨子なら想像してパニックになりそうだな、逆に。
時計は9時過ぎを指している。ライブ本番までは、あと4時間半だ。これから発声練習、体操、ダンス練習、そして直前に1回、一連の流れを通す予定。
そして僕は、朝気になっていた部分を3人に告げてみる。

「朝、昨日のダンス練習の動画を見返してたんだが、サビ前の振り付けで気になる部分があった。一応みんなに意見を出しておくが、本番直前になって直すのは時間の都合を考えてもかなり厳しい。だから直すかどうかはそっちに任せる」
「孝紘くん、その部分ってどこ?」

曜にそう言われると、すぐに自分の右ポケットから携帯電話を取り出す。最近のビデオカメラは便利なもので、Bluetoothを使って撮った映像をスマートフォンに落とすこともできるのだ。フォルダから昨日の動画を探し出す。

「えっと、ここと……ここだな。少し流れが悪い気がしてね」
「たしかに言われてみると、野鷹くんの言っている通り……ここのステップは別のものに変えた方がよさそうね。千歌ちゃんはどう思う?」
「……」

千歌は黙ったまま、顎に手を添えて目線を下にやる。さっき言った通り、あくまで今日が本番だ。仮に変えたことが原因で失敗などしたら、本末転倒である。慎重になって然り。
そして、しばらく経った後、顔を上げて口を開いた。


「……やろう!やるだけやってみよう!」


それは、迷いのない彼女の強い意思の現れ。
中途半端が嫌いな彼女らしい言葉。
彼女以外のその場にいる3人は、顔を見合わせ頷いた。

「じゃあ、発声練習をできるだけ早く終わらせないとな。すぐにやろう。僕はダンス練習までには戻ってくるから、それまでは頼んだぞ」
「うん!」
「ええ!」
「ヨーソロー!」

バラバラな返答を確認した後、その場静かに去る。
集中するための必須アイテム・ウォークマンを取り出し、イヤホンを差し込んだ。


「さて、僕もやることだらけだからなァ。音響の確認、会場案内の紙貼り……」


100曲以上の曲から選んだのは、『ダイスキだったらダイジョウブ!』────あの3人Aqoursが、今日歌う曲だ。


「よし、行きますか」



──────



「────完璧じゃねぇか……」


思わず感嘆の声を漏らしてしまった。今まで、3人の動きが噛み合うことがほとんどなかった。
正直、あまりに期間が短かったのだ。突然会場が準備され、満員にできなかったら廃校にすると言われ……曲を作るのだって急ピッチでやったし、振り付けも寝る間を惜しんで考えた。その振り付けも試行錯誤を重ねた結果、当日まで変更があった。衣装は曜1人で全部やってくれた。これには感謝せざる得ない。
しかし、これだけ完成するとは……思いもしなかった。


「孝紘くん……どうだった?」


真剣な面持ちで尋ねる千歌。最高の笑顔で答えてあげよう。


「完璧だよ、千歌。流石マイワイフだね!」
「ほんと!?やったー!!ところで、わいふってなあに?」
「千歌ちゃん、気にしなくていいよ」
「野鷹くんって相変わらずね……本番まであと40分くらいなのに」
「愛を伝えるのにタイミングなんて計る必要あるかい?僕は否だと思う」

梨子は僕のほうを見て呆れたように手を頭にやっているが……何故だ。僕の言ってることはもっともだろう?
そして肝心の天使は、銀髪クルクル女に「ワイフ」の意味を間違えて教えられてる。後で僕が教育し直さねば……
おっと、こんなことをしていると開場時間になってしまうな。
僕は手を叩き、こちらに注目を集めさせる。

「もうすぐ開場時間だから、すぐに3人は着替えて、10分前にはステージ裏に待機しておくように。
さっきの通りやればライブは大成功だ。自分を信じて頑張ってくれ。
僕は見ていることしかできないから」


3人と目を合わせ、大きく息を吸う。



「スゥー………………あれ、何言おうとしたんだっけ」


漫画でよく出てくるガクッという音がよく合うような感じで、千歌以外の2人はバランスを崩した。ベタかよ。

「なんていうか……昔から思ってたけど、孝紘くんって場をしめるのヘタクソだよね」
「なっ!?お前とは小学校以前からの付き合いだけど、そんなに風に思ってやがったのか!?」
「私もそう思う。頭はそこそこいいって聞いてるけど、こういう面ではダメダメね」
「グハッ!?……待って、出会って間もない梨子に言われるとすげぇショックなんだけど」
「まあまあ、そんなに言われると孝紘くん傷ついちゃうよ。ね?」
「ありがとうございます……あなただけが救いです……」

千歌さんマジ天使。残りの2人は辛辣すぎるんだよ。もっと見習いなさい。
でも、このままだと本当に場が締まらねぇな……どうしよ。
そんなに風に思っていると、みかん色の髪の美少女が手を叩いて、突然話し始めた。

「あ、そうだ!!あれやろうよ、ほら!μ'sがライブの前にやってたやつ!!」
「あれ……?あァ、手を合わせて……『μ's、ミュージックスタート!!』っていうやつだっけ?」
「そうそれ!!私ずっとやってみたかったんだぁ~……なんか、みんながひとつになる感じがするし!」
「そうですね、僕としては千歌さんの言ってることがもっともだと思うのですがどうでしょう?いや、やりましょう」
「そうだね!なんか面白そう!」
「私も千歌ちゃんに賛成よ」

全員の意見が合致したところで、3人は円を作り、千歌は左手、曜は右手、梨子も同じく右手を差し出す。
……が、一向に始めようとしない。

「どうした?ちゃっちゃっとやらないと、お客さん入ってくるぞ」
「『どうした?』って……孝紘くんもいっしょにやろうよ!」
「え、なんでだよ。僕はAqoursじゃないだろ。流石に千歌から言われても、賛同しかねる」
「私たちといっしょに、ここまでいろいろやってきてくれた。孝紘くんはみんなの前で歌ったり、踊ったりしないかもしれないけど、Aqoursの一員だよ」


……仕方なく輪に入り、そして左手を重ねた。まったく、そんなこと言われたら、やりたくなくてもやるしかねぇじゃねぇかよ……



「じゃあ行くよ!!せーの……」


全員の動きが止まる。かけ声はなんて言うんですか姉御。

「そういえば決めてなかったね……そうだなぁ、Aqoursは最初に言うとして、その後になにかひとこと……」
「……サンシャイン、とか」
「「「サンシャイン?」」」
「僕たちが追いかけてきたのって、μ'sのような『輝き』だろ?輝きといえば太陽────sunshineは日本語で太陽の光のこと……語呂も悪くないし、ピッタリじゃねぇか?」


3人が大きく頷いた。そして、千歌が再び声を出す。



「せーのッ!!」





「「「「Aqours、サンシャイーン!!」」」」

 
 

 
後書き
「ところでなんだが、なんでこの話ってアニメの3話相当から始まるんだ?」
それはね、元々は短編小説の予定だったんだ。見切り発車で進めた部分ってのが結構大きくてね。
「へェ、今は今後の構想は浮かんでるのか?」
おう。最終的な結末も含めて大体が決まってる。
「ほー、そういえば今回は追加シーンがあったな」
千歌と孝紘の通話シーンね。これは元々入れたかったから、今回それを実現出来てよかった。
「今回は5343文字か……次は元々が5900文字くらいだし、7000くらいに増えてもおかしくないな」
だな。書き足したい部分はかなり多いけど、蛇足にならないように頑張るわ。 
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